中枢性尿崩症 central diabetes insipidus;DI

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なすび医学ノート

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AVPの合成・分泌低下によって発症し,腎集合管における尿濃縮力の低下に伴って,著明な低張多尿・高張性脱水をきたし,その代償機転として口渇・多飲が生じる.

バゾプレシン arginie vasopressin;AVP
ヒトでは抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH) ・視床下部視索上核および室傍核の大細胞ニ...

病態

○通常は尿量増加は飲水などにより代償されるが,実生活では勤務中や夜間睡眠中などでは十分な飲水ができない場合も多く,軽い脱水傾向になりやすい.

特発性中枢性尿崩症

画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの.

 小児例で30~50%は特発例であり,このうち多くは自己免疫が関与するリンパ球性漏斗性下垂体後葉炎(lymphocytic infundibulo-neurohypophysitis;LINH)と考えられている.

続発性中枢性尿崩症

画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの.

 AVP産生細胞の細胞体は視床下部にあり,下垂体の障害ではAVP産生細胞の軸索が障害されるだけで細胞体は保たれているため,下垂体病変のみでは通常は尿崩症を呈さない.

○自己免疫性:下垂体後葉炎,リンパ球性漏斗下垂体後葉炎
○腫瘍:胚細胞腫,頭蓋咽頭腫,奇形腫,下垂体腺腫(増殖が遅いため稀),転移性腫瘍 (肺癌・乳癌などの下垂体転移) ,白血病
○肉芽腫性:サルコイドーシス,Langerhans細胞組織球症
○血管性(虚血性):Sheehan症候群,動脈瘤,血栓症,脳死
○感染性:結核,髄膜炎,トキソプラズマ,脳炎
○頭部手術(術後1~6日目が多い.多くの症例は一過性)
○妊娠性:胎盤由来のvasopressinaseによる
○加齢性:ADH分泌日内変動パターンの変調

家族性中枢性尿崩症

原則として,常染色体遺伝形式を示し,家族内に同様の疾患患者があるもの.

常染色体優性,バゾプレシン遺伝子の異常で生後数ヶ月~数年で発症する.

無飲性尿崩症 adipsic diabetes insupidus(本態性高Na血症 Essential Hypernatremia)

AVPの分泌と口渇感が両者ともに障害されて反復する高Na血症を呈する病態

 AVPの分泌と口渇を調節する浸透圧レセプターは,視床下部前方の脳室周囲器官であるsubfornical organ(SFO)とorganum vasculosum of the lamina terminalis(OVLT)に存在するが,これらの領域が障害される.

 AVP分泌閾値ならびに口渇感の閾値が高浸透圧側にリセットされることにより循環血漿量の変動を伴わない慢性的な高Na血症を呈する.

 先天異常(全前脳胞症・脳梁低形成など),脳腫瘍(germinoma),前交通動脈のくも膜下出血または動脈瘤のクリッピング術後に多いと報告されている.

 一部の症例において視床下部下垂体領域を含めて脳の器質的異常を認めない症例が報告されている.
1)Na濃度により活動が変化するNaチャネルであるNaxに対する自己抗体が検出された.
 NaxはSFOのグリア細胞に発現しており,血液中のNa濃度センサーとして働いていると考えられている.
2)SFOを特異的に認識する自己抗体が存在する症例も報告されている.

仮面尿崩症 Masked DI

・DIに副腎不全を合併した場合,コルチゾールの補充を開始した際に多尿が顕在化する場合がある.
→副腎不全の存在する場合は,補充療法開始後の尿量の変化にも注意を要する.
・糖質コルチコイドによるADH分泌抑制作用のみならず,ADH非依存性の腎血漿流量増加による水利尿作用,心房性Na利尿ペプチドの分泌や作用増強を介した利尿作用など
・副腎不全が基盤にある病態のため,水利尿障害が高度の場合は,水貯留による希釈性低Na血症を合併することがある.
・低Na血症を呈する副腎不全において,仮面尿崩症の存在に気付かずグルココルチコイド通常量の補充を開始すると,多尿の顕在化と同時に急速なS-Naの上昇が生じ,浸透圧性脱髄症候群を発症するリスクあり

妊娠DI

・胎盤後期には胎盤性のvasopressinaseの産生により,AVPの分解が亢進し(約4倍),約10万の妊娠に4例程度と頻度は稀であるが,DIを来すことがある.
・DDAVPはvasopressinaseにより分解されないため,DDAVPの治療が効果的.投与量は通常と同様でよい.
・一方,妊娠後期から分娩後にかけてはリンパ球性下垂体炎の好発時期であり,DIの原因となるので注意が必要.

症候

症状

〇口渇,多飲,多尿(3L/日以上)は必発.
・通常の1回排尿量は200~300mLであり,排尿回数から尿量を推定できる.
・1日10L/日を超えることもある.
・強い口渇からソフトドリンクなどよりも冷水(特に氷水)を好む場合が多い.
・多くの場合は口渇中枢の機能は保たれており,患者自身が飲水量を増加させている場合が多く,脱水症に至る例は少ない.
・口渇中枢が障害されていると,脱水に至っても口渇感に乏しく,重篤な脱水症,電解質異常を来す危険がある.
・中枢性DIは突然発症する場合が多いため,具体的な多尿の好発時期を必ず確認する.
・腎性DIや心因性多飲は比較的緩徐に発症する.

