被嚢性腹膜硬化症 Encapsulating peritoneal sclerosis;EPS

スポンサーリンク
なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

PD療法の継続に伴って,腹膜が劣化し,その劣化した腸管腹膜(臓側腹膜)が癒着するとともに,フィブリンを主体とした炎症性被膜により覆われ,その被膜が強固になることにより腸管蠕動が著しく妨げられ,持続的・間欠的あるいは反復性に腸閉塞症状を呈する症候群.

生命に関わるPDの最も重篤な合併症.

早期診断,治療法もほぼ確立されてきているので救命できる症例数も増加している.

疫学

発症頻度は2.5%(3.18/1000患者)であり,PD歴に従って発症は増加,特に8年以上で有意に発症率が増加し,予後も不良.
・CAPD継続5年以上では,8%程度まで上昇する.

死亡率は37.5%と高く、PD期間が長い症例ほど予後が不良であることが示された.

原因

腹膜透析特有の合併症ではなく、他因子の関与も疑われている.
→突発性,手術,β-blocker,SLE,肝硬変による特発性細菌性腹膜炎,腹腔静脈シャントカテーテル,卵胞出血,サルコイドーシス,アスベスト暴露,大網脂肪織炎治癒後,結核,先天異常,腹水

腹膜透析に関連する因子として、以下のものがあるが、あくまで推測.
→腹膜透析継続期間,腹膜炎,酢酸含有透析液,クロルヘキシジン,可塑剤,ブドウ糖/高張透析液

長期間PD排液に暴露
→腹膜中皮細胞が剥離・消失し,線維化が進行し腹膜肥厚
→腹膜毛細血管の新生に伴って,腹膜透過性が亢進→フィブリンなどの大分子物質の透過性も亢進
→肥厚線維化した腸管腹膜(臓側腹膜)の表面にフィブリンの被膜が形成される.

EPSは酸性液,高AGE液の影響が大きいことから,現在では,中性液,低AGE液が使用されてきている.
・防止できる期待もあるが,詳細な結果は数年後になる.
・中性液も完璧ではない.腹膜硬化の報告がある.

PD施行中であれば,析出したフィブリンが透析液とともに洗い流されるため,被膜形成は軽度となるが,PD中止後になるとフィブリンが腹腔内に溜まって被膜形成が加速する.
→EPSの70%はPD離脱後に発症する.

腹膜炎を合併すると,さらに透過性が亢進して大量のフィブリンが析出し,急速に被膜が形成されたEPSが発症すると考えられている.

血清β2MG高値が危険因子として示されている.

透析不足に伴った尿毒症状態の関与が示唆されている.

2-hit理論

first hit

非生理的透析液への曝露などにより起こる腹膜損傷
→長期的なrisk factor

second hit

腹膜炎などの炎症性刺激
→比較的短期的なrisk factor

病態

腸管機能障害

被嚢化の過程で腸管機能の障害が起こる.
・主に腸管運動の障害とその結果として起こってくる吸収機能の障害として現れる.
・被嚢化は運動の減少or欠如という結果をもたらし,臨床的に機能性イレウスとして出現する.

被膜と変性腹膜の間にびまん性で石灰沈着が起こり,腸閉塞症状が出現する.

腹膜機能障害

UFFの存在や小分子量物質のクリアランスの低下,水分除去能の進行性の低下などはEPSの明確な徴候であるといくつかの文献ではされている.
・これらが存在しないことがEPSを否定するものではない.

反復性あるいは難治性腹膜炎のサインとしても現れる.
・難治性腹膜炎or培養陰性の無痛性腹膜炎の徴候があれば,疑われる.
・カテーテル抜去でEPSと診断されることが多い.

反復性の感染はEPSに進行する腹膜障害の進展を助長すると考えられている.

反復性もしくは持続性の微熱、血性排液が観察される.

症候

症状

症状は単一ではなく,重複して起こり,局在性がなく,しばしば不定なものであり,慢性的に徐々に進行する.
持続的ないし間欠的に出現.

腹膜の被包化に伴う腸管運動の障害により,嘔気・嘔吐・腹痛などのイレウス症状は必発.

参考症状として,低栄養,るいそう,下痢,便秘,微熱,血性排液,限局またはびまん性の腹水貯留,腸管蠕動音低下,腹部に索状物を触知.

血液検査

CRP弱陽性,末梢白血球数増加.

低栄養のために低Alb血症,エリスロポエチン抵抗性貧血などもみられる.

進行例では腸管内細菌増殖によるエンドトキシン血症を認める.

炎症マーカー:CA125,IL-6,FDP

腹膜機能

除水不良(1日除水量500 mL以下)

大部分の症例で高透過性の腹膜(腹膜平衡試験;PETで透析液/血清クレアチニン比>0.82)を呈する.

