個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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遺伝子工学などを用いて作製されたモノクローナル抗体や蛋白製剤などのことで,特定のサイトカイン,表面抗原分子などをターゲットとした分子標的薬.
既存の治療ではコントロールが難しかった種々の難治性炎症性疾患の病態に対して優れた臨床効果を示す.
その一方で,多くの有害事象が報告され,特に結核などの感染症は臨床では大きな問題となった.
サイトカイン or その受容体を標的とする製剤
TNF阻害薬
TNF=tumor necrosis factor
キメラ型抗TNF抗体
インフリキシマブ(レミケード®,インフリキシマブBS®)
ヒト型抗TNF抗体
アダリムマブ(ヒュミラ®)
ゴリムマブ(シンポニー®)
PEG化ヒト化抗TNF抗体
セルトリズマブペゴル(シムジア®)
TNF受容体-Fc融合蛋白
エタネルセプト(エンブレル®,エタネルセプトBS®)
IL-1阻害薬
IL=interleukin
ヒト型抗IL-1β抗体
カナキヌマブ(イラリス®)
IL-4/IL-13阻害薬
ヒト型抗IL-4/IL-13受容体αサブユニット抗体
デュピルマブ(デュピクセント®)
IL-5阻害薬
ヒト化抗IL-5抗体
メポリズマブ(ヌーカラ®)
IL-6受容体阻害薬
ヒト化抗IL-6受容体抗体
トシリズマブ(アクテムラ®)
ヒト型抗IL-6受容体抗体
サリルマブ(ケブザラ®)
IL-12/23阻害薬
ヒト型抗IL-12/IL-23p40抗体
ウステキヌマブ(ステラーラ®)
IL-17阻害薬
ヒト型抗IL-17A受容体抗体
セクキヌマブ(コセンティクス®)
ヒト化抗IL-17A受容体抗体
イキセキズマブ(トルツ®)
ヒト型抗IL-17受容体抗体
ブロダルマブ(ルミセフ®)
IL-23阻害薬
ヒト型抗IL-23p19受容体抗体
グセルクマブ(トレムフィア®)
ヒト化抗IL-23p19受容体抗体
リサンキズマブ(スキリージ®)
BLys阻害薬
BLys:B lymphocyte stimulator
ヒト型BLys抗体
ベリムマブ(ベンリスタ®)
RANKL阻害薬
RANKL:receptor activator of NF-κB ligand
ヒト型抗RANKL抗体
デノスマブ(プラリア®)
細胞表面機能分子を標的とする製剤
T細胞共刺激分子阻害薬
CTLA-4-Fc融合蛋白
CTLA-4=cytotoxic T-lymphocyte antigen 4
アバタセプト(オレンシア®)
B細胞阻害薬
キメラ型抗CD20抗体
リツキマシブ(リツキサン®)
接着分子阻害薬
ヒト化抗α4インテグリン抗体
ナタリズマブ(タイサブリ®)
ヒト化抗α4β7インテグリン抗体
ベドリズマブ(エンタイビオ®)
その他の分子を標的する製剤
IgE阻害薬
ヒト化抗IgE抗体
オマリズマブ(ゾレア®)
副作用
細菌感染症
最も頻度が高く,呼吸器感染症が最多.
・RA患者の死因に占める肺炎の割合は,生物学的製剤例では,非投与例の約2倍に増加する.
呼吸器感染症の予防が極めて重要.
・外出時のマスク着用,禁煙,手洗い/うがいなどの一般的な注意に加え,インフルエンザワクチン及び肺炎球菌ワクチン接種が推奨される.
・インフルエンザワクチンでは,アバタセプトを除いて抗体価の上昇に影響を与えないとされる.
生物学的製剤投与中に呼吸器感染症を発症した患者に対する本剤の再投与については,感染症が治癒していれば基本的に可能とされる.
結核
RA患者は元々,結核発症率が高いことが知られているが,TNF阻害薬を投与したRA患者はさらに結核の発症率が高くなる.
・リスク因子としては,画像上の陳旧性結核の所見,ツベルクリン反応が強陽性,IGRA(interferon-gamma release assay)陽性,結核患者との接触歴,活動性結核の罹患歴など
・結核症の発症時期は投薬開始後3~6カ月以内が多く,内因性再燃が多い.
