成人成長ホルモン分泌不全症 adult growth hormone deficiency;AGHD

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なすび医学ノート

GH分泌不全

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

成人においてGHの分泌不全により,生活の質(QOL)の低下と体組成異常および血中脂質高値などの代謝障害を呈し,予後が悪化する疾患.

おすすめサイト

間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)
http://www.acromegaly-center.jp/medical/pdf/treatment_guidance.pdf

疫学

国内推定患者数:36,000人,新規発症:1,410人/年

病態

NAFLD/NASH

AGHDにおけるNAFLD発生の危険因子としては,BMI高値,内臓脂肪面積高値,インスリン抵抗性,脂質異常症の存在.

IGF-1が肝臓における酸化ストレスを軽減し,ミトコンドリアの機能を改善することが見いだされた

GH補充は内臓脂肪を減少させ,インスリン抵抗性を改善することから間接的に効果を発揮している.

原因

・腫瘍性疾患(下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫)
・Rathke嚢胞
・empty sella症候群
・下垂体炎
・周産期異常(骨盤位分娩・出生時仮死など)
・頭部外傷歴やくも膜下出血の既往
・頭蓋放射線照射
・抗PIT-1抗体症候群
・遺伝子異常
・小児がん経験者
・特発性
*その他の下垂体ホルモン分泌不全も伴うことが多い.

症候

症状

易疲労感,スタミナ低下,集中力低下,気力低下,うつ状態,性欲低下などの自覚症状および生活の質(QOL)の低下を来す.

身体所見

皮膚の乾燥・菲薄化,体脂肪の増加,体毛の柔軟化,ウェスト/ヒップ比増加,筋力低下

一般検査

脂質異常
総コレステロール↑,LDL-C↑,中性脂肪↑

耐糖能異常 約20%
脂肪分解低下→内臓脂肪型肥満→インスリン抵抗性

肝障害
NAFLD,NASHの頻度が高い

体脂肪(内臓脂肪)の増加,除脂肪体重の減少,筋肉量減少

骨塩量・骨密度低下
骨折罹患率が高い

内頸動脈IMT肥厚
心血管合併症,脳血管合併症増加

内分泌検査

GHは1回の基礎値の測定では判断できない!
・GH↓,尿中GHの排泄量低下
・IGF-1はほとんどの場合は低下しているが稀に正常.
・IGFBP-3(IGF結合蛋白-3)の低値:血中で特異的にIGFに結合,GH依存性に産生
*他の下垂体前葉ホルモンの低下がないかも評価する.

現在のGH測定キットはリコンビナント GH に準拠した標準品を用いている.
キットによりGH値が異なるため,成長科学協会のキット毎の補正式で補正したGH値で判定する.

画像検査

下垂体MRI

器質性疾患の検索

負荷試験(GH分泌刺激試験)

重症成人GH分泌不全症が疑われる場合は,インスリン負荷試験または GHRP-2 負荷試験をまず試みる.
追加検査としてアルギニン負荷あるいはグルカゴン負荷試験を行う.

クロニジン負荷,L-DOPA負荷は偽性低反応を示すことがあり,GHRH負荷試験は視床下部障害や放射線療法後に偽性反応を示すことがあるため診断基準には含まれていない.

次のような状態においては,GH分泌刺激試験において低反応を示すことがあるので注意を必要とする.
1.甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンによる適切な補充療法中に検査する.
2.中枢性尿崩症:DDAVP による治療中に検査する.
3.成長ホルモン分泌に影響を与える下記のような薬剤投与中:可能な限り投薬中止して検査する.
薬理量の糖質コルチコイド,α-遮断薬,β-刺激薬,抗ドパミン作動薬,抗うつ薬,抗精神病薬,抗コリン作動薬,抗セロトニン作動薬,抗エストロゲン薬
4.高齢者,肥満者(アルギニン負荷・グルカゴン負荷試験の場合),中枢神経疾患やうつ病に罹患した患者

インスリン負荷(ITT)

低血糖によるストレスで視床下部に作用.ソマトスタチンの分泌抑制とGHRHの分泌促進

GH分泌不全診断のゴールドスタンダードとされるが,副腎皮質機能低下症や高齢者では,低血糖が遷延しやすく危険.
→低血糖発作,虚血性心疾患,痙攣発作,てんかんなどの既往がある場合は禁忌.
 高齢者は慎重に検討する.

