糖尿病と感染症

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

糖尿病患者は,非糖尿病者に比し感染症の罹患率や重症化しやすい.
・糖尿病になると感染症にかかりやすくなるという報告はさまざま認めるが,予後の良否については不明で賛否両論である.
・特に血糖コントロールが不良な場合に感染症が遷延し,重症化しやすい.

血糖コントロールが悪い症例においては,易感染性が増悪する傾向にあり,感染症が重症化しやすい.
→普段から良好な血糖コントロールの維持が重要
→感染症予防の生活指導も重要
→高齢糖尿病患者においては,肺炎球ワクチンやインフルエンザの予防接種を受けさせることも重要.

高血糖や糖尿病合併症の存在は,発症した感染症の予後も悪化させることが知られており,重症敗血症では,血糖値をモニタリングし,適正な範囲にコントロールすることが強く推奨されている.

疫学

日本における糖尿病患者の死因調査では,感染症は悪性新生物,血管障害に次いで死因の第3位(14.3%)を占める.

糖尿病と感染症の頻度

危険因子

感染を合併すると血糖コントロールが特に悪化しやすい.

長期罹患例

血糖コントロール不良例(治療中断,未治療)
・血糖コントロールが不良なほど易感染性が高まる.
・日本人糖尿病患者の感染症による死亡時年齢は血糖コントロール良好群に比し,不良群でより若い.

血管合併症進行例

自律神経障害による皮膚の乾燥や神経因性膀胱,胆嚢の収縮異常

末梢神経障害による疼痛閾値の低下

高齢者

慢性腎不全による透析

アルコール多飲

肝硬変

低栄養
など

病態

糖尿病に感染症が合併すると,インスリン拮抗作用を有するサイトカインならびにホルモンが過剰となり,高血糖が増悪して異化も亢進する.
→脱水が顕著となり,ケトーシス(症例によってはアシドーシス)を伴い,重篤な状態(critical illness)を来しやすい.
→高血糖が増悪すると,感染症がさらに重症化し,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome :SIRS),敗血症(sepsis),敗血症ショック(septic shock)へと急速に進行し,致命的となりうる.

糖尿病患者の易感染性に関与する因子

高血糖による免疫機構の障害

自然免疫
好中球,単球マクロファージ:接着,遊走,貪食能等の低下,抗原提示能の低下など
補体:各種補体値の低下・上昇
サイトカイン:TNF-α,IL-1β,IL-8,IL-6,IFN-yの産生低下など

細胞性免疫
T細胞:異種抗原に対する反応性の低下

液性免疫
免疫グロブリン:量的,質的低下

好中球の遊走能/血管内皮への接着能/貪食能/細胞内殺菌能/オプソニン活性,単球の数/遊走能,細胞性免疫が全て抑制.

The influence of increasing glucose concentrations on selected functions of polymorphonuclear neutrophils - PubMed
The influence of increasing glucose concentrations on some essential functions in polymorphonuclear neutrophils (PMN) was evaluated in vitro in 20 healthy perso...

好中球貧食能は血糖値が250mg/dL以上になると急速に低下する.
 食後,白血球貪食能が明らかに低下するという報告がある.

血行障害

糖尿病患者でよくみられる末梢循環障害は,局所の低酸素状態,脱水,栄養障害,さらに微好気性菌や嫌気性菌の増殖を促進し,同時に白血球の好気的な殺菌能を抑制する.

血管障害は,局所の炎症反応を障害し抗生物質の局所への移行や吸収を阻害する.

動脈硬化症が進みやすく,心不全による肺炎や脳血管障害後遺症による誤嚥性肺炎など易感染性が増加する.

神経障害

末梢神経障害を有する患者では,軽度の局所の外傷は,皮膚潰瘍,さらに足感染症へと進行する.

自律神経障害に伴う神経因性膀胱では,残尿や尿のうっ滞などの排尿障害が生じ,尿路感染症を誘発しやすい.

皮膚や粘膜への病原体のコロナイゼーション

インスリン療法中の患者では,鼻腔や皮膚の無症状の黄色ブドウ球菌のコロナイゼーションがよく起こる.
・ときにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のこともあり,皮膚や切開創感染,一過性菌血症をきたし,離れた部位の傷害筋肉の感染症を起こす危険がある.

血糖管理不良の女性では,膣カンジダ症が多いことが知られている.

病原体特異的要因として,高血糖が誘導するある種の蛋白がカンジダの口腔内や膣内表皮への接着を誘導すること,ムコール症がきたすクモノスカビは,ケトン体還元酵素を持っており,高血糖・アシドーシス下で繁殖することなどが知られている.

