家族性高コレステロール血症 familial hypercholesterolemia;FH

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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LDL受容体およびその関連遺伝子変異による遺伝病であり,1)高LDL-C血症,2)皮膚および腱黄色腫,3)若年性動脈硬化症による冠動脈疾患を特徴とする.

FHは冠動脈疾患の罹患頻度が極端に高く,その発症年齢が通常より15~20歳若いことから,早期診断と適切な治療による動脈硬化症の発症進展の予防が重要.

FHヘテロ接合体(片親からの遺伝)は200~500人に1人の高頻度で認められる遺伝性代謝疾患であり,公衆衛生上,わが国の循環器疾患において最も重要な基礎疾患の一つと言える.
常染色体優性遺伝形式をとる疾患であるため,1人のFH患者を診断することにより,その患者家族の中にFH患者を見つけ出し,早期治療を実施できる(カスケイド・スクリーニング or ファミリー・スクリーニング).

早期診断・治療が重要!

病態

原因遺伝子

診断においては,必ずしも遺伝子診断は必須ではないが,高LDL-C血症に加え,LDL受容体などのLDL代謝に関わる遺伝子に変異が確認されれば確定診断となる.

FHの原因となるのは,LDL受容体の他,アポリポ蛋白B-100(アポB-100),PCSK9遺伝子変異で,いずれもLDL代謝において重要な役割を果たす分子である.
・FHホモ接合体は対立遺伝子双方にLDL受容体,アポB-100,または機能獲得型のPCSK9の異常をもつものと定義される.
・本邦では,アポB-100 遺伝子異常によるFH(familial defective apoB-100)は未発見.

基本的に常染色体優性遺伝形式をとる.

極めて稀な常染色体性劣性遺伝性高コレステロール血症(Autosomal Recessive Hypercholesterolemia:ARH)はLDL受容体の取り込みに関与するアダプタ一蛋白であるLDLRAP1蛋白の遺伝子異常に起因する.
・ARHによるFHは劣性遺伝形式をとるため,ホモ接合体のみが発症する.

臨床経過

生下時から高LDL-C血症が持続し,CADリスクが極めて高く,ヘテロ接合体では,未治療の男性で30~50歳,女性で50~70歳の間に心筋梗塞,狭心症等のCADを発症することが多い.

診断

問診

未治療のLDL-C値が180mg/dL以上であれば,FHを念頭に置き,家族歴を問診する.
「お父様はお元気でいらっしゃいますか?次に・・・」

特に患者が若年齢の場合,アキレス鍵等の肥厚を認める例が少ないため,留意すべきである.

急性心筋梗塞患者を診察する際には必ずアキレス鍵の触診や家族歴の調査を実施すべきである.

身体診察

顔:角膜輪,眼瞼黄色腫の有無
眼瞼黄色腫→脂質を多量に取り込んだ泡沫細胞が真皮内に浸潤したもの

頸部:甲状腺腫,頸部血管雑音の有無

心音の聴取

上肢:肘と手背の腱黄色腫の有無
下肢:膝およびアキレス腱の黄色腫の有無

アキレス腱肥厚

アキレス腱触診

アキレス腱X線撮影最大径9 mm以上を肥厚ありと診断するが,超音波検査での評価も可能である.

患者が若年齢の場合や早期から薬物治療を行っている場合に,アキレス腱肥厚を認めないことが多
いことに留意する.

血液検査

急性心筋梗塞等の重篤な疾患を合併した際には一時的にLDL-Cが低下することがあるため注意が必要である.

遺伝子検査

高LDL‒C 血症患者において,LDL 代謝を司るLDL 受容体,アポリポ蛋白B‒100(アポB‒100),Protein Convertase Subtilisin/Kexin type 9(PCSK9)などの遺伝子変異の存在が確認されれば,確定診断となる.

臨床診断されたFHヘテロ接合体の6~8割で原因遺伝子の変異が確認される.

変異の見つからない症例も2~4 割存在する.

