咳喘息 cough variant asthma

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽が唯一の症状,呼吸機能がほぼ正常,気道過敏性軽度亢進,気管支拡張薬が有効で定義される喘息の亜型(咳だけを症状とする喘息).

喘鳴は認めない.
*わずかでも喘鳴を認める症例は「咳優位型喘息」と呼ぶ.

疫学

我が国における慢性咳嗽の原因疾患として最も頻度が高く,成人慢性咳嗽では咳喘息が約半数を占める.

小児では男児にやや多いが,成人では女性に多い.

原因

アレルギーの関与

外因性抗原に対する特異的なIgE抗体が陽性の咳喘息が約60%前後で認められる.
・個々の抗原での特異的IgE抗体の陽性率,陽性抗原数,総IgE値は典型的喘息に比して低い.
・抗原特異的IgEが陰性で,総IgE値も正常な非アトピー型の咳喘息も存在する.

抗原刺激によるTh2リンパ球を介した獲得免疫応答の他に,気道上皮の直接刺激による2型自然リンパ球(group 2 innate lymphoid cells;ILC2)を介した自然免疫応答や,好中球などによるnon-type 2炎症も病態に関与している可能性が示唆されている.

病態

気道炎症や気道過敏性亢進に基づく軽度の気道平滑筋攣縮が,咳受容体(Aδ受容体)を刺激して咳を生じると考えられる.

気道攣縮と気道過敏性

FEV1(1秒量),PEF(peak expiratory flow)などの気道閉塞指標は正常範囲内のことが多い.
・PEFは咳嗽が強いときに低下し,軽快すると改善する.
・FEV1の経年低下は健常者・アトピー咳嗽患者と同程度だが,難治例では顕著となりうる.

最大呼気中間流量(maximum mid-expiratory flow;MMF),V25など末梢気道閉塞の指標はしばしば低値を示す.
→フロー・ボリューム曲線は下に凸となることが多い.

気道過敏性は,典型的喘息に比して軽度あるいは同等.

気道炎症と気道リモデリング

喀痰,気管支肺胞洗浄液・気管支生検組織中の好酸球数が増加しており,重症度と相関する.
→好酸球の病態への関与が想定される.

生検組織に好中球も増加すること,喀痰中に好酸球,好中球の両者が増加している患者では吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid;ICS)治療に抵抗性を示すことから,典型的喘息と同様に好中球性炎症を含めたnon-type 2炎症の関与も示唆される.

炎症の持続に伴う気道リモデリングも典型的喘息と同様に存在し,抗炎症治療の重要性が示唆される.

カプサイシン咳受容体感受性

何らかの化学刺激によりカプサイシン受容体TRPV(tanseinet potential vanilloid)1が刺激されることで咳受容体感受性が亢進して咳嗽を生じるメカニズムが喘息にも存在することが報告されている.

臨床経過

咳嗽は,就寝時,深夜あるいは早朝に悪化し易いが,昼間にのみ咳を認める患者も存在する.

症状の季節性がしばしば認められる.

喀痰を伴わないことが多いが,湿性咳嗽の場合も少なくない(痰は通常は少量で非膿性).

喘鳴は自・他覚的に認めず,強制呼出時にも聴取されない.

上気道炎,冷気,運動,受動喫煙を含む喫煙,雨天,湿度の上昇,花粉や黄砂の飛散などが増悪因子となる.

逆流性食道炎との合併が多いことも報告されている.

検査

呼吸機能検査

末梢気道閉塞の指標であるMMF,V25の低下,下に凸のフロー・ボリューム曲線を認めれば,診断の参考になる.

気道炎症のモニタリング

喀痰好酸球増多,FeNO上昇は補助診断に有用.

・FeNOは喘息/咳喘息の補助診断指標としてのみならず,同じ好酸球性気道炎症を起こす非喘息性好酸球性気管支炎との鑑別にも有用である可能性が示唆されている.
・FeNOが上昇しない咳喘息も存在するので注意.

気道過敏性検査

欧米で重要視されているが,限られた施設でしか施行できず,診断における感度,特異度は100%ではない.

気道過敏性亢進が確認できれば,アトピー咳嗽/喉頭アレルギーとの鑑別にもなり,診断の補助になる.

咳受容体感受性検査

咳嗽誘発物質であるカプサイシン,クエン酸,酒石酸などを低濃度から順次吸入し,気道壁表層に存在する咳受容体の感受性亢進の程度を評価する.

安静換気法

咳嗽誘発物質溶液を低濃度から順次15秒間吸入し,45秒間観察することで,最初に咳嗽が5回以上誘発された咳嗽誘発物質溶液濃度(C5)を咳閾値とする.

ドシメーター法

咳嗽誘発物質溶液を低濃度から順次1呼吸吸入し,1分間の咳嗽数を観察することで咳閾値(C5)を決定する.