糖尿病/高血糖の自然免疫,獲得免疫などへの影響

糖尿病で注意すべき感染症

糖尿病に比較的特異的な感染症として以下のものがある.

・足感染症
・真菌感染を含む尿路感染症
・口腔カンジダ症
・爪甲真菌症
・間擦疹などの表皮真菌症
・鼻脳ムコール症
・悪性外耳道炎
・気腫性胆嚢炎
・化膿性筋膜炎
・壊疽性筋膜炎
など

糖尿病性足感染症 diabetic foot infection;DFI

糖尿病患者で最も多い感染症は皮膚軟部組織感染症であり,特にDFIは,最も重要.

DFIの診療には,感染症科医のみならず,皮膚科,形成外科,整形外科ならびにフットケアチーム等多部署の連携が必須.

骨髄炎

DFIの入院患者のうち,50~60%で骨髄炎が合併することが知られ,骨髄炎の有無は抗菌薬の選択及び治療期間に影響を及ぼすため,適切に診断することが求められる.

臨床診断

以下の所見がある場合は,骨髄炎を示唆する.

1)実際に骨が見える 陽性尤度比9.2
2)潰瘍の大きさ>2 ㎡以上 陽性尤度比7.2
3)プローベで骨が触れる(probe to bone(PTB)test) 陽性尤度比7.2
4)血沈>70 mm/hr 陽性尤度比11

画像検査

単純X線検査:骨破壊等の変化がみられるが,発症から2~3週以内では偽陰性が多い

MRI検査:極めて鋭敏な検査であり,感度90%,特異度85%,陽性尤度比3.8であるが,重度の虚血があると精度が下がることが知られている.

壊死性筋膜炎

壊死性筋膜炎は急速に進行し,致死的となるため,迅速な診断が求められる.

壊死性筋膜炎はtype 1とtype 2に大別される.
type 1:糖尿病患者や免疫不全患者に起こる複数菌感染症
type 2:溶血性レンサ球菌による単一感染症であることが多い.

臨床症状

辺縁不明瞭な発赤 72%
発赤を超えて広がる浮腫 75%
見た目以上に痛みが強い 72%
発熱 60%
握雪感 50%
皮膚のbullae,壊死,出血斑 38%

診断

確定診断には,筋膜生検による筋膜壊死の証明が必要であるが,臨床症状に加え,血液検査で壊死性筋膜炎を示唆するLRINEC(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis)スコアが提唱されている.
→出血性bullae,低血圧,ガス像の存在,LRINECスコア8点以上などがあれば積極的に疑う根拠となりうる.

治療

グラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌に対する活性を有する広域抗菌薬投与に加え,速やかな外科的debridementが必須.

気腫性感染症

高血糖の環境下の腸内細菌や嫌気性菌等をはじめとするガス産生菌による気腫性感染症では,しばしば外科的治療を必要とすることから,注意を要する.

デンマークで行われた約15万人の2型糖尿病患者と糖尿病のない患者を比較したコホート研究では,気腫性胆囊炎,気腫性腎盂腎炎,気腫性膀胱炎罹患率比は1.74,1.49,1.35.

悪性(壊死性)外耳道炎

糖尿病患者において,耳の感染症の罹患率比は1.17であり,なかでも,悪性外耳道炎(malignant otitis externa)は重症な合併症を来たす.

悪性外耳道炎と言うと「悪性疾患(malignancy)」という誤解を生むため,現在では,壊死性外耳道炎(necrotizing otitis externa)の呼称が一般的.

ほとんどが緑膿菌による感染症であり,頭蓋底や側頭下顎骨骨髄炎への進展や髄膜炎,脳膿瘍等中枢神経感染症の合併症があることから,早期診断・早期治療が重要.

ムーコル症

糖尿病患者では,真菌感染症の罹患率比は1.45であり,なかでも接合菌であるムーコル症はしばしば致命的であり,早期診断及び積極的な外科的治療が必須である.血液腫瘍や造血幹細胞移植患者では,肺病変や播種性病変が多いが,糖尿病患者では,大部分が副鼻腔病変(図5)を来たすことが知られている11,12).生検では,リボン状の糸状菌が散見されている(図6).

治療

負のスパイラルを断ち切るために,できる限り早期から感染制御と血糖管理に対して集学的治療を開始する.

インスリンによる血糖コントロール

感染症の発症に伴い,糖尿病のコントロールは悪化し(ストレス高血糖 stress hyperglycemia),時にケトアシドーシスの原因となる.

