経口抗凝固薬 oral anticoagulant;OAC
心房細動例では洞調律例に比べて,塞栓症の発生頻度が約5倍になる.
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危険因子
塞栓症の既往,弁膜症(特に僧帽弁狭窄),人工弁置換高齢者(65歳以上),うっ血性心不全,高血圧,糖尿病,頸動脈疾患,左房拡大,甲状腺機能亢進症などが挙げられる.
J-RISK AF研究
・従来の75歳以上(75歳未満の1.7倍),85歳以上(2.4倍),高血圧,脳梗塞既往に加え,持続性・永続性Af(発作性の1.6倍),低体重(BMI<18.5)(非体重の1.6倍)が独立した脳梗塞発症因子.
→比較的若年で従来の危険因子がなくても,持続性Afであれば,抗凝固療法は必要
GARFIELD-AFレジストリー PLoS One 2018; 13(1): e0191592
・前向きに登録された新規の心房細動患者2万8,628例(年齢中央値は71.0歳、女性44.4%、CHA2DS2-VAScスコアの中央値は3.0)を対象に2年間追跡.
・AFの3つの主要転帰〔死亡、脳卒中/全身性塞栓症、大出血〕のリスク因子を検討した.
・加齢と脳卒中/全身性塞栓症の既往,血管疾患,慢性腎臓病(CKD)はいずれも3つの主要転帰と関連したほか,喫煙習慣と持続性AF,出血の既往は死亡リスクと関連したことが報告されている.
病態
心房細動では,血管内で血栓が形成されるのに必要なVirchowの3徴(血液のうっ滞,血液成分の変化,内膜の障害)が揃っている.
脳塞栓の他,四肢動脈や腸間膜動脈塞栓などを生じる.
慢性心房細動では,長期間の心房細動の持続で心房筋の収縮力が低下しているため,左房内に血栓を形成しやすく,形成された血栓が遊離すると脳動脈を詰めて脳塞栓症を引き起こす.
発作性心房細動の場合も,しばらく持続し停止すると,一過性に心房筋にスタンニング(電気はスムーズに流すが無収縮の状態)が生じる.
この時期に,心房内(特に左房の心耳内)に血栓が形成されやすくなり,心房筋の収縮力が改善してくると脳塞栓症を引き起こす可能性がある.
発作性と慢性とでは,慢性の方が血栓塞栓症のリスクが高いと考えられている.
治療
・脳出血予防のためにも血圧を厳重にコントロールするとともに禁煙指導を行う.
・アスピリンについては,JAST研究の結果で「脳塞栓発症を抑えられず,重篤な出血のリスクが高まる」と考えられており,使用されない.
弁膜症性心房細動(僧帽弁狭窄症,機械弁)
【推奨】
ワーファリン(目標PT-INR 2.0~3.0)
非弁膜症性心房細動 non-valvular atrial fibrillation;NVAF
基本的にはDOACを優先的に使用する.
CHADS2 score
1)心不全 1点 Congestive heart failure
2)高血圧 1点 Hypertension
3)年齢≧75歳 1点 Age≧75
4)糖尿病 1点 Diabetes melitus
5)脳梗塞やTIAの既往 2点(無症候性脳梗塞はいれない) Stroke/transient ischemic attack

本邦のガイドラインでは,簡便なCHADS2 scoreを推奨.
複雑なスコアを用いても,日本人の心房細動患者においては優越性を認めなかったため.
CHADS2 score≧1点
【推奨】
DOAC(ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)
【考慮】
ワーファリン(年齢によらずINR 1.6~2.6)
*なるだけINR 2に近づける.
*脳梗塞既往を有する二次予防の患者,高リスク(CHAD2スコア≧3点)ではINR 2.0~3.0を考慮(70歳未満に限る).
CHADS2 score 0点+その他のリスク
・心筋症
・年齢(45~65歳)
・血管疾患(心筋梗塞既往,大動脈プラーク,末梢動脈疾患など)
・持続性/永続性心房細動
・腎機能障害
・低体重(≦50kg)
・左房径>45mm
【考慮】
DOAC
ワーファリン(目標は上記と同じ)
CHA2DS2-VAScスコア
Congestive heart failure
Hypertension
Age(≧65 1point,≧75 2points)
Diabetes millitus
Stroke/TIA
vascular disease
sex category
HAS-BLEDスコア
抗凝固療法を行う心房細動患者における,重大な出血事象の発現リスクを評価する方法.
