慢性冠症候群 chronic coronary syndrome;CCS

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

慢性的な冠動脈の器質的狭窄により冠血流が遮断されることで生じる疾患.

従来,安定冠動脈疾患と呼ばれていたが,必ずしも安定しておらず,冠動脈プラーク破裂によりいつでもACSに発展する可能性ががあることを念頭に置いた対応が必要であることを喚起するため,CCSと呼ばれるようになった.
→生涯に亘って生活習慣改善と薬物療法によるリスク管理が必要.

1)胸部症状を有する冠動脈疾患(coronary artery disease;CAD)疑い
2)心不全,低左心機能を有するCAD疑い
3)ACS or CCSに対する冠血行再建1年以降
4)CCS診断or冠血行再建1年以降
5)攣縮性or微小血管狭心症
6)無症候性CADを含むもの

病態

狭窄により冠内圧が低下しても自動調節能が働き安静時血流は保たれるため,原則安静時には症状は発生しない.

狭窄が85~90%狭窄以上の高度狭窄となり,冠内圧が自動調節能の閾値(約40mmHg)を下回ると,安静時でも冠血流が低下し,虚血を生じる.
・高度狭窄/完全閉塞の場合,他の冠動脈からの側副血行路が発達し,安静時の冠血流は保たれることも多い.

安静時の冠血流は自動調節能による保たれるが,運動時など心筋酸素需要量が増加した場合にはそれに見合う冠血流量が供給されなくなり心筋虚血が生じる.

冠動脈形態評価

冠動脈CT

ヨード造影剤を末梢静脈から注入し,冠動脈の造影を行う検査(coronary CT angiography;CCTA)と心筋パフュージョン検査(CT parfusion;CTP)の2種類がある.

心筋虚血を未だ認めない早期プラーク検出から生命予後に影響を及ぼす左主幹部病変検出まで,幅広く形態学的情報を得ることができる.

1)CCTAは,50%以上の狭窄度を判定する感度89%,特異度96%と報告されている.
2)陰性的中率も高い→CCTAが正常であれば,経過観察が推奨.
3)CCTAでは不安定プラークを検出することも可能.

なすび院長
なすび院長

ヨーロッパのガイドラインでは,初期診断として直接CCTAによる診断から開始していいとしている.

冠動脈にCa沈着が起こると狭窄度の判定が難しくなる.
→事前に冠動脈カルシウムスコア(coronary calcium score;CCS)検査を事前に実施する.
・心電図同期下,非造影にて行える簡便な検査で,被爆も少ない.
・CCS≧400は中等度リスク,CCS≧1000では重症冠動脈疾患が含まれている確率が上昇.

CCTAが異常or判定不能となった場合→心筋虚血評価(負荷心筋血流イメージング,負荷心エコーなど),異常がある場合は直接冠動脈造影もあり.

冠動脈CTで50%以上の狭窄病変を認める病変のうち,45%が侵襲的FFR検査で虚血所見は認めなかったことが報告されている.
→FFRCTは,この冠動脈CTの限界を超えうる.

適応

慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(本邦)
CCSを疑う患者には運動負荷試験を推奨し,中等度リスクor判定不能の症例or運動負荷試験不能例に冠動脈CTや心臓核医学検査などの施行する.

CCSガイドライン(欧州医学会)
運動負荷試験はCAD診断において推奨される検査ではなく,検査前診断確率の低い症例には冠動脈CT,検査前確率の高い症例には心臓核医学検査などの心筋虚血評価or冠動脈造影検査を推奨する.

エビデンス

CCS患者の早期冠動脈プラーク検出によるスタチンの早期介入,服薬アドヒアランス向上による死亡/心筋梗塞発症の有意な減少を認めた(SCOT-HEART試験).

心臓MRI

1)冠動脈MRA検査は,被爆なく,ガドリニウム造影剤を使用せず,石灰化の影響も受けない.
→完全非侵襲であるため,検査前確率の低い患者に対するスクリーニングや経時的変化をみるのに有用.
2)CT検査に比較して空間解像度が低い.
3)有意狭窄冠動脈の診断精度は,感度88%,特異度72%と報告.

