糖尿病性末梢神経障害 diabetic peripheral neuropathies;DPNs

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なすび医学ノート

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糖尿病神経障害の中核病型であり最も頻度が高く,感覚・運動神経障害と自律神経障害に分けられる.

厳格な血糖コントロールにより,その発症,進展を抑制できる.

診療上,もっとも問題となるのが有痛性糖尿病神経障害(painful diabetic neuropathy:PDN)における疼痛対策である.

疫学

■SEARCH(SEARCH for Diabetes in Youth)研究
対象:1型糖尿病患者1,734例(平均年齢18±4歳,罹病期間7.2±1.2年,平均HbA1c値9.1±1.9%)および2型糖尿病患者258例(同22±3.5歳,7.9±2年,9.4±2.3%)
方法:MNSI(Michigan Neuropathy Screening Instrument)を用いて糖尿病性末梢神経障害(DPN)を評価し,DPNの有病率やリスク因子について調べた.
結果:DPNの有病率は1型糖尿病患者では7%,2型糖尿病患者では22%と2型糖尿病患者の方が高かった.

分類

(定型的)糖尿病多発神経障害(diabetic polyneuropathy;DPN),感覚・運動神経障害:小径線維神経障害(small fiber neuropathy;SFN)

○高血糖の慢性的な持続に伴い,左右対称性に神経軸索の最も長い両下枝末端から(length-dependent)症状が出現する遠位対称性感覚・運動ニューロパチーを指す.
・加齢は大径有髄神経から障害される.
・糖尿病は小径神経から障害される.

■A線維(有髄):太いほうからα,β,γ,δ
Aα:筋紡錘からの感覚神経,脊髄α運動細胞からの遠心性運動線維
Aβ:触覚 “ジンジン” “ビリビリ” numbness,振動覚,位置覚などを司る体性感覚線維
Aγ:脊髄γ運動細胞からの遠心性運動線維
Aδ:痛覚 “チクチクピリピリ” “痛み” tingling/pricking,温度覚を伝達する感覚線維

■C線維(無髄)
C:遅い痛みを伝達する感覚線維.一番細い.

病態

○代謝異常を主体とした場合,神経の末端から線維が変性脱落する末端性軸索変性(dying-back変性)のパターンをとる.
・末梢神経病理では小径神経線維優位の有髄神経線維密度の減少と,神経内血管基底膜肥厚が特徴的である.
・病理組織学的に小径神経線維障害(small fiber neuropathy:SFN)が前景に立つため,感覚・自律神経障害が先行し,大径神経線維からなる運動神経の障害は遅れて出現する.

○血管障害の場合,近位,中位などでの虚血,梗塞所見が散在し変性の分布は巣状だが,末梢になるにつれ,びまん性の神経線維脱落となる.
→長い線維の過程で局所的に圧迫,物理的障害により脱髄や虚血の影響を受け,神経障害が複雑に進展する.

①末梢での侵害受容神経であるC,Aδ線維刺激による局所性疼痛
②脊髄後角での痛覚感知ニューロンでのGABAやNMDA受容体による神経興奮
③脊髄痛覚抑制性線維の障害
→神経障害性疼痛としては②,③のパターンが主

症候

○無症状で神経所見にも異常を認めない無症候期,神経所見の異常が出現しているが症状が目立たない無症状期を経て,神経脱落の進行とともに神経症状が悪化する.
○下肢末端に自発痛/しびれ感/錯感覚/感覚鈍麻などの感覚異常が出現し,症状が上行するとともに,上肢末端にも症状が現れる.
→しばしば患者のQOLは著明に低下させられる.

○Aδ,C線維などsmall fiberが障害され,アロディニアや痛覚過敏など様々な知覚異常を伴うことが特徴.
・難治例では種々の程度で心理的要因が含まれ,病的疼痛の側面はさらに深刻となる.
・一般的な消炎鎮痛薬は多くの症例において無効である.

○運動神経は予備能が大きいため進行期まで自覚されないが,病期が進むと注意深い観察により足内在筋の萎縮や足の変形が認められる.
・まず短趾伸筋萎縮がみられ,症状が進むと足趾背屈力が低下し,さらには足関節の背屈力が低下し,かかと立ちが不可能になる.
・短趾伸筋萎縮→長趾伸筋萎縮→前脛骨筋筋力低下.

診断

簡易診断基準は,ベッドサイドで比較的容易に実施可能で,感度68%,特異度74%と優れている.
*定量的に評価できず,重症度評価にならない.

SFNがDPNの早期,ひいては耐糖能異常(impaired fasting glucose:IGT)の時期からみられることに着目し,皮膚生検による表皮内神経密度(intraepidermal nerve fiber density:IENFD),角膜共焦点顕微鏡を用いた角膜神経密度(corneal nerve fiber density:CNFD)の観察がDPNの早期診断や重症度評価に応用されている.

神経伝導検査

電気生理学的検査である筋電図・誘発電位装置を用いており,最も優れた評価法であるが,時間がかかり,熟練した検査技師が必要.

DPNチェック フクダ電子
比較的容易に腓腹神経の感覚神経活動電位(SNAP)と神経伝導速度が評価できる.

非定型的糖尿病性末梢神経障害 atypical DPNs

○発症,経過,徴候,推定される病態機序が定型的なDPNと異なり,糖尿病の罹病期間や重症度とは無関係に,いずれの病期にも出現しうる病態である.
○主に急性の疼痛と自律神経障害の合併が問題となり,病態機序は不明であるが,神経血流不全や新生血管増生の他,免疫異常による機序が想定されている.一般に単相性で可逆性であるが,症状に変動がみられることが多い.