成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準

続発性高脂血症を除外した上で診断する.
2項目以上が当てはまる場合、FHと診断する.
FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい.

1.高LDL-C血症(未治療時のLDL-C 180mg/dL以上)
2.腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)

・ 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない.
・ アキレス腱肥厚は軟線撮影により9 mm以上にて診断する.
・ LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う.
・ すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする.
・ 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する.
・ FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい.

FHホモ接合体

FHホモ接合体は血清総コレステロール値600mg/dL以上,小児期からみられる黄色腫と動脈硬化性疾患,両親がFHヘテロ接合体である特徴を有する.

FHホモ接合体の黄色腫は手指関節,肘関節,膝関節など、機械的刺激を受ける部位に多発する.

FHヘテロ接合体の重症例と区別が困難な場合もあり,FHホモ接合体の確定診断には,遺伝子解析による診断が必要である.

鑑別

FHとの鑑別を要する疾患は,続発性脂質異常症をきたす疾患(糖尿病,甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,胆汁鬱滞性肝障害,薬剤性(ステロイド等)など),類似疾患である家族性複合型高脂血症(FCHL) である.
・FCHLは腿黄色腫を合併しないこと,small dense LDLの存在,家系内に他のタイプの脂質異常症(Ⅱa型,Ⅱb型,IV型) が存在すること,小児ではLDL-CがFHほど上昇しないことなどから鑑別しうる.

治療

FHヘテロ接合体

生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質低下療法を開始する

スタチン最大耐用量 ± エゼチミブ併用
・スタチン不耐性患者の場合,別のスタチンの処方や投与間隔を考慮し,できる限リ最大耐用量まで増量する

PCSK9阻害薬(専門医紹介) and/or レジン and/or プロブコール

LDLアフェレシス
・PCSK9阻害薬はアフェレシス時に除去されるため,アフェレシス後に皮下注射する

管理目標値

一次予防:100 mg/dL未満,あるいは未治療時の50%未満
二次予防:70 mg/dL未満

FHはきわめて冠動脈疾患のリスクが高い疾患であることから二次予防に相当すると考え,LDL-C の管理目標値は,100mg/dL未満とすることが望ましい.

・FHの診療においてLDL-Cが100mg/dL未満という管理目標を達成することは困難なケースが多いことから,LDL-Cが管理目標値に到達しない場合,治療前値の50%未満を目指すことも可とする.
・FHを対象として脂質低下療法を行わない臨床試験を行うことは倫理的に許されないため,これらの数値目標に対して明確なエビデンスがあるわけでなく,LDL-Cが目標値に到達していてもイベントが起こらないことを保証するものではない.
・FHの治療を行う上においてはリスクチャートによるリスク評価は適用できない.

生活習慣の改善

FHにおいても生活習慣の改善は実践すべきである.
・冠動脈疾患のリスクが高いため運動療法を始める前に冠動脈疾患のスクリーニングが必須である.
・労作性狭心症の有無の問診,運動負荷心電図,心エコー検査等を行って冠動脈疾患の評価を行い,その存在が疑われるときには運動療法の前に冠動脈疾患の治療を優先する.
・禁煙,肥満対策も重要.

薬物療法

FHヘテロ段合体患者においては生活習慣への介入だけでは十分な脂質菅理を得られない場合が多く,通常薬物療法を併用する.

薬物療法ではスタチンが第一選択薬.
 スタチンの初期用量で十分な効果が得られない場合,スタチンの最大耐用量までの増量
・FHヘテロ接合体患者329名を対象にわが国で行われた後ろ向き解析でも,スタチンの使用が冠動脈疾患の発症を遅延させることが示されている.

