溶血性尿毒症症候群 haemolytic uraemic syndrome;HUS

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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1955年にドイツのGasserらが溶血性貧血,血小板減少,臓器(特に腎臓)機能障害(triad)を呈して死亡した小児5例について詳細な病理解剖学的検討を行い,その結果,腎皮質や尿細管の壊死,腎細動脈障害等の著明な腎障害を確認し,かかる疾患をHUSと命名した.

歴史的に,下痢(血便)を伴うHUS(典型的HUS)と,下痢がないHUSに分けられている.
・典型的HUSが全体の90%以上を占める.
・症例の多くは5歳未満の小児で,血便と下痢(D+)を伴う.
・小児では水分管理と腸の安静により,85~95%の患者が自然寛解する.

症候

①非免疫的,機械的溶血による貧血,②血小板血栓形成による血小板減少,③腎障害,④中枢神経障害を主症状とする.

溶血性貧血

・息切れ,疲労感
・Hb<10g/dL

非免疫学的・機械的溶血
・Coombs試験は陰性
・補体の消耗は認めない
・網状赤血球の上昇
・LDHの上昇
・パプトグロビンが低下←溶血により生じた遊離ヘモグロビンは毒性が強いため,血中のハプトグロビンと結合して網内系で処理される
・尿潜血陽性になるが,沈渣には赤血球は認められない(freeヘモグロビンが出現)

血小板減少

・Plt<15万/μL

急性腎障害

血清Cr値上昇,電解質異常を示し,半数以上で初診時に腎代替療法を要する.

糸球体病変は内皮細胞傷害が主体.

重篤化因子には,白血球数増加,低ナトリウム血症,低蛋白血症,ALTの上昇がある.

高血圧

頭痛

血管透過性亢進

全身の浮腫

その他

腎外病変は約20%で報告され,中枢神経症状,心不全,腸炎などが報告されている.

下痢を伴うHUS(典型的HUS) Shiga toxin–producing Escherichia coli associated hemolytic uremic syndrome;STEC-HUS

代表的なO157は,志賀毒素を産生する病原性大腸菌で,主に小児に典型的HUSを発症させる.

典型HUSの予後は良好で,9割の患者は下痢による脱水に対して補液,急性腎不全には血液透析をすれば軽快する.

1982 年に米国オレゴン州とミシガン州で血便と腹痛を主症状とする食中毒事件が発生し,その原因食品としてハンバーガーが突き止められ,患者より病原大腸菌(Escherichia coli)O157:H7 が検出された.
・O157:H7 をverotoxin-producing E.coli(VTEC)とし,同菌による腸管感染症は独立疾患として出血性大腸炎と命名された.
・ベロ毒素は志賀毒素抗体で中和されることから,現在ではShiga-like toxin(Stx)と呼称されている.

Stx産生菌株には,O157:H7の他にO111:H8,O103:H2,O123,O26 などがある.

疫学

小児のTMAの90%の原因.

病態

Shiga-like toxin;Stx

分子量70 kDの外毒素.
・Stxはその構造としてAサブユニット(33 kD)1個とBサブユニット(7.7 kD)5 個から成る.

Stx1とStx2の2 種類が存在し,菌株によってそれぞれ片方もしくは両方を産生している.
・ヒトの腎血管内皮細胞に対する毒性はStx2がStx1より1,000 倍も強い特徴を持つ.

毒性の機序

まずBサブユニットが宿主細胞の表面にある特異的受容体である糖脂質globotriarosylceramide(Gb)3 に結合し,毒性の活性中心であるAサブユニットが細胞内に侵入し,28SrRNAの3’端近くのアデノシンをN-グリコシダーゼ活性により遊離させ,リボソームを不活化することで宿主細胞における蛋白質合成を阻害する.

1)腸の粘膜下組織や毛細血管を障害して血性下痢を引き起こす.
2)体内に吸収され,単球や腎糸球体そして尿細管上皮細胞上にあるStx特異的受容体Gb3 に結合し,様々なサイトカイン(TNF-α(tumor necrosis factor α),IL(interleukin)-1,IL-6)を放出する.
→Gb3 の発現を増加し,一方でStxが腎血管内皮細胞表面のGb3に結合することにより腎血管内皮細胞からは超高分子量VWF多量体(unusually large VWF(von Willebrand factor)multimers:UL-VWFM)の放出を促す.
→腎血管内皮細胞上にて血小板活性化並びに血小板凝集が起こる.
3)血管内皮細胞障害はIL-8 により活性化された好中球から放出された活性酸素,過酸化水素,エラスターゼ,その他の蛋白分解酵素によっても増強され,結果的に組織因子(TF)の発現増加により,VIIa結合を介してフィブリンが形成される.
→フィブリノゲン-フィブリン優位の血小板血栓

特徴

通常の食中毒と異なり,
1)感染に必要な菌数が少ない
2)二次感染を起こしやすい
3)潜伏期間が4~9日と長い
4)一部に溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)を起こす

症候

E. coli O157:H7 感染の潜伏期間は3~14日で,頻回の水様性下痢で発症し,激しい腹痛を伴い,その後約半数が血便となる.

発熱は一過性が多く,腸炎発症から3~7 日後にHUSや脳症などの重篤合併症を引き起こす.
・特に10歳以下の小児の場合,大腸菌O157:H7感染症症例の10%程度がHUSに移行するといわれている.

