コレステロール塞栓症 cholesterol crystal embolism;CCE

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なすび医学ノート

コレステロール結晶塞栓症

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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当ブログは一切の責任を負いません.

大動脈および大血管の動脈硬化性プラーク(アテローム粥腫)が何らかの原因で破綻することにより,その構成成分であるコレステロール結晶が破壊され,全身の末梢小~中血管に流出して機械的閉塞と炎症反応によって末梢臓器障害をきたす疾患.

三大徴候:腎不全、皮膚病変、好酸球増多

疫学

頻度

診断が難しいことから,正確な発症頻度はよくわかっていない.
腎生検からの報告では約1%程度にコレステロール塞栓が認められるが,60歳以上の高齢に限れば,4-5%の頻度まで上昇する.

予後

背景に重度の動脈硬化性病変が存在するため,従来の報告では1年死亡率は64~81%と予後不良であったが,本症の認知度の増加に伴い,早期診断されるようになり,最近の1年死亡率は20~30%といわれるようになってきている.

腎機能障害を生じた場合には30%程度が透析を要し,離脱できるのはこのうちの30%程度と報告されている.
末期腎不全への動脈硬化の強い症例が多く,もともとハイリスクの患者が多いため,予後は他のCKDの原疾患と比較しても不良な部類に入る.
・末期腎不全への進展は多く,5年間の観察期間で25%程度が末期腎不全となり,40%程度が死亡したとの報告がある.
・透析導入後の離脱症例が多いことも報告されている.

原因

原因が大動脈の動脈硬化性プラークの破綻であることから,高度な動脈硬化を起こす病態がリスクファクターとなる。
⇒高齢,高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙,男性,冠動脈疾患,末梢動脈疾患,腹部大動脈瘤など
*CRP高値も発症のリスクになることが報告されているが,脆弱なプラークの存在を示唆する所見として最近注目されている.

発症には医原性の要因が関与することが多く,その大部分は血管内カテーテル操作や心血管手術などの心血管手技であり,心臓のカテーテル検査や経皮的冠動脈形成術後の約1.4~2.0%に発症するとされる.
・脆弱なプラークの修復機構を阻害し,破綻を助長する因子として,抗凝固療法や血栓溶解療法がある.
・誘因となる既往歴がない状態で本症と診断される例も20%前後にみられ,誘発因子の存在は必ずしも必須の条件ではない.

病態

コレステロール塞栓は潰瘍化し,脆弱化したプラーク(コレステロールが豊富な内部を薄いフィブリンが覆う構造)が破綻してコレステロール結晶が血中に流出し,径200μm弱程度の細動脈に引っかかることで起こる.

塞栓が大きく,球形に近い場合は完全閉塞となり,その先の腎実質を梗塞に至らせるが稀で、多くは不完全な閉塞に留まり,異物反応による周囲血管の肉芽腫様反応が起こることによって,数週の単位で高度な血管狭窄から虚血・梗塞を起こす.

近年,プラークから産生される炎症関連物質によるmicrocrystalline angitisと呼ばれる急性炎症反応から始まり,その後微小血栓の形成,慢性的には線維化へ進行していくという説も示唆されている.

24時間以内に多核白血球浸潤が閉塞動脈に惹起される.

24-48時間後にコレステロール結晶周囲に単核球浸潤から巨核球形成が生じる.

2-7日後には,血栓形成とともに内皮細胞増生と内膜線維化が生じる.

動脈硬化が高度なほど(潰瘍化を起こすようなプラークも多く)コレステロール塞栓症が発症しやすい.

障害を受けやすい臓器としては腎臓・皮膚・脾臓・消化管・心筋・骨格筋などがあげられ,そのうち腎臓は50%と頻度が高い.

コレステロール結晶の飛散場所によって症状・所見は変わる.
上行大動脈~頸動脈→神経障害,記憶障害,精神錯乱,眼底所見など
胸部下行~腹部大動脈→腎症状,消化管虚血,骨格筋,皮膚,膵炎,無石壊死性胆嚢炎など

腎臓

約50%の症例で発症する.
・急性期から亜急性期までに 28~61%で血液透析を必要とするとされる.
・血液透析を施行した例でも腎機能が回復しうるのは 20~30%にとどまるとされている.

