Cushing病 Cushing disease

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なすび医学ノート

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○慢性のコルチゾール分泌により特有の徴候(Cushing徴候)を呈する病態.
○Cushing病は病理学的には良性であるが,経過が長引くと臨床的には治療が難しく悪性に似ているといえる.

疫学

○発症年齢は40~50歳.中年女性に多く見られ,男女比は約1:4といわれている.
○全国推定1250人.
○1965~86年にかけて行われた全国調査では,平均して年に約100症例が新規Cushing症例として診断され,そのうち約50%が副腎性,40%程度がCushing病と考えられている.

*ACTH依存性→Cushing病35.8%,異所性ACTH症候群3.6%,異所性CRH症候群<1%
*ACTH非依存性→副腎腺腫47.1%,副腎癌<1.7%,副腎皮質過形成5.8%

病態

生理

○視床下部室傍核で産生されるCRH(corticotropin-releasing hormone)は下垂体門脈を経て下垂体前葉に至り,ACTH細胞(adrenocorticotropic hormone)に働いてACTHの合成と分泌を促進する.
→ACTHは全身に分泌され副腎皮質に作用してコルチゾールの合成と分泌を促す.
→分泌が亢進した血中コルチゾールは視床下部-下垂体前葉に作用しCRHとACTHの分泌を抑制する(negative feedback).

ACTH分泌過剰によるもの(ACTH依存性)

1)下垂体からのACTH分泌異常[Cushing病]
・90%以上は下垂体microadenoma(<径1cm)

2)非下垂体腫瘍からのACTH or CRH分泌異常[異所性Cushing症候群]
・肺小細胞癌(50%),肺非小細胞癌(5%),胸腺腫(5%),膵神経内分泌腫瘍(10%),褐色細胞腫(3%),甲状腺髄様癌(5%)

ACTHとは関係なく副腎からの過剰分泌によるもの

Subclinical Cushing病

○最近は典型的な臨床症候を示さず,下垂体腫瘍が疑われ,二次的な耐糖能異常や高血圧の精査の途中でACTH-コルチゾール系の自律的な分泌異常がみつかる場合.

*以下の①と②を認め,③を満たす場合,可能性を考慮する.
①画像診断上,下垂体腫瘍の存在が疑われる.
②朝の血中ACTH濃度が正常~高値で,コルチゾール濃度は正常域.
③Cushing病に特徴的な徴候が欠如している.

偽性Cushing病 Pseudo-Cushing Syndrome

○精神疾患,種々のストレス等が原因で高コルチゾール血症をきたす病態.
○原因としては精神疾患(特にうつ),重症肥満,重症感染症,アルコール多飲,重症糖尿病など.
*重症うつ病の患者では,80%に高コルチゾール血症が認められるため注意が必要.

DDAVP試験→Cushing病では(+),偽性Cushing病では(-).

周期性Cushing病 Periodic Cushing disease

○1週間~数ヶ月間隔でホルモン分泌が亢進する.検査の判定に注意が必要.
○54%がCushing病,26%が異所性ACTH産生腫瘍,11%が副腎腫瘍.

病因

○下垂体腫瘍からのACTHは自律性分泌のため,日内リズム(朝方高く,夜低い)が消失する.
○腺腫ではコルチゾールによるnegative feedbackに対してACTH分泌は部分抵抗性を示すため,合成グルココルチコイドのデキサメタゾン(DEX)少量では抑制されないが,大量DEXでは抑制される.
○腺腫ではCRH受容体が発現しており,CRHに対する反応性は正常または亢進し,さらにバゾプレシン受容体(V2)も発現するため,V2受容体作動薬(DDAVP)に反応する.
○ほとんどがACTH産生下垂体微小腺腫(径1cm以下)が原因と考えられ,非腫瘍部のACTH細胞は萎縮している.
・大きな腫瘍ではCrook変成がみられることが多く,CRHやデキサメサゾンに対する反応性が低下しやすい.ACTH細胞の過形成がみられる場合はCRH産生腫瘍の可能性も考慮する.
○異所性ACTH産生腫瘍では一般的にDEX,CRH,DDAVPに無反応.

