咳嗽 Cough

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救急マニュアル

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

短い吸気に引き続いて声門の閉塞が起こり,胸腔内圧が上昇し,次いで声門が開いて強い空気の流れとともに気道内容が押し出される現象.

咳は本来気道に侵入する異物や病原体などに対する生体防御反応であるが,過剰な(病的な)咳は患者の苦痛,消耗をもたらす.

疫学

喘息を有しない成人一般住民の約10%が3週以上続く咳を有している.

患者の多くは,発症後1週以内で,その原因の80%以上は感染症とされている.

咳嗽とは?

気道に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生体防御反応.

生理的咳嗽反射経路

気道壁表層の咳受容体の刺激が迷走神経反射を介して延髄核中枢に伝達され,咳嗽が発生する.

病的咳反応経路

咳受容体の感受性亢進を介する経路と気道平滑筋収縮を介する経路がある.
*中枢神経の関与も想定されている.

持続期間による分類

急性咳嗽(3週間以内の咳)

急を要する精密検査や治療が必要な状態を鑑別する必要がある.

バイタルサインの異常(体温≧38℃,脈拍≧100bpm,呼吸数≧24/分のいずれか1つ),胸部聴診所見の異常があれば,肺炎を疑う.

咳嗽がピークが過ぎていない場合は,マイコプラズマ感染症,百日咳,クラミジア感染症が疑われる.

感染性咳嗽

ウイルスや細菌などの病原微生物による気道感染症(上気道炎,気管・気管支炎,肺炎)によって惹起される炎症の部分症状としての咳嗽.
・非結核性抗酸菌や結核などの特殊な病原微生物による感染を除き,咳嗽は自然に消退する.

なすび院長
なすび院長

感染性咳嗽のほとんどは8週以内に軽快する.
頻度が最も高い.

遷延性咳嗽(3~8週間の咳)

一過性の場合,頻度の高い疾患として,咳喘息,アトピー咳嗽/咽頭アレルギー,胃食道逆流症,感染後咳嗽が考えられる.

感染後咳嗽

原因微生物が免疫力or抗菌薬の投与により,既に排除されているか少なっている状態で,咳嗽が後遺症として残っている状態.
・肺結核や非定型感染症などは例外的に慢性化することがある.

感染症以外の原因による咳嗽

咳喘息
胃食道逆流症
副鼻腔気管支症候群
慢性気管支炎
COPD
アトピー咳嗽
喉頭アレルギー(慢性)

慢性咳嗽(8週以上持続する咳)

咳喘息が最多.
遷延性咳嗽と同じく多彩.
・感染性咳嗽の比率は10%程度と低い.

性状による分類

乾性咳嗽(痰を伴わない)

種々の機械的・化学的刺激などによって生じる咳感受性亢進,気道攣縮で生じる.

湿性咳嗽(痰を伴う)

痰による機械的刺激が主体.

病態

咳は迷走神経受容体への刺激によって生じる.
→理論的には迷走神経知覚枝が分布する臓器への刺激や炎症などにより咳は起こる.

咳受容体→咳中枢(延髄)・大脳皮質→遠心路→呼吸筋へとインパルスが到達し,咳が発生する.

感染性咳嗽

気道の炎症が粘液の過産生やクリアランスの低下を起こすこととが重要な機序.

鼻腔や副鼻腔の炎症により,咽喉頭部に分泌物が低下することによって,咳受容体が刺激されると考えられる.

経過とともに気道上皮傷害と一過性の気道過敏性亢進を伴うor伴わない炎症が起こり,感染後咳嗽とoverlapする.

気道の過敏性を伴う場合でも,喘息に認められるような好酸球の浸潤はみられず,アトピー性咳嗽におけるような咳感受性の亢進も認められない.

ウイルス感染自体は,胃食道逆流を起こさないが,持続する咳嗽が腹圧を上げ,逆流を惹起し,その結果,咳嗽を誘発するとされる.

ウイルス

ライノウイルスが最も多く,ついでコロナウイルス,インフルエンザウイルス,RSウイルス,パラインフルエンザウイルス,エンテロウイルス,アデノウイルス,マイコプラズマ,クラミジア,ヒトメタニューモニアウイルス.

経過とともに自然軽快し,気道上皮傷害が進むにつれて,局所の炎症が進み,膿性痰として喀出されるようになる.
→抗菌薬では改善につながらない.

マイコプラズマ

咳感受性亢進はなく,一過性の気道過敏性亢進と考えられている.
・マイコプラズマが気道線毛上皮細胞に感染すると,産生する過酸化水素により気道上皮の破壊・剥離が起こり,粘膜下に分布するC線維を中心とした神経線維が気道内腔に露出する.
・外界からの刺激で神経から神経ペプチドを放出し,上皮細胞直下の粘膜下組織に存在する咳受容体を刺激し,咳嗽を誘発するとされる.

百日咳菌

線毛上皮細胞の線毛間で定着,増殖しながら感染部位を拡大していくが,非線毛上皮細胞には定着しない.
→この過程のおいて,種々の接着因子や毒素性病原因子を産生し,気管支上皮を傷害することから咳嗽を誘発するとされる.

診断(遷延性・慢性咳嗽)

原因が比較的容易に特定できる咳嗽→広義の成人遷延性・慢性咳嗽

まずは医療面接・身体所見・胸部X線写真などで,原因が推定できるかどうか?

