妊娠糖尿病

医学ノート(なすび用)

妊娠初期[器官形成期]の血糖コントロール不良により先天奇形・流産の頻度が増加するが,妊娠前からの厳格な血糖管理によって,避けることができる.

糖尿病に至らない軽い糖代謝異常でも,児の過剰発育が起こりやすく,周産期のリスクが高くなる.

母体の糖代謝異常が出産後一旦改善しても,一定期間後に糖尿病を発症するリスクが高い.

なすび専用のまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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定義

妊娠初期:~満15週
妊娠中期:満16~27週
妊娠後期:満28週~

妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus;GDM

75gOGTT において次の基準の1点以上を満たした場合に診断する.
①空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1mmol/L)
②1時間値≧180mg/dL(10.0mmol/L)
③2時間値≧153mg/dL(8.5mmol/L)

妊娠中の明らかな糖尿病 overt diabetes in pregnancy

以下のいずれかを満たした場合に診断する.
①空腹時血糖値≧126mg/dL
②HbA1c値≧6.5%

*妊娠中の明らかな糖尿病には,妊娠前に見逃されていた糖尿病と,妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常,および妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれる.
→いずれも分娩後は診断の再確認が必要.

随時血糖値≧200mg/dLあるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dLの場合は,妊娠中の明らかな糖尿病の存在を念頭に置き,①または②の基準を満たすかどうか確認する.

妊娠中,特に妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して糖負荷後血糖値は非妊時よりも高値を示す.
→随時血糖値や75gOGTT負荷後血糖値は非妊時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない.

糖尿病合併妊娠 pregestational diabetes mellitus

①妊娠前にすでに診断されている糖尿病
②確実な糖尿病網膜症があるもの

病態

空腹時:accelated starvation(飢餓状態の増強)
→脂肪の分解,ケトン体産生,血糖低下など

摂食後:facilitated anabolism(同化の促進)
→インスリン抵抗性の亢進,高インスリン血症,高血糖など

インスリン抵抗性増悪

妊娠中はインスリン抵抗性が増悪するが,健常妊婦ではそれに対応して,母体膵臓でのインスリン産生が増加する(膵β細胞の肥大と過形成).
→分娩後には胎盤の娩出によりインスリン抵抗性は急激に改善し,母体のインスリン分泌も妊娠前の状態に戻る.

胎盤でのインスリン拮抗ホルモンの産生

胎盤では種々のインスリン拮抗ホルモンやアデイポサイトカインが産生され,妊娠中期以降に増加し,妊娠時の生理的インスリン抵抗性の原因となる.

インスリン拮抗ホルモン=ヒト胎盤性ラクトゲン(human placental lactogen;hPL),プロゲステロン等)
アデイポサイトカイン=腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor α:TNFα),レプチンなど

胎盤でのインスリンの分解

妊娠時には胎盤を通して母体からブドウ糖,アミノ酸,遊離脂肪酸(freefaty acid :FFA)が胎児へ供給されるが,インスリンやグルカゴンは胎盤を通過して胎児へ移行しない.

胎児のエネルギ一源は主にブドウ糖であり,このため母体は脂肪を分解してエネルギー源とする.
特に胎児が大きくなる妊娠後半ではaccelerated starvationと呼ばれるように,ケトーシスになりやすい.

胎児の高インスリン血症

妊娠経過中の母体高血糖は胎盤を経由して胎児に高血糖をもたらすが,それを是正するために胎児膵β細胞の過形成,高インスリン血症が引き起こされる.

妊娠中期・末期の血糖コントロールが悪い場合は,胎児の高インスリン血症を引き起こし,巨大児・新生児低血糖の原因になる.

胎児の臓器成熟が未熟で原因で,呼吸障害・高ビリルビン血症・低Ca血症・多血症などを発症する.

GDMの危険因子

・尿糖陽性
・糖尿病家族歴
・肥満
・過度の体重増加
・巨大児出産の既往
・加齢など

糖代謝異常妊娠の母児合併症

HAPO study
母体の耐糖能異常による不良な妊娠アウトカム(large for gestational age;LGA,児の体脂肪量,臍帯血 C ペプチド)に対するリスクの検討.強く連続的な相関.

