多発性嚢胞腎(常染色体優性多発性嚢胞腎)polycystic kidney disease(autosomal dominant polycystic kidney disease;ADPKD)

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なすび医学ノート

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診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

PKD遺伝子変異により両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し,腎臓以外の種々の臓器にも障害が生じる遺伝性疾患.

・遺伝形式は常染色体優性型であるが,家系に本疾患が存在せず新たに発症する場合もある.
・70歳まで生存した場合,約50%の患者が末期腎不全に陥ることになる.
・主要な死亡原因の特徴的な点は脳血管障害が高率で,脳動脈瘤によるくも膜下出血だけでなく脳梗塞や脳内出血の割合も多い.
・多発性嚢胞腎には,常染色体優性多発性嚢胞腎と常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease:ARPKD)とがあるが,通常は前者を指す.

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疫学

遺伝性腎疾患の中でも最も頻度が高く,発生頻度は3000~7000人に一人.
・病院での死亡者の剖検では,ADPKDは300〜500人に一人見出される.
・医療機関を受療しているADPKD患者数は一般人口2,000〜4,000人に1人という頻度が報告されている.

・男女差はない.
・孤発例も存在する.

予後

・長期予後に関しては,比較的良好.
・1983年以降導入患者20年生存率は0.249で全平均0.198より高い.

腎予後

・2014年の新規導入患者症例中,多発性嚢胞腎症例は約1000人導入されている.
・平均導入年齢は59歳で,60歳までに約半数が末期腎不全に至る.
・全体の透析導入例に占める割合は2.5%(2018年).
・全体透析患者に占める割合は3.6%(2018年12月31日).

腎不全の進行に関する因子として,男性,若年発症,高血圧,左室肥大,肝嚢胞,3回以上の妊娠,肉眼的血尿,尿路感染症,腎体積,MRIで測定した腎血流量があげられる.
・特に腎血流量は糸球体濾過量を予測する強力な因子であり,300mg/日以上の蛋白尿も腎不全進行因子であることが知られている.

原因

遺伝子異常

ADPKDの病態を引き起こす遺伝子は2つあり(PKD1・PKD2),各々蛋白としてPolycystin 1(PC1)とPolycystin 2(PC2)をコードしている.
→PC1とPC2の蛋白は共同してCa透過性陽イオンチャンネルとして働いている.

PKD1(16p13.1)→PC1の機能低下,14kb,46のexon
PDK2(4q13-23)→PC2の機能低下,5.4kb,15のexon
GANAB(11q12.3)→PC1の発現低下
DNAJB11→PC1の発現低下

ADPKD患者の約85%がPKD1の遺伝子変異(16p13.3)が原因で,残り約15%ではPKD2遺伝子変異(4q21)が原因.

・PKD1はPKD2より一般に臨床症状が重いが,同じ家系でも個人差が大きい.
・末期腎不全への進行はPKD1遺伝子変異を持つ患者のほうが,PKD2遺伝子変異を持つ患者より16-20年早いと報告されている.

ARPKDの責任遺伝子(PKHD1)は,表現形(症状、病理所見)に差はあっても同一で6p21-cenに存在し,大きな遺伝子(~470kb)である.

遺伝子異常と病態との関係

ADPKDの病因は完全には解明されていないが、以下の仮説が示されている.

1)PC1とPC2は尿細管細胞繊毛(cilia)に共存し,尿細管液の流れを感知して細胞内にCa++イオンを流入させることで,尿細管の形状を維持していると考えられている.
・PC2は endoplasmic reticulum(ER)に豊富に発現しており,transient receptor potential (TRP) channel superfamily のsubfamily メンバーである.
・PC2はCaイオンによって活性化されるhigh conductance ER channelで,2価陽イオンに対して透過性を有するが,PKD細胞では、この機能が喪失している為、細胞内Ca++イオン濃度が低下する.

2)細胞内Ca++イオン濃度が低下することで,cyclic-AMPによって活性化されるPKAがEGF以下の刺激伝達系を刺激する.
・EGF receptor(EGFR)は,PKD細胞で過剰発現しているが,EGFRの下流にあるRaf1, MEK, ERKの刺激伝達系は細胞増殖を刺激する.
(正常細胞ではcyclic-AMPによって活性化されるPKAはこのEGF以下の刺激伝達系を抑制している)
・cyclic-AMPによって活性化されるPKAはapical側にあるCFTR(Clの膜を介する転送を促進する)を刺激して,嚢胞内へのCl分泌を高める.

