adrenal incidentaloma;AI
副腎腫瘍
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副腎疾患と関係ない疾患の検査または健康診断の際に,超音波検査やCTスキャンなどの画像診断により偶然発見される無症状の副腎腫瘍.
副腎偶発腫の約半数は,良性の非機能性腫瘍としてしばしば経過観察or放置されているが,一部において通常の測定法では検出されないステロイドホルモンの産生が確認され,高血圧・糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症・サルコペニアなどの代謝障害が認められることがある.

術前に発見された副腎偶発腫瘍は必ず褐色細胞腫,傍神経節腫を否定する!
疫学
腹部CTで,副腎偶発腫瘍が発見される頻度は約4%.
・加齢に伴って増加し,20歳台では0.7%であるのに対し,70歳台以上では約7%.
本邦の疫学調査(3672例)では,平均年齢58.1±13.0歳,性差はなし(男性51.0%).
最大腫瘍径の平均値は3.0±2.2cmであるが,症例数では1.1~2.0cmが最多(34.8%),2.1~3.0cm(26.5%)
剖検でみつかるincidentaloma(2mm以上)は約10%.CTでみつかるincidentalomaの頻度は約1%.
病因別頻度ではホルモン非産生腺腫が最も多く(50.8%),多くは良性腫瘍.
・約1/4がホルモン産生腫瘍.ホルモン産生腫瘍の内訳はコルチゾール産生腺腫(subclinical Cushing症候群を含む)10.5%,褐色細胞腫8.5%,アルドステロン産生腺腫5.1%となっている.
→副腎偶発腫が見つかればその1/4の例が副腎性高血圧をきたす可能性がある.
・悪性腫瘍転移3.7%,副腎癌1.4%,過形成4.0%,骨髄脂肪腫3.4%.
・悪性腫瘍の転移は高齢者に多い傾向がある.

病態
大部分は良性腫瘍
ステロイドホルモン(アルドステロン・コルチゾール),カテコラミンを自律的に過剰産生する場合は「機能性」と判定され,いずれも過剰産生されない場合は「非機能性」と判定される.
副腎原発腫瘍(良性や悪性に関わらず) 副腎ホルモン自律分泌があるかどうか?
・原発性アルドステロン症
・褐色細胞腫
・Cushing症候群
・subclinical Cushing症候群
副腎由来でないものや副腎皮質細胞を圧排するもの 副腎皮質機能低下症をきたしていないかどうか
・癌転移
・悪性リンパ腫
・感染症
・肉芽腫
・出血など
非機能性
ホルモン非産生腫瘍
コルチゾール産生腫瘍
原因遺伝子: GNAS,PRKACA
cAMP-PKA経路異常
・PKAの触媒サブユニットをコードするPRKACA遺伝子変異がコルチゾール産生腫瘍の50%程度と高頻度に認められる.
生活習慣病に加えて,副腎偶発腫瘍を認める場合は,特徴的所見を欠くsubclinical Cushing症候群を疑う.
アルドステロン産生腺腫
原因遺伝子: KCNJ5,CACNA1D,ATP1A1,ATP2B3
褐色細胞腫
原因遺伝子:RET,NF1,HRAS,SDHB,SDHD,VHL
副腎癌
ホルモン非産生腫瘍
β-カテニンをコードする CTNNB1の体細胞変異が原因遺伝子として報告されている.
CTNNB1変異は副腎癌の原因遺伝子でもあり,コルチゾール自律性分泌が軽微なサブクリニカルCushing症候群や褐色細胞腫の一部でにおいても同定されている.
症候
発見契機は,無症状31.6%,腹部症状16.2%,高血圧の精査12.0%.
血液検査
可能なら8時,遅くとも10時まで
ACTH,コルチゾール,PRA,PAC,カテコラミン三分画,DHEA-S
血糖測定
3cm以上なら,NSEも追加
悪性腫瘍(癌の転移・悪性リンパ腫など),肉芽腫を疑うなら,腫瘍マーカー・sIL-2Rを追加.
結核を疑うなら,QFTを追加
尿検査
尿中メタネフリン2分画
普通畜尿:尿中コルチゾール
塩酸畜尿(2日間):尿中カテコールアミン3分画,メタネフリン2分画
1mgデキサメタゾン負荷試験
ACTH・コルチゾール測定
欧州内分泌学会では,1mgデキサメタゾン抑制試験後の血漿コルチゾール濃度(cortisol DST)で以下のように分類している.
<50nmol/L未満→自律性コルチゾール分泌は除外
50~137nmol/L→自律性コルチゾール分泌の可能性あり
≧138nmol/L以上→自律性コルチゾール分泌確定例
CT
皮質腺腫は脂肪含有量が多く,CT値が低値.
副腎皮質癌・褐色細胞腫・転移癌・脂肪含有に乏しい皮質腺腫では,CT値が高値になる.
造影CTは褐色細胞腫が否定できてから,行う.
副腎静脈サンプリングを前提とする原発性アルドステロン症では,腫瘍を指摘できなくても造影CTを行う.
癌を疑うなら,頚部~骨盤部まで全身検索
MRI
できるだけ造影剤を使用する.ガドリニウム(Gd)
正常副腎
T1およびT2強調像いずれでも肝臓と同程度の低信号.
副腎皮質腺腫
内部均一で正常副腎に近い信号.脂質の含有量が多いため,chemical shift像のin-phaseに比べ,opposed-phaseで信号が低下している(感度81~100%,特異度94%~100%).T2強調画像で肝臓と同程度のシグナル認める.
