巣状分節性糸球体硬化症 Focal segmental glomerulosclerosis;FSGS

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なすび医学ノート

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最初は限られた糸球体(巣状)において,通常,糸球体の一部(分節状)に硬化が発生する疾患であるが,やがて硬化は髄質近接部から腎被膜に向かって進展する.

典型的な症例は,原因が不明で難治性のネフローゼ症候群を呈することが多く,一次性あるいは特発性として分類される.

微小変化群の場合と同様に,発症のきっかけは糸球体上皮障害が考えられているが,それと異なり,この上皮細胞障害は非可逆的で,周囲の組織障害を巻き込んで硬化へと進展していく.

疫学

発生頻度は小児では特発性ネフローゼ症候群の5~10%で,成人でも一次性ネフローゼ症候群の5%前後を占めている.
・若年者に多く50歳以上では少ない.
・ネフローゼ症候群全体の5~10%を占めるが,30歳以下では10%以上となる.

性差は男性がやや多い.

日本ネフローゼ症候群コホート研究(JNSCS)の報告では,成人FSGS 38名において平均4.6年程度の観察期間での完全寛解は71.1%,不完全寛解Ⅰ型76.3%,不完全寛解Ⅱ型88.2%であった.

本邦では昭和50年から平成5年に発症した成人FSGSの腎生存率は,10年85.3%,15年で60.1%,20年で33.5%と報告されている.
JNSCSのデータでも約4~5年のやや短期の観察で,血清クレアチニン1.5 倍化13.2%,2 倍化7.9%,末期腎不全2.6%であった.

長期の治療による副作用や,高脂血症や高血圧の持続による脳や心血管障害の発現など腎外の因子が予後に影響を与える危険性も大きい.

腎予後悪化のリスクファクター

臨床的特徴
・男性
・アフリカ系
・初診時高度蛋白尿
・初診時Cr上昇
・治療で部分寛解もしくは完全寛解に至らない
・再発例

組織学的特徴
・Collapsing variant
・尿細管間質の線維化

原因

組織学的には一次性と区別がつかず原因疾患が明らかであるものを二次性と呼ぶが,その病態は多様
→ヘロイン中毒,逆流性腎症,一側腎,肥満,妊娠中毒症,悪性腫瘍(リンパ腫・呼吸器癌・消化器癌),HIV感染症,ミトコンドリア異常症

家族性・遺伝子変異

α-アクチニン4,ポドシン,TRPC6,WT-1,CD2AP,Formin(INF2),β4-integrin,ミトコンドリア異常,非筋性Ⅰ型ミオシン(MYO1E),非筋性ミオシン重鎖ⅡA(MYH9),ApoL1 など

フィンランド型先天性ネフローゼ症候群や遺伝性巣状分節性糸球体硬化症での原因遺伝子が同定され,その遺伝子産物が糸球体上皮細胞足突起間のスリット膜に局在する蛋白(nephrin)や糸球体上皮細胞足突起の細胞骨格に関連した蛋白(ポドシン,α-actinin 4,CD2APなど)であることが判明.
→糸球体における蛋白バリア機能の中心がpodocyteであることを示唆している。

CD2APは糸球体上皮細胞足突起間のスリット膜に見出された糸球体蛋白.
一次性巣状分節性糸球体硬化症の症例において,CD2APによる遺伝子の突然変異が報告されている.

染色体19q13の上のα-actinin 4遺伝子の突然変異は巣状分節性糸球体硬化症の常染色体優性遺伝を示す型と関連している.

突然変異体であるα-actinin 4はactinとより強固に結びついており,この疾患が糸球体足突起の細胞骨格であるactinの変化によるものであることを示唆している.

アフリカ系アメリカ人では腎機能障害が家族集積することから遺伝素因の関与が疑われており,2010
年に腎機能障害の責任遺伝子とし APOL1が同定された.
・FSGSと高血圧性末期腎不全を呈するアフリカ系アメリカ人には,APOL1S342GI384Mの 2つのミスセンス変異(G1)とdel N388/Y389のアミノ酸欠損(G2)のホモ接合(G1G1, G2G2)と複合ヘテロ接合(G1G2)が多いことが報告されている.

薬剤性

ヘロイン,インターフェロン-α,リチウム,ビスホスホネート,金,チロシンキナーゼ阻害薬,蛋白同化ホルモン,非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)など

ビスホスホネート製剤

collapsing variantを示し,腎機能低下を認める.

直接毒性により糸球体上皮細胞を傷害し,かつその再生において糸球体上皮細胞の成熟を抑制するために起こると推測されている.

用量依存性.

蛋白尿が増加,また腎機能が低下するようであれば速やかな減量・中止が必要.

米国ではpamidronateによるcollapsing variantが20数例報告されている.
・日本でも乳がんにおいてpamidronateの1回投与量が90mgまで認可された.
・今後欧米なみの投与量となり,このようなpamidronate による腎障害が増加することが推測される.

