Fabry病 Fabry disease

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

○細胞内のリソソーム加水分解酵素であるα-galactosidase活性の低下により,本来ライソゾーム内で分解されるべきglobotriaosylceramide (GL-3)などのスフィンゴ糖脂質が全身の細胞内リソソームに蓄積を来す先天性代謝異常症.

○皮膚,心血管系,腎などにPAS陽性物質,セラミドトリヘキソシド(ceramide trihexoside;CTH)が蓄積する.Galα1→4Galβ1→4Glcβ1→セラミド
○心筋肥大,心血管障害,腎障害に加え,疼痛,被角血管腫,角膜混濁などの多彩な症状が報告されている.
○遺伝はX染色体劣性遺伝であり,ヘテロ複合体の女性(ヘテロ型)では無症状な症例から,心不全に至るほどの重篤な症例まで,その臨床経過は多彩になることが近年になり,報告されはじめている.

疫学

○典型的Fabry病は稀な疾患とされており,欧米人男性で40,000人に1人,オーストラリアでは117,000人に1人と推定されているが,本邦における頻度は不明である.
・心Fabry病に関しては鹿児島県の左室肥大を有する男性患者230例中7例(3%)という比較的高い頻度で存在したことが報告された.
・最近,台湾で行われた新生児に対するスクリーニングでは新生男児1,250人~1,370人に1人の頻度でFabry病が検出され,その80%以上に心Fabry病で報告された遺伝子異常を認めることが明らかとなっている.
・慢性血液透析患者におけるスクリーニングでは,男性透析患者の0.2~1.2%がFabry病であったと報告されている.

病態

○α-galactosidase A遺伝子(GLA)の異常に起因したα-galactosidase A酵素活性の著明な低下により生じる.

○典型的Fabry病では基質であるglobotriaosylceramide,galabiosylceramideなどのスフィンゴ糖脂質が全身の細胞のライソゾームに進行性に蓄積し,皮膚/眼/神経/血管/腎臓/心臓などの多臓器障害を呈する.
・心Fabry病ではα-galactosidase A活性は低値ではあるものの僅かに残存しており,心臓の細胞にスフィンゴ糖脂質の蓄積を認め心障害を呈するが,他の臓器障害を欠く.

○α-galactosidase A遺伝子はX染色体の長腕Xq22.1の領域に存在し,その全長は約12,000塩基対で,7個のエクソンよりなる.
・Fabry病患者でこれまでに報告されたα-galactosidase A遺伝子異常は500種類を超え,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライシング変異,部分欠失,遺伝子挿入などが同定されている.
・最も多いのはミスセンス変異であり,半数以上を占める.

○α-galactosidase A遺伝子はX染色体に存在するため,Fabry病はX連鎖性遺伝をとる.
・男性では重症で,女性は病的X染色体の発現の程度により,無症状~重症まで幅広く病像が分布,また,保因者となる.
・父親が患者の場合,そのα-galactosidase A遺伝子異常は女児に引き継がれて保因者となるが,男児には引き継がれない.
・母親が保因者の場合,そのα-galactosidase A遺伝子異常は男児,女児ともに2分の1の確率で引き継がれ,遺伝子異常を引き継いだ男児は患者,女児は保因者となる.
・両親とも遺伝子変異を持たないde novo変異は日本人で約6.8%と報告されている.

○α‒galactosidaseの酵素活性は古典型ではほぼ0%であるが,男性の遅発型/亜型では5~10%となる.
・女性ヘテロ接合体症例では,障害染色体と正常染色体がモザイク状(Lyonization)になる.
・この割合の偏りで酵素活性が大きく変わるため,個体ごと,細胞ごとに酵素活性のばらつきが大きくなる.
・他のライソゾーム病と異なり,遺伝子異常により蓄積する物質が簡単に測定できない,女性でも発症する,遺伝子変異の種類が多い,個人により,組織により,酵素活性のばらつきが大きいなどの特徴を有している.

臨床症候

○古典例は,典型的なFabry病男性例で,発症年齢も若く,ほとんどの症状は20歳までに四肢疼痛,角膜混濁,腎症などが揃い,未治療の場合には,その後の進行も急激で30歳代に末期腎不全に陥り,平均死亡年齢は41歳である.

○先天性疾患であるが,症状出現の平均年齢は男性11歳,女性12.7歳,平均診断年齢は男性20歳,女性40歳と遅れる.

