線維筋痛症 fibromyalgia;FM

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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身体の広範な部位に原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主徴候とし,随伴症状として多彩な身体,神経・精神症状を伴い,いずれの徴候も慢性疼痛と同様に身体診察や一般的画像検査を含む臨床検査で症状を説明できる異常を見出せない.
機能性身体症候群(functional somatic syndrome;FSS)に属する特異なリウマチ性疾患のひとつ.

全身の結合組織(fibro)や筋肉(my)の痛み(algia)を特徴とする疾患であり,関節周囲組織,筋肉,腱ならびに靭帯の付着部位などのびまん性の疼痛やこわばりを訴え,しばしば関節リウマチやさまざまな膠原病が疑われてリウマチ専門医を受診する.

心理的ストレス要因の関与が強いこともあり,psychogenic rheumatism(心因性リウマチ)として,気圧の低下及び降雨などの影響を受けやすい気象関連性疼痛(weather-related pain)としての特徴もよく備えている.

疫学

FM患者の約80~90%は女性で,特に40~50歳前後の中年期から更年期にかけて多く発症し,頻度は少ないが,高齢者,若年者ならびに男性にもみられる.

本邦における疫学調査(厚生労働省研究班2004)での推定患者数は約200万人(人口比1.61%)とされるが,軽症者も多いため,実際に医療機関を受診するのは,このうち10~15%前後と推測され,正しく診断される患者の割合はさらに低い.

FMには,原発性(あるいは一次性)と他のリウマチ性疾患あるいは整形外科的筋骨格系疾患等に続発性に生じる二次性があり,日本人では,その比は3.1:1と報告されている.

一卵性双生児や母親と娘での発症例等,FMは家族集積性の高い疾患であり,米国では,第一度近親者でオッズ比は8.5,我が国の研究では,家族歴を有する患者は4.1%と言われる.
FMに最も関係性の高いうつ病や双極性障害等の気分障害にも家族集積性があり,病態の複雑化・慢性化に何らかの影響を与えていることが示唆されている.

病態

身体医学的側面から精神医学的側面までの連続性を包含したスペクトラム障害(spectrum disorder)の様相を呈する

機能性身体症候群 functional somatic syndrome;FSS

適切な診察や検査を行っても,器質的疾患(病理学的所見の認められる疾患)の存在を明確に説明できない身体的訴えがあり,それを苦痛と感じて日常生活に支障をきたす病態.

(1)FSSの各疾患には共通症状が多く,診断基準も類似している.
(2)FSSの各疾患は他のFSS疾患の診断基準を満たし,しばしば相互に合併する.
(3)FSSの患者は,几帳面,徹底性,完全性,強迫性ならびに神経質等の類似した性格的特性を有する.
(4)FSSの患者は,うつ,不安ならびに認知的問題等の多彩な精神症状をしばしば伴い,不安薬,抗うつ薬ならびに抗痙攣薬等,類似した薬物治療に反応しやすい.カウンセリングや認知行動療法等心理療法の対象となる.

身体表現性障害

FMには,患者の性格行動的特性,ライフスタイルの歪み等が関係することが多く,時に気分障害や不安障害,パーソナリティ障害等の合併がみられる.

中枢性感作 central hypersensitivity

最新の知見では,FMにおいて,全身性の痛みのみならず,多様な心身症状が慢性化・遷延化する原因に脊髄後根,視床下部,大脳辺縁系ならびに大脳感覚野におけるミクログリアの活性化による中枢神経炎症が関与していることが明らかにされつつある.

診断

症状の特性から,最初はリウマチ・膠原病内科や整形外科等を受診する患者が多いが,関節リウマチ,Sjögren症候群,リウマチ性多発筋痛症,全身性エリテマトーデスならびに仙腸関節炎等のリウマチ性疾患,変形性関節症,軸性骨格性疾患,脊柱管狭窄症,腰痛症ならびに椎間板ヘルニア等の整形外科的疾患,多発性付着部炎,筋・筋膜性疼痛症候群ならびにCFS等の類縁疾患を鑑別する必要がある.

