Alzheimer型認知症 Alzheimer-type dementia;ATD

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なすび医学ノート

アルツハイマー病(Alzheimer’s disease;AD)は認知機能障害や行動・心理症状を呈し,神経細胞の著明な脱落,老人斑,神経原線維変化が紅斑に出現する神経変性疾患.
ADによる認知症はAlzheimer型認知症と呼ばれ,認知症の原因疾患として最も多い(50~60%).

原因

危険因子・保護因子

加齢

遺伝素因APoE ε4

環境因子
・教育(高学歴は低リスク)
・運動,対人交流
(知的活動はリスクを低下させる可能性)
(運動によって高インスリン血症が改善され,予防につながることが示唆されている)
・脳外傷

生活習慣要因
・高血圧
・脂質異常症
・糖尿病

アミロイドカスケード仮説

病変形成過程の上流部にアミロイドの産生,凝集,沈着が位置し,過剰にリン酸化されたタウ蛋白が沈着するNFTやニューロンやシナプスの障害・死はアミロイド沈着過程より下流に位置するという仮説.

病態

脳内病理は発症しているものの,臨床症状を認めず,本人はもとより第三者も全くその異常に気付くことのできない20~25年の無症候期(preclinical AD),自覚的物忘れや第三者からの気付きはあるものの,日常的・社会的生活に支障を認めない軽度認知障害期(MCI due to AD),誰の目にも明らかな違和感として映る認知症期(dementia due to AD)というのが自然歴.

①脳内でアミロイドβ蛋白(Aβ)の蓄積→老人斑
(この段階ではまだ認知症になっていない)

②タウ蛋白が過剰にリン酸化→神経原線維変化
(神経細胞の機能低下と死滅→脳萎縮) 20~25年の経過

海馬(近時記憶障害,失見当識障害)

側頭頭頂連合野(言葉が出ない=健忘性失語,洋服が着られない,重ね着してしまう=着衣失行,外出しても迷子になる=視空間失認)

前頭葉(人格変化など)

病理

肉眼的にびまん性の脳萎縮があり,病理組織学的に大脳皮質の神経細胞の著明な脱落に加え,多数の老人斑とAlzheimer型神経原線維変化(neurofibrillary tangle;NFT)という特異な病理変化が認められる.

神経細胞脱落

海馬や大脳皮質に強い脱落がある.

老人斑

高齢者脳やLewy小体型認知症にも出現するが,程度はより軽度.

老人斑の主成分として,アミロイドβ(amyloid β;Aβ)が同定されている.

Alzheimer型神経原線維変化 neurofibrillary tangle;NFT

高齢者,神経原線維型認知症,進行性核上型麻痺,脳炎後認知症,Parkinson認知症複合などさまざまな疾患で出現するため,病的ではあるが,特異的病変ではない.

NFTの主成分としてタウ蛋白が同定され,ADでは過剰にリン酸化されていることが判明している.

症候

認知機能障害

病識は次第に欠如してくるが,初期からの人格変化は稀で,礼節は保たれていることが多い.

記憶障害

初期にまず障害されるのが近時記憶であり,数分~数十分前の事柄を忘れてしまう.
・何度も同じことを聞いたり話したりする.

記憶の内容としては,いつ,どこで,何をしたかといった個人的体験の記憶であるエピソード記憶の障害が多い.
・物を置いた場所を忘れる「置き忘れ」が起こる.

症状が進行すると即時記憶が障害されるようになり,数字列の復唱と逆唱が困難となる.

末期には,古い情報である遠隔記憶も障害される.

中期~末期になると意味記憶障害がみられ,一般常識が分からなくなり,手続き記憶も生じ,体得技術や習慣が障害される.

見当識障害

初期には,時間的失見当識が生じ,今日の日付を正答できない.

症状が進行すると,場所の失見当識がみられ,末期には人物の失見当識が出現し,最後には家族のことも分からなくなる.

失語

初期には,喚語困難(語想起障害を含む)がみられ,語彙は乏しくなり,「あれ」「これ」等指示語が増える.

中期になると,冗漫で迂遠な言い回しが増え,自発言語が減少し,錯語が目立つようになる.

末期には発語がみられても理解できない状態となり,復唱するだけの反響言語がみられる.