*オーファン核内受容体TR4→正常下垂体では発現が細胞質であるが,ACTHomaでは核に強く染まる.非機能性腺腫においてTR4発現はわずかで,Cushing病では過剰に発現している.ACTHの産生および分泌にもTR4が関与しており,siRNA導入によってACTH mRNAの低下が示されている.

症候

コルチゾール値が高いほど,罹病期間が長いほど増悪する.

特異的症候

○皮下溢血,皮膚の菲薄化
○近位筋萎縮による筋力低下(49%)
○中心性肥満(81%)
○水牛様脂肪沈着(buffalo hump)
○満月様顔貌(84%)
○伸展性赤色皮膚線条(53%)
○小児における成長遅延

非特異的臨床症候

○耐糖能異常(47%)
○高血圧(84%)
○月経異常(60%)
○にきび(45%)
○浮腫
○肥満
○骨粗鬆症(48%)
○多毛(42%)
○色素沈着
○うつ状態(18%) ・尿路結石(15%) など

一般検査

○白血球増多[好中球増多,リンパ球・好酸球減少]
○低K血症
○代謝性アルカローシス
○高コレステロール血症
○高血糖
○尿中カルシウム増加(骨粗鬆症で脱灰されたカルシウムは尿中に排泄されるため)

内分泌検査

■尿中遊離コルチゾール測定
ACTH-コルチゾール系の負荷試験施行中,ステロイド薬(コートリル®,プレドニゾロン®)使用中には原則施行しない.内服中に検査を施行する場合は,等量のデキサメタゾンへ置換する.

頭部MRI

○下垂体腫瘍の検出率は60~80%.
○microadenomaが多いので,必ず造影.
○腫瘍の存在が証明できれば,本症の診断はほぼ確実.
○健常者でも約10%に下垂体偶発腫瘍がみられる.

下錐体静脈洞(IPS)・海綿静脈洞(CS)サンプリング

○Cushing病と異所性ACTH症候群を鑑別するためのゴールドスタンダード.

クッシング病の診断の手引き(平成21年度改訂)

確実例:①,②,③および④の(1)(2)(3)(4)を満たす.
ほぼ確実例:①,②,③および④の(1)(2)(3)を満たす.
疑い例:①,②,③を満たす.

①主症候
(1)特異的症候および(2)非特異的症候の中から,それぞれ一つ以上を認める.
(1)特異的症候
・満月様顔貌
・中心性肥満または水牛様脂肪沈着
・皮膚の伸展性赤紫色皮膚線条(幅1cm以上)
・皮膚の菲薄化および皮下溢血
・近位筋萎縮による筋力低下
・小児における肥満をともなった成長遅延
(2)非特異的症候
高血圧,月経異常,座蒼(にきび),多毛,浮腫,耐糖能異常,骨粗鬆症,色素沈着,精神異常

②検査所見
(1)は必須
(1)血中ACTH とコルチゾール(同時測定)が高値〜正常を示す[注1].
(2)尿中遊離コルチゾールが高値〜正常を示す[注2].
上記の1,2を満たす場合,ACTH の自律性分泌を証明する目的で3のスクリーニング検査を行う.

③スクリーニング検査
(1)は必須で,さらに(2)~(4)のいずれかを満たす場合,ACTH 依存性Cushing症候群を考え,異所性 ACTH 症候群との鑑別を目的に確定診断検査を行う.
(1) 一晩少量デキサメサゾン抑制試験:前日深夜に少量(0.5mg)のデキサメサゾンを内服した翌朝(8-10 時)の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示す[注3].
(2)血中コルチゾール日内変動:複数日において深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示す[注4].
(3)DDAVP 試験:DDAVP(4μg) 静注後の血中ACTH 値が前値の1.5 倍以上を示す[注5].
(4)複数日において深夜唾液中コルチゾール値がその施設における平均値の1.5倍以上を示す[注6].

④確定診断検査
(1)CRH 試験:ヒト(CRH100μg)静注後の血中ACTH頂値が前値の1.5倍以上に増加する.
(2)一晩大量デキサメサゾン抑制試験:前日深夜に大量(8mg)のデキサメサゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が前値の半分以下に抑制される[注7].
(3)画像検査:MRI 検査により下垂体腫瘍の存在を証明する[注8].
(4)選択的静脈洞血サンプリング(海綿静脈洞または下錐体静脈洞):本検査において血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が2以上(CRH刺激後は3以上)ならCushing病,2未満(CRH 刺激後は3未満)なら異所性ACTH症候群の可能性が高い.