Hypertension
高血圧(収縮期血圧 160mmHg以上)→1点
Abnormal renal / liver function
腎機能異常(慢性透析,腎移植,S-Cr>2.26)→1点
肝機能異常(慢性肝障害,T.bil>正常上限2倍,AST/ALT/ALP>正常上限3倍)→1点
Stroke
脳卒中→1点
Bleeding
出血or出血傾向(出血素因,貧血など)→1点
Labile INRs
INRコントロール不良(不安定なINR,高値orINR至適範囲内時間<60%)→1点
Elderly
年齢(>65歳)→1点
Drugs / alcohol
抗血小板薬やNSAIDsの使用→1点
アルコール依存→1点
PCI後の抗血小板薬
周術期のみ→3剤(抗凝固薬+DAPT)
PCI後1年以内→抗凝固薬+P2Y12阻害薬
PCI後1年以上→抗凝固薬単独
左心耳閉鎖デバイス Left Atrial Appendage Closure;LAAC
WATCHMAN® 2019年本邦で保険適応
出血リスクや塞栓症発症などによりOACが限界と考えられるNVAF例に対する塞栓症予防法.
全身麻酔下に大体静脈より心房中隔穿刺後に左房内に到達し,経食道心エコーガイド下で左心耳に留置する.
手術成功率は98.3%,重大合併症発生頻度は2.16%.
術後45日まではワーファリンとアスピリンの併用.
経食道心エコーで左心耳閉鎖が確認されれば,ワーファリン中止,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT).
6か月以降はアスピリン単独が推奨(長期の安全性・有効性は確立されていない)
ワーファリンとの比較
メタ解析では,5年間の脳梗塞・全身性塞栓症発現率はWATCHMAN群で高い傾向であったが(HR 1.7),出血性脳卒中・全死亡は有意に少なかった(HR 0.73).
DOACとの比較(PRAGUE-17試験)
20か月(中央値)の経過で,複合エンドポイント(脳卒中・全身性塞栓症・心血管死・大出血・手技合併症など)に有意差はなく,非劣性が証明された.
高齢者
留置すべき事項
出血リスク
高齢になるほど塞栓症リスク・出血リスクが高くなるため,抗凝固薬をどのように適用するか慎重に検討しなければならない.
・4つのDOACの臨床試験の死亡原因は,脳梗塞による死亡5.7%,出血に起因する死亡5.6%とほぼ同数.
OAC非施行でも,高齢になるほど,出血リスクが増加する.
ポリファーマシー
高齢者では高血圧・糖尿病・CKD・整形外科疾患などの併発症が多くみられ,薬剤数も増加する.
OAC服薬例では,大出血・全死亡のリスクが増加する.
フレイルティ,転倒既往
AF例でもフレイルありと評価された高齢者の死亡率は高くなる.
転倒は頭蓋内出血の大きなリスクになる.
AF例は非AF例に比して転倒のリスクが高く,転倒既往を有するAF例は既往にない例に比して死亡率が有意に高い(HR 1.44).
実際の治療
減量基準を満たさないにも関わらず,減量用量orオフラベル低用量にする不適切減量は,全入院を増加させるため,安易な減量は避けるべき.
J-ELD AFレジストリー(75歳以上,アピキサバン)
・58%が減量基準を満たして減量用量,42%は通常用量
・1年間のアウトカム,脳卒中・塞栓症発現率は1.6%と低く,通常群と減量群に差はなし.
・大出血発現率は,通常群1.42%,減量群2.25%.
→アピキサバンは日本人高齢NVAF例に対して有効で安全
・出血の予知因子は,①大出血の既往,②腎機能低下(eGRR<45),③抗血小板薬併用
ELDER-CARE-AF試験(80歳以上,高出血リスク,エドキサバン15mg)
・高度腎機能低下(CCr 15-30),重要臓器出血既往,低体重(≦45kg),抗血小板薬併用のいずれかを持つ.
・プラセボに比して,脳卒中・塞栓症発現率を有意に抑制し(HR 0.34),大出血を有意でないものも増加させた.特に消化管出血が増加したが(HR 1.87),頭蓋内出血・致死的出血・総死亡の増加は認めなかった.
→2021年8月にエドキサバン15mgは「高齢で出血リスク因子を有するNVAF」に対し保険適応へ.

通常のOACが困難で,出血リスクを有する超高齢AF例に対して考慮すべき
透析患者
ワーファリン投与は原則禁忌
1)ワーファリンやアスピリン服用者では非服用者に比較して,脳卒中の発症リスクは8.3倍増加する.
2)Af合併透析患者1671名を平均1.6年間観察した検討において,ワーファリン使用患者では非使用患者に比較して,新規脳卒中発症リスクが1.93倍高い.
→ランダム化比較検討試験が必要であるが,現時点ではワーファリンの有用性は実証されていない.