胎児仮死・死亡,先天奇形,巨大児,新生時高ビリルビン血症など

The Pederssen Hypothesis

先天奇形

妊娠前半期は胎児の形成期であり,このときの高血糖は奇形に関連する.

多数の糖尿病合併妊娠を集めて検討してみると、妊娠前に治療を開始した群では2.1%の奇形率で、糖尿病のないコントロール群の1.7%と大きな差は見られなかったが,妊娠後の治療開始群では9.0%と高頻度であった.
・一般の先天奇形頻度1.77%,周産期死亡率0.43%

従来の機序として,遺伝的素因,高血糖や高ケトン体血症などの代謝性変化,子宮胎盤血流量の減少など,さまざまな要因が考えられているが,近年その一つに活性酸素等の発生による酸化ストレスの関与が強調されている.

巨大児(>4000g)

妊娠後半の胎児の成長期は胎盤ホルモン(成長ホルモンなど)により,妊娠糖尿糖尿病 (GDM) になりやすく,この時期の高血糖は胎児の高インスリン血症を引き起こし,巨大児の原因になる.

母体

流産,早産症,妊娠高血圧症候群,羊水過多,巨大児に基づく難産,糖尿病合併症(ケトアシドーシス,網膜症・腎症の悪化など)

妊娠中は脂肪成分の分解亢進によるケトン体生成が促されやすく,特に耐糖能異常者においてはインスリン作用不足によるホルモン感受性リパーゼによる脂肪分解が進み,ケトーシスを生じやすいことが言われている.

妊娠中の循環血液量や心拍出量の増加,凝固亢進,線溶抑制などの血行動態やホルモン分泌の変化

管理

なすび院長
なすび院長

治療介入はThe earlier the better!

妊娠前

糖尿病女性が妊娠を希望する場合は,児の先天異常や流産が高率になる.
→妊娠前にHbA1c(NGSP) 6.5%未満を目安とした血糖コントロールの正常化が望ましい.
→インスリン治療への切り替えを行う.

妊娠前の母体の眼底所見は正常or単純網膜症に管理され,腎症は第1期(腎症初期)or第2期(早期腎症期)であることが望ましい.
→糖尿病網膜症の評価(増殖・増殖前網膜症は妊娠で悪化しやすい)
→尿中微量アルブミンor尿蛋白の評価.

スクリーニング

GDMのスクリーニングは危険因子(糖尿病の家族歴,肥満,巨大児出産の既往,加齢など)に関わらず,一律に行う.
→検査時期は初診時・妊娠24~28週が勧められる.

妊娠中の血糖目標

妊娠中の血糖コントロールは,母体や児の合併症を行うため,厳格に行う.

朝食前血糖値 70~100 mg/dL
食後2時間血糖値 120 mg/dL未満
HbA1c(NGSP) 6.2%未満
GA 15.8%未満

妊娠中は血糖管理の評価にHbA1cではなく,GAを使う.
・HbA1cは妊娠中の厳格な血糖管理の指標とするには反応が遅すぎる.
・HbA1cは妊娠後期の鉄欠乏の代償の結果と考えられる見かけ上の上昇がある.
・GAは比較的短期間の血糖状態を反映し,鉄欠乏の影響も受けない.
・1,5-AG は妊娠に伴う尿糖排泄閾値の変動の影響を受けるため,使用しない.
・GA 15.8%以上で新生児合併症が有意に増えるが,HbA1cは相関せず.

インスリン療法

妊娠前,妊娠中,周産期,授乳期の薬物療法にはインスリンを用いる.
血糖自己測定を併用した強化療法を行う.

インスリン抵抗性の増大する妊娠中期以降には必要に応じてインスリンを増量し,分娩後には速やかに減量する(妊娠末期のインスリン需要量は妊娠前の2倍以上に増加する).

食後高血糖となるのが特徴となるため,軽症であれば3回法だが,4回法を選択することが多い.

使用可能なインスリン

ヒトインスリンには催奇形性はないため,妊娠中でも使用できる.
・超速効型インスリン[アピドラ®以外]の母児への影響は,速効型インスリンと差がないことが示されている.

