Cushing病 Cushing disease

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なすび医学ノート

クッシング病

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

慢性のコルチゾール分泌により特有の徴候(Cushing徴候)を呈する病態.

Cushing病は病理学的には良性であるが,経過が長引くと臨床的には治療が難しく悪性に似ているといえる.

おすすめ

間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)
http://www.acromegaly-center.jp/medical/pdf/treatment_guidance.pdf

疫学

発症年齢は40~50歳.中年女性に多く見られ,男女比は約1:4といわれている.

全国推定1250人.

1965~86年にかけて行われた全国調査では,平均して年に約100症例が新規Cushing症例として診断され,そのうち約50%が副腎性,40%程度がCushing病と考えられている.

*ACTH依存性→Cushing病35.8%,異所性ACTH症候群3.6%,異所性CRH症候群<1%
*ACTH非依存性→副腎腺腫47.1%,副腎癌<1.7%,副腎皮質過形成5.8%

原因

原因遺伝子としてUSP8の活性型体細胞変異が40~60%を占めているが,その他,USP48,BRAF,TP53,ATRXなどが報告されている.

ACTH分泌過剰によるもの(ACTH依存性)

1)下垂体からのACTH分泌異常[Cushing病]
・90%以上は下垂体microadenoma(<径1cm)

2)非下垂体腫瘍からのACTH or CRH分泌異常[異所性Cushing症候群]
・肺小細胞癌(50%),肺非小細胞癌(5%),胸腺腫(5%),膵神経内分泌腫瘍(10%),褐色細胞腫(3%),甲状腺髄様癌(5%)

ACTHとは関係なく副腎からの過剰分泌によるもの

Subclinical Cushing病

最近は典型的な臨床症候を示さず,下垂体腫瘍が疑われ,二次的な耐糖能異常や高血圧の精査の途中でACTH-コルチゾール系の自律的な分泌異常がみつかる場合.

*以下の①と②を認め,③を満たす場合,可能性を考慮する.
①画像診断上,下垂体腫瘍の存在が疑われる.
②朝の血中ACTH濃度が正常~高値で,コルチゾール濃度は正常域.
③Cushing病に特徴的な徴候が欠如している.

偽性Cushing病 Pseudo-Cushing Syndrome

精神疾患,種々のストレス等が原因で高コルチゾール血症をきたす病態.

原因としては精神疾患(特にうつ),重症肥満,重症感染症,アルコール多飲,重症糖尿病など.
*重症うつ病の患者では,80%に高コルチゾール血症が認められるため注意が必要.

DDAVP試験→Cushing病では(+),偽性Cushing病では(-).

周期性Cushing病 Periodic Cushing disease

1週間~数ヶ月間隔でホルモン分泌が亢進する.検査の判定に注意が必要.

54%がCushing病,26%が異所性ACTH産生腫瘍,11%が副腎腫瘍.

病態

【生理】
視床下部室傍核で産生されるCRH(corticotropin-releasing hormone)は下垂体門脈を経て下垂体前葉に至り,ACTH細胞(adrenocorticotropic hormone)に働いてACTHの合成と分泌を促進する.
→ACTHは全身に分泌され副腎皮質に作用してコルチゾールの合成と分泌を促す.
→分泌が亢進した血中コルチゾールは視床下部-下垂体前葉に作用しCRHとACTHの分泌を抑制する(negative feedback).

下垂体腫瘍からのACTHは自律性分泌のため,日内リズム(朝方高く,夜低い)が消失する.

腺腫ではコルチゾールによるnegative feedbackに対してACTH分泌は部分抵抗性を示すため,合成グルココルチコイドのデキサメタゾン(DEX)少量では抑制されないが,大量DEXでは抑制される.

腺腫ではCRH受容体が発現しており,CRHに対する反応性は正常または亢進し,さらにバゾプレシン受容体(V2)も発現するため,V2受容体作動薬(DDAVP)に反応する.

ほとんどがACTH産生下垂体微小腺腫(径1cm以下)が原因と考えられ,非腫瘍部のACTH細胞は萎縮している.
・大きな腫瘍ではCrook変成がみられることが多く,CRHやデキサメサゾンに対する反応性が低下しやすい.ACTH細胞の過形成がみられる場合はCRH産生腫瘍の可能性も考慮する.

異所性ACTH産生腫瘍では一般的にDEX,CRH,DDAVPに無反応.

*オーファン核内受容体TR4→正常下垂体では発現が細胞質であるが,ACTHomaでは核に強く染まる.非機能性腺腫においてTR4発現はわずかで,Cushing病では過剰に発現している.ACTHの産生および分泌にもTR4が関与しており,siRNA導入によってACTH mRNAの低下が示されている.

