糖尿病多発神経障害 diabetic polyneuropathy;DPN(糖尿病神経障害)

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なすび医学ノート

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(定型的)糖尿病多発神経障害 diabetic polyneuropathy;DPN

感覚・運動神経障害:小径線維神経障害 small fiber neuropathy;SFN

高血糖の慢性的な持続に伴い,左右対称性に神経軸索の最も長い両下枝末端から(length-dependent)症状が出現する遠位対称性感覚・運動ニューロパチーを指す.

神経の種類

・加齢は大径有髄神経から障害される.
・糖尿病は小径神経から障害される.

A線維(有髄):太いほうからα,β,γ,δ
Aα:筋紡錘からの感覚神経,脊髄α運動細胞からの遠心性運動線維
Aβ:触覚 “ジンジン” “ビリビリ” numbness,振動覚,位置覚などを司る体性感覚線維
Aγ:脊髄γ運動細胞からの遠心性運動線維
Aδ:痛覚 “チクチクピリピリ” “痛み” tingling/pricking,温度覚を伝達する感覚線維

C線維(無髄)
C:遅い痛みを伝達する感覚線維.一番細い.

病態

代謝異常を主体とした場合,神経の末端から線維が変性脱落する末端性軸索変性(dying-back変性)のパターンをとる.
・末梢神経病理では小径神経線維優位の有髄神経線維密度の減少と,神経内血管基底膜肥厚が特徴的である.
・病理組織学的に小径神経線維障害(small fiber neuropathy:SFN)が前景に立つため,感覚・自律神経障害が先行し,大径神経線維からなる運動神経の障害は遅れて出現する.

血管障害の場合,近位,中位などでの虚血,梗塞所見が散在し変性の分布は巣状だが,末梢になるにつれ,びまん性の神経線維脱落となる.
→長い線維の過程で局所的に圧迫,物理的障害により脱髄や虚血の影響を受け,神経障害が複雑に進展する.

①末梢での侵害受容神経であるC,Aδ線維刺激による局所性疼痛
②脊髄後角での痛覚感知ニューロンでのGABAやNMDA受容体による神経興奮
③脊髄痛覚抑制性線維の障害
→神経障害性疼痛としては②,③のパターンが主

症候

無症状で神経所見にも異常を認めない無症候期,神経所見の異常が出現しているが症状が目立たない無症状期を経て,神経脱落の進行とともに神経症状が悪化する.

下肢末端に自発痛/しびれ感/錯感覚/感覚鈍麻などの感覚異常が出現し,症状が上行するとともに,上肢末端にも症状が現れる.
→しばしば患者のQOLは著明に低下させられる.

Aδ,C線維などsmall fiberが障害され,アロディニアや痛覚過敏など様々な知覚異常を伴うことが特徴.
・難治例では種々の程度で心理的要因が含まれ,病的疼痛の側面はさらに深刻となる.
・一般的な消炎鎮痛薬は多くの症例において無効である.

運動神経は予備能が大きいため進行期まで自覚されないが,病期が進むと注意深い観察により足内在筋の萎縮や足の変形が認められる.
・まず短趾伸筋萎縮がみられ,症状が進むと足趾背屈力が低下し,さらには足関節の背屈力が低下し,かかと立ちが不可能になる.
・短趾伸筋萎縮→長趾伸筋萎縮→前脛骨筋筋力低下.

診断

簡易診断基準は,ベッドサイドで比較的容易に実施可能で,感度68%,特異度74%と優れている.
*定量的に評価できず,重症度評価にならない.

SFNがDPNの早期,ひいては耐糖能異常(impaired fasting glucose:IGT)の時期からみられることに着目し,皮膚生検による表皮内神経密度(intraepidermal nerve fiber density:IENFD),角膜共焦点顕微鏡を用いた角膜神経密度(corneal nerve fiber density:CNFD)の観察がDPNの早期診断や重症度評価に応用されている.

神経伝導検査

電気生理学的検査である筋電図・誘発電位装置を用いており,最も優れた評価法であるが,時間がかかり,熟練した検査技師が必要.

DPNチェック フクダ電子
比較的容易に腓腹神経の感覚神経活動電位(SNAP)と神経伝導速度が評価できる.