治療

抗菌薬療法(成人量)

 米国ではST合剤使用でHUSが増悪した症例が報告されたが,本邦では早期に抗菌薬投与例の方がHUS移行例が少ないとの報告があり,またメタ解析でも両者には直接的因果関係はないと報告されている.
 ①ホスミシン錠Ⓡ(500 mg)4~6 錠分3~4,②クラビット錠Ⓡ(100 mg)3錠分3.

支持療法

現時点ではO157:H7-HUS発症予防法が確立されていないため,同患者の治療は発症後の腎機能保護と合併症対策が基本となる.
 これには,体液管理,透析,高血圧に対する治療,輸血,脳症に対する治療等がある.体液管理は輸液が中心で,水分・電解質管理を厳重に行う.具体的には軽症例では乏尿は24 時間以内に改善するため,水分バランスと電解質の管理のみで十分である.
 しかし,無尿となった場合には血液透析が必要であり,早期に積極的に導入することにより腎機能は保護され,その後ほぼ完全に回復する.
 中等症以上に対する血漿輸注並びに血漿交換療法は,TTPの場合とは異なり,その有効性について一定の見解が得られていない.HUS病態の主体であるフィブリノゲン―フィブリン血小板血栓形成を防止する目的での抗凝固療法の有効性並びに安全性についても未だ一定の評価は得られていない.

非典型溶血性尿毒症症候群 atypical HUS:aHUS

STEC感染を伴わないHUSや家族性のHUS.
HUS全体の5~10%で,主に成人に発症する.

死亡率は26%であり,患者の約半数は血液透析が必要な高度腎不全に至り予後不良.
・2015年に難病指定.

疫学

海外からの報告では,毎年成人100万人あたり0.4~2人,小児100万人あたり3.3人発症するとされている.
国内の患者数は200名以下と推定.
性差はなし.
好発年齢は不詳.

原因

補体関連遺伝子の変異,再配列,融合などの遺伝子要因に加え,感染などのトリガー因子によって補体第二経路の異常活性化が起こり,自己の血管内皮細胞や血小板に障害を起こすことで発症する.

6割に補体制御因子の異常がある.
1)5割は遺伝子変異
・補体活性化因子(C3,B因子)の機能獲得型変異(アクセルを踏み続ける)
・補体抑制因子(H因子,I因子,membrane cofactor protein(MCP))の機能喪失変異(ブレーキの故障)
・血管内皮細胞膜蛋白であるトロンボモジュリン(TM)など
2)1割はH因子に対する自己抗体→補体経路の異常活性化
3)4割に補体制御因子の異常はないが,抗補体療法が有効な症例があることから,補体経路を活性化させる未知の分子機構があることが予想される.

肺炎球菌などの感染症によるもの,手術,癌,薬剤(マイトマイシンC等の抗がん薬・タクロリムスなど),膠原病,分娩,臓器移植後など補体を活性化させる誘因により発症する.

再発することが多い一方,浸透率は低く,異常遺伝子を有する場合(家族など)でも半数程度はaHUSを発症していないことがわかっている.
・遺伝子のセカンドヒット,または遺伝学的多様性,補体経路を活性化させる合併症が発症のきっかけと推察されるが,詳細は不明.

H因子 Factor H;FH

aHUSの20~30%にFH遺伝子異常が存在し,最も多い.

FHは肝臓で産生される分子量150 kDの血漿蛋白質.

FHは血中並びに細胞表面での補体の活性化をdown-regulationしており,C3 活性化により生じたC3bに結合し,これを分解するFIの補因子として働く.

FHの機能ドメイン
C3b結合ドメイン:CCP 1-4,CCP 6-8,CCP 19-20の3カ所に存在.
へパリン結合ドメイン:CCP7-8,CCP13-14,CCP19-20 の3カ所に存在.
シアル酸やグリコサミノグリカン等の陰性荷電表面への結合ドメイン:CCP16-20 に存在する.

FHの補因子としての働きに必要不可欠な部位はCCP1-4 に存在するC3b結合ドメイン.
他の結合ドメインの異常では細胞表面でのC3b結合が著明に減少する.

遺伝子異常には常染色体劣性と優性の双方がある
・劣性は若年発症型(early-onset type)でFH分泌障害があり,患者血漿中のFH活性は正常人の10~50% に低下し,同時にC3 濃度も低い.
・優性は成人期発症型(late-onset type)でFH機能異常によるものであり,FHの血中濃度は正常で,血漿C3濃度も正常であるが,感染や妊娠を契機に発症する.
・FH遺伝子異常の報告例の約60%はCCP19-20(FHのC末端部分,hot spots)に集中し,これが細胞表面における補体攻撃からの保護機構の破綻を起こすと考えられている.

MCP(membrane cofactor protein),CD46

MCPは細胞表面抗原としてCD46 の名称が与えられている.

aHUS患者の10~15% に存在する.

