大動脈解離 aortic dissection

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なすび医学ノート

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粥状硬化や中膜壊死のある大動脈において,内膜亀裂に引き続いて中膜が広範囲に2層に解離し,この解離腔(偽腔)に血液が流れる,あるいは血栓が充満した状態.

高血圧緊急症の1つであり,迅速な降圧,心拍数コントロール,鎮痛および絶対安静を必要とする.

瘤を形成する症例は解離性大動脈瘤dissecting aneurysm of the aortaと称される.

疫学

○剖検例での解離性大動脈瘤の頻度は0.37%,男女比はほぼ3:1,40歳代以上の男性に好発する.
○CTを始めとする診断法の進歩により大動脈の拡大が軽度なDeBakeyIII型や血栓閉塞型の検出感度が向上し,DeBakeyIII型,Stanford B型が半数以上を占めるようになった.
・DeBakeyII型はまれで,大動脈弁輪拡張症に合併することが多い.
○70~80%の症例で高血圧歴があり,不全型を含むMarfan症候群が10%近くを占める.
・大動脈二尖弁の症例に生じやすいこともよく知られている.

病態

○発生に重要な要因は高血圧と中膜壊死.
○大動脈壁内の栄養血管vasa vasorumからの出血が起こり,内膜亀裂を生じ,中膜の解離に進行する,あるいは粥状硬化などによる内膜亀裂が先行し,vasa vasorumからの出血,中膜の虚血性変化を生じ,解離が進行すると考えられている.

○若年発症例では嚢胞状中膜壊死が多くみられ(特にMarfan症候群),血圧も低く,先天的な結合組織の脆弱性がある.
○中膜壊死は大動脈壁の障害,修復の繰り返し過程でも生じ,高齢者での本症の発生に関与する.
○大動脈が弓部で固定され心臓の拍動に応じて振動することも,比較的限られた部位で内膜亀裂が発生しやすい一因と考えられる.
○高血圧は内膜亀裂が中膜解離に進展する力となる.

○いったん解離が生ずると,偽腔の外壁は薄く脆弱であるため偽腔は拡大し破裂しやすく,また毛細管性出血oozingを生ずる.
○偽腔が血栓で閉塞されず真腔と交通を保ち2腔が形成されると,偽腔はさらに拡大し,はじめの内膜亀裂entryに続いて末梢に真腔との再交通部reentryが形成される.
○一般に偽腔内の血流は少なく,偽腔から分枝される臓器には虚血を生ずることになる. ○偽腔が大きい場合は破裂の危険性が高く,また真腔を圧迫して真腔からの灌流域に虚血を生ずる.

○動脈硬化性の血管障害に起因する真性大動脈瘤,脳血管障害,虚血性心疾患などの全身合併症が10~20%に認められる.

外傷性

○ハイリスク受傷機転に伴って大動脈峡部に好発する.

分類

DeBakey(ドベーキー)の分類

○内膜亀裂の発生部位によって分類する.一般的.
Ⅰ型:解離が上行大動脈に始まり,弓部・下行・腹部大動脈に至るもの
Ⅱ型:上行大動脈に限局するもの
Ⅲ型:下行大動脈から解離が始まるもの
 Ⅲa型→胸部大動脈に限局するもの
 Ⅲb型→腹部大動脈にまで解離が及んだもの

Stanford分類

○重症度をよく表す.
近位部解離A型 :上行大動脈,弓部大動脈に解離があるもの
遠位解離B型:下行大動脈に解離があるもの

○偽腔の状態から,偽腔が真腔と交通して開存している偽腔開存型と,偽腔が血栓で閉塞され真腔との交通がない血栓閉塞型に分けられ,一般に偽腔は前者で大きい.

症候

○臨床症状は解離に伴う疼痛と,解離の合併症としての出血,臓器虚血により生ずる.
○突然起こる激烈な体幹部の痛みが特徴的で,I型では胸部から背部への疼痛があり,Ⅲ型では背部痛で始まることが多い.
○解離が腹部大動脈に及べば腹痛,腰痛をきたす.
○無痛性で検診時などに発見される症例もある.

○発症時には血圧が上昇するが,破裂による大量出血や心タンポナーデをきたした例では低血圧,ショックに陥る.
○解離部位により出血部位も異なり,上行大動脈解離では心タンポナーデ,縦隔内出血を生じ,下行大動脈解離では縦隔,胸腔へ,腹部大動脈解離では腹膜腔あるいは後腹膜腔へ出血する.
○大量の胸腔内出血では血圧低下,呼吸困難をきたす.

○臓器の虚血症状として弓部大動脈解離では意識障害,胸腹部の広範囲解離では脊髄障害,腹部大動脈解離では腎不全,結腸虚血をきたし,上下肢の脈拍に左右差を生じ阻血症状を呈することがある.

血液検査

○一般的な炎症所見として白血球増加,赤沈値促進などがみられ,疼痛がおさまってもCRPや赤沈値は比較的長期に,時には数か月にわたって異常値を示す.
○急性期に造影検査,降圧療法を行う場合には腎機能障害の有無が重要である.

胸部X線写真

○上部縦隔陰影の拡大が認められ,下行大動脈の拡大は側面像でわかりやすい.
○大動脈弓部が鎖骨陰影まで拡大したり,弓部石灰化像と大動脈外縁との幅が6mm以上あれば解離の可能性が大きい.