・肺結核などの呼吸器感染症
・肺癌などの悪性疾患
・喘息
・COPD
・慢性気管支炎
・気管支拡張症
・薬剤性肺障害
・心不全
・鼻副鼻腔疾患など

容易に原因が特定できない咳嗽→狭義の成人遷延性・慢性咳嗽

喀痰あり

可能であれば精査(喀痰塗抹・培養,細胞診,細胞分画,胸部CT,副鼻腔X線orCT)を行い,以下の存在を確認する.
・副鼻腔炎
・気管支拡張所見
・好中球性気道炎症
→あれば,副鼻腔気管支症候群を疑い,14・15員環系マクロライド系抗菌薬(まずはエリスロマイシン,クラリスロマイシンは×)8週間で治療的診断を試みる.
耳鼻科専門医に紹介を検討.

喀痰なし,ありでも少量or一過性(感染合併など)

頻度の高い疾患を鑑別に挙げ,治療的診断を試みる.

咳喘息→気管支拡張薬 ICS(+LABA)2週間 メプチン®吸入でもベネトリン®吸入でも

アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)→ヒスタミンH1受容体拮抗薬 2週間

GERD→PPI(できれば2週間,4~8週間) or H2受容体拮抗薬,消化管運動機能改善薬

感染後咳嗽→対症療法2週間

鑑別疾患

感染性咳嗽

随伴症状がポイント.
・発熱を伴う咳嗽の多くは感染性咳嗽

ウイルスによるものは,非特異的上気道炎症状が先行することが多い.
マイコプラズマや百日咳では,周囲に同様の咳嗽患者がいる頻度が高い.
・成人の百日咳は,典型的な症状(staccato,whoop,reprise)を示さないことがよく知られている.

程度に日差があるが,好発時間はなく,一般的に1日中続く.

喘息,咳喘息

典型例では,夜間から早朝に悪化しやすい.

アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎・咽喉頭炎

典型例では,朝起床後の6~9時と就寝前後に悪化しやすい.

季節性が有用.
1~4月頃はスギ,ヒノキ
4~7月頃はカモガヤなどのイネ科
8~11月頃のブタクサ,ヨモギなどのキク科

咽喉頭のイガイガ感や掻痒感が特徴.

胃食道逆流症

典型例では,食後満腹時,就寝前の食事後に横臥したとき,上半身前屈時に悪化する.

頻度は高い.

治療

中枢性鎮咳薬は頻用されるが,無効例が多く,防御機構としての咳の抑制と誤嚥リスクを惹起し,副作用(便秘・眠気など)も多い.
→まずは原因をみつけ,特異的治療がないか考える.

特異的治療がない乾性咳嗽(感染後咳嗽など)では中枢性鎮咳薬を使用してよいが,痰の排出目的で発生する湿性咳嗽の対症療法には喀痰調整薬を用いる.

原因疾患に対する特異的治療

病歴と検査で「目星」をつけ(治療前診断),その特異的治療の奏功により診断が確定する(治療後診断).

咳喘息→気管支拡張薬

GERD→PPI or H2受容体拮抗薬,消化管運動機能改善薬

副鼻腔気管支症候群→マクロライド系抗菌薬

アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)→ヒスタミンH1受容体拮抗薬

COPD,慢性気管支炎→禁煙

ACE阻害薬による咳→薬剤中止

去痰薬

湿性咳嗽の場合

中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)

非特異的.
原因とは無関係に中枢レベルで咳を抑え込む.防御機構として「必要な咳」も抑制する.

明らかな上気道炎~感染後咳嗽や,胸痛/頭痛,肋骨骨折などの咳の合併症を伴い,患者のQOLを著しく低下させる乾性咳嗽にとどめる.

脳梗塞などの脳血管障害では,咳反射や嚥下反射が障害されて誤嚥を生じやすくなるため,注意.

麻薬性

コデインリン酸塩水和物(コデインリン酸塩®)
ジヒドロコデインリン酸塩(ジヒドロコデインリン酸塩®)

オピオイド受容体を活性化し,延髄孤束核にある咳中枢を抑制して,鎮咳作用を示す.

高い鎮咳効果が期待できる反面,便秘・眠気・嘔気・呼吸抑制などの副作用に注意が必要.

ジヒドロコデインリン酸塩はコデインリン酸塩水和物より強い(約2倍).

禁忌
12歳未満の小児
重篤な呼吸抑制や肝機能異常を有する患者
気管支喘息発作中の患者
慢性呼吸器疾患に続発する心不全患者痙攣状態にある患者など.

非麻薬性

デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(メジコン®)
チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®)
ジメモルファンリン酸塩(アストミン®)
エプラジノン塩酸塩(レスプレン®)
ペントキシベリンクエン酸塩(トクレス®)
クロペラスチン(フスタゾール®)
ベンプロペリンリン酸塩(フラベリック®)
クロフェダノール(コルドリン®)など

鎮咳効果は麻薬性に及ばないが,副作用が少なく,耐性や依存性が少ないという利点がある.

デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の重要な基本的注意として,「眠気を催すことがあるので,本剤投与中の患者には自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意する」と記載あり.

チペピジンヒベンズ酸塩は,気管支腺分泌亢進作用と気道粘膜線毛上皮運動亢進作用による去痰.

エプラジノン塩酸塩は喀痰粘調度低下作用による去痰.

ベンプロペリンリン酸塩は,気管支平滑筋弛緩作用を有する.

クロペラスチンは即効性があるのが特徴.

末梢性鎮咳薬

特異的.少なくとも初診時からの使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や,胸痛/頭痛/肋骨骨折などの咳の合併症に伴い,患者のQOLを著しく低下させる乾性咳嗽にとどめる.

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