〇夜間頻尿
・夜間就寝中の頻尿がみられる場合,中枢性DIの可能性が高い(夜間の頻尿が認められなければDIは否定的).
・夜間頻尿から睡眠障害を来す例も多い.

〇家族歴の有無

尿検査・血液検査

■1日尿量
・通常3L/日以上を多尿とする(通常成人の1日尿量はおよそ1~1.5L).
・軽症例では3000~5000mLである一方,10000mL以上に及ぶ例もある.

■尿比重(1.010未満)→低調尿

■血漿浸透圧,尿浸透圧
・Uosm=50~150Osm/kg,Uosm<Posm)

■血中電解質,血糖値
○血清Naは高値傾向を示す.
・口渇により飲水が促されている場合の血清Naは145mEq/L付近に維持される.
・自ら水を摂取することができない乳幼児や術後に尿崩症を発症し麻酔が持続している患者では高Na血症を生じる.
○高血糖,高Ca血症,低K血症は多尿の原因となる.
○HtやUAも上昇傾向

血中ADHの測定

 日本では,AVPキット「ヤマサ」が使用されている.
 欧米では,高感度AVP測定が一般的ではなく,AVPのsurrogateマーカーとしてコペプチンが開発されている.

5%高張食塩水負荷試験

健常者のADH分泌範囲から逸脱し,ADH分泌の低下を認める

バゾプレシン負荷試験

○尿量は減少し,尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する.

頭部単純MRI

○中枢性DIでは,T1強調画像でみられる下垂体後葉の高信号が消失する(ただし,逆は真ではない).
MRI画像(他サイト)
・T1強調画像の下垂体後葉の高信号はADHの分泌顆粒の集合体と考えられている.

診断基準

ⅠとⅡの少なくとも①~④を満たす

Ⅰ.主症候
①口渇
②多飲
③多尿

Ⅱ.検査所見
①尿量は1日3000ml以上
②尿浸透圧は300mOsm/kg以下
③バゾプレシン分泌:血漿浸透圧or血清Na濃度に比較して,相対的に低下する.
 5%高張食塩水負荷試験では健常者の分泌範囲から逸脱し,分泌の低下を認める.
④バゾプレシン負荷試験で尿量は減少し,尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する.
⑤水制限試験(飲水制限後,3%の体重減少で終了)においても,尿浸透圧が300mOsm/kgを超えない.
(水制限がショック状態を起こすことがあるので,必要な場合のみ)

Ⅲ.参考所見
①原疾患の診断が確定していることが特に続発性尿崩症の診断上の参考となる.
②血清Na濃度は正常域の上限に近づく.
③MRIT1強調画像において,下垂体後葉輝度の低下を認める(高齢者では正常人でも低下することがある).

治療

・治療目的は水分バランスの適正化.
・続発性の場合,原疾患の治療.特に下垂体前葉機能低下症を合併する場合は,多尿による脱水に注意しつつ,先に糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)の補充を行う.
・飲水ができない場合,尿量に応じて不足している分の水分を投与する.
・極端な高Na血症がなければ,5%糖質液を投与する.
・著明な高Na血症を認める場合,DDAVP開始後は1号液などを投与し,Naの急激な低下がないことを確認してから,5%糖液に切り替える.

デスモプレシン desmopressin,1-desamino-8-D-arginine-vasopressin;DDAVP

・AVPの1位の脱アミノ化と8位のArgをL型からD型へ変更した薬物で,AVPより半減期が長く,V2受容体に特異的に働く.
・初回の投与は1回2.5μg眠前(or 21時)から開始し,尿量・尿浸透圧・血漿浸透圧・Na濃度・体重を観察しながら,増量し維持量を決定する(5~20μg/日,1~3分割).
・過剰投与による水中毒の危険を避けるため,1日尿量の目安は1500~2000mL程度が望ましい.低Na血症にならないように注意.

デスモプレシンスプレー2.5®

容量5mL,含量125μg,濃度25μg/mL=2.5μg/0.1mL(約1噴霧)
1回投与量:1~4噴霧
1日投与回数:2回(1~3回)

ミニリンメルト®OD錠

錠剤:60μg,120μg,240μg
使用法:1回60~120μgを1日1~3回(寝る前),1回最高240μg,1日最高720μg
*ミニリンメルト®240μgとデスモプレシンスプレー®20μgがほぼ同等の効果を示すらしい(換算率12倍)
既存の点鼻製剤『デスモプレシンスプレー2.5協和』2噴霧と『ミニリンメルトOD錠60μg』1錠がおおよそ同程度の効果(換算率12倍).

治療開始の注意点

・持続する強い口渇から多飲の習慣が身についていることが多く,特に初回DDAVPを投与した際に水中毒,低Na血症を来す危険性がある.
→投与を開始するときは,効果は数十分で発現して尿量が急速に減少するため,投与後は飲水を控えることを指導する.
→夜間頻尿を軽快させるため,また過剰な脱水を予防するために初回投与は夜間就寝時に開始する.

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