一次性FMの場合,強い痛みの割には関節の発赤,腫脹,発熱,拘縮ならびに変形等がなく,CRP(C-reactive protein),赤沈等の炎症マーカーや抗核抗体,リウマチ反応等の自己抗体にも異常を認めず,疼痛部位のX線やMRI(magnetic resonance imaging)等の画像検査でも症状を説明できない.

リウマチ性疾患等を背景とした二次性FMでも,基礎疾患の活動性や臨床検査所見と一致しない症状を訴えることが多い.

理学的所見として,全身の関節周囲組織,筋肉,腱ならびに靭帯の骨付着部近辺等に強いこわばりや筋の痙攣,冷え等を認め,圧迫すると飛び上がるほどの痛み(jumping pain)や軽く触れるだけでも痛むアロディニア(allodynia)症状もある.

痛みのために運動量や活動性の低下,関節可動域の制限がみられ,痛み部位への貼付薬やサポーターの使用,杖や車椅子等の補助具の使用が必要となることもある.

米国リウマチ学会(ACR) 分類基準(1990)

3カ月以上持続する全身の疼痛があり,器質的疾患が認められないこと.

1)広範囲疼痛の定義:疼痛は以下の全てが存在する際に広範囲とされる.
身体左側の疼痛,身体右側の疼痛,腰部から上の疼痛,腰部から下の疼痛,さらに,躯幹中心部(頸椎,前胸部痛,胸椎,下部腰部)が存在する.

2)触診で図中の18カ所の疼痛点のうち11カ所以上に圧痛を認めること.
圧痛点は両側に存在し,計18カ所となる.触診は約4 kgの強さで行う.

2010 ACR予備診断基準

次の3つの条件が当てはまれば,線維筋痛症の診断基準を満たす.
① 広範囲の疼痛指標(widespread pain index:WPI)が19カ所中7カ所以上当てはまり,症状の重症度(symptom severity:SS)スコアが5以上となった場合,あるいは,WPIが3~6カ所でSSスコアが9以上となった場合.
②これらの症状が少なくとも3カ月以上続いていること.
③疼痛を説明する他の疾患がないこと.

広範囲の疼痛指標 widespread pain index;WPI

全身19カ所(左右両側の肩,上腕,前腕,腰部,大腿,下腿,顎ならびに背部の16カ所.胸部,腹部ならびに頸部の3カ所)のうち,過去1週以上に亘り,痛みが持続する部位を0~19の値でスコア化する.

症状の重症度スコア symptom severity;SS

3症状のスコア及び全身の身体症状のスコアを合計する.
結果的には0~12のスコアとなる.

①疲労感,起床時にスッキリしない感じ,認知症状の3つについて,過去1週間の重症度レベルを次の尺度を使ってスコア化する.
0=問題なし
1=やや問題あり,緩やかで一時的な程度
2=かなり問題あり,しばしば現れ,中くらいの程度
3=ひどい,広範囲に亘る持続的な症状で,生活上の問題を及ぼす程度

②患者が有している身体症状について次の尺度を使ってスコア化する
0=症状なし
1=2~3つの症状あり
2=中等度の症状あり
3=多数の症状あり

治療

薬物療法

通常のNSAIDs等の抗炎症性鎮痛薬は,慢性化・難治化したFMには無効であることも多く,ステロイドも奏効しない.

多くの薬剤選択は未だ保険適用外であり,慢性疼痛や神経障害性疼痛,筋痙攣,中枢性感作,交感神経緊張,うつ病等の特性や類似性を考慮して処方する.

抗うつ薬

抗うつ効果とは独立した下行性疼痛抑制系の賦活作用が鎮痛効果を発揮するとされ,従来から,三環系抗うつ薬(アミトリプチリン等)が使われてきた.

本邦では,2015年5月にデュロキセチンが本邦2番目のFM治療薬として保険収載された.