治療

①PDNの碓診を行う(併存以外は他の原因による神経障害を除外する)

②禁酒と血糖コントロールは必ず行い,血流障害を合併している場合は末梢動脈疾患の治療も行う(脂質や血圧コントロール,禁煙も必要であるが,短期間での効果は期待できない).

③可能であれば,負担にならない程度の歩行,温浴などの理学的療法も試みる.

対症療法(薬物療法)

年齢,性別,体格,腎機能などを考慮して用量を決定する.

1)うつもなく,睡眠障害が強くない場合はプレガパリンを第一選択とし,眠前低用量から開始し,ふらつきなどの副作用のないことを確かめながら漸増する.
・300mgで効果不十分ならデュロキセチンを併用する.

2)睡眠障害が強い場合はデュロキセチンを第一選択とし,眠前20mgから開始し,副作用がないことを確認して40mgに増量,症状改善なければプレガバリンを眠前25mgから開始し漸増する.

3)疼痛が強く,睡眠障害もある場合は,プレガパリンとデュロキセチンを最初から眠前に併用するが,両者とも低用量から漸増する.

4)明らかにうつ傾向と不眠が疑われる場合はデュロキセチンに三環系抗うつ薬の併用を行い,疼痛も強ければプレガバリンも併用していくが,うつが強い症例は心療内科と併診のうえ,治療を進めていく.

5)以上の治療で疼痛に対する効果はあるもののいまだ効果不十分の場合について,日中はよいが夜間の疼痛がいまだ改善しないときはプレガバリンとデュロキセチンに三環系抗うつ薬を眠前に追加,増量していき,それでも効果不十分ならカルバマゼピンやクロナゼパムを眠前に併用,増量する.プレガバリンとデュロキセチンで夜間疼痛は改善したが日中に痛みが残る場合は,朝にもプレガバリンを追加,メキシレチンなら150mg/日を追加,300mg/日まで増量してみる.

6)上記加療によりどうしても疼痛が改善しないときは麻薬系鎮痛薬の使用,専門のぺインクリニックへ紹介する.

7)他剤の併用あるいは増量により効果が得られない場合は併用中止,元の用量に戻すなどの措置をとり,他の手段をとるべき.

上記1)~5)で効果が得られ,数ヵ月間安定すれば(そのころには血糖コントロールも改善しており),あくまで対症療法なので,1種類ずつゆっくりと用量を漸減・中止していき,最終的には1剤も漸減・中止の方向へもっていく.
漫然たる継続処方は慎む.

Ca2+チャネルα2-δリガンド

pregabalin;PGB

リリカ®

・一次ニューロン終末へのCa2+流入抑制作用を介して神経伝達物質の放出を低下させ,シナプス後ニューロンによる痛みの上行性伝導を抑制する.GABA抑制系の活性化.
・従来型抗痙攣薬に比べ,血中濃度モニタリングの煩雑さがなく,重篤な副作用が少ないが,腎障害患者や高齢者では投与量の調整が必要である.
・主な副作用は浮動性めまい,ふらつき,眠気,浮腫,体重増加など.用量依存的に疼痛改善効果が期待できるが,副作用も用量依存的に増加する.
・一過性の電撃痛に対してや,他の薬剤が奏功しない場合にはカルバマゼピンの投与を試みる価値がある.
・標準的用法は75 mg を1 日1 回夕または就寝前で開始し150~300 mg を維持量(最高600 mg)とするが,転倒リスクが高い高齢者では25 mg から開始してもよい.

腎機能障害時
Ccr<30:初期25~50mg分1,維持75~150mg分1
Ccr<15:初期25mg分1,維持25~75mg分1
透析:初期25mg分1,維持25~75mg分1(透析日は透析後)