腎動脈分岐部より上流からのコレステロール結晶が弓状動脈・小葉間動脈・細動脈・糸球体毛細血管に塞栓で機械的閉塞し,続発する炎症性細胞浸潤をきたすことによって起こる虚血性糸球体障害.
・解剖学的に腎動脈は大動脈から大量の血流(体循環の1/5)が直接流入し,粥状硬化巣の崩壊の影響を直接的に受けやすい.
・コレステロール結晶による細動脈閉塞による循環障害だけでなく,塞栓によって生じる局所の炎症反応や免疫学的機序を介した血管炎に類似する障害が主たるものである.

少量のコレステロール結晶が長期間にわたって間欠的に血中に流出し,徐々に虚血性糸球体障害が進行する場合は,急性期の変化は乏しい.

経過

すぐに動脈を閉塞し,急性腎不全を発症することは稀で,不完全閉塞の状況で肉芽腫様血管炎を起こし,数週で高度な狭窄を引き起こし,2~4週程度で徐々に腎機能が悪化する亜急性の腎障害をきたすことが多い.

自然発症の例においては腎障害と気づかれた時点で安定した慢性腎不全の状態となっているものもある.
・診断は腎生検を行っても巣状な病変であるため診断が難しく,見逃されていることが多い.

急速な経過
大量の大きい塞栓による完全閉塞.
誘発イベント数日以内に急激に発症し,急性腎不全の形をとる.

亜急性の経過
最も多いパターン.
不完全閉塞と塞栓周囲血管の肉芽腫様炎症.
誘発イベント数週後に腎機能の低下が顕在化する.
半数程度を占めている.

慢性の経過
明らかな誘発イベントなく,みつかったときには安定期の慢性腎不全となっている.

急性期には肉芽腫反応による好酸球増多を認める頻度が高く、低補体血症も3-4週程度で認められるのが特徴。
尿所見は非特異的で、血尿は少なく、蛋白尿は非ネフローゼ域であることがほとんどであるが、高血圧が高度の場合はネフローゼをきたすことも報告されている。好酸球が尿沈渣で有意に認められることもある.

診断

診断には多臓器の塞栓症状の存在が重要.

以下の所見に,リスク因子・誘発イベント・検査所見(特に好酸球増加)などと合わせれば,臨床的診断がある程度の精度をもって可能.

皮膚

34%に認められる.

四肢末端の血色不良,livedo reticularis(網状皮斑),blue toe/purple toe(末端壊死・チアノーゼ).

症状としては壊死部の圧痛,末梢動脈は大概触知可能.

進行例では潰瘍化や壊死などの高度な動脈閉塞性疾患を思わせる皮膚症状があるにも関わらず,足背動脈など比較的太い動脈の拍動が保たれていることが特異的.

網状皮斑
・足趾の網状皮斑は,経過を通じてほぼ全例で観察される特徴的所見であり,多くは両側性で軽症.
→進行すると足趾全体が青紫色を帯び,blue toeといわれる足趾のチアノーゼを示し,ほとんどの症例で腎機能障害を認める.
・網状皮斑は病勢と相関し,急激な再燃はコレステロール結晶飛散の再発を示唆する.
・たとえ軽微であっても,後に虚血性の疼痛や間欠性跛行などの重い随伴症状を伴うことが多い.

blue toe syndromeの5徴
①下肢痛
②網状皮斑
③末梢動脈触知可能
④進行性腎不全
⑤血管内操作の既往

診断

最終的な診断には塞栓の証明が必要。

皮膚所見があれば,その部位の生検を行い,塞栓子を証明する(臨床的に可能性が高く、腎機能がある程度保たれていれば腎生検も検討).

疑った場合にはできる限り,唯一外部から観察可能な動脈である網膜の動脈の塞栓子をチェックするべき.

消化器

皮膚・腎症状に続き,3番目に多くみられる.

腸管虚血の程度により,腹痛や下痢が惹起され,およそ10%程度では消化管出血も認められる.
その他,虚血に伴う壊死性膵炎や巣状の肝細胞壊死・胆嚢炎・胆管炎なども認められることがある.

症状としては腹痛、消化管出血、下痢、急性膵炎,胃腸管の表層粘膜潰瘍・びらん,高アミラーゼ血症

内視鏡などの所見は非特異的であり,診断は困難.

コレステロール結晶塞栓症による急激な腎機能増悪および繰り返す小腸穿孔に対してステロイドとLDL吸着療法の併用により3か月以上生存しえた1例(透析会誌 54(9):471~479,2021)

神経

一過性虚血発作、脳梗塞、網膜動脈の塞栓。症状としては頭痛・失神発作・麻痺。

心臓

狭心症,心筋梗塞

骨格筋

筋肉痛,把握痛,跛行

脾臓

脾梗塞

検査所見

血液所見

白血球増多,CRP上昇,血沈亢進などの炎症所見

Cr上昇などの腎機能障害

免疫学的機序を示唆する好酸球増多・補体低下など
・好酸球増多は高率に出現.

