喘息は従来に比べ,吸入ステロイド薬および長時間作用性気管支拡張薬による吸入療法の普及に伴い,コントロールが可能となり,多くの喘息患者は健常人と変わらない日常生活を送れるようになっている.
喘息の診断的治療を認め治療フローを明確化(日経メディカル 2021/10/05)
喘息診療実践ガイドライン2021
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- 目標
- 基本方針
- 喘息発作の治療(急性期)
- 喘息の治療(慢性期)
- 薬剤各論
- 剤形
- 短期作用性吸入β2刺激薬 short-acting beta-agonist;SABA(発作治療薬)
- ステロイド吸入薬 inhaled coricosteroid;ICS(長期管理薬)
- 長期作用性吸入β2刺激薬 long-acting beta-agonist;LABA(長期管理薬)
- 長時間作用性抗コリン薬 long-acting musucarinic antagonist;LBMA(長期管理薬)
- ICS/LABA配合薬(長期管理薬)
- ICS/LABA/LAMA配合薬(長期管理薬)
- テオフィリン製剤(長期管理薬)
- 抗ロイコトリエン薬 leukotriene receptor antagonist;LTRA(長期管理薬)
- 漢方薬
- 薬剤指導
- 禁忌・注意
- アレルゲン免疫療法 allergen immunotherapy;AIT
目標
1)慢性の病的な症状を抑制する.
2)肺機能を正常あるいはほぼ正常の状態に維持する.
3)正常の活動レベルを維持する(運動や他の身体的活動も).
4)繰り返し生じる喘息の増悪を防ぎ,緊急外来受診または入院を最小限にする.
5)適切な薬剤療法がなされ,副作用はないか,あってもごくわずか.
6)治療が本人や家族の期待に沿い,喘息ケアに満足が得られる.
基本方針
1)増悪因子(抗原吸入,喫煙,受動喫煙,大気汚染,胃食道逆流,気道ウイルス感染など)を除去
2)薬剤により気道の炎症を除去し肺機能を正常に保ち(吸入ステロイドが特に有効,必要に応じて気管支拡張薬を投与)
3)気道病変悪化の早期予知と発作防止(ピークフロー,PEFによるモニターと悪化対処処方による患者教育)に努める
4)これにより重症化・難治化要因である上皮基底膜の肥厚を含む気道粘膜の線維化・上皮化生による肥厚(リモデリング)を防ぐ
5)できるだけ早期に寛解またはそれに近い状態に持ち込む(early intervention).
6)脱感作療法は,抗原除去が不可能なときに用いる.
専門医へ紹介するタイミング
初期治療の場合
中用量ICS/LABAを開始して2週間以上経過しても治療に反応が認められない場合
治療経過中の場合
①高用量ICS/LABAでもコントロール不十分・不良の場合
②全身性ステロイド薬を必要とするような増悪が年2回以上ある場合
③急性増悪でSpO2≦93%の場合
④自院で呼吸機能検査(気道過敏性・気道可逆性試験)やFeNO測定できない場合でも長期管理中に一度は紹介することが推奨される.
喘息発作の治療(急性期)
高度の発作時には,緊急避難薬として短期作用性吸入β2刺激薬を投与し,また必要に応じてステロイドを経口あるいは全身投与する.
血液ガス酸素分圧・酸素飽和度の低下に応じて酸素投与が必要.
高度の発作の持続により肺胞換気低下(PaCO2>45mmHg)が認められるときには,重積発作として集中的な治療が必要.
さらに高度の気流閉塞のために肺胞換気が低下して炭酸ガス蓄積が進行すれば,原則として気管挿管,人工換気が必要となる.
・その前に呼吸筋の疲労を軽減する意味で,鼻マスクによる非侵襲的陽圧換気(NPPV)を用いた補助呼吸にて分時換気量の維持が可能となる場合も少なくない.
・近年,できるだけ挿管を避ける方向での人工換気が推奨されるようになった.
治療目標
気道狭窄をできるだけ速やかに改善することが目的
呼吸困難の消失
体動・睡眠正常
日常生活正常
PEF値が予測値または自己最良値の80%以上
酸素飽和度>95%(気管支拡張薬投与後)
平常服薬吸入で喘息症状の悪化なし.
ステップアップの目安:治療目標が1時間以内に達成されない場合.
