てんかん(高齢者)

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なすび医学ノート

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高齢者はてんかんの好発年齢であり,老年人口の急激な増加に伴い,高齢初発てんかん患者が増加している.

高齢初発てんかんは痙攣を来たさない意識減損発作の複雑部分発作も多く,てんかんの診断が容易でない場合があり,他疾患との鑑別診断が重要.

高齢者では,てんかん発作が患者に与える身体的・精神的影響が大きい.

適切に診断・治療を行えば,抗てんかん薬による発作抑制が可能であることが多く,患者のQOL (quality of life)向上に寄与する.

疫学

65 歳以上でのてんかん有病率は一般人口の1%を超えると推定され,約35万人と推定される.

高齢者でてんかんが初発するときに約30%でてんかん重積状態を来たすとされている.
・てんかん発作重積状態は重篤な病態であり,死亡率が20~40%とされている.

原因

脳血管障害が多く,脳外傷,脳炎ならびに認知症など多岐にわたる.

頭部MRIで病変のない非病変性(non-lesional epilepsy)も多く,約半数を占める.
・Alzheimer型認知症は高齢者の神経変性疾患として最多であり,てんかんを合併するリスクは同年齢者の2~6倍との報告がある.

病態

高齢初発てんかんは症候性部分てんかんが多く,部分発作(焦点発作)が最も多く,ミオクロニー発作や一次性の強直間代発作も稀にみられる.
・高齢初発てんかん発作の約半数が痙攣のない複雑部分発作,約4 割が全身痙攣発作(二次性全般化発作),ミオクロニー発作等の全般発作は1 割以下の頻度.

部分発作(焦点発作)

意識保持発作(単純部分発作),意識減損発作(複雑部分発作),焦点起始両側性強直間代発作(二次性全般化発作)への進展がある.

意識減損発作(複雑部分発作)
・側頭葉焦点が最も多く,1~3分間の意識減損および自動症を特徴とする.
・約半数には前兆(単純部分発作,アウラ)がみられる.
・前兆の代表的な症状は,上腹部不快感epigastric aura,既視感déjà vuなど.恐怖感ictal fearも稀ではない.
・発作中は意識減損を来たし,呼びかけに反応がなくなり,発作中にあったことを覚えていない.
・周りの物を意味もなく触る,口をクチャクチャとさせるといった,口部および手の自動症が特徴的.
・動作停止,流涎がみられることもある.

本人は発作時に意識減損を来たしているので,発作の病歴は目撃者から聴取することが肝要.

非痙攣性てんかん重積状態 non-convulsive status epilepticus

主に複雑部分発作重積状態と欠神発作重積状態がある.

意識障害の程度は,軽度から昏睡まで様々.
・全身痙攣発作後に意識障害が遷延する場合や高齢者で原因がよく分からない意識障害の場合は,鑑別に挙げる.

意識障害以外の特徴的な臨床徴候がないため,脳波を検査しないと診断は非常に困難.
・脳波は,複雑部分発作重積状態では持続性のてんかん発作パターンを示す.

頭部画像検査では,てんかん重積状態の神経組織の持続性過剰放電の結果として,MRI拡散強調画像での高信号病変,かん流画像での高かん流などがみられることがある.

Alzheimer型認知症とてんかん

Alzheimer型認知症に合併するてんかん発作型は,焦点意識減損発作が代表的であるが,強直間代発作,ミオクロニー発作もみられる.

Alzheimer型認知症にてんかんを合併する頻度は1.3~6.1%.
・一般高齢者に比べててんかん発症リスクは増加している.

Alzheimer型認知症の発病前,軽度認知障害の時期,病初期に側頭葉てんかんを発症しやすい.

一過性てんかん性健忘 transient epileptic amnesia;TEA

てんかん発作の1つのタイプと位置付けられている稀な病態.

通常発作持続時間は10分~1時間以内で,発作中には意識が保たれ,会話も可能だが,発作中は記憶機能が低下し,普段であれば思い出せることも思い出せず,発作中にあったことも覚えていない.
→記憶機能のみが障害される.

1)目撃者によって確認された反復して生じる一過性健忘エピソードがある.
2)発作時のエピソード中に記憶以外の認知機能は損なわれていなかったを確認できる.
3)てんかんと診断が確定できる.
ことが診断に重要.

症候

初発発作

初発の明らかな誘因のない発作first unprovoked seizureを来たした場合,その時点でてんかんと診断する場合とできない場合がある.
・ 2014 年の国際抗てんかん連盟によるてんかんの実用的臨床定義によれば,2 回以上の再発性発作に加え,初発発作(1 回のみの発作)時に再発リスクが高いと判断できる場合はてんかんの診断になる.

高齢者では一度発作を生じた場合,若年者よりも再発のリスクが高いとされている.
・特に脳梗塞などの既往がある場合は再発発作のリスクが高い.