CCTAでは呼吸停止下に撮影するが,MRA検査では撮影時間が長いため,ナビゲーターエコー法という呼吸同期法を用いて撮影.

冠動脈造影 coronary angiography;CAG

確定診断,重症度評価,治療方針決定のために重要な役割を果たす.

冠動脈造影で映し出される狭窄の解剖学的重症度と,冠血流や冠内圧で評価する血行動態的重症度はしばしば乖離する.
→生理学的検査に基づく血行動態的重症度を重視する.

心筋虚血評価

待機的PCIをする場合,PCI施行前の心筋虚血評価が重要.

心筋虚血を認める病変に対して薬物療法を施行した際は5~10%/年の頻度で死亡・心筋梗塞を発症するが,PCIを施行すれば2~3%/年の頻度に抑制する(COURAGE試験,FAME試験,FAME-2試験など).

心筋虚血を認めない病変に対して薬物療法を施行したときの死亡・心筋梗塞発症頻度は1%未満.
→PCIを施行することは予後を悪化させることになる.

運動負荷試験

本邦のガイドライン(2018年)では,安定狭心症患者診断の初めに運動負荷試験によるリスク層別化を推奨している.
*十分な運動が不可能な場合には,直ちに画像診断モダリティから開始.

比較的安価に運動耐容能を見ることが可能.
・運動時の症状の原因や運動耐容能を明らかにし,運動処方に役立てることができる.

メタ解析では,冠動脈疾患診断感度68%,特異度77%と報告されている.

通常のCAGで複数の血管に狭窄があった場合に,どの血管狭窄が最も心筋虚血を誘発したか推定するのは困難であるが,心筋シンチグラフィでは容易に推定可能になる.

Dukeトレッドミルスコア

運動時間(分)-(5×ST 偏位)-(4×狭心症スコア)
*狭心症スコア:負荷試験中に狭心症症状があれば1点,狭心症症状が運動中止の理由なら2点

スコア~-11:高リスク
→冠動脈造影

スコア-10~+4:中リスク
冠動脈CT or 心筋虚血評価(負荷心筋血流イメージング,負荷心エコー)

スコア+5~:低リスク
→経過観察

心臓シンチグラフィ

①心筋虚血部位を画像的に明確にする.
「虚血心筋の見える化」「定量性」「再現性」
②負荷検査が必要.

正常心筋と虚血心筋or梗塞心筋に取り込まれるアイソトープから放射されるγ線カウントの差をコントラストの違いとして画像化する.
・左室の正常心筋と,梗塞や虚血が誘発されている異常心筋の境界を認識し,それが左室心筋全体の何%に及んでいるのか数値化することが容易.
・数値は日本人の正常マップから画像解析ソフトウェアが自動的に算出し,撮影後の画像再構成処理に人為的な影響が及ばないため,再現性が高い.

外来で施行可能で,特に腎機能低下において懸念される造影剤を使用しない診断モダリティ.

冠血行再建術の適応としては,5~10%以上の虚血心筋量を証明することが望ましい(J-ACCESS4).
・心事故回避/予後改善のため.
・多枝病変や左冠動脈主幹部病変における虚血心筋量の過小評価には注意が必要.

負荷方法

運動負荷(トレッドミルやエルゴメーター)
・血圧と脈拍を増大させ,心筋酸素需要と実際に供給される血流差により心筋虚血が誘発される.

血管拡張性負荷(アデノシン)
・血圧と脈拍を増大させ,心筋酸素需要と実際に供給される血流差により心筋虚血が誘発される.
・有意狭窄冠動脈の末梢心筋と正常心筋間の血流増大量に差が生まれる(jeopardized myocardium).

ドブタミン負荷
・保険適応は,心エコー検査にある.

冠血流予備比 coronary flow reserve;CFR

安静時の冠血流に対して,心筋最大充血時に何倍冠血流が増加するかを表す指標.