症候

コルチゾール値が高いほど,罹病期間が長いほど増悪する.

サブクリニカルクッシング病では,これらの特徴所見を欠き,下垂体偶発腫瘍として発見されることが多い.

特異的症候

皮下溢血,皮膚の菲薄化

近位筋萎縮による筋力低下(49%)

中心性肥満(81%)

水牛様脂肪沈着(buffalo hump)

満月様顔貌(84%)

伸展性赤色皮膚線条(53%)

小児における成長遅延

非特異的臨床症候

耐糖能異常(47%)

高血圧(84%)

月経異常(60%)

にきび(45%)

浮腫

肥満

骨粗鬆症(48%)

多毛(42%)

色素沈着

うつ状態(18%) ・尿路結石(15%) など

一般検査

白血球増多[好中球増多,リンパ球・好酸球減少]

低K血症

代謝性アルカローシス

高コレステロール血症

高血糖

尿中カルシウム増加(骨粗鬆症で脱灰されたカルシウムは尿中に排泄されるため)

診断

内分泌検査

血中ACTHとコルチゾール(同時測定)

採血は早朝(8~10 時)に,約30分間の安静の後に行う.

ACTH が抑制されていないことが副腎性クッシング症候群との鑑別において重要.

コルチゾール値に関しては,約10%の測定誤差を考慮して判断する.

コルチゾール結合グロブリン(CBG)欠損(低下)症の患者では,血中コルチゾールが比較的低値になるので注意を要する.

尿中遊離コルチゾール測定

原則として24時間蓄尿した尿検体で測定する.

施設基準に従うが,一般に70 μg/日以上で高値と考えられる.
ほとんどの顕性クッシング病では 100μg/日以上となる.

ACTH-コルチゾール系の負荷試験施行中,ステロイド薬(コートリル®,プレドニゾロン®)使用中には原則施行しない.内服中に検査を施行する場合は,等量のデキサメタゾンへ置換する.

血中コルチゾール日内変動

周期性を呈する場合があり,可能な限り複数日に測定して高値を確認する.

唾液コルチゾールの測定は有用であるが,本邦での標準的測定法が統一されておらず,基準値が確定していない.

一晩少量デキサメタゾン抑制試験

一晩少量デキサメタゾン抑制試験では従来1~2 mgのデキサメタゾンが用いられていたが,一部のクッシング病患者においてコルチゾールの抑制(偽陰性)を認めることから,スクリーニング検査としての感度を上げる目的で,0.5 mg の少量が採用されている.

血中コルチゾール3 μg/dL以上でサブクリニカルクッシング病を,5 μg/dL以上でクッシング病を疑う.

血中コルチゾールが充分抑制された場合は、ACTH・コルチゾール系の機能亢進はないと判断できる.

服用している薬物,特にCYP3A4 を誘導するものは,デキサメタゾンの代謝を促進するため偽陽性となりやすい(例:抗菌剤リファンピシン,抗てんかん薬カルバマゼピン・フェニトイン,血糖降下薬ピオグリタゾンなど).

*米国内分泌学会ガイドラインでは 1mgデキサメタゾン法が用いられ,血中コルチゾールカットオフ値は 1.8 μg/dLとなっている.

一晩大量デキサメタゾン抑制試験

著明な高コルチゾール血症の場合,大量(8mg)デキサメタゾン抑制試験では,血中コルチゾー
ルが 1/2 未満に抑制されない例もあるので,注意を要する.

DDAVP試験

DDAVP(4 μg)静注後の血中 ACTH 値が前値の1.5倍以上を示すこともクッシング病の診断に有用.
*DDAVP は検査薬として保険適用外

頭部MRI

下垂体腫瘍の検出率は60~80%.

微小腺腫の描出には,3テスラのMRIで診断することを推奨し,各MRI装置の高感度検出法を用いる.
microadenomaが多いので,必ず造影.

腫瘍の存在が証明できれば,本症の診断はほぼ確実.

健常者でも約10%に下垂体偶発腫瘍がみられる.
→稀ではあるが小さな偶発腫(非責任病巣)が描出される可能性を念頭に置く.

下錐体静脈洞(IPS)・海綿静脈洞(CS)サンプリング

Cushing病と異所性ACTH症候群を鑑別するためのゴールドスタンダード.

下垂体MRIにおいて下垂体腫瘍を認めない場合は必ず行う.

血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が 2 以上(CRH刺激後は3以上)→クッシング病
血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が2未満(CRH刺激後は3未満)→異所性 ACTH症候群の可能性が高い.