救急外来

胸部聴診上wheezeが聴取され,心不全やCOPD急性増悪が疑わしくない場合
1)べネトリン®(0.5mg+生食2mL) ネブライザー20分おきに3回吸入.β2刺激薬.
2)ソル・メドロール®40mg点滴静注(アスピリン喘息があればリンデロン®4mg)
例)ネオフィリン®125mg+生食100mL+ソルメルコート®40mg
3)酸素投与 (Ⅱ型呼吸不全では集中治療室を考慮)
帰宅可能な場合
・コントローラーとレリーバー+ステロイドの短期投与で早期の症状改善をはかる.
・呼吸困難が強いときは無理せずに早めにER受診させる.
・状態に応じて,経口ステロイド薬投与(PSL 0.5mg/kg/day).
1)fluticasone/salmeterol(アドエア®500) 1日2回吸入(1回1吸入)
2)salbutamol(サルタノール®) 頓用(1回2吸入)
3)prednisolone(プレドニン®) 25-40mg内服(3-7日間)
喘息発作の治療(入院後)
1)metylprednisolone(ソル・メドロール®40mg) 1日2~4回静脈内点滴投与
2)salbutamol(べネトリン®ネブライザー) 0.5mL+生食2mL 1日4~6回(4~6時間毎)吸入
3)呼吸療法
・低酸素血症に対しては酸素投与を行う。
・Ⅱ型呼吸不全を認める場合にはICUでの呼吸補助(非侵襲的陽圧換気、挿管・人工呼吸)を考慮
喘息の治療(慢性期)
慢性期治療の基本は吸入ステロイド.
気管支拡張薬には長時間作用型β2刺激薬,テオフィリン薬,ロイコトリエン拮抗薬があるが,一般的には長時間作用型β2刺激薬との併用が最も効果が高いと報告されている.
コントローラーcontrolar(長期管理薬)とレリーバーreliever(発作治療薬)に分けられる.
・症状が頻発する“持続性の喘息”では,気道炎症の長期制御のため,抗炎症薬を中心とした治療(コントローラー)を行い,その投与量を重症度にあわせて段階的に増量する.

喘息の重症度に応じて薬剤のタイプならびに量を変化させるStep療法を行う.
いずれの場合も,不定期な喘息症状の発現時に治療薬として,短期作用性吸入β2刺激薬を用いる.
喘息を疑う.
↓
中用量以上のICS/LABAを使用する(3日以上)
*症状が重篤な場合は,経口ステロイド薬(PSL 10~30mg)を1週間程度併用する.
↓
反応あり
ICS/LABA吸入前に喘鳴あり→喘息の診断
ICS/LABA吸入前に喘鳴なし→喘息の疑い→再現性があれば喘息の診断,なければ他疾患を考慮
反応なし
症状が重篤な場合は,喘息であってもICS/LABAの効果が乏しい場合がある.
↓
喘息診断でコントロール不十分な場合
咳・痰,呼吸困難,喫煙歴,増悪→LAMA追加
鼻汁・鼻閉→LTRA追加
↓
コントロール不十分 or 不良
ICS増量 or 専門医紹介
*コントロールの評価はACTで行う(20点未満→不良,20~24点→コントロール不良)
↓
コントロール不十分 or 不良
専門医紹介
Step1:間欠型軽症喘息
たまに(週2回以内)軽度の発作が生じる程度の場合.
症状の寛解として(レリーバー),短期作用型吸入β2刺激薬(作用時間は3~4時間以内)を頓用する.
Step2:持続型軽症喘息
毎日の発作に至らない場合.
低用量(フルチカゾンにして100~200μg/日)を用いる.
Step3:持続型中等症喘息
毎日の発作の場合.
中等量(フルチカゾンにして200~400μg/日)を用いる.
Step4:持続型重症喘息
発作が日中でも持続している場合.
高用量(フルチカゾンにして400~800μg/日)を用いる.
Step5:難治性喘息
症状が安定しない場合は,少量の経口ステロイドを追加投与する.
喘息コントロールの評価 Athemal Control Test;ACT
質問表.
12歳以上→ACT,4~11歳→C-ACT
重症度判定
軽症(Mild)
低用量ICS or 低用量ICS/LABAで喘息コントロール良好
中等症(Moderate)
中用量ICS/LABAなどで喘息コントロール良好
重症(Severe)
高用量ICS/LABAなどコントロール良好 or それでもコントロールできない場合
薬剤各論
剤形
加圧噴霧式定量吸入器 pressurized metered-dose inhaler;pMDI
ドライパウダー定量吸入器 dry powder inhaler;DPI
ソフトミスト定量吸入器 soft mist inhaler;SMI
に大きく分けられる.