狭窄の血行動態的重症度を判定するために,心筋最大充血を誘発する.
・心臓カテーテル時には,アデノシン三リン酸,塩酸パパベリン,ニコランジルといった血管拡張薬を使用する.

心筋最大充血時の冠血流は冠動脈狭窄が50%程度までは影響を受けないが,それ以上の狭窄で低下し始め,75%以上の高度狭窄でCFR≦2.0となる.
→CVR≦2.0で,心筋虚血を誘発し得る血行動態的有意狭窄と診断する.

冠動脈狭窄以外に,冠微小血管障害,左心機能低下,左室肥大,左室拡張末期圧の上昇では,CFRが低下する(心筋最大充血時の血流が低下).

頻拍,心拍数上昇,収縮期血圧上昇,収縮能上昇では,CFRが低下(心筋酸素需要量が亢進し,安静時血流量が増加)

侵襲的FFR/iFR fractional flow reserve/instantaneous wave-free ratio

心臓カテーテルで冠動脈造影する際に,プレッシャーワイヤーを用いて評価.

冠動脈狭窄の遠位部と近位部の圧の比で計算される.
・FFRは血管拡張薬を用いて心筋最大充血時に測定(末梢血管抵抗を一定にする)
・iFRは安静に測定(拡張期の後半75%のwave-free periodと呼ばれる自然に末梢血管抵抗が一定and小さくなる特殊な時相)
冠内圧に基づく冠血流推定のための指標.
→PCIの適応病変を最終判断するのに有益.

FFRは,冠動脈狭窄がなかった場合に比較して,狭窄によってどの程度冠血流が減少しているかを表す.
・FFR<0.75の場合に感度88%,特異度100%,陽性的中率100%,陰性的中率88%,診断精度93%で,心筋虚血が同定できる.

1)CAGで中等度狭窄病変が存在する場合に,FFRで心筋虚血が陰性であればPCIを行うよりも,薬物療法を行うほうがいい.
2)PCIを行う場合に,血管造影による狭窄度に基づいて実施するよりも,血管造影にFFRを加えて虚血が証明された病変のみにPCIを行うほうがいい.
3)FFRで虚血が証明された病変に対しては,薬物療法単独よりもPCIを加えたほうがよい.

プレッシャーワイヤーの操作性,複雑病変の存在,ワイヤーによる病変合併症の問題があるため,全待機的PCIの20~30%の使用にとどまる.

FFR-CT

64列以上の冠動脈CT画像情報をもとにスーパーコンピュータを用いて数値流体力学解析よりFFR値(fractional flow reverse)を算出する.
→FFRCT値≦0.80で,機能的に有意狭窄である可能性あり.

特異度86%,感度84%,診断精度84%(NXT試験)

PCI or CABGの最適な冠動脈血行再建術を決定する上で,冠動脈造影を行うことなく,FFRCTのみで可能(SYNTAX-Ⅲ試験).
・形態診断のみであるCCTAに加えて,虚血の責任病変に関わる病変の検索に優れる.

治療

予後改善のために,生涯に亘ってACS発症のリスク管理が重要.
→冠動脈再建の有無に関わらず,生活習慣改善と薬物療法が求められる.

生活習慣

食事療法

運動

包括的心臓リハビリテーション

禁煙

睡眠

睡眠呼吸障害に対する介入

薬物療法

脂質管理

プラーク安定化のために厳格な脂質管理が重要.

高リスク患者:LDL-C<70mg/dL目標
・スタチンによる冠動脈疾患の二次予防においてはLDL-Cの治療目標値を70mg/dL程度まで低下させることにより,100mg/dL前後を目標とした場合に比べて,冠動脈イベントの抑制がみられる.

抗血小板薬

アスピリンの一次予防効果はスタチン投与下では乏しく出血性合併症を増加させる

心血管疾患のハイリスク患者にアスピリンを投与することにより大血管イベント,心筋梗塞,心血管死は20~30%減少する.
・アスピリンの投与量としては75~150mg/日で十分効果が認められた.
・日本人を対象としたアスピリンの冠動脈疾患の二次予防試験でも冠動脈疾患の発症抑制が認められている.

