深部静脈塞栓症 deep venous thrombosis;DVT

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なすび医学ノート

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3つの因子〔Virchowの3主徴〕によって静脈内腔に血栓が形成される.

1)血液凝固能亢進
→悪性腫瘍,炎症,膠原病,血栓性素因,経口避妊薬,肥満
2)血流停滞
→長期臥床,長時間の坐位,妊娠,脱水
3) 血管内皮障害
→手術(特に骨盤内手術),外傷,中心静脈カテーテル留置

このなかで血液変化とうっ血が主因となるものは静脈血栓症venous thrombosis,静脈壁の変化によるものは血栓性静脈炎thrombophlebitisと呼ばれる.

一般に静脈閉塞では,静脈内腔に血栓が形成されると数時間以内に二次性炎症が発生し,炎症が先行しても内腔に血栓形成を随伴するため,臨床的に両者を厳密に区別して診断することは困難で,両者は同義語として扱われている.

慣用的には下肢の深部静脈系に生じるものを深部静脈血栓症,表在静脈については血栓性静脈炎(表在性血栓性静脈炎)と呼んでいる.

疫学

本邦におけるDVTの発生頻度は欧米に比して低率とされているが,近年増加の傾向にある.

男女比は1:1.3と女性にやや多く,年齢は20歳代から増加(40歳以上の中高年に多い).

原因の不明な特発性は56.5%と多く,続発性の中では腹部手術後12.6%,炎症7.8%,腫瘍3.8%などが挙げられる.

左右差では,左62%,右29%,両側9%と左側に多い.
・腸骨静脈は骨盤腔の最も後方に位置しているので,仰臥位では他臓器による圧迫を受けやすく,特に左側では下大静脈への流入角度が鈍角になり,右腸骨動脈,S状結腸などがその前面で交差するなどの理由で,腸骨大腿静脈閉塞は左側に多い(iliac compression syndrome).

重大な合併症である肺塞栓症の合併頻度は8.2%で欧米に比して低率であるが,近年やや増加傾向にある.

原因

・Virchow(ウィルヒョウ)の3主徴がそれぞれ単独で血栓症の誘因・原因となることは少なく,むしろ複合した形で関与していると考えられる.
・特に血流の停滞と凝固能の亢進などは相互に関係が深い.

血液凝固性の亢進・線溶能の低下

水分脱失,熱傷,ショック,赤血球増多症,嘔吐,下痢などによって血液が濃縮したり,粘稠になったりすると,血栓をつくりやすい(泥状血栓sludged blood).

筋損傷などでトロンボキナーゼが多量に遊離する場合や,血液疾患,癌などで血小板の破壊が起こる場合に血栓が生じやすい.

静脈血流の停滞

心疾患,衰弱,手術後などに,右心うっ血が原因となって全身的に静脈の還流が遷延する場合,あるいは静脈中枢部を圧迫するような局所的な原因がある場合に血栓をつくりやすい.

静脈内皮の障害

静脈内注射,外力などによって静脈壁が損傷し,内皮が剥離したり粗面となったりすると,この部から血栓が発生する.

筋肉の運動などに際して静脈が圧迫されて血栓性静脈炎をきたすもののうち,腋窩静脈に起こるものはPaget-Schroetter(パジェット-シュレッター)症候群と呼ばれている.

病態

発生部位

上肢に生じることは少なく,大部分が下肢に発生する.

左下肢発症は右にくらべ多いとされるが,両側性も存在し,頻度的には下腿部が多く認められる.

下肢においては,血栓症の部位によって膝窩静脈から中枢側の中枢型(近位型)と,末梢側の末梢型(遠位型,下腿型)に分類する.
・近位型は全体の1/4〜1/3ではあるが PTE を発症しやすく,重篤な PTE の大部分は近位型深部静脈血栓症から発生すると報告されている.

下腿部での初発部位は,多くがひらめ筋内静脈.

がん関連VTE

癌とVTEは密接に関連しており,癌患者の約10~20%にVTEが発症する.
・非癌患者の4~7倍.
・VTE患者の危険因子のなかでも最も多い.

1)癌細胞が産生する組織因子や腫瘍由来凝固促進因子などにより過凝固状態になる.
2)抗癌薬や血管内カテーテル留置などによる静脈内皮障害や活動性低下
3)癌腫瘤による静脈圧迫に伴う静脈血うっ滞など

治療に際しては,抗凝固療法を行っていても再発しやすい反面,出血も生じやすい.
・非癌患者に比べ,VTE再発率は約3倍,出血頻度は約2~6倍.
・活動性癌を有している患者では,抗凝固療法中止後の再発率が高いため,長期継続が必要.

静脈血栓後症候群 postthrombotic syndrome;PTS

晩期合併症.
多くは,中枢型DVT発症後2年以内に生じ,器質化血栓による静脈閉塞や狭窄,静脈弁逆流による静脈圧上昇に伴い,慢性的に下肢痛や腫脹が持続し,さらに進行すると,色素沈着や皮膚硬化,重症例では皮膚潰瘍を来たし,患者のQOLを著しく低下させる.