糖尿病のコントロールは感染症の予後に関わるため,インスリンを中心とした厳格な血糖コントロールを行う必要がある.
・重篤な感染症時は,いかなる糖尿病の病型であっても入院下でインスリン治療を行う.

critical illnessにおいて,インスリンの多彩な生理作用は単なる高血糖の是正だけでなく,他の病態の改善にも寄与する可能性が示唆されている.
・インスリンは好中球に結合し,好中球の走化性,貪食作用および殺菌活性を高める.

Stress hyperglycemia, insulin treatment, and innate immune cells - PubMed
Hyperglycemia (HG) and insulin resistance are the hallmarks of a profoundly altered metabolism in critical illness resulting from the release of cortisol, catec...

急性期

重篤な感染症の急性期は,高血糖・脱水・電解質異常を速やかに補正する必要があり,輸液管理が原則となる.

感染制御の観点からも血糖値を200~250mg/dL以下にすることを初期の目標とし,その達成後も低血糖を回避しつつ可能な限り早急に血糖値を正常に近づけることが現実的な対応と思われる.

他の輸液ルートと独立した経路から希釈した速効型インスリンを0.5~1.5U/hrで投与開始し,最終的な血糖値の目標を140~180mg/dL程度とし,0.2~5U/hrの範囲内で調節していく.
・開始時は1時間毎に血糖値を測定し,安定してくれば測定回数を減らしていく.

単一の外科ICUで行われたLeuven I Study(2001年)では,critical illnessで厳格な血糖コントロールを行うことにより生命予後の改善効果を認めた.
その後NICE-SUGAR Studyなど多施設 ・多数例で同様の研究が行われた結果,むしろ厳格な血糖コントロールを行おうとした場合,重症低血糖と合併症が増加することが問題となった.
→2009年の共同ガイドラインで院内感染や他の合併症リスクを低減するため血糖値≧180mg/dLでインスリン療法を開始し,開始後の目標血糖値は140~180mg/dLを推奨している.

Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients: a meta-analysis including NICE-SUGAR study data - PubMed
Intensive insulin therapy significantly increased the risk of hypoglycemia and conferred no overall mortality benefit among critically ill patients. However, th...

Surviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG) における血糖値管理指針(米国集中治療学会)

管理目標値:インスリン持続投与下で血糖値<150mg/dL

・死亡率・有病率をもとに減少させるには110mg/dL以下を目標とするが,低血糖発生率が有意に上昇する.
・110~150mg/dLでは死亡率は有意に減少、低血糖発生率も増加しない.

米国糖尿病学会(ADA)/米国臨床内分泌学会(AACE)ガイドライン

管理目標値:140~180mg/dL

2009年の共同ガイドラインで院内感染や他の合併症リスクを低減するため血糖値≧180mg/dLでインスリン療法を開始し,開始後の目標血糖値は140~180mg/dLを推奨している.

日本版敗血症診療ガイドライン 第7版

Q.敗血症患者の目標血糖値はどのようにすべきか?
・180mg/dL以上の高血糖を呈する重症敗血症患者に対し,血糖値を低下させるために経静脈的インスリン持続投与を行う(1A).
・血糖値のコントロールを行う際には,目標血糖値は144~180mg/dLとし,血糖値を80~110mg/dLに維持する強化インスリン療法は行わない.

人工膵臓

膵臓全摘出後24時間の感染症罹患率を,人工膵臓を使用して血糖を80~110mg/dLにコントロールした群と,人工膵臓未使用で血糖を140~180mg/dLでコントロールした群で比べたところ,人工膵臓を使用した群で感染症罹患率が有意に低下した.

回復期前半

代謝循環動態が安定してくれば,可能な限り早期から経口や経腸栄養を開始する.

静脈注射から皮下注射への移行時については,基礎分泌/追加分泌の補充に加えて,血糖補正を加味する.
・静脈投与していたインスリンの1日投与量の75~80%を皮下投与する.
・持効型インスリンはそのうち50%を割り振る.
・静脈注射中止の1~4時間前から皮下注射を開始する.

回復期後半

炎症の沈静化とともにインスリン抵抗性が急速に改善してくる時期であり,低血糖のリスクが高くなるため,インスリン量の漸減していくことが必要.

感染再燃のリスクが否定され,血糖コントロールが安定していれば,元の経口薬治療や食事療法に切り替えていく.

退院直後は血糖コントロールが不安定になりやすいので,特に低血糖を起こさないように退院前から薬物の選択,投与量の調整を行う.

留意点

重篤な感染症時には早急な血糖コントロールを行わざるを得ないので,長期罹患の糖尿病例ではpost-treatment retinopathy or neuropathyのリスクがある.

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