失認

初期より視空間失認がみられ,外出先やトイレから帰れなくなるケースもある.

進行すると,半側空間無視,身体失認ならびに触知覚の障害などが出現する.

末期には,近親者の顔も分からなくなる相貌失認も現れる.

遂行機能障害

計画立案,組織化,順序立てならびに抽象化などの能力の障害で,目標を設定し,計画を立て,それを効果的に遂行することができなくなる.

前頭葉機能障害によるものであるが,比較的初期から出現することもあり,家事・仕事・お金の扱いが上手くいかなくなる.

「取り繕い」「場合わせ反応」

答えられない質問をされたときに誤魔化すように返答する.
・日付の質問に対し「この歳になると,日にちは関係なくなるから」
・最近のニュースの質問に対し「あまりニュースは見ないので」

「振り返り」

質問に答えられないときや自信がないときに同席の家族の方を振り向き,家族に「何日だっけ?」と答えさせようとしたり,自分の回答について確認したりしようとする.

認知症の行動・心理症状 behavioral and psychological symptoms;BPSD

不安,焦燥,心気症状,不眠,うつ状態,興奮ならびに妄想などがみられる.

初期は,認知機能障害に対する不安・焦燥が多く,意欲低下/無関心/無気力/自発性低下といった「アパシー」や財布の場所を忘れ,介護者が盗ったと訴える「物盗られ妄想」がしばしばみられる.

中期以降になると,視空間失認の増悪による「徘徊・道迷い」,鏡に映る自分を他人と認識し,自分に向かって話しかける「鏡現象」,「興奮」,「易刺激性」,「攻撃的行動」が出現する.

末期には,失禁や失便の隠蔽,それが上手くいかず「不潔行為」が認められる.

身体症状

進行期に至るまで神経所見を認める稀.

末期には,失外套症候群,ミオクローヌス,筋トーヌス亢進,原始反射などの神経症候を呈し,寝たきりになる.

頭部CT,頭部MRI

初期は,海馬を含めた側頭葉内側の萎縮がみられ,進行するに従い,萎縮は大脳全域に及び,脳室系の拡大も目立つようになり,大脳白質の変性(白質アライオーシス)も出現してくる.

脳血流SPECT,糖代謝PET

脳萎縮に先立って,初期から後部帯状回で血流低下がみられる.

進行に伴い,楔前部,側頭葉,頭頂部,前頭部へ拡大する.

脳脊髄液バイオマーカー

Aβ42の低下と総タウ蛋白およびリン酸化タウ蛋白の増加がみられるが,Lewy小体型認知症などAD以外の認知症でも増大がみられることに注意が必要.
・脳内の神経細胞に認められる神経原性変化と相関する

アポリポ蛋白E遺伝子型

AD患者ではE4(ε4対立遺伝子)を有している率が高い(AD発症リスクはε4アレル1個で3倍,2個で10倍に増大).
*E4(ε4)を有さないAD患者,E4(ε4)を有しAD発症しない健常者も多いことに注意.

(アミロイドイメージング)

脳内のAβに結合するラジオアイソトープを投与し,Aβが沈着する部位を画像化する.

臨床症状が出現する前からAβが沈着することを利用する.

(ダウイメージング)

脳内のダウ蛋白に結合するラジオアイソトープを投与し,タウ蛋白が沈着する部位を画像化する.

治療各論

コリンエステラーゼ阻害薬 cholinesterase inhibitor;ChEI

アセチルコリン(acetylcholine;ACh)の分解を阻害し,シナプス間隙中のAChの分解を阻害し,シナプス間隙中のACh量を維持し,シナプス伝達効率を上げて,認知機能を改善させる.

有害事象としては,食欲不振,悪心,嘔吐,下痢などの消化器症状が多い.

ドネペジル

錠,細粒,口腔内崩壊錠,内用ゼリー,ドライシロップ

軽度・中等度ADに対して,1日1回5mgの維持量内服
重度ADに対して,1日1回10mgの維持量内服

中枢アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase;AChE)に選択性が高い.