初期の臨床研究ではDVT患者の80%以上で15年間の経過観察期間中にうっ滞性潰瘍を併発したと報告されているが,近年,DVTに対する診断技術の向上や初期治療法の確立などにより潰瘍を伴う重症例の頻度は激減したが,最近の報告でもDVT発症後のPTSの発生頻度は20~50%とされている.

発生リスク因子として,高齢者,中枢型DVT,同側下肢のDVT再発,初期治療期の不十分な抗凝固療法ならびに治療後の血栓残存などがある.

QOLに関する最近の検討で,他の一般的な疾患と比較してもPTS症例のQOLが低く,長期にわたり罹患患者のADLに影響を及ぼしていることが明らかとなっている.

症候

症状

深在する主幹静脈の急性閉塞では,浮腫が急激に現れ,数時間以内で極限に達し,圧痕を呈する緊満感のある浮腫性腫脹が特有である.

顕著な症状を呈する2~3日前より不定の下肢の違和感,疲労感に気づくものがあり,実際の血栓発生はこのときとみなされる.
→軽微な症状を示すものを潜在性血栓症silent thrombosisというが,かえって肺塞栓症を起こしやすい危険な状態である.

閉塞が主に大腿静脈領域にあって二次的な動脈けいれんを伴う場合には,全肢に及ぶ腫脹がみられるが,皮膚はむしろ蒼白となり,皮下小静脈は拡張して網状を呈し,有痛性白股腫phlegmasia alba dolensと呼ばれる.

閉塞が腸骨大腿静脈のみならず広範に筋肉枝などにも及ぶ場合には,下肢の浮腫性腫脹は高度となり,うっ血のためにチアノーゼを呈して有痛性青股腫phlegmasia caerulea dolens(重症血栓症)と呼ばれる状態となり,栄養障害が高度な場合には静脈性壊疽をみることがある.

浮腫とともに特有な症状は疼痛であって,発症早期から大腿部を中心に自発痛を訴え,足の背屈によって腓腹部に疼痛があり〔Homans(ホーマンズ)徴候,陽性率44~92%〕,マンシェットによる加圧で腓腹部に疼痛が著明である〔Lowenberg(レーベンベルグ)徴候,陽性率50~70%〕.通常,Scarpa(スカルパ)の三角で圧痛があるが,同様な圧痛がしばしば膝窩部やHunterのcanal(ハンター管)に一致してみられる.
*Homans徴候は非特異的な所見であることに注意.

慢性期に入ると,浮腫,下肢の倦怠感,静脈瘤など,いわゆる静脈血栓後症候群postthrombotic syndromeの状態となる.

検査所見

診断精度の高い検査としては造影CTや上行静脈造影があるが,疑わしい患者全例に検査を行うことは侵襲性などから現実的ではなく,まずは比較的非侵襲的な評価(臨床症状・血液検査・エコー検査)を行うことが多い.

血液検査

FDPもしくはD-dimerが有用.
・二次線溶亢進により増加するので,血栓を生じるほかの疾患(例えば外傷や敗血症)でも上昇する.
・特異度は低いが,D-dimerが陰性であれば深部静脈血栓症の可能性はかなり低くなる.

エコー

・血栓を来しやすい両鼠経・両膝窩を中心に評価する.
・膝窩静脈レベルまでの精度は高い.
・腸骨動脈や下大静脈(鼠径部より中枢)の血栓ではエコーで下肢静脈の血流は保たれるため,評価できない.
・プローブで静脈を圧迫してみて内腔が潰れなければ,そこに血栓を生じているものと考えられる.
・カラードップラー法を用いて血流が保たれているかどうかを確認することもできる.
 腓腹部や大腿のmilking,Valsalva法による鼠径部や膝窩部での静脈音の消失は血栓による静脈閉塞を強く示唆する.

静脈造影

・閉塞部の陰影欠損と拡張した側副血行路の増生を認める.
・閉塞部の末梢で皮静脈圧は上昇する.

原因検索が重要!!
誘因のない塞栓症をみたら,悪性腫瘍を疑う.

治療

目的は,血栓後遺症を最小限に抑え,肺塞栓の発生を防止することにある.

急性期では,血栓の遊離を防ぐため床上安静,下肢挙上を基本とする.

1週を過ぎるころより弾性ストッキングを着用させて歩行を開始する.

抗血栓療法

血栓の進行を止め、肺塞栓を予防する目的で直ちに抗凝固療法を開始する.

従来は,ヘパリンの全身投与を行い,約5~7日間で順次ワーファリン 内服に切り換えていたが,選択的抗Xa薬であるエドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンの3剤が使用可能となり,治療は大きく変化した.

VTEの持続するリスクを有する例や特発性(明らかな誘因を有さない)VTE例では,抗凝固療法中止後の再発率が高いため,出血リスクを考慮しつつ,3~6カ月以上の抗凝固療法継続が推奨されている.