ミロガバリンベシル酸塩

タリージェⓇ

通常、成人には、ミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し、1回15mgを1日2回経口投与する。なお、年齢、症状により1回10mgから15mgの範囲で適宜増減し、1日2回投与する。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 serotonin noradrenaline reuptake inhibitor;SNRI

duloxetine;DLX

サインバルタ®

・下行性抑制系を賦活して疼痛改善効果を発現する.
・欧米ではPDN治療の第一選択薬とされ,最近我が国においてもPDNに対する保険適応が認められた.
・心因のオーバーラップの強い慢性例や重症例,高齢者において,抗コリン作用の強い三環系抗うつ薬に替わる存在として期待されている.
・主な副作用は傾眠と悪心であるが,多くは一過性であり,投与開始時に制吐薬を併用するのも良い.1 日1 回20 mg で開始し,1~2 週間後に至適投与量の40 mg とするが,20mg で有効な症例も少なくない.一方,40 mg で効果不十分でも60 mg への増量で痛みが軽減する症例もみられる.
・高度の肝機能障害や腎機能障害患者には禁忌であるが,第一選択薬中では比較的忍容性が高い.なお,中止の際は離脱症状回避のため漸減が望ましい.

三環系抗うつ薬 tricyclic antidepressants;TCA

・神経末端におけるノルエピネフリン再取り込み抑制により下行性抑制系を賦活し,抗うつ用量よりも少量で鎮痛効果を発現する.
・慢性疼痛に対する有効性は古くより認知され,第一選択薬中もっとも低コストであるが,保険適応はない.
・複数のメタアナリシスで推奨されているが,口渇,尿閉,便秘,眼圧亢進などの抗コリン作用が強い.本来の抗うつに用いるより少ない投与量で鎮痛効果が発現するので,少量より開始し,効果と副作用を見ながら漸増する.
・抗コリン作用を有するため緑内障や前立腺肥大患者には禁忌であり,QT 延長,心不全,口渇,便秘などにも注意が必要である.
・2 級アミンのノルトリプチリンは,3 級アミンのアミトリプチリンやイミプラミンに比べて抗コリン作用が弱く使いやすい.いずれも就寝前1 回10~25mg から開始し75 mg日まで漸増するが,他2 剤に比べ効果発現に若干時間を要する.

Naチャネル遮断薬

メキシレチン

メキシチール®

・Naチャネル阻害により疼痛を緩和する.
・急性の自発痛に有効とされ,重症疼痛に対しても短期間で有効性を示すことが報告されている.
・我が国では糖尿病性神経障害に伴う自覚症状(自発痛,しびれ感)の改善の保険適応があるが,欧米ではその効果に否定的な報告もあり,2 週間の投与で無効であれば漫然と投与すべきではない.

オピオイドなど

・モルヒネ様薬理作用を有し高い鎮痛効果を発揮するが,耽溺性や消化管・呼吸抑制など重篤な副作用が問題となり,主に癌性疼痛や重篤な外傷に用いられる.
・最近,これらの副作用が少ない弱オピオイドのトラマドールとアセトアミノフェンの合剤(トラムセットⓇ)が神経障害性疼痛に対して保険適応となった.用法は1 回1 錠1 日4 回であるが,投与開始時の眠気や悪心嘔吐を軽減するため1 回1 錠から3 日毎に漸増しても良い.長期使用における有用性と安全性については今後の観察が必要であり,有痛性糖尿病神経障害に対しては重症例で短期間の使用が望まれる.なお,中止時は退薬症状(発汗,振戦など)を避けるため漸減する.
・難治性PDNの治療薬として期待されており,今後日本人における有効性の検証が望まれる.

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤

ノイロトロピンⓇ

漢方薬

牛車腎気丸 ゴシャジンキガン

・しびれ・冷感に有効→副作用が少なく忍容性が高いので支持療法として考慮される.

芍薬甘草湯

・有痛性筋痙攣に対しては有効.比較的速効性があるので,夜間のこむらがえりに対して就寝前1 回投与でもよい.

カプサイシン軟膏(特殊調剤が必要)

痛覚神経を脱感作させ痛みの伝達を抑制

リドカインパッチ(局所麻酔薬)

・表在性の疼痛に対してはある程度有効.

アルドース還元酵素阻害薬 aldose reductase inhibitor;ARI

キネダック®(epalresatat)

1回50mgを1日3回毎食前に経口投与.

糖尿病神経障害の成因に対する治療薬であり,疼痛の原因とされる神経変性に対する効果が疼痛改善に関わる可能性があるが,疼痛対症療法薬ではない.

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