本邦では海綿静脈洞血サンプリングも行われている.
血中 ACTH 値のC/P比が3以上(CRH刺激後は5以上)→クッシング病の可能性が高い.

いずれのサンプリング方法でも定義を満たさない場合には,同時に測定したPRL値による補正値を参考とする.

診断と治療の手引き(平成30年度改訂)

確実例:Ⅰの1のいずれかとⅠの2のいずれか+ⅡとⅢのすべて+Ⅳの1・2・3 or 4を満たすもの
疑い例:Ⅰのいずれか+ⅡとⅢのすべてを満たすもの

Ⅰ.主症候

1.特異的症候,2.非特異的症候の中から,それぞれ一つ以上を認める.

1.特異的症候
1)満月様顔貌
2)中心性肥満または水牛様脂肪沈着
3)皮膚の伸展性赤紫色皮膚線条(幅1cm以上)
4)皮膚の菲薄化および皮下溢血
5)近位筋萎縮による筋力低下
6)小児における肥満を伴った成長遅延

2.非特異的症候
1)高血圧
2)月経異常
3)座瘡(にきび)
4)多毛
5)浮腫
6)耐糖能異常
7)骨粗鬆症
8)色素沈着
9)精神障害

Ⅱ.検査所見

1と2を満たす場合,ACTH の自律性分泌を証明する目的で,Ⅲのスクリーニング検査を行う.

1.血中ACTHとコルチゾール(同時測定)がともに高値~正常を示す.

2.尿中遊離コルチゾールが高値を示す.

Ⅲ.スクリーニング検査

1,2を満たす場合,ACTH依存性クッシング症候群がより確からしいと考える.
→異所性 ACTH症候群との鑑別を目的に確定診断検査を行う.

1.一晩少量デキサメタゾン抑制試験
前日深夜に少量(0.5 mg)のデキサメタゾンを内服した翌朝(8~10 時)の血中コルチゾール値が抑制されない.

2.血中コルチゾール日内変動
深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示す.

Ⅳ.確定診断検査

1.CRH試験
ヒト CRH(100 μg)静注後の血中ACTH頂値が前値の1.5倍以上に増加する.

2.一晩大量デキサメタゾン抑制試験
前日深夜に大量(8mg)のデキサメタゾンを内服した翌朝(8~10時)の血中コルチゾール値が前値の半分以下に抑制される.

3.画像検査
MRI 検査による下垂体腫瘍の存在

4.選択的下錐体静脈洞血サンプリング
血中ACTH値の中枢・末梢比(C/P比)が 2 以上(CRH刺激後は3以上)

治療

治療しなければ,心血管疾患,脳血管疾患,重症感染症,骨折などの合併症のため,致死的となる.

高コルチゾール血症を速やかに是正し,生命予後および QOLを改善する.

高コルチゾール血症が重度であり,重症感染症や自殺企図などのリスクがある場合は,診断のための検査より治療を優先させる.

経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術(Hardy法)

第一選択.
合併症などで手術の危険性が高い場合は,薬物療法,放射線療法を考慮する.

手術の効果がでるまではステロイド合成酵素阻害薬を用いる.

術後2~4週の血中コルチゾールの基礎値が2μg/dl以上であれば将来再発する可能性が高い.

手術によって腫瘍が完全摘出されると,二次性副腎不全になることで,グルココルチコイドの補充が一定期間必要となる.
・急激な血中コルチゾール低下によってサイトカインストーム等が生じる例もあり,注意深い観察や十分なグルココルチコイド補充が必要である.
・術後のグルココルチコイド補充期間は,約1年から数年に及ぶこともある.

治療効果判定

手術効果判定は,約1週間後に行う.

前日のグルココルチコイド補充を休止or少量デキサメタゾンに変更して行う.

下垂体腺腫摘出術1週間後の早朝血中コルチゾールが1 μg/dL未満であれば,寛解の可能性が高い.

それ以外の場合は,慎重に経過を観察し,寛解に至らない場合は追加療法を考慮する.

薬物療法

下垂体に作用する薬剤(ACTH抑制療法)

手術後コントロール不良または手術により十分な腫瘍摘出が出来ない場合に行う.

下垂体腫瘍に直接作用してACTH分泌を抑制する可能性があるものとしてソマトスタチン誘導体やドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)があるが,寛解率の高いものは少ない.

ソマトスタチン誘導体

パシレオチドパモ酸塩徐放性製剤 pasireotide
シグニフォー®LAR®筋注用キット ノバルティス

4週間に1回10~40mgを臀部筋肉内注射する.
保険適用あり.
5型ソマトスタチン受容体に親和性が高いアナログ
耐糖能や糖尿病の悪化が高率に見られる. 