診断

診断基準

下記1~2をすべてを満たす.
1)喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上持続
・聴診上もwheezesを認めない.
2)気管支拡張薬(β2刺激薬など)が有効
*3~8週間の遷延性咳嗽であっても診断できるが,3週間未満の急性咳嗽では原則として確定診断しない.

参考所見
1)末梢血・喀痰好酸球増多,FeNO濃度高値を認めることがある(特に後2者は有用).
2)気道過敏性が亢進している.
3)咳症状にはしばしば季節性や日差があり,夜間~早朝優位のことが多い.

・テオフィリン製剤に比べて安全で気管支拡張作用が強いβ2刺激薬の使用が推奨される.
・診察中の咳嗽や突発的に生じる咳嗽であれば,短期間作用性β2刺激薬(shrot-acting β2 agonist;SABA)の吸入で即座に効果判定できる.
・夜間咳嗽が続く場合には,長時間作用性薬剤(貼付or吸入)を1~2週間投与して効果をみるのもよし.
・気管支拡張薬の有効性確認が待てない状況では,ICS常用に咳嗽時の吸入SABA頓用で治療を開始してもよい.

治療

気道炎症や気道リモデリングが病態生理学的背景に存在することから,典型的喘息と同様に,吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroides;ICS)を第一選択薬とした長期治療を行う.

既治療例で症状が残っていたら,ICSを高用量まで増量しながら適宜他の長期管理薬を追加する.

未治療例における治療開始時の治療は症状の強さに基づいて決定する.

軽症例

中用量のICS単剤で加療する.

・製剤の特徴を理解し,患者に合った咳が惹起されにくい薬剤を選択する.
・治療効果が乏しい場合,他のICSへの変更により改善することが少なくない.

吸入手技,アドヒアランスや局所副作用のためICSを使用しにくい場合には,咳喘息でも好酸球性炎症の抑制作用を発揮し単剤での短期的有効性が知られるロイコトリエン受容体拮抗薬を代替薬として用いる.
・典型的喘息への移行防止作用があるかは不明.

中等症以上

中~高用量ICSを中心に,必要に応じて長時間作動型β2刺激薬(long-acting β2 agonist;LABA),ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA),長時間作用性抗コリン薬(long-acting muscarinic antagonist;LAMA),徐放性テオフィリン製剤を併用し,ICS増量も考慮する.

・ICS以外の長期管理薬の優先選択順位は確立されていないが,LABA・LTRAの2剤が使いやすい.
・個々の薬剤への反応性や副作用の出現し易さは患者毎に異なるので,薬価や患者の嗜好も考慮して薬剤を選択する.
・必要なら2剤以上を上乗せする(吸入ICS/LABA配合薬も使用可能).

悪化時の治療

上気道炎などによる悪化時や,ICS吸入により咳嗽が誘発される場合,連夜の睡眠障害など症状が強い場合には,短時間作用性吸入β2刺激薬を頓用で用いながら経口ステロイド薬を短期間併用する.
・PSL 20~30mg/dayを3~7日間,最長14日間以内にとどめる.

難治例への対応

抗メディエーター薬(抗トロンボキサン薬など)が著効することがある.
しばしば合併するGERDの治療も考慮する.

予後と長期治療

経過中に成人では30~40%程度,小児ではさらに高頻度で喘鳴が出現し,典型的喘息に移行する.
→後ろ向き研究でICSの診断時からの使用により典型的喘息への移行率が低下することが示されている.
→移行例では非移行例と比較していくつかの抗原に対する特異的IgE抗体陽性率が高く陽性抗原数も多いことから,感作抗原の回避も重要.

ICSを中心とする治療で大多数の症例で咳嗽は速やかに軽快し,薬剤を減量できるが,治療中止によりしばしば再燃する.
・難治例,症状持続例では必然的に長期の治療継続が必要であり,患者のアドヒアランスも比較的保たれる.

治療開始後短期間で症状が軽快,消失した患者

いつまで治療を続けるかのエビデンスはないが,治療継続が推奨されるため,過去1年以上治療を行い,ICSが低用量まで減量でき,無症状であれば,ICSの中止を考慮してもよい.

季節性が明らかな患者

過去数年以上再現性を持って一定の季節にだけ咳症状が生じていれば,喘息における推奨に基づいて症状の生じる時期に治療を開始し,季節を過ぎれば治療を止めてよい.
ただし,経過中に通年性に移行しうるので注意する.

通年性に症状があるか,初発で季節性の有無が不明な患者

2~3カ月毎に症状を評価し,無症状かほぼ無症状ならICS以外の長期管理薬を1 剤ずつ減らして行き,さらにICSを半減して行く.

治療開始1~2 年後にICSを最低用量まで減量できて無症状なら中止を考慮して良い.
ただし再燃の可能性を説明しておく.

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