二次予防においてはACS発症予防に2剤抗血小板薬投与が推奨されるが,出血性合併症を高率に認めるため,高出血リスク患者にはP2Y12受容体阻害薬単剤療法(プラスグレル,クロピドグレル)が推奨される.
・クロピドグレル(プラビックス®)は,アスピリンに比べて2型糖尿病患者の心血管イベントの二次予防に有効である可能性がある.

降圧薬

RAS阻害薬,Ca拮抗薬,β遮断薬

血糖降下薬

SGLT2阻害薬,GLP-1受容体作動薬

血行再建術

経皮的冠動脈インターベンション percutaneous coronary intervention;PCI

CHIP:complex and high-risk intervention in indicated patients

ハイリスク患者に対するPCI.
1)基礎疾患:高齢,合併症,手術不能(surgical turn down)
2)左室機能/血行動態:左室機能低下,循環不全
3)解剖学的複雑度:慢性完全閉塞(chronic total occlusion;CTO),重度石灰化,多枝病変

石灰化病変破砕

ロタブレーター
・先端にダイヤモンドの粒を装着した金属を血管内で高速回転することで石灰化病変を削ることができる.

ダイヤモンドバック
・ダイヤモンドで構成されたクラウンと呼ばれる部分が先端ではなく,少し近位にある.
→クラウンを軌道回転させることで石灰化病変を大きく削ることが可能,前方向だけでなく,後方向にも削れる.

レーザー
・カテーテル先端から照射されるレーザー光による,蒸散の力を利用し,石灰化病変を変性させる.
・石灰化病変だけでなく,CTO病変の治療やステント再狭窄,心筋梗塞時の血栓の治療にも有効.

冠動脈バイパス術 coronary artery bypass grafting;CABG

適応

かつては,多枝病変や左主幹部病変に対する第一選択であった.
DESの登場と進化により適応が変わってきているが,LMT病変(特に複雑度の高い病変)についてはやはりCABGが望ましい.

1)SYNTAXスコア33以上の高度複雑病変
2)糖尿病を合併した中等度複雑病変
3)LMT分岐部病変
4)低左心機能症例

PCIとCABGの比較試験(3枝病変or左主幹部病変)では,5年時点の心筋梗塞,再血行再建はPCI群で有意に多く,結果として主要脳血管イベントの発生は,CABG群26.9%,PCI群37.3%とPCI群で有意に高値であった(SYNTAX試験).
→CABGの遠隔成績は,冠動脈病変の複雑度に影響されず,冠動脈病変の複雑度の高い症例に対してより威力を発揮する.

人工心肺非使用冠動脈バイパス術 off-pump coronary artery bypass grafting;OPCAB

現在,CABG全体の約60%がOPCAB.

OPCABやONCABに比べ,技術的難易度が高く,経験豊富な外科医による施行が望ましい.

OPCABはONCABに比べ,脳血管障害が少ない,急性腎障害が少ない,手術死亡が少ないといったメリットがある.

グラフト選択

良質なグラフトを適切な標的冠動脈に吻合することが重要.

内胸動脈 internal thoracic artery;ITA
・極めて良好な長期開存性と予後改善効果を示す.
・左内胸動脈(LITA)を用いた左前下行枝の血行再建は,CABGにおけるゴールドスタンダード.
・右内胸動脈もLITAと同様の長期開存性を示し,第二の動脈グラフトとして広く使用されている.

橈骨動脈
胃大網動脈
・ITAと異なり筋性動脈であり,血管攣縮や狭窄度の甘い標的冠動脈では血流競合が起こりうる.

大伏在静脈

低侵襲冠動脈バイパス術 minimally invasive cardiac surgery coronary artery bypass grafting;MICS-CABG

左肋間開胸アプローチにより多枝バイパスを可能とする.
右冠動脈や回旋枝領域の血行再建も可能.

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