ウイルス感染

C型肝炎ウイルス,HIV-1,Cytomegalovirus,Epstein-Barr virus,Parvovirus B19 など

構造的・機能的な適応反応によるもの

ネフロン数の減少に伴うもの

Oligomeganephronia,腎形成不全(片側無形成腎,低形成腎),膀胱尿管逆流(逆流性腎症),腎梗塞後,外科的腎切除後,chronic allograft nephropathy,その他ネフロン数の減少を伴う進行した腎疾患

当初はネフロン数の減少がないもの

悪性高血圧,腎動脈狭窄,肥満,加齢,鎌状赤血球貧血,アテローム塞栓,チアノーゼを有する先天性心疾患

病態

糸球体硬化機序

過剰濾過 hyperfiltration
ネフロンの減少や溶質の増加により糸球体血流量や血圧が上昇し,糸球体で過剰の濾過が生じることが硬化にかかわっているとの考えである.

糸球体肥大
過剰濾過やその他の原因で糸球体が肥大して,毛細管壁に歪みが生じ硬化を引き起こす.
成長ホルモンなどの作用も注目されているが,なかでもTGF-βはメサンギウムにおける細胞外基質成分の産生を刺激し糸球体硬化を促進すると考えられている.

高脂血症
粥状動脈硬化と同様,スカベンジャー受容体などを通して浸潤マクロファージがリポ蛋白を取り込み,糸球体硬化に関与することが考えられる.

症候

ネフローゼ症候群

発症様式

浮腫をもってネフローゼ症候群として急性発症する場合が多いが,一部に蛋白尿で発見され,そのまま経過するか徐々に進行して,ネフローゼ症候群に進展する緩慢な発症様式を示す場合もある.

急性発症型
MCNSと同様,高度の浮腫・蛋白尿・低蛋白血症・高脂血症を呈するが,しばしば血尿・高血圧・腎機能低下を伴うことがある.
一次性に多い.

慢性発症型
無症候性蛋白尿で発症し,そのままネフローゼ症候群を呈さずに,腎機能も低下しないで緩慢に経過する場合もあるが,一部の症例で蛋白尿が増加せず,腎機能が低下していくこともある.
・二次性は基礎疾患の状態に依存し,ネフローゼを呈することは多くない.
・ネフローゼ状態で蛋白尿でない場合や高齢者の場合は,二次性を疑う.

MCNSとの違い

1)尿沈渣で赤血球や顆粒円柱が観察される頻度が高い
2)尿蛋白選択性は低下し,アルブミンだけでなくかなり分子量の大きなグロブリンも尿中に漏出する.
→血清蛋白電気泳動では,γグロブリンの割合が著しく減少
3)高血圧が比較的初期から明らかであり,糸球体硬化の進行とともに増悪しやすい.

検査所見

血清補体は正常範囲.

soluble urokinase-type plasminogen activator receptor(suPAR)
・FSGSに関連する因子の可能性があると報告されていたが,近年の研究では炎症や悪性疾患でも上昇していることが分かってきた.
・suPARは病理組織ではなく,GFRの低下に関連し,一次性と二次性の区別はできない.

腎病理

光学顕微鏡

多くの糸球体が微小変化を呈する中で,主として傍髄質の糸球体に巣状・分節性に硬化病変が認められる.
・髄質近接部における一部の糸球体(巣状)の糸球体硬化(AZAN染色で青色)が特徴的.
・糸球体は一部(50%以下)にしか存在していないことから巣状と呼ばれている.

硬化病変はBowman嚢と癒着していることが多く,硬化病変の初期にはメサンギウム細胞や内皮細胞が脂肪変性に陥った泡沫細胞foam cellを認め,Bowman嚢上皮細胞の軽度の増生がみられる.

硬化は糸球体上皮とBowman(ボーマン)嚢の癒着部を中心に糸球体の一部から発生する.
・分節状硬化segmental sclerosisと呼ぶ.
・分節性病変の中には、硬化にはいわゆる硝子様の無構造物や脂肪を含む泡沫細胞が含まれることが少なくない.
・進行すると糸球体は巣状・分節性からびまん性・全節性への硬化へと進展する。

コロンビア分類によるFSGSの形態的バリアント

虚脱型(Collapsing)→尿細管極型(Tip)→細胞型(Cellular)→血管極型(Perihilar)→非特異型(NOS)

NOS(not otherwise specified) variant 非特異型亜型

分節性硬化

人種差はあるが,60-80%と多く一次性でも二次性でもみられる.

予後:通常のコース

Cellular variant 細胞型亜型

内皮細胞増殖,しばしば糸球体上皮の過形成

5%.しばしば二次性FSGSで認められる.

予後:初期の所見,尿細管極型亜型と関連

Tip variant 尿細管極型亜型

糸球体の一部が近位尿細管起始部の付近でBowman嚢と癒着し,空胞を伴って小さな硬化を形成する.

10-15%.

ステロイドへの反応性がよい.

予後:比較的いい.