ADPKD細胞では,cyclic-AMPが細胞増殖と嚢胞液の分泌を刺激する.

腎尿細管細胞でcyclic-AMPを介して作用しているホルモンにバゾプレッシンがあり,バゾプレッシンの抗利尿作用に関与するV2受容体の拮抗薬が,ADPKDモデル動物で病状の進行を抑えたことが報告されている.

病態

腎臓への影響

構成単位であるネフロンの尿細管の一部に嚢胞が形成されることによりネフロンの構造が破壊される.
さらに嚢胞の拡張に伴い,周囲の正常なネフロンの細胞にもアポトーシスが誘導され,正常構造の障害が促進されるとする報告がある.
→通常は経年的に嚢胞が拡張し,数の増加により腎機能は低下する.

一般に腎機能低下の進行は,PKD1遺伝子の異常に比較して,PKD2の患者で軽度であるとされているが,家系により,また同じ家系内でも個人により進行が異なるのが特徴.

進行性腎障害調査研究班の腎機能予後調査によれば,70歳まで生存した場合,約50%の患者が末期腎不全に陥ることになる.
・他の原因疾患による保存期腎不全と同様な臨床症状・所見が出現し,多くの点で共通性を有する.

多発性嚢胞腎患者の場合,腎機能の低下の過程で腎腫大による腹部膨隆,肉眼的血尿,嚢胞感染などの発生といった疾患自体の特殊性も考慮される必要がある.

濃縮力障害はクレアチニンクリアランスが50mL/min前後からみられ,夜間尿として知られるが,多発性嚢胞腎による腎障害では髄質部の障害としてみられやすい症状である.

脳動脈瘤

家族歴がある場合で約16%,家族歴がない場合でも約6%と高頻度.

くも膜下出血の発症平均年齢は41歳と若い.

多発性肝嚢胞

腎臓に次いで嚢胞の好発部位.
・MRI診断で83%に認められる.

加齢とともに数と容積が増加する.

診断

問診

ADPKDのほとんどが30~40歳代まで無症状で経過する.

家族歴の聴取
腎疾患患者の有無,頭蓋内出血・脳血管障害患者の有無

既往症の聴取
脳血管障害,尿路感染症

自覚症状の聴取
肉眼的血尿,腰痛・側腹部痛,腹部膨満,全身倦怠感,頭痛,浮腫,嘔気など

身体所見

血圧測定:腎機能が正常であっても上昇していることが多い.

腹囲測定:仰臥位で,臍と腸骨稜上縁を回るラインで測定する.

心音

腹部所見

浮腫の有無

鼠径ヘルニアの有無など

尿所見

血尿,膿尿、蛋白尿を認めることもある.

血尿
・肉眼的血尿は37%の患者が全経過で1度は経験する.
 また,無作為の検査で25%に微細血尿を認める.
・嚢胞の出血が尿路に破れたものと解釈されるが,間質からの出血も推測されている.
・尿路感染やスポーツ,過度のストレス活動が契機となって肉眼的血尿が発症することが多い.
・多くは1週間以内に自然に止まる.
・長引いた場合には腎周囲への出血にも気をつける必要がある.
・高血圧のある患者や嚢胞腎の大きな患者で血尿が多く,血尿回数の多い患者や30才未満での血尿既往のある患者で腎機能が悪い.
・尿路結石や悪性腫瘍の合併にも注意する.

血液検査

腎機能は,正常か種々の程度に低下しており,腎機能低下のある患者では血清クレアチニン値の上昇を認める.
・24時間(ないしは一定時間)の蓄尿によるクレアチニンクリアランス,尿中蛋白定量,尿中アルブミン定量,食塩摂取量および尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG),尿中β2-マイクログロブリン値などの尿細管逸脱酵素量の測定を定期的に行う.

肝機能は正常であることが多い.

貧血は腎不全の程度に応じて認められる.

画像検査

腹部超音波断層法(エコー),CT,MRIにより,腎臓の嚢胞の程度,腎臓の大きさ,腎結石の有無,肝臓,膵臓,脾臓,卵巣の嚢胞性疾患の有無,胆管系の拡張の有無,大動脈瘤の有無を評価する.