加圧噴霧式定量吸入器 pressurized metered-dose inhaler;pMDI
・噴霧と吸気の同期が必要であるが,低肺機能でも利用しやすい.
・デバイスからの薬剤の放出と患者自身の吸気の同調ができるかどうかが問題.
・同調が困難な場合はスペーサーが有効.
・手の力が弱いなどのためpMDI吸入器が押しづらい方にはメーカーが無料で配布している吸入補助具が有効.
・エタノールを含む製剤が多く,アルコールアレルギーがあったり,臭いが気になったりする場合にはエタノールを含まないpMDI製剤(サルタノール®,フルタイド®,アドエア®)or DPI製剤への変更を考慮する.
ドライパウダー定量吸入器 dry powder inhaler;DPI
・噴霧と吸気の同期が不要
・吸入するためには一定以上の吸気流速が必要→→吸引力が小さい低肺機能患者では適さない.
タービュヘイラー® 30~60L/min,ジャヌエア® 45L/min,エリプタ® 30L/min,ブリーズヘラー® 20L/min以上
・同程度の吸気流速を得るための吸気抵抗がデバイスによって異なり,ブリーズヘラー®,エリプタ®は比較的吸気抵抗が少ないデバイスとされる.
短期作用性吸入β2刺激薬 short-acting beta-agonist;SABA(発作治療薬)
サルブタモール サルタノール®
ステロイド吸入薬 inhaled coricosteroid;ICS(長期管理薬)
喘息治療において,基本となる.
→症状改善,呼吸機能改善,増悪抑制,気道炎症抑制などの効果がある.
→経口ステロイドの減量 or 中止の効果がある.
早期の吸入ステロイド療法は持続性・不可逆性の気道閉塞を生じる気道リモデリングの防止にも役立つ.
・気道リモデリングの防止も気管支喘息治療の重要な目標の一つ
現在はLABAと併用することが多いが,軽症喘息やICS/LABAからのstep downの際にはICS単剤を用いる.
吸入ステロイドを高用量長期にわたり継続した場合には,全身作用としての副作用も否定できない.
→抗ロイコトリエン薬や長期作用性吸入β2刺激薬を長期コントロール薬の一部として加え,吸入ステロイドの減量をはかる.
吸入ステロイド吸入後(特にフルチカゾン)は,口腔・喉頭壁に付着したステロイドをうがいにより除去し,口腔カンジダ症を予防する.
・場合によってはイソジンやアムホテリシンBのうがいで対処する.
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF) アニュイティ®
フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP) フルタイド®
ブデソニド(BUD) パルミコート®
シクレソニド オルベスコ®
モメタゾン アズマネックス®
ベクロメタゾンプロピオン酸エステル キュバール®
長期作用性吸入β2刺激薬 long-acting beta-agonist;LABA(長期管理薬)
サルメテロール セレベント®
長時間作用性抗コリン薬 long-acting musucarinic antagonist;LBMA(長期管理薬)
気管支拡張作用(bronchodilator)に加えて,アセチルコリンの過剰放出による筋トーヌス亢進を抑制,喀痰分泌抑制,咳感受性低下といったβ2刺激薬にはない気道病変の不安定化に関連する喘息病態を安定化させる作用(bronchostabilizer)がある.
TRAC studyでは,ICSとLABAの併用と同様の効果がLAMAの併用でも得られることが証明され,喘息治療における重要な併用薬として位置づけられている.
→中用量以上のICS or ICS/LABA投与下でもコントロール不十分な症例の治療を強化する際の選択肢
ICS/LABA配合薬(長期管理薬)
FACET studyに代表される多くの大規模臨床試験によって,ICSを単剤で増量するよりもICAにLABAを加える方がより効果的であると証明された.
ICSがβ2受容体数を増加させてLABAの効果を高め,LABAがICSと結合したステロイド受容体の核内移行を促進し,ICSの作用を増強するとされる.
近年開発された長期作用性吸入β2刺激薬は12時間以上の気管支拡張作用を有するので夜間喘息の治療に有効.
フルチカゾンフランカルボン酸エステル /サルメテロール(FF/SAL) アドエア®
定量噴霧,ドライパウダー両方のデバイスがある.