・TNF阻害薬投与中に発症する結核症は約半数が肺外結核であり,腹痛/リンパ節腫脹などの肺外結核の所見に留意する.
治療
治療は,一般の結核症と同様に多剤併用による標準治療を行う.
生物学的製剤を中止し,抗結核薬を投与することを基本とするが,粟粒結核などの全身性結核の症例で,適切な抗結核療法にもかかわらず病勢が悪化し,paradoxical reactionが疑われる場合は,他の病態の鑑別を十分行った上で,生物学的製剤の再投与も選択肢の一つと考えられる.
paradoxical reaction
・生物学的製剤の投与を止めると,原病の悪化に加え,結核症の画像所見の増悪や胸水貯留,リンパ節腫大などを来たし,病態が悪化することが知られてきた.
・免疫再構築症候群と捉えられている.
・場合によっては,死亡に至る重篤な転帰をとる.
予防
生物学的製剤の導入にあたっては,個々の患者において結核症の発症リスクを判断し,必要であれば,発症を予防する抗結核薬の内服が必要とする.
活動性結核
・生物学的製剤投与前に,活動性結核に対する治療を開始し,終了させる.
結核既感染(疑いを含む)
・抗結核薬予防投与を開始
TNF阻害薬投与に先立つ3週間,抗結核薬(イソジアニドなど)の投与を行い,以後も計6~9か月間並行して投与
結核の既往歴は認められない,あるいは,結核の確実な治療歴あり
・そのまま生物学的製剤投与を開始
非結核性抗酸菌症 nontuberculous mycobacteria;NTM
RA患者においては,一般人口と比較してNTMの発症率が高く,TNF阻害薬はその発症率をさらに高める.
・RA患者では,気道病変,間質性肺炎を合併するとNTMの定着が起こりやすく,発症の危険因子となる.
本邦の市販後調査では発症頻度は0.1%程度であった.
治療については,基本的には健常者と同様に,3剤併用の標準的治療を行う.
生物学的製剤の導入にあたっては,NTM発症の危険因子である既存の肺病変を高解像度CT(HRCT)などでチェックしておくが重要.
ニューモシスチス肺炎 Pneumocystis pneumonia;PCP
RA患者などの非HIV患者では,HIV患者と異なり,発症が急速で強い酸素化障害を伴い,重症化しやすい.
PCP発症は生物学的製剤投与開始後1~3カ月間に多い.
本邦の市販後調査では発症頻度は0.2~0.4%と報告されている.
生物学的製剤投与のPCP発症の危険因子としては,高齢(65歳以上),ステロイド薬投与(プレドニゾロン換算で6mg/day以上)ならびに既存の肺病変などが挙げられている.
PCPの確定診断には菌体の検出が必須であるが,非HIV患者のPCPでは,Pneumocystisの肺内菌量が少なく,また,呼吸不全で高度で気管支鏡検査などの侵襲的検査が施行できない場合が多く,菌体を証明することが難しい.
→補助的な検査によって,臨床的にPCPを診断することが多い.
治療については,第一選択薬はST合剤であり,第二選択薬としてはペンタミジン,アトバコンなどがある.
RA患者のPCPでは炎症反応が強いことが多いため,呼吸不全を伴った患者では早期のステロイド薬の併用が推奨される.
生物学的製剤投与中のPCPの死亡率は10~29%と報告されている.
エビデンスに乏しいが,危険因子を持つ者には,ST合剤の予防内服が望ましい.
間質性肺炎
薬剤性間質性肺炎を惹起し,その一部の症例においては致死的になることが明らかになってきた.
市販後調査では発症頻度は0.31~0.89%と報告されている.
発症は,生物学的製剤投与開始後2~3ヵ月に多い.
危険因子としては,高齢,間質性肺炎の既往(重要),喫煙歴が挙げられている.
治療に関するエビデンスは乏しく,生物学的製剤の中止に加え,ステロイド薬が投与されることが多い.
死亡率は市販後調査では7.5~33%であり,予後不良因子として,高齢,既存の間質性肺炎,免疫抑制剤薬の併用などが報告されている.