高齢初発発作の複雑部分発作は半数以上でけいれんを来たさない.

脳血管障害や脳炎などの急性期に,てんかん発作を来たすものは急性症候性発作acute symptomatic seizure(急性反応性発作)と呼ばれる.
・脳血管障害が最も多い原因であるが,脳炎,代謝異常,電解質異常,重症感染症なども重要な病因である.
・向精神薬,抗うつ薬,テオフィリン,抗生物質なども原因として挙げられる.

記憶障害(側頭葉てんかん)

てんかんの罹病期間が長い,発作回数が多い,頭部MRIで海馬萎縮を伴うなどの患者では記憶障害を来たしやすい.

加速的長期健忘 accelerated long-term forgetting

加速された長期健忘,忘却促進といった現象を認められることがある.

発作間欠期にみられる症状で,新たに記憶したことを急速に短期間で忘れてしまう前行性健忘の1つ.

遠隔記憶障害(自叙伝的障害)

3年前に自分の子どもの結婚式に出席した記憶がない,2年前に夫婦で旅行したことを全く思い出せないといったエピソード記憶の障害.

抗てんかん薬治療で記憶障害が改善することがあり,てんかんによる過剰放電がこの記憶障害に関連している可能性がある.

脳波

てんかんの診断に重要.

臨床的に発作があり,脳波でてんかん性放電(棘波,鋭波)が確認されれば,てんかんの診断はほとんど確実.
・高齢者てんかんにおいて,脳波でのてんかん性放電捕捉の感度は約80%.

焦点てんかんでは,外来脳波においても睡眠時まで脳波を記録すること(睡眠賦活)により,発作間欠期てんかん性放電の捕捉率が上がる.

CT,MRI

脳出血などの緊急処置が必要な場合はCT検査を行うが,通常はMRI検査を行うべき.

てんかんの原因診断としては,MRIは最も有力な検査法.
・加齢によってしばしば認められる脳萎縮,ラクナ梗塞,白質信号変化などとてんかん発作は必ずしも直接関連がない.

診断

痙攣発作後に意識障害が遷延する場合と高齢者で原因がよくわからない意識障害の患者の場合,鑑別診断に非痙攣性てんかん重積状態を思い浮かべることが必要.

鑑別診断

神経疾患
・一過性脳虚血発作(TIA)
・一過性全健忘(TGA)
・片頭痛
・ミオクローヌス

循環器疾患
・神経調節性失神
・起立性低血圧
・不整脈(Adams-Stokes症候群)
・弁膜症,心筋症
・頸動脈洞症候群

代謝・内分泌疾患
・低血糖
・低ナトリウム血症
・低カリウム血症
・高カルシウム血症

睡眠異常症
・睡眠時無呼吸症候群
・REM睡眠行動異常症
・入眠時ミオクローヌス

精神・心理的疾患
・非てんかん性心因発作
・パニック発作
・過呼吸発作

治療

抗てんかん薬治療は長期(年単位)にわたる.
・発作寛解率は高齢者では約90%と高い(通常は70~80%).

再発のリスクがあり,患者(介護者)が理解した場合に内服治療を開始する.
・わかりやすく説明することが重要.
・誤解や偏見をもっている高齢者もいるので,正しい知識の教育も必要.

少量投与から始めて漸増するのが基本.
・普通は標準的な投与量の半分ないし3分の1 程度から開始する.

忍容性tolerability(副作用の少なさ)が重要.
・高齢者てんかんではどの薬剤でも発作抑制効果が十分あるので,治療薬選択においてはその患者の個別条件を考えて副作用が少ない薬剤を選択の際に考慮する.

ガバペンチン,ラモトリギン,レベチラセタムは忍容性で有利な薬剤であり,現時点ではファーストライン薬とされている.

・ガバペンチンはカルバマゼピンと比較してやや発作抑制効果は劣るが,他の薬剤との
相互作用が全くなく,副作用の心配が非常に少ない点でてんかん原性のむしろ低いてんかんの治療に有用である.
・ラモトリギンも忍容性が高い薬剤で,高齢者てんかんの治療に適していると考えられている.1 日25 mgから開始し(併用薬にバルプロ酸がない場合),規定にそって漸増.
・レベチラセタムも他剤との相互作用がなく,過敏症(薬疹など)も少ない.1 日量250~500 mgで開始し,効果と副作用をみながら1~2 週ごとに増量するか検討する.
 
焦点発作の第一選択薬として,従来はカルバマゼピンやフェニトインが用いられてきたが,これらの薬剤は高齢者てんかん治療では酵素誘導の面から不利であるとされている.
・カルバマゼピンなどによる肝酵素誘導により,併用する多剤の濃度が低下してしまうことがある.
・フェニトインは骨粗鬆症の原因薬の1つであり,ビタミンD代謝に影響する機序が考えられている.

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