ドパミン作動薬

カベルゴリン
1回1mg を上限として週に1回就寝前に経口投与する.
クッシング病で有効であるとする報告では週に2 回以上でさらに多い投与量が使用されている.
保険適用は無い.
効果のある症例は 1/3 程度と考えられる.
腫瘍縮小効果は認めにくい.

その他

下垂体腫瘍の増殖性が強い一部にテモゾロミドが有効な例を認めるが,保険適用ではない.

副腎皮質ステロイド合成阻害薬(コルチゾール抑制療法)

現時点で保険適用となっている薬剤は,メチラポン,トリロスタン,ミトタン.

メチラポン metyrapone

メトロピン®

11β 水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは、比較的即効性で効果の高い薬剤.可逆性あり.

少量から開始し尿中遊離コルチゾールが正常化するまで増量する方法
・メチラポン1回250 mg を1日1回から開始し,数日毎に適時増量する.

内因性コルチゾールを充分抑制する量を内服してヒドロコルチゾンを補充する方法
・メチラポン1回500~1000mgを1日3 回内服し,ヒドロコルチゾン 15~20 mg/日を補充する.
・緊急性のある場合はこちらが推奨
・クッシング病の治療効果判定に尿中遊離コルチゾールを用いる際は,採尿前日から終了までヒドロコルチゾンをデキサメタゾン0.5~1 mg/日へ変更して行う.
・ヒドロコルチゾン最終内服後 24 時間が経過していれば、血中コルチゾールも治療判定に用いることができる.

ACTHは上昇する.

メチラポンによる肝機能障害に注意が必要.

長期使用によって、男性化徴候が悪化する場合がある.

トリロスタン

3β ヒドロキシステロイド脱水素酵素阻害薬.

1回60mg 1日3~4回内服で開始し,尿中遊離コルチゾールを指標に適時増量する.
*1日480 mg まで

効果発現は緩徐.

ミトタン mitotane

オペプリム®

副腎皮質毒性があり萎縮・壊死を生じる.
→副腎皮質でのステロイド合成と副腎皮質細胞の不可逆的破壊(薬剤性副腎摘除)

1回250~500 mg 1日3 回内服で開始し,適時増量する.

効果発現には期間を要する(1~3ヶ月)

副腎皮質の細胞障害が進行した場合,グルココルチコイドの補充が必要である.

CYP3A4に影響するため、各種薬剤との相互作用に注意を要する.

下垂体手術予定者には使用しない.

長期使用によって呂律不全など神経毒性が現れることがある.

オシロドロスタットリン酸塩

イスツリサ®

汎用されている既存薬よりも服用回数が少なくて済み,なおかつ作用が強い.

数十年ぶりに登場したクッシング症候群に対する新薬の実力は?(日経メディカル,2021/10/26)

下垂体への定位照射(γ-knife)

ガンマナイフ、サイバーナイフなど

手術後完全寛解に至らず,薬物療法による効果が不十分で外科的切除が困難な部位に腫瘍が残存している場合,再発の場合で同様な条件を満たす場合に行う.

効果発現には長期間(数ヶ月~数年)かかるため,薬物療法との併用が必要.

晩発性下垂体機能低下症となるリスクがある.

外科的切除が可能な部位に残存あるいは再発を認める場合には再手術も十分に考慮する.

副腎全摘術

下垂体手術・薬物療法・放射線療法が無効で他に治療法がない場合は,両側副腎摘出と生理量のヒドロコルチゾン補充療法を考慮する.

コルチゾール過剰症状を是正し,生命予後をよくするが,生涯にわたるコルチゾール補充の必要性,副腎クリーゼのリスク,Nelson症候群(下垂体腫瘍の増大と皮膚の色素沈着)の出現などが問題になる.

合併症の管理

高血圧,糖尿病,骨粗鬆症の治療も必要.

筋力低下による転倒で骨折しやすい.

精神的にうつになりやすく,自殺企図に注意する.

蛋白異化作用で血管壁の脆弱性があり出血しやすく,また免疫力も低下しているので感染に注意する.

血中コルチゾール値が30μg/dL以上の場合は敗血症になりやすいので,抗真菌薬の予防投与を考える.

食事・栄養

二次性高血圧や糖尿病があれば,塩分やカロリー制限等の食事療法を行う.

予後

未治療の場合は通常の平均余命より10年程度短いといわれている.

高血圧,糖尿病,脂質異常症,心血管病(心不全・脳卒中),骨粗鬆症,精神病などの合併症.

さらに血中コルチゾール値が30~50μg/dLを超えた状態が長く続くと感染症を合併しやすく予後不良である.

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