CT

○単純CTでも大動脈の拡大,胸腔などへの出血が確認できるが,解離の程度,範囲,血栓閉塞の有無など確定診断には造影CTが必要である.
・単純CTでの内膜石灰化の内方偏位,三日月状の高吸収域,血管内腔のflap,心膜腔内出血を陽性所見とした場合,90.9%で急性大動脈解離を指摘しえたと報告されている.

○偽腔は剥離内膜(フラップ)によって真腔と境され,多くの場合半月形を示し,内にはしばしば血栓が認められる.
○真腔は正常大動脈腔より狭いのが普通で,dynamic CTを行うと偽腔は真腔に比べて造影が遅く,不十分で,その排泄も遅れる.
→偽腔から灌流される臓器の造影も遅く不十分となり,特にI型における腎動脈の灌流状態を知ることは腎不全の予後を知るうえで大切である.
○偽腔が血栓で閉塞されている場合は,単純CTで解離部は三日月状にhigh density areaとして認められ,造影CTでも偽腔内への造影剤の流入はみられない.
○大動脈瘤の外周には滲み出した血液による同心円状,あるいは不規則な形の異常陰影がしばしば認められる.

心エコー

○胸壁からのアプローチで上行大動脈基部の拡大,フラップ,心膜腔への出血,大動脈弁閉鎖不全が検出できる.
○ドプラ法で,より血流の速い腔が真腔である.
○胸壁からのアプローチでは上行大動脈基部しか観察できず,弓部から下行大動脈への観察には経食道心エコー図が必要である.

大動脈造影

○比較的安全に施行でき,CTで検出困難な解離腔のentry,reentryの有無,部位,真腔,偽腔からの臓器動脈の分岐状況などが確実に診断できる.
○静注法DSAでもほぼ同程度の情報が得られ,急性期の検査としては十分である.

治療

治療の基本は,既に発生した大動脈解離,それに伴う出血,臓器虚血などの合併症に対する治療と,解離の進展,瘤破裂の予防である.

解離の型診断,血栓閉塞の有無,臓器虚血の有無が治療方針決定に重要.

DeBakeyI,Ⅱ型(Stanford A型)→外科手術
DeBakeyⅢ型(Stanford B型)→内科的薬物治療が原則
*外傷性の急性大動脈解離であれば,緊急手術や血管内治療の適応となる.

死亡の大部分は発症2週間以内に起こり,この間の厳重な循環管理のためCCUあるいはICUへ収容する.

初期治療

○救急来院時には,まずバイタルサインをチェックし,鎮痛と血圧コントロールを行い,並行して診断を進める.
○血圧低下,ショックの場合は,心タンポナーデか大量胸腔内出血を疑い,心タンポナーデには直ちに心膜穿刺,排液を行い,緊急外科手術を行う.
○大量胸腔内出血にはドレナージが必要で,呼吸不全があるときは気管内挿管する.

○初期の出血は必ずしも瘤破裂を伴わず,菲薄化した偽腔外側からのoozingであるため,ドレナージのみで止血することも多い.

多くの症例で発症直後は血圧が上昇しており,塩酸モルヒネを用いて鎮痛するとともに,硝酸薬やカルシウム拮抗薬の点滴で速やかな降圧をはかる.

1)速やかな作用のあるCa拮抗薬(ニカルジピン,ジルチアゼム),ニトログリセリン,ニトロプルシドとβ遮断薬を組み合わせて持続注入し,SBP 100~120mmHgに維持することが望ましい.
2)ジルチアゼムとβ遮断薬を併用する場合には,徐脈に注意する.

内科治療

○降圧療法を中心とした内科治療の対象となるのは,重症臓器虚血などの合併症がないDeBakeyⅢ型(Stanford B型)である.
○急性期に胸腔内出血があっても,止血でき,大動脈瘤の拡大がなければ降圧治療でよい.
○血栓閉塞型のStanford A型も心膜腔内出血などの合併症がなければ内科治療とし,慎重に経過を観察する.
○高齢者では全身的合併症のため,手術が必要でも内科治療とせざるを得ない場合も多い.

外科治療

○DeBakeyI,Ⅱ型は原則として手術が必要である.
・特に切迫破裂(疼痛の持続,解離腔の持続的拡大)や心タンポナーデ,重症大動脈弁閉鎖不全,心不全,冠動脈,頸動脈などの重要分枝の血行障害時には緊急手術が必要である.
・Ⅲ型でも破裂や切迫破裂,瘤拡大がある場合には手術の対象となる.

○Stanford A型の手術の基本は上行大動脈を人工血管置換術により再建することである.
・弓部分枝へも解離が進展している場合は,上行弓部置換を行い弓部分枝への血行再建も行う.
・手術は解離のentry部を切除し,解離の中枢側,末梢側を補強,縫合閉鎖し,人工血管で大動脈を再建する.
・人工血管を真腔に内挿する場合は,解離腔を縦切開し,フラップを切除し,中枢側,末梢側の解離腔を閉鎖し,人工血管を縫着する.

○大動脈弁閉鎖不全に対しては弁形成術が有効なことが多い.

慢性期

血圧コントロール

再解離および破裂の予防を目的として,SBP 130mmHg未満を目標とする厳格な血圧コントロールが望ましい.

β遮断薬が解離関連イベントを減らすという報告がある.

サイズfollow up

1)慢性期にも大動脈瘤破裂,再解離があり得るので,特に偽腔開存型では,定期的にCTなどで大動脈径の拡大の有無を観察する.
2)大動脈径が5~6cmまで拡大すれば手術を考慮する.

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