せん妄 delirium

スポンサーリンク
なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

 せん妄とは,意識混濁があり,妄覚(錯覚・幻覚),精神運動興奮,運動不穏などが加わり,ときに支離滅裂な独り言や行動がみられる状態をいう.
 その頻度は一般外科病棟では10~15%,内科病棟では15~25%,ICUでは80%の患者が入院中にせん妄を呈すると言われており,高齢者や手術後,熱傷などの患者では更に頻度が増加する.
 せん妄の多くは可逆性であり,適切な対応により数日~数週間で改善するが,早期に治療介入をしなければ原疾患の治療が困難になり,また衝動的行動により事故につながることもある.

せん妄の発症モデル

準備因子
高齢者(65歳以上)
認知機能(認知症,うつ病,せん妄の既往)
身体疾患の合併(頭部疾患の既往,慢性の腎肝疾患など)
薬剤(向精神薬の多剤併用,アルコール依存症)

誘発因子
睡眠:不眠,昼夜逆転
身体的要因:疼痛,低栄養,脱水,不動化(身体拘束など)
感覚的要因:視力低下,聴力低下 環境変化:入院,ICU入室,照明や明るさ,騒音

■直接因子
中枢神経疾患(脳血管障害,脳腫瘍,転移性脳腫瘍,硬膜下血腫,硬膜外血腫,脳挫傷など)
代謝性異常(低血糖・高血糖,電解質異常,Wernicke脳症など)
感染症(脳炎,髄膜炎,敗血症など)
低酸素血症(心不全,呼吸不全など)
薬物中毒,薬剤性精神障害(アルコール,抗コリン薬,副腎皮質ステロイド,H2受容体拮抗薬,向精神薬など)

サブタイプ

1)過活動型(易刺激性、興奮・錯乱や不穏、幻覚)
2)低活動型(注意の低下、不活発、不適切な会話)
 「不穏」がないため見逃されやすく、うつ状態と誤診されやすい.
  持続時間が長いことや、非高齢者と比べて高齢者で頻度が高く予後不良といわれている。
3)混合型
 に分類される.

高齢者はせん妄を来しやすい!

 65歳以上から急激にせん妄のリスクが上昇し,1歳年齢があがるごとに2%せん妄の頻度が高くなるという報告がある.
 65歳以上の患者では入院症例の10~42%にせん妄が認める.
 術後ICU管理が必要な65歳以上の患者のうち80%がせん妄になる.

■理由
1)脳の加齢性変化によるアセチルコリン神経系の変化
2)ホメオスタシスの低下
3)視力および聴力の低下
4)薬剤に対する代謝機能の低下 など

ICUでのせん妄発症は独立した予後不良因子

 見逃さないように評価ツールを用いてせん妄評価を行い,精神科専門医への紹介が必要となる.
■CAM-ICU:confusion assessment method-for the ICU
 最初に精神状態の急激な変化・変動の有無を評価し,次に注意力欠如の評価、その後意識レベルの変化の評価と進む .
ICUにおけるせん妄のスクリーニングと予防および治療(他ページへ)

睡眠障害におけるベンゾジアゼピン系使用の問題

 せん妄の危険因子として,3剤以上の薬剤を内服していること,ベンゾジアゼピン系を内服していることが挙げられている.
○メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)
→せん妄予防効果の報告あり
○オレキシン受容体作動薬(スボレキサント)
→せん妄予防効果の報告あり

症状

1)落ち着きのなさ:特に夜間,目がギラギラして,落ち着かない様子になる.
2)幻覚(幻視)・妄想:誰もいないはずなのに「○○が・・・」とあらぬ方向を見る.
3)見当識障害:ここがどこなのかわからない.
4)興奮:急に騒ぎ出す.乱暴で,暴力的になる.

診断アルゴリズム

A)B)をみたし,C)あるいはD)が見られる場合はせん妄と考える.
A)急性発症、変化する経過
①急激な変化が見られるか?
②異常行動に日内変動が有るか?

B)注意力散漫
①集中できず,注意がそれる
②会話に一連性がない.

C)支離滅裂な思考
①とりとめが無い会話
②不明瞭で論 理的でない考え,突然の話題の変化 

D)意識レベルの変化
①清明(正常)
②覚醒(過剰な覚醒)
③嗜眠(眠気あるもすぐ覚醒)
④昏迷(覚醒困難)
⑤昏睡 

診断基準(DSM-5)

A.注意の障害(注意の方向付け、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)。
B.その障害は短時間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある
C.さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損,失見当識,言語,視空間認知,知覚)
D.基準AおよびCに示す障害は,他の既存の,覚醒した,または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない.
E.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が他の医学的疾患,物質中毒または離脱(乱用薬物や医療品によるもの),または毒物への曝露,または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある.