[注1] 採血は早朝(8〜10時)に約30分間の安静の後に行う.ACTH が抑制されていないことが副腎性Cushing症候群との鑑別において重要である.血中コルチゾール測定値に関してはRIA による測定値に基づいている.
[注2] 原則として24時間蓄尿した尿検体で測定する.ただし随時尿で行う場合は早朝尿ないし朝のスポット尿で測定し,クレアチニン補正を行う.
[注3] 一晩少量デキサメサゾン抑制試験では従来1〜2mg のデキサメサゾンが用いられていたが,一部のCushing病患者においてコルチゾールの抑制を認めることから,スクリーニング検査としての感度を上げる目的で0.5mgの少量が採用されている.
[注4] 複数日に測定して高値を確認することが必要。
[注5] DDAVP(デスモプレシン)は検査薬としては保険適応がなされていない.
[注6] 複数日に測定して高値を確認することが必要.
[注7] 標準デキサメサゾン抑制試験(8mg/日,分4,経口,2日間)では,2日目の尿中遊離コルチゾールが前値の半分以下に抑制される.
[注8] 下垂体MRI検査での下垂体腫瘍陽性率は1.5テスラのMRIでは60~80%程度である.1.5テスラのMRIで病変が発見できない,または不明確な場合は3テスラのMRIで診断することを推奨する.ただしその場合,小さな偶発種(非責任病巣)が描出される可能性を念頭に置く必要がある.

治療

経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術[Hardy法]

○第一選択.その効果がでるまではステロイド合成酵素阻害薬を用いる.
○術後2~4週の血中コルチゾールの基礎値が2μg/dl以上であれば将来再発する可能性が高い.
○もし手術で腫瘍が完全に摘出できれば術後は一過性の副腎不全になるのでハイドロコーチゾンの補充療法が必要.通常約1年で視床下部-下垂体-副腎系は回復する.

下垂体への定位照射[γ-knife]

○残存腫瘍や手術不能な場合.
○効果発現には長期間(数ヶ月~数年)かかるため,薬物療法との併用が必要.
○晩発性下垂体機能低下症となるリスクがある.

薬物療法

副腎皮質ステロイド合成阻害薬

metyrapone[メトロピン®],mitotane[オペプリム®]

metyrapone→速効性,可逆性ある.保険で認められた.ステロイド合成酵素の11β-hydroxylase阻害薬.ACTHは上昇する.

mitotane→細胞毒性があり,不可逆性(薬剤性副腎摘除),効果発現に1~3ヶ月かかる.副腎皮質でのステロイド合成と副腎皮質細胞の不可逆的破壊をもたらす.

下垂体に作用する薬剤[ACTH抑制]

ドーパミン作動薬,バルプロ酸(デパケン®),シプロヘプタジンなど

ソマトスタチンアナログ

pasireotide シグニフォー®LAR®筋注用キット ノバルティス
5型ソマトスタチン受容体に親和性が高いアナログ

副腎全摘術

上記で効果が十分でない場合.コルチゾール過剰症状を是正し,生命予後をよくするが,生涯にわたるコルチゾール補充の必要性,副腎クリーゼのリスク,Nelson症候群(下垂体腫瘍の増大と皮膚の色素沈着)の出現などが問題になる.

合併症の管理

○高血圧,糖尿病,骨粗鬆症の治療も必要.
○筋力低下による転倒で骨折しやすい.
○精神的にうつになりやすく,自殺企図に注意する.
○蛋白異化作用で血管壁の脆弱性があり出血しやすく,また免疫力も低下しているので感染に注意する.
○血中コルチゾール値が30μg/dL以上の場合は敗血症になりやすいので,抗真菌薬の予防投与を考える.

食事・栄養

○二次性高血圧や糖尿病があれば,塩分やカロリー制限等の食事療法を行う.

予後

○未治療の場合は通常の平均余命より10年程度短いといわれている.
○高血圧,糖尿病,脂質異常症,心血管病(心不全・脳卒中),骨粗鬆症,精神病などの合併症.
○さらに血中コルチゾール値が30~50μg/dLを超えた状態が長く続くと感染症を合併しやすく予後不良である.

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