末梢神経障害・自律神経障害

 神経細胞への蓄積で発症する.
・男性69%,女性50%に症状が持続
・幼少期から出現し,成人に至ると軽減してくることが多い.
・四肢末梢の感覚異常および「灼熱感」「突き刺すような」と表現される疼痛発作が出現.
・発作性or持続性,数分から数時間
・運動,体温変化またはストレスが疼痛発作を誘発
・通常の鎮痛薬(NSAIDsなど)は効かない痛みである.
・抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトインなど)が有効であり,一般に使用されている.
・オピオイドが使用されることもある.

心血管障害

心筋細胞・弁膜・刺激伝導系への蓄積
・男性60%,女性65%に心症状が発現
・左室肥大(主に求心性),肥大型心筋症
・左室機能不全
 当初は肥大による拡張能障害が主で,肥大型心筋症様の病態を示す.
 病期の進行とともに収縮能障害も出現し,拡張相肥大型心筋症様の病態を呈するようになり,心不全を発症する.
・心電図
 左室側高電位,異常Q波,ST-T異常などを認める.洞機能不全,房室ブロック,心室内伝導障害などの刺激伝導障害や,心房細動,上室性期外収縮,心室性期外収縮などの多彩な不整脈も出現する.
・僧帽弁の肥厚と歪曲→血液の逆流
・狭心症/胸痛
・動悸/伝導異常

皮膚症状

 Fabry病の初期徴候として皮膚症状(末梢血管拡張症および被角血管腫)が多く発現(男性78%,女性50%).

○被角血管腫(びまん性体幹被角血管腫)  angiokeratoma
・主に体幹および鼠径部に分布
・単体,または広範囲にわたり多数発生
・左右対称,踵部/臀部/外陰部
・栗粒~半米粒大,紅色~紫黒色

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○発汗低下(低汗症,無汗症)
・皮膚乾燥
・夏でも汗をかきにくい→うつ熱発作,立ちくらみ
・原因は「自律神経障害」,「電顕所見よりエクリン汗腺分泌部の障害」の2説が考えられている.

腎障害

○男性57%,女性37%に症状が発現
○多尿,蛋白尿,血尿がみられる.尿毒症を来し死因となることがある.
・10歳代で尿細管間質障害による尿濃縮力の低下(多飲・多尿)が出現するといわれる.
・20歳前後で尿蛋白が陽性となる.
・ネフローゼ症候群になるのは稀.
・53歳以前に50%が末期腎不全に至るとされる.
○特に腎糸球体および尿細管にCTHが蓄積する.
○糸球体損傷によりメサンギウム領域が拡大.最終的に糸球体硬化症に至る.

眼症状

・男性73%,女性77%の患者に発現.
・視力障害などの自覚症状は通常認めない.
・眼科医が細隙灯顕微鏡(slit-lamp)検査にて確認.
・最も特異的な症状例:角膜混濁(渦巻状),網膜血管異常(血管蛇行),水晶体混濁(前嚢または後嚢下白内障)

10477:渦巻き状角膜症(verticilliata)とは : 江東区南砂町 清澤眼科医院|白内障・緑内障・眼瞼けいれん
東京都江東区の清澤眼科医院です。眼科・コンタクトレンズ・小児眼科・神経眼科(眼瞼けいれん)をお探しの方はお気軽にご来院下さい。

脳血管障害

・男性の12%,女性の27%に脳梗塞,または一過性脳虚血TIAが発現
・早期発症(平均発症年齢:男性33.5歳,女性41.4歳)→若年性脳梗塞
・非特異的白質病変
・椎骨/脳底動脈の拡張,蛇行
・脳血流の過灌流や血流速度の増加

消化器症状

 腹痛,嘔吐,便秘,下痢

精神症状

 精神症状、自律神経障害

尿検査

■マルベリー小体(桑の実小体)
・渦巻き状構造の脂肪球.
・弱拡大の視野で,小さな脂肪球を見逃さないことが重要.

Figure 1 from A Renal Variant of Fabry Disease Diagnosed by the Presence of Urinary Mulberry Cells | Semantic Scholar
Figure 1. (A) Mulberry cells in the urine sediment. The appearance resembles a mulberry. Magnification is ×400 and scale bar represents 10 μm. (B) A mulberry bo...

腎病理

Renal Pathology in Fabry Disease
Fabry disease is an X-linked recessive lysosomal storage disease that is caused by deficient activity of the lysosomal enzyme α-galactosidase A (α-Gal A), an en...