副腎皮質癌
出血や壊死により内部不均一で,一部に脂質が局在することがある.
褐色細胞腫
T1強調像で低信号,T2強調像で著明な高信号を呈し,出血や壊死を伴うことが多い.
FDG-PET
3cm以上なら検討
副腎皮質癌,悪性リンパ腫,癌転移が疑われる場合,診断の補助となることに加え,その他の部位への転移も評価できる.
*正常副腎,良性腫瘍も陽性に描出されることがある.
MIBGシンチ陰性の褐色細胞腫/傍神経節細胞腫にも有用.
131I-アルドステロールシンチ
Cushing症候群/Subclinical症候群の診断に有用.
原発性アルドステロン症の局在診断目的で行う場合は,Dexa抑制が必要.
腫瘍が副腎由来かそうでないかの鑑別にも有用.
MIBGシンチ
褐色細胞腫を疑う場合.
123Iと131Iがあるが,123Iの方が感度が高く画質も良い.
Gaシンチグラフィ
悪性リンパ腫を疑う場合.
診断
両側副腎腫瘍+Cushing症候群の鑑別
→Cushing病(ACTH産生下垂体腺腫),異所性ACTH症候群,両側性コルチゾール産生腺腫,ACTH非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH:ACTH-independent macronodular adrenocortical hyperplasia),原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変(PPNAD:primary pigmented nodular adrenocortical disease)など
副腎皮質腺腫
内部に脂質を多く含むため,単純CTで低値を示す.CT値10HU以下は皮質腺腫であるとほぼ断定できる(感度71%,特異度98%).
悪性腫瘍では,比較的大きいものが多く,5cm以上を悪性とした場合の感度93%,特異度64%.3.5cm未満では悪性は否定的(3~6ヶ月後に増大傾向がないことを確認する).
悪性の場合は辺縁不整で,内部は壊死や出血などにより不均一なことが多い.
副腎転移
乳癌,肺癌,腎癌,胃癌,膵癌,卵巣癌,大腸癌の順に多い.
多くの場合問題になるのは,担癌患者において副腎に腫瘤が発見される場合.実際には皮質腺腫の頻度が高いとされる.皮質腺腫の脂質を利用した鑑別が有用.
転移ではMRIのT2W1で不均一な高信号を示すことがある.
副腎皮質癌
比較的大きい癌腫で90%以上が6cm以上.
約半数はホルモンを産生する機能性のもので,残りは非機能性.機能性の場合にはCushing症候群などの症状を呈する.
内部には出血・壊死を伴い,約30%では石灰化を認める.
・CTでもMRIでも癌腫内は不均一.
・CTでは壊死部分は低吸収で造影効果に乏しく,出血の部位は高吸収値を示す.
・MRIでは壊死部分はT2強調像で高信号で,出血部分ではT1強調画像で高信号となる.
悪性リンパ腫
non Hodgkin diffuse large B cell typeが多い.
約70%が両側性.
単純CTでは軟部組織濃度を示し,造影効果は乏しいことが多い.
多くの場合,壊死を伴わない.
Gaシンチグラフィーで強い集積を認めることが多く,鑑別に有用.
リンパ節の腫大を認めることが多い.
骨髄脂肪腫
良性腫瘍であり,辺縁は明瞭.
時に比較的大きな腫瘍として発見される.
脂肪を含む腫瘍であるため,CTでは-100HU近い脂肪の濃度を含むことで鑑別される.
MRIでは皮下脂肪に近い信号を示す.
・T1強調画像では非常に高信号,T2強調画像ではやや高信号,脂肪抑制画像では抑制=低信号
131I-MIBGシンチグラフィーで軽度集積することがある.
褐色細胞腫
画像上ではCT,MRIのdynamic studyにおいて早期濃染が特徴.
内部には嚢胞上変化や壊死がみられ不均一で,MRIのT2強調像では高信号を示す.
123I-MIBGシンチグラフィーで集積することが多く,決め手となる.多発性・転移性病変の評価にも有用.
副腎生検は禁忌
神経節神経腫
良性の腫瘍であり,神経芽細胞腫と同系統の腫瘍で分化したもの.
年齢の比較的若い成人が多い.
柔らかい腫瘍で周囲への浸潤もないため,辺縁は明瞭.
CTやMRIのdynamic studyでは早期に濃染はみられず,遅延相にて軽度~中等度の造影効果がみられる.
131I-MIBGシンチグラフィーで集積を認めることもある.
約40%に石灰化を認める.
副腎嚢胞
臨床的には稀で,偽嚢胞がより頻度が高い.偽嚢胞は普通副腎出血から生じる.
CTでは造影されない低吸収の腫瘤として描出される.石灰化を認めることも多い.
MRIでは基本的に水に近い.T1強調画像では低信号,T2強調画像で低信号を示す場合もある.
他の腫瘍内に生じた嚢胞様変化とは壁が薄くほとんど造影されないことで鑑別される.
副腎出血
高度のストレスや外傷による物理的損傷で生じることが多い.
新生児の副腎腫瘤では最も頻度が高い.
ストレスの場合は両側性のことも多い.
比較的早期にはCTで高吸収値を示す.
MRIにおいても比較的早期にはT1強調像で高信号を示す.
時間の経過により,内部は石灰化や嚢胞状となる.
治療
内分泌活性腫瘍と長径5cm以上の内分泌非活性腫瘍は摘除.
・5cm 以下の腫瘍ではMRIのT2強調画像高信号の場合は摘除がすすめられる.
・3~5cmの腫瘍の手術適応は定まっていない.
・経過観察中に腫瘍径が急速に増大する場合は摘除する