回転楕円体法による腎臓容積測定方法:MRI

腎臓の長さ (L),幅 (W),奥行 (D)をMRI上で計測し,腎臓容積(mL)=π/(6×L×W×D) で計算する.
単位はcm.

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遺伝子診断(一般的にはしない)

遺伝子診断には,直接DNAの変異を検出する直接遺伝子診断と家系連鎖解析による間接遺伝子診断がある.
・直接診断はPKD遺伝子の大きさやその構造の複雑さなどに起因する経済的・技術的な問題より個々の症例において実施することは臨床上難しい。
・間接診断による判定には同一家系内で複数のDNA試料が必要である.

現在では腹部超音波ならびにCT検査により腎嚢胞が非侵襲的に容易に診断が可能となっており,遺伝子検査によりPKDと診断する必要はない.
・画像診断を施行する時期が尚早であると,ADPKD患者であっても嚢胞が確認できないこともあり,今後治療が確立した場合,遺伝子検査による早期診断が重要となる可能性がありうる.

診療にあたっては患者と家族のプライバシーの保護に留意すべき.

家族や血縁者のスクリーニング検査は症状や高血圧などが無い場合は,本人の希望がある場合に行う.

親から症状のない子供への告知の方法に一定の指針は無いが,一般的には20歳以上の成人に達した者に,遺伝している可能性が2分の1の確率であることを話して,精査は本人の希望に任せることを推奨する.

現時点で無症状の者に対するエビデンスのある予防法がないこと,就職・保険加入の面で社会的不利益を受ける可能性があるためである.

合併症の評価

心エコー

弁の機能的異常(逆流)の評価を行う.

頭部MRI,MRアンジオグラフィ(頭蓋内動脈瘤の検索)

・30歳以上であればMRアンジオグラフィー(MRA)による頭蓋内動脈瘤の検索が望まれる.
・30歳以下であっても,家族歴がある場合や症状がある場合にはMRAによる検索が適応となる.
・新たな発生もあり得るので,2〜3年間隔でのMRA検査が推奨される.

注腸造影,大腸内視鏡

大腸憩室を疑う症状があれば,検索する.

診断

診断基準

家族歴と画像診断での嚢胞の確認によるが,家族内発症が不明な事が多い.

家族内発生が確認されている場合
1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの
2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの

家族内発生が確認されていない場合
1)15歳以下では,CT・MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され,以下の疾患が除外される場合
2)16歳以上では,CT・MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され,以下の疾患が除外される場合

除外すべき疾患
・多発性単純性腎嚢胞 multiple simple renal cyst
・腎尿細管性アシドーシス renal tubular acidosis
・多嚢胞腎 multicystic kidney (多嚢胞性異形成腎multicystic dysplastic kidney)
・多房性腎嚢胞 multilocular cysts of the kidney
・髄質嚢胞性疾患 medullary cystic disease of the kidney(若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis)
・多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患) acquired cystic disease of the kidney
・常染色体劣性多発性嚢胞腎 autosomal recessive polycystic kidney disease

補足1
・両側の腎臓が腫大し,大小無数の嚢胞が超音波断層像,あるいはCT,MRIで示されることが必要である.
・家族歴,症状の項で記した他の臓器の嚢胞などがあれば,診断はより確かとなる.

補足2
・有効な治療方法がない現時点では,小児に対する診断を積極的に行う根拠は少ない.
・しかし,高血圧を小児から認める場合もあることや,早期発症の重篤な例も少数認めることから,一般健康診断としての血圧測定や検尿は行い,超音波検査は家族より相談された場合には行ってもよいと思われる.

重症度分類

重症度区分(5度を最高とする)は腎機能(血清クレアチニン値で代用)を基本とし,頭蓋内動脈瘤・頭蓋内出血・腹部膨満等を加味して判定する.

血清クレアチニンによって、以下の如く重症度を判定する.
1度:2mg/dL未満
2度:2mg/dL以上,5mg/dL未満
3度:5mg/dL以上,8mg/dL未満
4度:非透析で,8mg/dL以上
5度:透析を導入,または腎移植を受けているもの.

以下のものは、1度重症度を進める.
・頭蓋内出血の既往があるもの
・頭蓋内動脈瘤のあるもの
・頭蓋内動脈瘤手術,腎臓摘出術あるいは肝臓部分切除術を受けたもの
・腹部膨満が著明で,日常生活に支障を来すもの

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