急性有痛性神経障害 acute painful neuropathy

○著明な高血糖下に,急性に体重減少と激しい灼熱痛,穿刺痛,うずくような深部痛を伴って発症する糖尿病性神経障害性悪液質(diabetic neuropathic cachexia)は,男性に多く,抑うつ,勃起障害を呈し,病像は後述する糖尿病性筋萎縮症に似る.
○急性有痛性神経障害は,いずれも良好な血糖コントロールの維持により多くが自然寛解するが,その間の適切な疼痛対症療法と不眠対策,患者とのコミュニケーションが重要となる.

治療後有痛性神経障害 post-treatment painful neuropathy;PPN

○著しい高血糖が遷延する患者に対し,インスリンやSU薬により短期間で急速に血糖コントロールした際,激しい痛みや痛覚過敏,アロディニア(正常では痛みを起こさない非侵害刺激により起こる異痛)を発症する.
○発症機序として,末梢神経虚血や炎症反応の関与が推察され,起立性低血圧による失神や胃腸障害などの強い自律神経障害を併発することが多い.
○高血糖状態が長く続いたときに血糖値を急速に是正する(月2%以上HbA1c低下が2~3ヶ月以上続いた)と出現し,血糖コントロールが改善した直後ではなく,1~3ヵ月後になってから現れるという特徴がある.
○「ジンジンしたしびれ感」「指すような痛み」などその症状は強く,夜間に増悪する傾向.
○治療抵抗性で,痛みが消えるまで数ヶ月~半年,中には数年に及ぶことがある.

IGTニューロパチー

○IGTの段階で既に疼痛を主徴とする神経障害が存在し(pre-diabetic neuropathy),皮膚生検による観察でIENFDが低下し,血糖コントロールで再生することが報告されている.

局所性糖尿病神経障害

○脳神経障害.特に外眼筋麻痺,上体幹・四肢の神経障害,顔面神経麻痺,糖尿病筋萎縮(腰仙部根神経叢神経障害)などが含まれる.
○神経栄養血管の閉塞・虚血が原因と考えられ,脳神経障害が代表的である.突然発症するが,予後は良好で,血糖コントロールにより95%以上の症例が数カ月で治癒する.
○発症は罹病年数あるいは血糖コントロールとは相関しない.

糖尿病性眼筋麻痺 diabetic ophthalmoplegia

○もっとも頻度が高いのは動眼神経麻痺で,瞳孔調節に関わる内眼筋麻痺を伴わないのが特徴である.外転,顔面,滑車神経麻痺の順に頻度が高い.多くは単発性だが,多発例もみられる.
○複視や眼瞼下垂を突然発症する.動眼神経麻痺であっても瞳孔機能は保持されることが多い.
○海綿静脈洞部における動眼神経や外転神経の栄養動脈の閉塞による.
○眼窩周囲の鈍痛が先行する.
○血糖コントロールにより,あるいは血糖コントロールと無関係にほとんどが数ヶ月で軽快する良性の経過をとる.

絞扼性神経障害

○手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS),肘部尺骨神経障害,腓骨神経障害など,通常の絞扼性神経障害でも起こりやすい部位の障害が多い.
○糖尿病患者では無症候性にNCSでCTSと診断される症例が多いのが特徴で,糖代謝異常に基づく神経浮腫のため,神経が生理的絞扼部位で圧迫を受けやすい可能性が示唆される.
○治療は非糖尿病患者における治療に準ずる.

多巣性神経障害

○頻度は低いが,糖尿病患者では,血糖コントロールに関わらず,急性ないし亜急性に臀部・大腿の疼痛,体重減少を伴う筋萎縮・筋力低下(近位運動神経障害,いわゆる糖尿病性筋萎縮症)や,体幹に分節状に痛み・しびれをきたし,ときに腹筋麻痺を伴う胸腹部ニューロパチー(躯幹神経障害)がみられる.
○ときに併発し病巣が広範に及ぶことから,最近は腰仙部神経根・神経叢障害(diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy:DLRPN),胸部神経根障害(diabetic thoracic radiculoneuropathy:DTRN)とよばれる.ごくまれに頸部神経根障害(diabetic cervical radiculoplexus neuropathy:DCRN)もみられることから,multifocal diabetic neuropathy(MDN)として一括分類される.

腰仙部神経根・神経叢障害 diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy;DLRPN

○発症初期には片側性でも後に多くが両側性となる.体重減少を伴い,約半数で自律神経症状を合併する.痛みは激烈で十分な疼痛対症療法が必要となる.
○髄液蛋白上昇や,針筋電図における罹患筋や腰仙髄支配傍脊柱筋の脱神経所見(線維自発電位など)は臨床診断を支持する所見である.
○血糖コントロールの達成・維持により症状の改善がみられるものの,遷延し何らかの後遺症が残存することも少なくない.
○これまでランダム化二重盲検群間比較試験の報告はなく,確立された治療法はないが,免疫グロブリン大量療法(IVIg)など種々の免疫療法の有効性が報告され,病態機序として微小血管炎による虚血が想定されている.

○免疫療法により治療可能な神経障害として慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)が糖尿病で頻度が高いことが注目されている.
・実際,DPNsの病型分類にCIDP併発性ニューロパチーを含む案もあり,糖尿病患者において著明な神経伝導速度の遅延がみられる場合は,CIDPの合併を考慮する.

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