早くから発売されており,値段が安い.
喘息の臨床試験でしばしば対象治療群に用いられる.
ブデソニド/ホルモテロール(BUD/FOR) シムビコート®
薬の量が調節できる.
LABAとして含有しているFORの薬効出現までの時間が早いため,唯一発作治療薬でも使える.
SMILE試験,SAKURA試験
フルチカゾンプロピオン酸エステル /ホルモテロール(FP/FOR) フルティフォーム®
pMDI製剤であり,DPI製剤と比較して粒子径が小さく,末梢気道への到達率が高いとされる.
フルチカゾンフランカルボン酸エステル /ビランテロール(FF/VI) レルベア® グラクソスミスクライン
1日1回吸入で24時間効果が続くため,高いアドヒアランスが期待でき,他剤よりも優れた症状改善効果が認められた(Salford Lung Study,リアルワールドに近い).
モメタゾンフランカルボン酸エステル/インダカテロール(MF/IND) アテキュラ®
1日1回吸入で高いアドヒアランスが期待できる.
2020年8月発売.QUARTZ試験,PALLADIUM試験
ICS/LABA/LAMA配合薬(長期管理薬)
TRIGGER試験,IRIDIUM試験で,中用量ICS/LABAへのLAMAの上乗せ効果が,高用量ICS/LABAと同等の効果を示すことが報告された.
今までは,中用量ICS/LABAからのステップアップで,高用量ICS/LABA,さらにLAMAの追加を行っていたが,症例によっては中用量ICS/LABAにLAMAの上乗せの選択肢も検討する必要がでてくる.
↓
好酸球性炎症のマーカーに乏しい症例や,喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)を伴うような喘息患者,何らかの理由でICS増量が困難な患者には,中用量ICS/LABA/LAMAの選択が推奨できる.
モメタゾンフランカルボン酸エステル/インダカテロール酢酸塩/グリコピロニウム臭化物 MF/IND/GLY エナジア®
2020年8月に発売
TRIGGER試験,IRIDIUM試験で,中用量ICS/LABAへのLAMAの上乗せ効果が,高用量ICS/LABAと同等の効果を示すことが報告された.
フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩 UMEC/VI/FF テリルジー®
テオフィリン製剤(長期管理薬)
必要に応じて経口気管支拡張薬としてのテオフィリン製剤を吸入ステロイドとともに用いる.
・近年テオフィリン製剤にも,軽度ながら抗炎症作用を有することが判明している.
・有効投与量に個人差が大きく,容易に食欲不振・不眠・けいれんなど中毒症状を呈する.
→テオフィリン血中濃度を5~15μg/mlに保つよう注意する.
抗ロイコトリエン薬 leukotriene receptor antagonist;LTRA(長期管理薬)
モンテルカスト シングレア® 1日1錠(寝る前)
近年開発された種々の抗ロイコトリエン薬(プランルカスト,モンテルカスト,ザフィルルカスト)も必要に応じて経口投与する.
強力な気管支拡張作用と抗炎症作用を併せ持つ.
運動誘発性喘息,副鼻腔炎,鼻ポリープのある患者では著効することがある.
漢方薬
症状別・気管支喘息に使う漢方薬の選び方 日経メディカル 2022/01/17
麦門冬湯
薬剤指導
吸入指導
吸入薬を使用しているものの,実はきちんと吸えていないケースがある.
→患者の状態に合わせて適切な吸入デバイスを選択し,薬剤師・看護師・患者家族とも連携して,吸入指導をすることが重要
ホー吸入
吸入時に舌を下げ喉の奥を広げて「薬の通り道」を広く保つために有効な方法.
「ホー」と発音する口をしたまま,吸入する.
禁忌・注意
喘息患者にβ遮断薬の投与は禁忌(β1選択性の高い薬剤であってもβ2遮断効果も多少なりとも併せ持つため,緊急性を要しない限り禁忌).
喘息患者にNSAIDsは慎重投与(喘息の10~20%がアスピリン喘息).
喘息患者にACE阻害薬の投与は避けるべき.
・長期投与にてせきの増強,喘息を誘発することがある.
アレルゲン免疫療法 allergen immunotherapy;AIT
病因アレルゲンを徐々に増量して長期投与する治療法(主に家塵ダニとスギ花粉).
疾患の自然経過に対する修飾効果を期待して行う.