■光学顕微鏡
 糸球体上皮細胞の細胞質に微細空胞がみえ,淡明に見える.糸球体上皮細胞は代謝活動が低く再生がないため,顕著にみられる.
(蓄積物質は腎生検標本作製過程で固定液などに溶出してしまうため)

■電子顕微鏡
 オスミウムに好染する同心円層状沈着物(myeloid body),あるいは縞状の沈着物(zebra body)
(電子顕微鏡標本作成用のグルタールアルデヒド固定液では溶出せず,保持される)

診断

https://www.shouman.jp/disease/instructions/08_06_091/

 診断基準を満たし,認定を受けると医療費の公費助成を受けることができる.
 女性の場合は症状,家族歴から診断することも多く,これだけでも医療費の認定基準に合致する.

■臨床症状:上記参照

■鑑別診断
・問診(特に家族歴)

■酵素診断
・血液(血清/血漿/白血球)中の酵素活性(α-Gal活性)を測定
→男性では保険適応.女性の場合は正常の場合があるため,診断が難しい.
→活性値の低下があれば診断が確定する.

■生化学的診断
・血液/尿中のCTH測定

■病理診断
・皮膚/腎臓/心臓などの組織のCTHを確認

■遺伝子診断
・異常があれば,診断確定.ただし,必須ではない.

治療

酵素補充療法 enzyme replace therapy;EVT

agalsidase alfa リプレガル®
agalsidase beta ファブラザイム®

臨床症状の改善効果(疼痛および臓器障害の進行抑制)が証明されており,適切な時期(早期)に診断をつけて,開始することが重要

 近年,本症に対する根本的治療法のひとつとして,遺伝子組換え技術を用いて作製されたヒトα-galactosidase A酵素蛋白を2週間に1回点滴で投与する酵素補充療法が開発され,欧州では2001年から,米国では2003年から,本邦では2004年から一般臨床での使用が可能となっている.
 この酵素補充療法の効果に関しては,各臓器に不可逆的な変化が生じる以前の早期に治療を開始することにより,臓器障害や症状の改善,臓器障害や症状の増悪の抑制が可能であることがこれまでに報告されている.
 自覚症状の改善には即効性がなく,数ヶ月を要することが多い.
 最も多い副反応はアレルギー症状であるが,女性には少ない.アレルギー反応への対処法としては投与速度を遅くする,ステロイドや抗ヒスタミン薬の前投与などが挙げられる.
 末期腎不全患者で酵素補充療法が禁忌ということはなく,むしろ他の臓器の病変進行予防のためにも行うべき.
 透析性はないため,透析中の投与も可能.

 この酵素補充療法の他に,シャペロン療法や遺伝子治療の研究も行われており,今後の臨床応用が期待される.

対症療法

 幼少時より出現する四肢末端痛に対してはジフェニルヒダントイン(フェニトイン)およびカルバマゼピンが投与される.

 腎障害に対しては他の腎疾患と同様に,蛋白制限食,アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬などの投与がなされる.末期腎不全に至った症例に対しては血液透析や腹膜透析,腎臓移植を行う.

 脳血管障害に対しては,他の血管障害と同様に抗血小板薬の投与がなされる.

 心障害に対しては,肥大型心筋症類似の血行動態を呈する時期には肥大型心筋症の治療に準じてβ遮断薬/Ca拮抗薬などが用いられる.
 拡張相肥大型心筋症様の病態に移行し心不全を発症した症例に対してはアンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬/β遮断薬/利尿薬など既存の心不全薬物治療が行われる.
 徐脈性不整脈には恒久ペースメーカーの植え込みがなされ,致死性不整脈に対してはアミオダロンなどの投与や植え込み型除細動器が用いられている.

予後

 臨床経過および予後は,臨床病型と性により異なる.
 Fabry病の女性患者では,男性患者と比べ病状は軽いことが多く,進行も比較的遅いことが多い.

 典型的Fabry病男性患者では,幼少時より四肢末端痛,被角血管腫,低汗症,無汗症,角膜混濁などの症状を認め,その後,加齢に伴い多発性小梗塞などの脳血管障害,腎不全,心不全を発症し,40~50歳代で死に至る.

 一方,心Fabry病男性患者は,病初期は無症状で,中高年以降に左心不全症状,右心不全症状,徐脈性または頻脈性不整脈による症状などが出現し,60~70歳代で心臓死(心不全死/不整脈死)に至る.

 酵素補充療法を行っている血液透析施行例と腎移植例の4年間の横断的調査で,腎移植例のほうが心病変の進行が遅かったという報告がある.

 移植後の予後について,Shahらは年齢をマッチさせた他疾患を原疾患とする患者と比較して,Fabry病患者への腎移植の移植腎生着率は同等であることを報告している(Transplantation 2009;87:280‒285)
→ドナー候補がいる場合,腎移植は積極的に試みるべき.
家族をドナーとする場合,腎機能が正常であってもヘテロ接合の女性は避ける.

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