未分画ヘパリン

急性期の初期治療は,長い間,未分画へパリンを用いて行われてきたが,必要投与量が症例間で大きく異なるため,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial
thromboplastin time:APTT)を投薬開始後6 時間おきと頻回に測定し,速やかに治療域に調整することが求められた.

フォンダパリヌクス

2011年3月,選択的抗Xa薬であるフォンダパリヌクスがDVT/PTE治療薬として承認され,DVT/PTEの初期治療薬として使用可能となり,未分画へパリン使用時に必要とされた用量調節は不要となった.

高度腎機能低下例は禁忌であり,半減期が約14時間と長く,中和薬が確立していないため,出血が危惧される症例には未分画へパリンが選択される.

ワーファリン

50 年以上に亘ってDVT/PTEに対する唯一の経口抗凝固薬であったワルファリンは,投薬開始から治療域に達するまでに少なくとも4~5日間を要すること,単独での投与開始時には一時的に過凝固になる可能性があることなどから,未分画へパリンあるいはフォンダパリヌクスを併用し,治療域に達したことを確認後に非経口抗凝固薬を中止していた.

ワルファリンでは投薬量の調整に難渋する例やビタミンKを多く含む食事や併用薬の影響を受けやすい等といった問題点も多かった.

直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)

VTEを対象としたDOACの大規模国際共同試験(EINSTEIN試験,AMPLIFY試験,Hokusai-VTE試験)が行われ,良好な成績が示された.

組み入れ症例数は少ないものの,日本人のみを対象としたJ-EINSTEIN試験やAMPLIFY-J試験も行われ,VTE再発や出血の合併症については従来治療との間に大きな差はなく,国際共同試験の結果との一貫性が示された.
→2014年9月にエドキサバンが,2015年9月にリバーロキサバンが,さらに同年12月にアピキサバンがVTE(DVT及びPTE)の治療及び再発抑制に承認された.

Tmax 0.5~4時間で,効果発現までの時間も短く即効性を有しており,半減期は5~14時間.

リバーロキサバンやアピキサバンは,再発の高い時期には維持用量の倍量を投与する高用量投与期間が設けられており,禁忌に該当する症例や重症度の高いPTE症例,血栓溶解療法を使用する必要がある症例等一部の症例を除いて,治療初期から単剤による治療(シングルドラッグアプローチ)が可能となった.

エドキサバンはHokusai-VTE試験において,全例に5~12日間の未分画ヘパリンもしくは低分子量ヘパリンを投薬したうえでエドキサバンが投与されており,実臨床でも急性期の未分画ヘパリンやフォンダパリヌクスを用いた適切な初期治療後に投与を開始することとなる.

DOAC 3 剤のうち,エドキサバンのみ減量基準が設けられており,他の2 剤には減量基準がない.

いずれのDOACも,ショックや低血圧が遷延するような血行動態が不安定なPTE患者または血栓溶解剤の使用や血栓摘除術が必要なDVT/PTE患者に対する有効性・安全性は確立しておらず,十分なデータが蓄積するまでは,これまでどおりの適切な治療を行い,血行動態が安定した後あるいは血栓溶解療法終了後に投与する.

メリット
・再発率が高い発症早期に,初期治療をしっかりと行うことができる.
・頻回の採血による用量調整が不要かつ効果発現が早いため,入院期間の大幅な短縮のみならず,DVTでは入院させずに外来治療が行いやすくなった.
・ワルファリンと異なり,食事制限が不要で他剤との相互作用が比較的少ない.

血栓溶解療法

一般的には保存的治療としての線溶療法が主に行われ,本邦では発症後1週間以内の症例に対してウロキナーゼを24~48万単位/日,約1週間の投与が標準とされるが,最近では中~大量短期投与も行われている.

血栓摘除術

総大腿静脈切開,Fogartyカテーテルによる血栓摘除術は重症血栓症が適応とされ,早期施行例の成績は良好である.
・再閉塞の頻度も高く,一時的動静脈瘻の付加や大腿-大腿静脈バイパス術なども試みられている.

慢性期治療

基本は立業中の弾性ストッキングの装着と臥床中の患肢高挙で,長期間適正に行えば,自覚症状の軽快するものが多い.

VTE再発の危険因子

再発リスク 低(<3%/年)

危険因子なしの場合と比べ10倍状にリスクを増加させる主要な一過性危険因子
・全身麻酔下の30分を超える手術.
・急性疾患あるいは慢性疾患の急性増悪で入院し,3日以上のベッド上安静
・骨折を伴う外傷

再発リスク 中(3~8%/年)

10倍以下の一過性危険因子
・小手術(30分未満の全身麻酔)
・急性疾患で3日未満の入院
・エストロゲン治療/避妊
・妊娠,分娩
・急性疾患で病院以外でベッド上安静
・3日以上活動低下した骨折なしの下肢けが
・長期間飛行機旅行

癌ではない永続的危険因子
・炎症性疾患
・活動性自己免疫疾患

再発リスク 高(>8%/年)

・活動性癌
・主要な一過性危険因子なく1回以上のVTEの既往エピソードあり
・抗リン脂質抗体症候群

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