持続血糖モニタリング(CGM)

特に1型糖尿病合併妊娠では,CGMが母体の血糖コントロールだけでなく新生児の転帰にも有効であったという報告がある.

妊娠中の目標TIR(Time in Range)
1型糖尿病:63~140mg/dL,妊娠初期から70%以上を目標とする
*TAR(Time Above Range)は25%未満を目標にする.
2型糖尿病:エビデンスがほとんど示されていない.

CSII

従来よりも良好な血糖コントロールを得ることが可能.

インスリンポンプ本体やルートのトラブルは,高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスを来たし,妊娠のアウトカムに重大な影響を与える.基礎注入が入らない状態が数時間続くだけで容易になる.トラブル時の指導が重要.

頻回インスリン治療との前向き比較試験では,新生児のアウトカムについて優位性は明らかではない.

計画妊娠とCSIIの併用による大奇形予防の意義は大きい.

経口血糖降下薬

先天奇形の頻度を増加させる証拠を得られていないが,安全性も確立したともいえない.

食事療法

食事回数

食後血糖や食前低血糖を予防するために6回食などの分食を行う.
・例として朝食を朝と10時頃,昼食を昼と3時,夕食は夕と20時と2回ずつに分ける.
・分食の炭水化物量はまず主食を2:1に分けて,適宜調整を行う.

総エネルギー

日本人の食事摂取基準 or 産婦人科診療ガイドライン
妊娠初期→標準体重×30kcal+50kcal or 200kcal  
妊娠中期→標準体重×30kcal+250kcal or 200kcal
妊娠後期→標準体重×30kcal+450kcal or 200kcal
授乳中→標準体重×30kcal+350kcal or 200kcal
*付加量は体重の程度をみて調節.肥満があれば付加はなし.

許容体重増加

健常妊婦の体重増加に準じる.

非妊娠時BMI<18.5→9~12kg
非妊娠時BMI 18.5~25→7~12kg
非妊娠時BMI>25→およそ5kg

運動療法

推奨する根拠はない.

有用性を示す根拠は少ないが,母体の血糖コントロール改善,過度な体重増加抑制,気分転換など健康増進に有用である可能性がある.

勧められる運動

ウォーキング,体操,マタニティビクス,アクアビクス[準備運動・整理運動を必ず!]

食後1~2時間後がよい.子宮収縮が少ない10時~14時が勧められる,
・食前・食後30分以内は禁止!

15~30分/回,3~4回/週くらい.

運動できない場合

・切迫早産・流産などの参加的問題がある.
・重症の網膜症・腎症・高血圧症がある.
・1型糖尿病で血糖の変動が激しい.
・関節炎など整形外科的な問題がある.
・重度の貧血がある.

分娩後follow up

GDM既往がある女性は,将来の糖尿病発症のハイリスク群

GDM既往がある女性は,将来の2型糖尿病発症のハイリスク群であり(7.43倍と報告),産後数年以降のみならず,産後早期より耐糖能異常を発症する頻度が高い.

GDM群は対照群に比し,2型糖尿病の頻度が約7.5倍に増加[Am J Obstet Gynecol 2010;202:255―257]

産後のスクリーニングは標準の負荷試験を6~12週に行う.
長期の糖尿病スクリーニングは最低でも3年おきに行う.

患者が前糖尿病状態であったら,糖尿病の予防をするために生活習慣の介入またはメトホルミンを導入する.

GAD抗体が陽性になる報告あり.

母乳

分娩後,母乳は有益であり,インスリンも母乳栄養の妨げにならない.授乳は将来の母体の2型糖尿病発症を抑制することが報告されている.

食事療法

非肥満症例では,標準体重×30kcalを基本とし,授乳によるエネルギー需要量の増大に対しては,+350kcalを付加量とする.
*肥満症例に対しては付加しない.

医学ノート(なすび用)
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なすび院長

勤務医に疲れ,定期非常勤と投資でなんとかしのごうというひっそり医.
好きな分野は,糖尿病・腎臓病です!(゚∀゚)

ネット上で念願のなすびクリニックを作るも,今日も改装中で,いつ再開するのやら・・・
勉強好きで,私用に細々とまとめています.

妻:りんご
長女:いちご
次女:れもん
三女:みかん
事務長:かえる

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