腫瘍循環器学 cardio-oncology

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

 抗癌化学療法や放射線治療が持つ心血管毒性は,重大な合併症を引き起こすばかりではなく,有効な癌治療の選択肢を狭めるという点でも非常に大きな弊害となる.
→腫瘍医と循環器医が連携して,最も適切な癌治療と心臓保護的な診療を提供することが重要

がん治療に伴う心血管毒性

 心不全,虚血性心疾患,高血圧症,弁膜症,不整脈,血栓症,末梢血管疾患,肺高血圧症,心膜疾患の9つのカテゴリーに分類できる.
→特に心不全・心機能低下の頻度が高い.

がん治療関連心機能傷害 Cancer Therapeutics Cardiac Dysfunction;CTRCD

左室駆出率が10%以上低下し,かつ正常下限値(一般的には53%未満)

タイプ1

心筋が永続的なダメージを負い,障害が不可逆的

■アントラサイクリン系
不可逆的な左室収縮障害を来たすことが知られ,累積性があることから,再投与で心不全の再燃するリスクが高い(用量依存性).

タイプ2

可逆的であり,薬剤の減量や休薬により改善する見込みのある

■トラスツズマブやシクロホスファミド
組織学的な異常を伴わず,非用量依存性

各論

アントラサイクリン系薬剤

投与中もしくは投与後短期に出現する急性の心血管毒性,投与後1年以上経過して現れる亜急性の心血管毒性ならびに投与後10年以上経過して現れる慢性の心血管毒性がある.

重要なのは累積投与量であり,うっ血性心不全を起こす確率は,400mg/㎡で0.14~5%,550mg/㎡で7~26%,700mg/㎡で18~48%と,高用量になると急激に心不全リスクが増大する.

心筋症の病態形成には,トポイソメラーゼⅡβ阻害に引き続くDNA複製障害と,アントラサイクリン-鉄錯体形成によるミトコンドリア内鉄沈着に由来する活性酸素種(ROS)の産生が中心的な役割を果たすと考えられてきた.

アントラサイクリン系薬剤に伴う心血管毒性には,カルシウム代謝障害による筋小胞体の収縮特性の障害,ユビキチン-プロテアソーム系やオートファジーに影響を及ぼすことによる蛋白質品質管理機構の障害,近年では一本鎖のノンコーディングRNAであり,遺伝子の翻訳や転写に関わるmicro RNAによる転写調節の変化など,多彩な分子機構が関わっていることがある.

HER2阻害薬

 トラスツズマブやペルツズマブは,細胞の増殖シグナルとなるHER2受容体を標的蛋白として阻害することで腫瘍の増殖を阻害し,特にアントラサイクリン系薬剤との併用は大幅な予後改善効果が望める.

心筋細胞表面では,HER2とErbB4がヘテロ2量体としてニューレグリン1をリガンドとした受容体を形成しており,MAPK(mitogen-activated protein kinase)経路やPI3K/AKT経路(phosphoinositide 3-kinase/anaplastic lymphoma kinase)経路を介したシグナル伝達は,心筋細胞の生存において重要
→HER2受容体が阻害を受けると,心筋細胞にも障害が起こる
→HER2が阻害を受けた状態では,心筋細胞はアントラサイクリン系薬剤により発生したROSやアポトーシスに対して脆弱化し,アントラサイクリン系薬剤による心血管毒性が増強される(トラスツズマブによる5年間の心不全リスクは,化学療法未実施群の約4倍,アントラサイクリン系薬剤と併用すると約7倍).

HER2阻害薬とアントラサイクリン系薬剤の併用は可能な限り避ける

血管新生阻害薬・チロシンキナーゼ阻害薬

がん細胞が産生する血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)が血管内皮細胞のVEGF受容体に結合すると,下流にあるシグナル伝達の活性化により血管新生が促され,腫瘍増殖や転移に有利な環境が作り出されてしまう.
→このシグナルを阻害する目的で,VEGF阻害薬や,VEGF受容体を細胞膜の内側から結合することで阻害する低分子化合物であるチロシンキナーゼ阻害薬は開発された.

高血圧

1)血管内皮細胞の障害が惹起され,血管拡張物質であるNOやPGI2(prostaglandin I2)の産生低下と,血管収縮作用を有するエンドセリン1の産生亢進が起こる.
2)細小血管床の減少や活性酸素障害による交感神経緊張の亢進により末梢血管抵抗が上昇
3)腎臓でのNa利尿の低下
4)リンパ管新生阻害による皮膚間質での電解質緩衝作用の低下
→血栓症や心不全の原因にもなる

心筋虚血

冠動脈狭窄や冠動脈攣縮を招来

直接的な心血管毒性

■ベバシズマブ(VEGF阻害薬),スニチニブ・ソラフェニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)
1)RSK(ribosomal s6 kinase)抑制を介したミトコンドリアからのチトクロームC放出
2)AMPK(AMP-activated protein kinase)阻害による心筋細胞のATP減少とアポトーシス

■イマチニブ・ダサチニブ(BCR-ABL阻害薬)
ABL阻害によるミトコンドリア毒性→心筋細胞死

プロテアソーム阻害薬

ボルテゾミブやカルフィルゾミブ

ユビキチン-プロテアソーム系阻害に伴う不要な蛋白の増加を主体とした蛋白制御障害により,心機能障害を来たしうる.

内皮抗原提示細胞の障害に伴うeNOS/NOSの産生低下による冠動脈狭窄および攣縮による心筋虚血を誘発する.

免疫チェックポイント阻害薬

心筋細胞にもPD-L1が発現していることがわかっており,PD-1を欠損したマウスは拡張型心筋症となり,心不全や不整脈などで突然死することが知られる.

易自己免疫性マウスのPD-L1を欠損させると重篤な自己免疫性心筋炎を呈する報告がある.
→心筋細胞においてPD-L/PD-L1間の相互作用は自己免疫を制御するために重要であることが示唆される.

治療

心血管リスクの評価

治療開始前に行い,早期からの介入を検討する.

心不全,無症候性の心機能低下,冠動脈疾患,弁膜症,高血圧性心疾患,心筋症,心臓サルコイドーシス,不整脈(心房細動・心室頻拍など),18歳未満,50歳以下の冠動脈疾患の家族歴,高血圧症・糖尿病・脂質異常症など

BNP,proBNP,心筋トロポニン(トロポニンI・トロポニンT)は比較的簡便かつ定期的な測定が可能であり,無症候の心機能異常にも鋭敏に反応する.
→有用性が高い

経胸壁心エコーは化学療法開始前に全例にすることが望ましい.

薬物療法

現時点では確立されたものはない.

心不全→化学療法の停止,RAS阻害薬,β遮断薬の投与

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