Perihilar variant 血管極型亜型

血管極における硬化と硝子変性

5%.しばしば二次性FSGSで認められる.

予後:二次性FSGSを反映している可能性

Collapsing variant 虚脱型亜型

糸球体係蹄の虚脱,糸球体上皮の過形成

10-20%.

黒人のHIV感染やヘロイン中毒でよく認められるが,ビスホスホネート(パミドロン酸二ナトリウム水和物)での報告がある.

予後:特に不良(短期間で腎機能が悪化)

collapsing nephropathy

糸球体係蹄が虚脱し(collapse)かつ臓側糸球体上皮細胞の増殖と肥大が認められる病態.
虚脱はPAM染色でわかりやすい.

D’Agatiは提唱した新しい組織分類を提唱.

collapsing nephropathyは,一次性FSGSにみられるほか,二次性のものではHIV感染,Parvovirus 19感染,pamidronate中毒,慢性移植拒絶腎,アテローム塞栓症,急性血管塞栓性疾患などでみられる。米国において黒人のHIV関連腎症としてしばしば認められる.
→collapsing variantと診断した時点で特殊な病態を考える必要あり

一般にポドサイトが傷害されると,即座にメサンギウム基質の増大が起こり,糸球体硬化症を形成するが,collapsing nephropathyではこのような反応が起こらず,collapseが起こる.
・原因の1つの可能性として,HIV-1のtat遺伝子産物によるVEGF産生亢進の関与が示唆されている.

管外性の増殖は,半月体形成性腎炎と異なり,ボーマン嚢側でなく,糸球体係蹄側で起こっているので,pseudocrescentsと呼ばれる.
・ポドサイトが脱分化して,増殖能力を獲得して,pseudocrescentsを形成するものと理解されている.

免疫組織学的

IgMが硬化部分に強く染色される場合とメサンギウム領域にびまん性に細かく沈着する場合がある.
→硬化病変に一致してIgMが強く染色される場合は,免疫複合体沈着よりは”滲み込み現象”と考えられている.

IgMや補体成分C3などが硬化部分に一致して塊状に沈着することが多いが,非硬化部でもこれらが播種状にみられることがある.
→必ずしも病因と結びつくと考えられていないが,FGSの診断上有用.

電子顕微鏡

糸球体上皮の変性が微小変化群より高度であり,足突起消失のほか基底膜からの解離が認められる.

硬化部分ではコラゲン線維などの細胞外基質成分や高電子密度の無構造物質electron dense depositなども観察される.

FGSでは間質障害を伴うことが多く,それらではTリンパ球やマクロファージの浸潤が著明であり,FGSそのものの進展に関与していることも考えられる.

上皮細胞の基底膜からの剥離・変性壊死などがみられる。

治療

二次性FSGSは必ずしも免疫抑制薬やステロイドは必要ない可能性もあり,臨床情報が重要.
→Perihilar variantではすべて二次性を疑う.

一次性の一般療法はMCNSに準じる.
薬物療法としては初発例・再発例ともにMCNSに準じてステロイド療法を行う.

良好に反応する場合には2-4週で蛋白尿は完全に消失するが,治療後徐々に減少傾向を示しながら,完全に蛋白尿が陰性化するのに3ヶ月~1年前後かかる場合もある.

ネフローゼ症候群は脱したものの蛋白尿が1.0g/day以下のまま持続し,完全に消失しない場合もある.

ステロイド療法

MCNSの投与量では,ステロイド抵抗性であり,ほとんどの場合改善しない.
・ステロイドを約2年間にわたって使用すると約65%で完全寛解+部分寛解となる.
・さらに免疫抑制剤を併用すると寛解率は70%になる.
・プレドニゾロン40mg/日を初期量とする経口投与だけでは寛解に至ることは難しい.
→メチルプレドニゾロン500~1,000mg3日間連日点滴静注によるいわゆるステロイドパルス療法が試みられ,長期予後での有効性が指摘されている.
→ステロイド投与が長期化し総投与量が増加するおそれがあるので,副作用の発現に注意を要する.

免疫抑制薬

ステロイドの効果を持続させ再発再燃を防ぐためには免疫抑制薬の併用が必要となり,シクロホスファミド50~100mg/日の8~10週投与や,シクロスポリン3mg/kg体重/日以下の投与が行われる.

(リツキシマブ)

頻回再発型微小変化型ネフローゼ症候群において有効性が認められているが,FSGS における有用性・安全性ともに確立されていない。

抗凝固療法

FGSの発症進展には凝固系の関与も考えられるので,ヘパリンやワーファリンによる抗凝固療法や抗血小板薬の併用も効果的といわれている.

脂質代謝改善薬,LDL吸着療法

長期にわたる高度の高脂血症は,FGSの増悪因子となるおそれがあり,脂質代謝改善薬やLDL吸着療法が有効との報告もある.

難治性ネフローゼ症候群を呈するFSGSで脂質異常症を認める症例に対して3カ月間12回のLDLアフェレシス施行が保険で認められている。

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