尿所見

血尿、白血球尿、好酸球尿、顆粒円柱などを認めることもあるが、比較的乏しい。また60%程度の症例で蛋白尿が認められ、大量となることはまれではあるが、ときとしてネフローゼレベルの蛋白尿を認める場合がある。

眼底所見

網膜動脈の分岐部に明るい黄色,橙色,銅色をした小片(Hollenhorst班)が特徴的.

組織所見

皮膚

皮膚生検での診断率は90%以上と高く,比較的低侵襲で実施可能なため早期診断に非常に有効.

腎臓

コレステロール結晶は55-200umの直径で,主に末梢の100-300um程度の動脈を塞栓する.
腎血管では小葉間動脈レベルに相当し,血管内のコレステロール結晶は両端を血管壁に接して配列する針状の空隙(コレステロールクラフト cholesterol cleft)として観察され,周囲への炎症細胞浸潤が認められる。

コレステロール結晶は標本作製過程でエタノールやキシレンで処理されるため消失する.

診断

皮膚生検や腎生検などで組織学的に動脈内にコレステロール結晶を確認することが必要であるが,臨床経過から急性腎不全,四肢末梢の塞栓症状などの臨床症状がそろっていれば,組織所見がなくても診断は可能とされている.

治療

明らかに有効性が確立している治療はなく,発症(再発)回避と対症療法が中心となる.
⇒組織の虚血性障害の進行の防止、コレステロール結晶の再流出防止が重要

○抗凝固療法の中止
○血管内カテーテル操作や心血管手術の回避
○血圧/血糖のコントロール
○動脈壁在プラークの安定化を狙ってHMG-CoA阻害薬の投与
○急性腎不全としての治療の利尿剤
○積極的な血液透析による体液コントロール
○経静脈的な栄養管理

抗凝固療法の中止

難しい判断であるが,可能な限り抗凝固療法(ワーファリンなど)や線溶療法(tissue plasminogen activatorやウロキナーゼなど)の使用やカテーテル操作や血管手術は避ける.
*リスクとベネフィットを天秤にかけ,必要な手技や手術は行うべき.

薬物療法

あくまでも症例報告的にプロスタグランディン製剤,ステロイド,スタチンなどの有用性が報告されている程度.

スタチン

積極的脂質降下療法は不安定プラークの安定化や鎮静化を促進し,新たなコレステロール結晶による塞栓を減らす意味で有効である可能性が示唆される.

急性期での有効性は不確かであるものの,リスクへのベネフィットを考慮すると積極的な使用がよいと思われる.

副腎皮質ステロイド

全身状態の悪化や炎症反応の上昇,新たな塞栓症状などの病態が進行する症例に対しては,炎症反応や免疫反応の抑制を狙った副腎皮質ステロイドの投与や血漿交換療法が試みられてきた.

症例報告レベルではステロイド療法ならびにステロイドと血漿交換の併用療法の有効性を示す報告が散見されるが,最近の症例対照研究ではステロイドによる腎機能の改善効果は示されず,生命予後・腎予後は同様に不良であった.

プロスタグランディン製剤

下肢の疼痛や難治性潰瘍を呈する症例には,血管拡張などによる血流の改善を期待して,プロスタグランジンE1製剤や腰部交感神経節ブロックなどが実施される.

抗血小板薬

抗血小板薬は有効であるという報告もないが,塞栓を誘発するという報告もないので,現時点では他の心血管リスクも考えて,積極的に使用してよいと思われる.

LDLアフェレーシス

LDL吸着療法が有効である機序として,デキストラン硫酸固定セルロースカラムは単にLDLコレステロールを低下させるだけでなく,アポリポプロテインBなどの動脈硬化関連物質やビトロネクチンといった血管接着因子,さらには炎症性物質や凝固因子なども吸着する多面的効果が関与している.

LDL吸着療法は冠動脈狭窄症や末梢閉塞性動脈硬化症のような慢性炎症疾患において,P‒selectin や高感度 CRP の血清レベルを有意に低下させる抗炎症効果があるとも報告されている.

積極的な治療として有効例の報告もあるが,効果のエビデンスは乏しい.

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