抗痙攣薬

2012年6月にプレガバリンが本邦初のFM治療薬として認可された.

プレガバリンは,電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合することにより,活性化された疼痛伝達経路での神経伝達を抑制して鎮痛効果を発揮する.

末梢の筋緊張や血流障害も改善する作用があるが,不安障害の恐怖回路を抑制することで,精神症状にも有効.

三叉神経痛様の症状を合併するときは,カルバマゼピン等が有効であることがある.

オピオイド

トラマドールは,オピオイド骨格とモノアミン骨格を有し,μ受容体と下行性疼痛抑制系双方に作用することで鎮痛効果を発揮し,FMに対しても高いエビデンスレベルと推奨度を有する(非がん性疼痛の適応も取得).

トラマドールとアセトアミノフェンの合剤も非がん性の慢性疼痛及び抜歯後の疼痛の治療に使われている.

疼痛を専門とする医師の間では,強オピオイドであるフェンタニル,NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体に作用するケタミンの有効性も評価されており,適応患者を限定して非がん性疼痛にも使用されるようになったが,米国では,依存性や自殺の増加等,オピオイドクライシスの問題が浮上しており,使用には慎重さが求められる.

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出成分

我が国で開発されたユニークな薬剤であるワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出成分(ノイロトロピンⓇ)の内服,静脈注射または点滴静注,トリガーポイントへの局所注射が有効であることがある.

下行性疼痛抑制系の賦活効果が考えられており,ガイドラインでのエビデンスレベルは低いが,推奨度は高い.

抗不安薬

ベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZP)系の抗不安薬は,抗不安作用,筋弛緩作用ならびに鎮静作用等により,日常生活上の緊張,焦躁ならびに興奮性等を改善する.

疼痛そのものに対するエビデンスレベルは低く,長期投与時の依存性や高齢者の転倒の問題もあり,補助的な薬剤として使用する.

漢方薬

抗うつ薬や抗痙攣薬等と併用し,補助的な効果を期待する.

FM症状は月経周期に伴って愁訴が変動することも多く,当帰芍薬や桂枝茯苓丸加味逍遙散等の併用が有効であることもある.

筋痛や筋緊張,血流障害には疎経活血湯,牛車腎気丸,桂枝加朮附湯,芍薬甘草湯,附子末等を,精神興奮が問題になるときは抑肝散や加味帰脾湯等を併用する.

非薬物療法

どのような薬物療法でも効果には限界がある.
→長期に亘る治療を支える心身両面からの支持的対応が重要であり,生活指導,運動療法,リラクゼーションならびに専門的心理療法の併用が必須である.

患者教育

FMは,基本的には機能性・良性疾患であり,生命的なリスクを伴わない疾患であることを理解させる.

二次的な筋萎縮・関節拘縮を生じないように肉体的活動・機能訓練等を続けながら,根気よく治療を継続するプロセスを説明する.

運動療法

運動の疼痛緩和効果が実証されつつあり,穏やかな動きで負荷の少ない水中運動(aqua-exercise)や太極拳等の有酸素運動(最大心拍数の65~70%程度を維持する中等度の運動)は,薬物療法に劣らぬ高い有効性が証明されている.

理学的治療法

温熱療法,牽引療法ならびに鍼灸マッサージ等の理学的治療法は,実施方法や効果にばらつきがあるが,有効であるとの論文は多い.

精神・心理療法

ストレス緩和のための生活指導や心理療法が必須で,特に認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)はエビデンス・推奨度共に高い.
・特に不安・抑うつ傾向が強く,破局的思考(catastrophizing)を持ちがちな患者には,絶望的な認知を転換させ,治療や生活に前向きに取り組ませる効果を期待できる.
・双極性を有する患者,強い強迫性や完全性,攻撃性,執着性を有する患者は,心身共に過剰負荷に陥りがちであるため,誤った信念・思い込み・独善性からの脱却,過剰適応的な行動変容を図ることが重要.
・必要に応じて,精神科や心療内科,心理士等の支援を受けることも考慮する.

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