個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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嚥下機能障害により口腔内容物を微量誤嚥(microaspiration)することにより発症する.
原因
要介護高齢者が施設入所すると2年以内に約80%の高齢者に摂食・嚥下障害が起き,その後に発熱・肺炎が起き,死んでいく.
フレイル進行→嚥下反射障害→咳衝動低下→咳反射低下→不顕性誤嚥→肺炎→死亡
高齢者や基礎疾患がある場合には,咳反射の低下,線毛運動の障害が強くなって誤嚥量が増大し,体液性,細胞性免疫の低下とあいまって,誤嚥性肺炎が起こりやすい.
・健康成人でも就寝中に誤嚥していることがあるが,粘液線毛運動により朝には菌を排除している.
・サルコペニアなどの筋力低下が起きると,咳嗽力(ピークフロー)が衰える.
・特に大脳基底核障害を中心とする脳梗塞患者で誤嚥性肺炎が発症しやすい.
器質的原因
口腔・咽頭
舌炎,口内炎,歯槽膿漏,扁桃炎,扁桃周囲膿瘍,咽頭炎,喉頭炎,頭頸部腫瘍
食道
食道炎,食道潰瘍,食道蛇行,変形,狭窄,食道腫瘍,食道裂孔ヘルニア,頚椎による圧迫
機能的原因
咽頭
脳血管障害,頭部外傷,脳腫瘍,脳膿瘍,脳炎,髄膜炎,錐体外路疾患(パーキンソン病,進行性核上性麻痺など),脊髄小脳変性症,運動ニューロン疾患(筋萎縮性側索硬化症,進行性球脊髄性筋萎縮症など),多発性硬化症,末梢神経疾患(ギラン・バレー症候群,糖尿病性末梢神経炎など),筋疾患(筋ジストロフィー,多発性筋炎など),神経筋接合部の異常(重症筋無力症),加齢に伴う変化
食道
食道アカラジア,筋炎,強皮症,SLE,胃食道逆流
常用薬
抗精神薬,抗コリン薬,筋弛緩薬など
病態
不顕性誤嚥
silent aspiration
食事中に食物が気道に侵入しても,むせこみや咳などの症状がない.
・嚥下造影検査にて造影剤が気道に入ってしまっても何も症状がない.
microaspiration
夜間寝ている間に口腔内分泌物が雑菌と共に知らず知らずに気道に侵入していき,気道の異物感受性の低下により,そのままとなってしまう.
起因菌
健常人の唾液中には約108個/mL の菌が常在しているが,口腔内が不衛生であったり歯周病があったりすると,1011個/mL まで増加するといわれている.
口腔内の常在菌は嫌気性菌が主で,好気性菌は嫌気性菌の1/10~ 1/100 に過ぎない.
嫌気性菌
Peptostreptococcus属,Prevotella属,Fusobacterium属などの頻度が高い(広義の嫌気性菌).
・口腔内の連鎖球菌属〈Streptococcus〉の大部分は通性(一部偏性)嫌気性菌であり,誤嚥性肺炎の主な原因微生物と考えられる.
・S. milleri グループが関与することもあるが,Bacteroides fragilis の関与は少ない.
好気性菌
黄色ブドウ球菌が最も多く,クレブシエラ,エンテロバクター,肺炎球菌,緑膿菌がこれに次ぐ
その他
真菌,ノカルジア,放線菌,肺吸虫の頻度は極めて低い.
症候
嚥下障害を疑わせる臨床症状
・食事中にむせる,咳が出る.
・常に喉がゴロゴロ鳴っている.
・唾液が飲み込めず,出している.
・食事に時間がかかる
・痰が汚く,多い.
・声質の変化
など
喀痰培養
原因菌の検査は通常の喀痰培養法では困難で,更に,口腔内常在菌の混入を考慮する必要がある.
原因菌の同定には経気管支吸引法や経皮的肺穿刺吸引法が優れており,重症例やエンピリック治療無効例では試みる価値がある.
嚥下障害の検査
簡易検査
飲水試験,反復唾液嚥下試験,簡易嚥下誘発試験
詳しい検査
単純X 線検査,嚥下造影検査,鼻腔咽喉頭ファイバー検査,シンチグラフィー
治療
抗菌薬療法
・飲食の意識付け,誤嚥予防の体位保持
・口腔ケア
・ACE阻害薬による嚥下障害の改善
栄養
経静脈栄養を経鼻胃管の代わりに用いても誤嚥のリスクは変わらない.
・むしろ敗血症、誤嚥性肺炎のリスクが増加するとも言われている
胃瘻造設,気管食道離断術(適応は厳格に検討)
予防
ACE阻害薬
咳の神経伝達物質の1つであるサブスタンスPの分解を阻害する.
降圧薬であるため,血圧に配慮して使用する.
口腔ケア
口腔ブラッシング→高次脳機能を刺激してサブスタンスPの産生を促す.
口腔ケアは嚥下反射を改善させる.
誤嚥性肺炎の起炎菌である口腔内雑菌を減らす.

口腔ケアで,誤嚥性肺炎の発症は半分に抑えられる.