血中半減期:90時間
肝CYP3A4,CYP2D6による代謝

ガランタミン

錠,口腔内崩壊錠,内用液

軽度・中等度ADに対して,1日16mg(8mgを2回)の維持量内服
症状に応じて,1日24mg(12mgを2回)に増量可能

AChE阻害作用に加えて,ニコチン性ACh受容体のアロステリックモジュレーターとして,その機能を促進させる作用を有している.

血中半減期:8~10時間
肝CYP3A4,CYP2D6による代謝

リバスチグミン

パッチ

軽度・中等度ADに対して,維持量として1日1回18mgを貼付

AChを分解するAChEとブチリルコリンエステラーゼの両者を阻害する作用を有している.

腎排泄型

NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬

正常な神経伝達には影響を与えないが,持続的なグルタミン酸刺激による神経興奮毒性に保護的に作用すると考えられている.

有害事象としては,めまい,傾眠,頭痛,便秘などが報告されている.

メマンチン

錠,口腔内崩壊錠

中等度・重度ADに対して,1日1回20mgの維持量を経口投与.
・ChEIと併用可能

血中半減期:70時間
腎排泄型

治療総論

軽度

中核症状のうち,記憶障害が主原因になって日常生活に支障を来たす状態.

基本的なADLに大きな問題はなく,薬物療法をできる限り早く開始し,中隔症状の進行抑制を図ることが大切.

この段階では,抑うつ症状やアパシーなど認知症のBPSDの改善にもATD治療薬が有効であることが多い.

中等度

記憶障害以外の認知機能障害による症状が顕著となり,日常生活である程度の介護が必要になる.

患者は医療側が説明したことをすぐに忘れてしまいがちになり,治療の説明は介護者中心になる.

認知症症状(認知機能障害+BPSD)への薬物療法の効果が期待できる.

重度

身体・精神症状が著しく低下し,最終的には大脳皮質の広範な病変のために,睡眠・覚醒できるが,無言・無動となる失外套症候群の状態になる.

家庭での対応や診療所への通院が困難となり,介護施設への入所や訪問診療が中心となることが多い.

薬物療法も有効であるが,介護が主体となる.

BPSDへの対応

非薬物療法

認知症患者の「心の表現」と解釈して本人の意図・訴えたいことを把握し,本人の立場で対応すると,結果的にBPSDの軽減につながることが多い.

原因・誘因ならびに状態を把握し,会話の仕方の工夫(短く簡潔に,穏やかに),失禁・空腹など身体的問題への対処ならびに不安の原因の除去などを試みる.

抗認知症薬

それぞれ有効性の報告がある.

ドネペジル→アパシー,抑うつ,不安などの改善
ガランタミン→不安,興奮,脱抑制,異常行動の改善
リバスチグミン→アパシー,不安,脱抑制,妄想,食欲・食行動異常,夜間行動異常の改善
メマンチン→興奮,易刺激性,妄想

抑肝散

保険適応外であるが,複数の臨床研究のおいてBPSDに対する有効性が報告されており,実臨床において頻用されている.

向精神薬

リスペリドン,オランザピン,クエチアピン→不安症状の改善
アリピプラゾール→焦燥性興奮,暴力へ有効
リスペリドン,オランザピン,アリピプラゾール→幻想・妄想に対しても使用が推奨
リスペリドン→暴力,不穏,徘徊,睡眠障害に検討

認知症高齢者の臨床試験において,非定型抗精神病薬投与群はプラセボ群に比較して死亡率が増加するとFDAの警告があり,使用には注意.

予防

Aβを標的として根治治療を想定した疾患修飾薬開発(三次予防薬)の相次ぐ失敗からADの一次予防からの発症予防or二次予防に注力すべきとの考えが主流を占めるようになってきた.

機械学習による横断的データベース解析で明らかになったこと

平均年齢73.8歳の高齢者では,活動量に関しては最低限の歩数を担保することが大事で,必要以上に無理して歩く必要はない.

睡眠関連因子では,至適な睡眠時間確保(353~434分)が認知機能低下の防御因子として作用する.
→睡眠は短すぎても長すぎても危険因子

昼寝をし過ぎても(>39分),中途覚醒(布団に入っていた時間に対する眠っていた時間の睡眠効率<88%)が多くても,認知機能低下の危険因子.

おしゃべりに夢中になるあまり活動量を伴わない長い会話はかえって危険因子.

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