スタチンのみで十分な効果が得られない場合は,エゼチミブの併用を行う.
 それでも効果が不十分な場合には,PCSK9阻害薬,レジン,プロブコールなどを用いる.
・スタチン(およびエゼチミブ)ですでに治療を受けているFHヘテロ接合体患者にPCSK9阻害薬であるエボロクマブ(RUTHERFORD-2試験またはアリロクマブ(ODYSSEY FHⅠおよびFHⅡ試験)を併用することにより,比較的安全にさらなるLDL-C低下効果(約60%)やLp(a)低下効果を認めることが報告されている.
・プロブコールに関してはFHヘテロ接合体における冠動脈疾患の再発を遅らせることが,後ろ向きの検討から示唆されている.
・ただし,これらの併用療法が,スタチンによる単独治療に比べてFH患者の心血管イベントをより有効に抑制するかは未だ明らかでない.

二次予防患者や糖尿病合併例など主治医が高リスク症例と判断した場合には,速やかにLDL-Cを低下させることが望ましい.

LDLアフェレシス治療

FHヘテロ接合体においては冠動脈疾患の診断が確定しており,生活習慣の改善及び厳格な薬物療法によって総コレステロール値が250mg/dL以下に下がらない場合,LDLアフエレシス治療を考慮し専門医にコンサルトする.

アポB 含有リポ蛋白質以外に,炎症性サイトカインや接着分子など動脈硬化の原因となる物質除去能がある.

FHホモ接合体(専門医に紹介)

LDL 受容体活性がないためPCSK9阻害薬などのLDL 受容体発現の増加を目的とする薬物療法でLDL‒C 値を低下させることに限界がある.
→多くはLDLアフェレーシスやmicrosomal triglyceride transfer protein(MTP)阻害薬などLDL 受容体機能に依存しない治療を行う必要がある.

Hホモ接合体では,食事療法,運動療法,禁煙ならびに肥満対策等の生活習慣への介入は基本であるが,CAD発症・進展リスクが極めて高く,若年期より強力なLDL-C低下治療を必要とする.
→可及的速やかなLDL-C低下が重要で,積極的治療を行う.

スタチン,胆汁酸吸着レジンならびにPCSK9 阻害薬は,主要作用機序がLDL受容体発現増強であるため,LDL受容体活性がわずかに残存するdefective typeでは少し効果を認めるが,LDL受容体活性完全欠損のnegative typeではLDL-C低下を認めない.

管理目標値は,一次予防患者ではLDL-C 100 mg/dl未満,二次予防患者では70 mg/dl未満であるが,現実には到達困難である.

ホモ接合体では,著しく動脈硬化が進展するため,運動療法を指導・実施する前にはCAD及び弁膜症(特に大動脈弁狭窄,弁上狭窄),大動脈瘤の有無を評価する.

ホモ接合体の死亡率減少にスタチン等の薬剤投与が有効であったとの報告がある.

ホモ接合患者を対象として開発されたMTP阻害薬ロミタピドはLDL-Cを約50%低下させたが,脂肪肝や下痢の副作用が高頻度であるため,食事中脂質や飲酒を厳重に制限する.

プロブコールは,ホモ接合体にも一定のLDL-C低下効果があり,皮膚・アキレス腱等の黄色腫縮小や消失の報告がある.

LDL-Cの管理には,1~2 週間に1 回のLDLアフェレシス治療が必要な場合が多い.あらゆる治療に抵抗性または不耐性の場合は,肝移植も考慮する.

FHホモ接合体患者の妊娠は計画性が重要であり,妊娠前に動脈硬化症を評価する.
妊娠予定の3 カ月前には,胆汁酸吸着レジン以外の脂質低下薬の服薬は中止する.
妊娠後期,特に出産時に心血管系に大きなストレスがかかるため,LDLアフェレシスが望ましく,妊娠中も本治療は安全に行える.

FHホモ接合体は,厚労省の指定難病に認定されており,LDL代謝経路に関わる遺伝子の遺伝子解析あるいはLDL受容体活性測定にて確定診断が下される確実例に加え,ほぼ確実例として,著明な高コレステロール血症あるいは小児期からの皮膚黄色腫の存在や薬剤治療に抵抗する患者が対象となる.

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