初期対応

■内服可能で興奮を伴う場合
抗精神病薬(リスペリドン,ペロスピロン,クエチアピン,オランザピン)
 クエチアピン,オランザピンはパーキンソニズムなどの錐体外路症状が生じにくく鎮静作用が比較的強いが,糖尿病を有する場合は禁忌.
 ペロスピロン,クエチアピンは半減期が短く日中まで残りにくいため,睡眠覚醒リズムを整えやすい.
 リスペリドンやオランザピンといった作用時間が長い薬剤は,日中にも興奮が認められるケースに使用すると医療介入しやすい.
 オランザピンは抗コリン作用が比較的強く,便秘や口渇・認知機能の低下などをきたしやすいことに注意が必要.

1)クエチアピン セロクエル®:初期投与量 25~50 mg
( EPSがでにくい。半減期が短い。糖尿病に禁忌)
2)リスペリドン リスパダール®:初期投与量 0.5~2 mg
( 4mg以上でEPSは起こりやすくなる)
3)ペロスピロン ルーラン®:初期投与量 4~8 mg
( 副作用は出にくい。あまり鎮静作用がない)

■拒薬で内服できない場合
リスパダールの液剤:初期投与量 0.5 ~ 2 ml
*効果不十分な場合に同程度の追加を繰り返し、翌日の投与量はそれを参考に決定。夕方以降に投与量が多くなるように設定。

■静注・点滴可能なら
1)セレネース0.5~1A+生食(20mL静注 or 100mL点滴)
 夕方以降に投与量が多くなるように設定
 心電図で不整脈等を観察。錐体外路症状も
2)ドルミカム1mg~5mg+生食(20mL静注 or 100mL点滴)
3)やむをえずマイナー系薬剤を投与する場合:ロヒプノール1A + 生食100mL
*せん妄の増悪・遷延化を避けるために最小限投与!(点滴→入眠後中止とする)

■静注・点滴不能のとき
セレネース0.5~1A筋注(1A=5mg ,1ml, 最大4A)
ドルミカム0.25A 皮下注(1A=10mg ,5ml, 最大1A)

■しっかり鎮静するなら(呼吸数≦9になれば中止)
セレネース0.5~1A+ロヒプノール0.25~0.5A+生食100mL, 30分点滴
セレネース0.5~1A+ドルミカム1A+生食100mL, 入眠まで

■日中もひどい不隠のとき
セレネース2~4A/生食、24時間持続皮下・静注
ロヒプノール0.5~1A+コントミン0.1~0.5A+生食100mL, 30~60分で

■アルコール離脱せん妄
①ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)5~20㎎静注(入眠した時点でストップ)
②ジアゼパム6~15㎎/日(分3)
※ウェルニッケ・コルサコフ症候群、ペラグラ予防にビタミンB群、ニコチン酸の投与必須。

薬物療法

抗精神病薬の予防投与は行わないよう提案されている
■内服可能で興奮を伴わない場合
1)テトラミド:10 ~ 30 mg
改善がなければ抗精神病薬に置換
2)レスリン:25 ~ 100 mg
改善がなければ抗精神病薬に置換

ロゼレム8mg 1×眠前
不穏・不眠時はテトラミド10mg
精神科の先生に教えてもらったおすすめの処方!

予防

HELP(Hospital elder life program)
1)見当識や認知機能への刺激
 見やすい場所にカレンダーや時計を配置,時間や場所をこまめに伝達,予定に関する情報提供,窓から景色が見えるように
2)脱水・便秘の改善
3)低酸素の改善
4)感染症の改善
5)不動化への対策
 早期の離床,リハビリテーション,点滴やカテーテルなどは最低限に
6)疼痛のコントロール
7)多剤服用を見直す
8)低栄養の改善
9)感覚障害(視力障害,聴力障害)への対策
 眼鏡や補聴器の使用,ゆっくりとわかりやすい言葉で話す
 届きやすい場所にナースコールを配置
10)睡眠障害への対策
→昼は明るく,夜は薄暗く,夜間の医療行為を避ける,日中の覚醒を促す

タイトルとURLをコピーしました