X線検査

ニボー像の出現,腸管ガス像の移動性の消失,拡張した小腸ループ像,気腹の程度,腹膜石灰化

消化管造影

腸管の拡張・狭窄,部分的に高度に拡張した腸管ループ,通過時間の遅延,腸管運動亢進に伴った様々な程度の腸管閉塞像.

超音波検査

肥厚した腹膜に覆われた限局性の腹水,,一塊となった高度に拡張した腸管の後腹壁への癒着,腹腔内のエコーの帯,網状の析出,サンドイッチ様の腹膜エコー像.

CT検査

腸管部の径の変化,拡張した腸管ループの癒着,気腹の程度,部分的に溜まった腹水,腸管壁の肥厚と腹膜の肥厚,腸管膜脂肪層の肥大,局所的な液体貯留,腹膜の石灰化像

肉眼的所見(手術,腹腔鏡,剖検など)

白濁肥厚した腹膜で覆われた,広範に癒着した塊状となった腸管を認める.

病理診断

腹膜中の間質肥厚を伴う中皮細胞層の完全な喪失があるほか,炎症細胞が様々な状態で存在.

診断

症状が出現すれば,診断できる.症状がなければ,診断は難しい.

EPSが臨床的に診断されたら,画像診断で確認する.

病理組織学的に診断されるが,腹膜透析治療中の患者での腹膜生検は不可能であり,臨床的検討により診断する.

診断において重要なことは発症早期に診断し、治療を開始すること。
→腹膜透析患者あるいは離脱患者が消化器症状で来院した際は臨床症状・徴候を過小評価せず、EPSを疑う.

治療

まずは感染症の否定を行い,完全に否定されれば絶食・TPN(total parenteral nutrition)と同時に大量からの中等量のステロイド療法を行う.

腹膜カテーテルの抜去前なら引き続き血液透析毎に腹膜洗浄を行うようにする.
→継続によりEPSの進展を防ぐことができ,場合によっては消化管通過障害も改善.
→腹膜の炎症性変化が止まり,休止期に入るまで続けることが必要(年余にわたることも少ないない).

腹水が取れ,CRPも正常値に至り,消化管の通過障害が残る場合は,開腹・癒着剥離を行う.
・炎症が治まりきっていないと剥離後再び被嚢化することがあり,再手術が必要.

保存的治療

EPSが疑われたり、診断されたら即座にPD中止.
→血液透析などの他の治療法に移行させる.
→腹膜洗浄を開始し,CRP値が正常化するまで継続.

消化管の運動障害が存在するときは経鼻胃管を挿入して消化管内減圧を行い,絶食にして完全静脈栄養で十分な栄養補給をする.
→home TPN

薬物療法

有効性については確立されたものはない.

ステロイドの使用に際しては,感染・消化管出血などの合併症に十分注意することが必要.

Tamoxifen

ノルバデックス®

Fibrosis/sclerosisに効く.腹膜線維化の予防.

ステロイド

inflammationに効く.20~40mg/day

1ヵ月 0.5-1.0mg/kg/day
2~3ヵ月 0.25-0.5/kg/day
以後,6ヶ月ごとに10mg減量

腹腔洗浄

・長期PD歴(8年以上)
・腹膜透過性の亢進

リスクがある人にする.

必ずbiomarker(中皮細胞数)を測定する!
・中皮細胞数<320個になるまで洗浄する.

外科的治療

ステロイド薬など内科的治療により改善が得られず,再燃するような症例では開腹癒着剥離術が考慮される.
・以前には開腹術に対しては否定的な報告が多かったが,最近では全腸管の癒着剥離術により寛解例も多く報告されている.
・腹腔内に膿瘍が残存しているような症例に対し,広範囲な癒着剥離術を行うことは腸管損傷の危険があり,躊躇される.
・腹膜石灰化が存在する例での剥離や腹腔内腸管吻合は術後縫合不全などによる合併症をきたしやすく,十分な注意が必要.

予防

腹膜機能検査

PETによる腹膜機能検査を治療歴2年以上の全PD患者に行い,クレアチニンのD/P比が増加するか,または反復性重症腹膜炎が起きるようなら注意する.

PETで高透過性(High)の状態に至っているようなら、離脱を考慮する.

長期PDの条件

PD歴8年以上の患者にPDを継続する場合,以下の点を満足する場合に限る.

・安定したクレアチニンD/P比を示し,Low、Low averageまたはHigh averageを示す.
・高浸透圧PD液を頻繁に用いる必要がない.
・全身状態が良好で食欲もあり,体重が安定し,水分過剰もない.
・血清CRPの持続的高値を認めない.
・患者がEPSの危険性があることを了解している.
・反復性腹膜炎がない.

PD8年以上になると,EPSのリスクが上がる.

タイトルとURLをコピーしました