アルギニン負荷

視床下部からのソマトスタチンの分泌抑制

L-DOPA負荷

ソマトスタチンの分泌抑制とGHRHの分泌促進.偽性低反応あり

グルカゴン負荷

グルカゴンによる血糖上昇後,インスリン分泌が促進.
血糖降下に対する反応(インスリン負荷と同じ機序)

GHRP-2負荷(成人発症のみ)

growth hormone-releasing peptide-2が視床下部に作用し,GHRHの分泌促進とソマトスタチンの分泌抑制

重症型以外の成人GH分泌不全症を診断できる GHRP-2 負荷試験の血清(血漿)GH 基準値はまだ定まっていない.

クロニジン負荷(小児のみ)

中枢性のα2-アドレナリン作動薬で,GHRH分泌を促進 偽性低反応あり

GHRH(GRH)負荷

偽性低反応あり

生活の質検査(Adult Hypopituitarism Questionnaire;AHQ)

QOL評価.

診断(平成30年度改訂)

診断基準

成人成長ホルモン分泌不全症
1.Ⅰの①or②を満たし,かつⅡの①で2種類以上のGH分泌刺激試験において基準を満たすもの.
2.Ⅰの②およびⅡの②を満たし,かつⅡの①で1種類のGH分泌刺激試験において基準を満たすもの.

Ⅰ.主症候および既往歴

①小児期発症では成長障害を伴う.
*適切なGH補充療法後や頭蓋咽頭腫の一部(growth without GH と呼ばれる)では成長障害を認めないことがある.また,性腺機能低下症の存在,それに対する治療の影響も考慮する.

②頭蓋内器質性疾患の合併ないし既往歴,治療歴,周産期異常の既往がある.
*頭蓋内の腫瘍,炎症,自己免疫,肉芽腫,感染,嚢胞,血管障害などの器質性疾患,頭部外傷歴やくも膜下出血の既往,手術および放射線治療歴,小児がん経験者(視床下部下垂体系に影響のある病態や治療を受けた者)あるいは画像検査において視床下部下垂体系の異常所見が認められ,それらにより視床下部下垂体機能障害の合併が強く示唆された場合.原因疾患によって画像検査では軽微な所見の場合がある.

Ⅱ.内分泌検査所見

①GH分泌刺激試験として,インスリン負荷,アルギニン負荷,グルカゴン負荷,GHRP-2負荷を行い,下記の値が得られること.
1)インスリン負荷,アルギニン負荷,グルカゴン負荷において,負荷前および負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間)にわたり,30分ごとに測定した血清GHの頂値が3ng/mL以下である.
2)GHRP-2負荷において,負荷前および負荷後60分にわたり,15分毎に測定した血清GH頂値が9ng/ml 以下である .

②GHを含めて複数の下垂体ホルモンの分泌低下がある.
*器質性疾患による複数の下垂体前葉ホルモン分泌障害を認める場合には,下垂体炎など自己免疫機序によるものを除いて,ほとんどの場合GH分泌が障害されている.

Ⅲ.参考所見

血清(血漿)IGF-1 値が年齢および性を考慮した基準値に比べ低値である.
*栄養障害,肝障害,コントロール不良な糖尿病,甲状腺機能低下症など他の原因による血中濃度の低下がありうる.

病型分類

重症成人成長ホルモン分泌不全症(GH 補充療法の保険適用)
成人成長ホルモン分泌不全症のうち,下記を満たすもの.
1.Ⅰの①or②を満たし,かつⅡの①で2種類以上のGH分泌刺激試験における血清GHの頂値が1.8ng/mL以下(GHRP-2負荷では9ng/mL以下)のもの.
2.Ⅰの②およびⅡの②を満たし,かつⅡの①で1種類のGH分泌刺激試験における血清 GH の頂値が 1.8 ng/mL以下(GHRP-2負荷では9ng/mL以下)のもの.