MCP遺伝子異常は2006 年にCaprioliらにより最初に報告された.

MCPは45~70 kDの膜貫通型蛋白であり,遺伝子は染色体1q32 に存在する.

MCPはFIのコファクターとして,細胞表面に存在するC3bやC4bの分解に携わっており,細胞表面での補体による細胞障害の抑制に重要な役割を担っている.

MCPは特に腎臓に於いて強く発現しており,感染,薬物,自己抗体,そして免疫複合体による腎糸球体でのC3 の活性化を抑制するのに重要であり,MCP遺伝子異常によるその機能低下は著明な腎糸球体細胞障害を引き起こすためHUSを発症すると考えられている.

FH遺伝子異常等の他のaHUS患者に比べて,比較的に予後が良いことが知られている.
血漿治療の有無による予後に差はない.
腎移植後の再発率は低く,これは移植腎にMCPが十分含まれているためと考えられている.

トロンボモジュリン thrombomudulin;TM

2009年にDelvaeyeらによりTMの遺伝子異常がaHUSに関与していることが示された.

TMは血管内皮細胞上に存在する糖蛋白で,抗血栓・抗炎症・細胞保護作用等を有している.
・C3bとFHに結合し,FIを介したC3bの不活化を促進する.
・血漿thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)を活性化することによりC3aやC5aの不活化を促進する.

TM遺伝子変異によって,C3b不活化能とTAFIの活性化が減弱し,その結果,活性化した補体に対する防御能が低下することでaHUSが発症することが示された.

診断

特異的な血液学的な検査はいまだ確立しておらず,確定診断となりうる検査は補体制御因子の遺伝子検査.
・保険適応外で,検査を委託しても結果が判明するまでに数ヶ月かかる.
・約半数の患者に遺伝子異常がない.

実際の臨床現場では臨床的aHUSと診断し治療をすすめる.

原因不明の溶血性貧血(破砕赤血球を伴う)と血小板減少があれば,血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy;TMA)を疑う.
・DIC,自己免疫性溶血性貧血,血液癌などを除外

TTPとSTEC-HUSを除外する.
・ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性を測定
・問診で集団食中毒の有無を確認.
・便培養で病原性大腸菌の有無,便中の志賀毒素を調べる.

膠原病,感染症,薬剤,妊娠,臓器移植により発症する二次性TMAを除外

臨床的にaHUSを診断

治療

aHUSを疑えば,除外診断で臨床的に診断してから,抗補体療法を開始する.
・診断から治療開始まで遅れると,末期腎不全となり,生涯透析が必要になる恐れがある.

小児
9割はSTEC-HUSであり,二次性TMAが極めて稀であることから,初発性であっても速やかにaHUSと診断し,抗補体療法を開始してもよい.

成人
二次性が多く,血漿交換療法を3~5日行い,他の疾患を除外できた段階で,抗補体療法に切り替える.

血漿交換療法

エクリズマブが臨床応用される2013年まで新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法が標準的治療だった.

活性化した補体成分を取り除き,不足している補体制御因子を補い,溶血性貧血と血小板減少することはできたが,補体経路の活性化が続き,慢性腎不全に陥っていた.

抗補体療法 エクリズマブ eculizumab

抗C5モノクローナル抗体
・C5 がC5aとC5bに分解されるのを阻止し,C5b6789 (膜侵襲複合体;MAC)による細胞膜侵襲を抑制する事により治療効果があると考えられる.

エクリズマブは,もともと発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬.

aHUSに対する臨床試験で速やかに血小板数が回復すること,治療の長期継続により腎機能が回復することが報告され,2015年の治療ガイドで標準的治療として推奨されている.

Terminal complement inhibitor eculizumab in atypical hemolytic-uremic syndrome - PubMed
Eculizumab inhibited complement-mediated thrombotic microangiopathy and was associated with significant time-dependent improvement in renal function in patients...

中止すると,約2割が再発すると,再投与すると軽快する.
・H因子がある症例は再発しやすいため,治療の継続が望ましい.

問題点
・生涯にわたり,隔週で点滴のために通院が必要.
・稀であるが,髄膜炎菌にかかると劇症化して死亡する危険.
・成人例では年間約6000万円と高額な薬剤費がかかる.

遺伝子異常により,予後は異なる

MCP遺伝子異常
予後は良好であり,従来の血漿交換療法により軽快する.

H因子遺伝子異常
予後が悪く,発症から1年後に1割が死亡,5割が末期腎不全となる.
・主な死因は,急性腎不全に合併する急性心不全,多臓器不全,血栓症,感染症

腎臓移植

高リスク群のaHUS患者に腎移植をすると,9割はaHUSが再発して移植臓器を失う.
・欧米ではH因子異常がある症例については,抗補体療法(エクリズマブ)を投与することで,再発と臓器拒絶を予防している.

補体制御因子は肝臓で作られることから,2000年代に先進的な医療施設(海外)で,肝臓と腎臓の同時移植が行われたが,手術が難しく,周術期の合併症と死亡率が高く,普及しなかった.

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