重症以外の成人成長ホルモン分泌不全症(GH補充療法の保険適用対象外)
成人成長ホルモン分泌不全症の診断基準に適合するもので,重症成人成長ホルモン分泌不全症以外のもの.

治療

GH 補充療法によって自覚症状および QOL の改善,体組成異常・脂質代謝異常の改善,骨塩量増加・骨折リスクの低下,脂肪肝の改善を認める.

後ろ向きの観察研究では生命予後の改善が示唆されている.
・補充療法を行わない場合,心血管合併率の増加に伴い死亡率が増加する.

GH だけでなく,他の欠乏しているホルモンの補充療法も必要である.

成長ホルモンの補充

GH 治療の適応に関して,成人GH分泌不全症と診断された患者のうち重症成人GH分泌不全症の診断基準を満たした患者のみが保険適用となる.
その他の成人GH分泌不全症患者に対するGH治療の適応については今後の検討課題.

ソマトロピン ヒューマトロープ®
2009年より下垂体機能低下症が特定疾患に認定され,患者の経済的負担が軽減された.

診断したらまず特定疾患申請!現時点では重症のみ適応.

治療の目的

補充療法によって,QOLの改善(易疲労感・スタミナ低下・集中力低下),体組成異常・脂質代謝異常の改善,骨塩量増加・骨折リスクの低下,脂肪肝の改善を認める.

後ろ向きの観察研究では生命予後の改善が示唆されている.

使用方法

毎日就寝前にGHを皮下注射.

少量(3μg/kgBW/day)から開始し,臨床症状・血中IGF-1値をみながら,4週間単位で増量し,副作用がみられずけつ血中IGF-1値が年齢・性別基準範囲内に保たれるように適宜増減する.

男性は0.1-0.2mg/day,閉経前女性は0.2-0.3mg/dayが目安.
高齢者ではより少量(0.1mg/day)から開始し注意深く容量を調整する.

一生続けないといけないことを強調せず,まずは半年使って治療効果をみましょうと説明することが大事

GH投与量の上限は1mg/dayで,小児の投与量と比較すると,小児では0.175mg/kg/週(25μg/kgday)であり,成人では6~8μg/kgday前後が多く,小児の1/4,多くても1/2量.

治療経過中は定期的に血中IGF-1値を測定し,年齢・性別基準範囲内であることを確認する.
・測定はGH投与開始後24週目までは4週間に1回,それ以降は12~24週間に1回が目安.

体組成の改善,代謝障害の是正,QOLの改善など,GH治療の臨床効果を評価する.

有害事象

 GHの体液貯留作用に関連する手足の浮腫,手根管症候群,関節痛,筋肉痛などが治療開始時にみられるが,その多くは治療継続中に消失する.

浮腫と関節痛は,減量で必ず改善することを事前に説明する!

禁忌

糖尿病患者,悪性腫瘍のある患者,妊婦
*糖尿病については,血糖コントロールがよく網膜症などの合併症が進行していない症例では再考してよいかも?(欧米では,増殖性網膜症や活動性のある網膜症のみに禁忌)

他のホルモンとの相互作用

GH補充療法を開始した際に他のホルモンとの相互作用があるので注意が必要.

甲状腺ホルモン
GH投与により中枢性甲状腺機能低下症が顕在化し,T4 補充量の増加を来すことがある.

副腎皮質ホルモン
副腎皮質ホルモン投与量が増加することがある.

エストロゲン
経口エストロゲン製剤では肝での IGF-1産生を抑制するので貼付型エストロゲン製剤に比べて同一効果を得るのに高用量のGHが必要である.

テストステロン
GH がテストステロンの作用を増強させ,特に治療初期に体液貯留作用増強することがある.

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