多発性嚢胞腎(常染色体優性多発性嚢胞腎)ADPKD 治療

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なすび医学ノート

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多発性嚢胞腎(常染色体優性多発性嚢胞腎)polycystic kidney disease(autosomal dominant polycystic kidney disease;ADPKD)
PKD遺伝子変異により両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し,腎臓以外の種々の臓器にも障害が生じる遺伝性疾...

バソプレシンV2受容体拮抗薬

 トルバプタン tolvaptan(サムスカ®)

○バソプレシンV2 受容体を選択的に阻害し,cAMP の産生を抑制することから,腎囊胞の増大を抑制する効果が期待され,ADPKD に対して,第Ⅲ相国際共同治験(TEMPO3/4 試験) が行われた.
→トルバプタンは,腎機能が良好で,両腎容積が750 mL 以上のADPKD において,腎容積の増加と腎機能低下を抑制する効果が示された.
・わが国において2014年3月ADPKDに対する適応追加が承認された.

○肝細胞にはバゾプレシン受容体がないため,肝嚢胞減少効果は期待できない.

高Na血症・肝障害などの重篤な有害事象を厳重に監視するため,入院下での投与開始が義務づけられている.

腎機能が良好で腎容積が750 mL 以上,腎容積増大速度(ΔTKV)が概ね5%/年以上であるADPKDにおいて,その使用を推奨する.
・クレアチニンクリアランス 60 mL/分未満あるいは両腎容積750 mL 未満の成人,および小児についての有効性と安全性は確立されていない.

eGFR 15 mL/分/1.73m2以下の末期腎不全患者,妊婦,妊娠している可能性がある女性には禁忌.

2015年1月から難病新法が制定され,多発性嚢胞腎(ARPKD,ADPKD)が難病に指定された.
→導入する前に難病申請を行う(金銭負担が大きい).

導入法

■60mg/dayで入院下に導入→1ヵ月時点で忍容性の確認し,90mg/day(夜間尿への耐用性を確認)へ増量→1週間以上あけてから120mg/dayと増量していく.
 60mg→朝45mg夕15mg
 90mg→朝60mg夕30mg
 120mg→朝90mg夕30mg
・生活状況については情報収集
・入院下に導入し,水分補給の指導を必ず行う.
 最低3000mL/day(60mgで4800mL,90mgで5500mL,120mgで6000mLが目安)
・増量するタイミングは春や秋が適している(夏は脱水,冬は排尿回数が増加).
・まずは服薬開始1ヵ月時点で忍容性を確認.増量は1週間以上の間隔をあける.

1)MayoのClass分類で,1C,1D,1Eの腎機能悪化の進行リスクが高い症例で効果が高い.
2)効果は用量依存性
・導入時より120mgまで増量することのメリットと副作用を説明する.
・TEMPO試験では約75%,REPRISE試験では約90%が90-120mg/dayを内服
3)忍容性が不良で継続困難な場合には,増量前の投与量に戻して,再度少量ずつ,時間をかけて増量することも検討

<少量ずつ増量したほうがいい症例>
7.5mgや15mgずつを数カ月かけて増量
・腎機能低下症例
・年齢が若く,腎機能が保持されている(反応が良好すぎる)

導入入院のスケジュール(2泊3日)

・尿量と体重は毎日測定
・多尿や夜間頻尿などで忍容性が不良であった場合や,Na値が上昇する場合は入院日数を延長させることがある.
■day1
・夕方に15mg内服
■day2~3
・血液検査で,Cr,Na,AST/ALT,尿浸透圧を確認

<評価ポイント>
1)忍容性
・きちんと水分をとれているか?
・脱水の身体所見がないか?
2)尿浸透圧(200~250mOsm/kgが目標)
・空腹時に測定する.
・TEMPO試験では,36カ月で200~300mOsm/kg低下し,下がり幅が大きいほど,腎機能悪化や疼痛の減少が認めている.
3)eGFR
投与後はhemodynamic effectで少し低下する(中止すれば元に戻る),initial drop
→患者さんには心配しなくていいことを説明する.

副作用

 肝障害,高Na血症などの有害事象が報告されており,トルバプタン投与中は,月1回は血液検査(Cr,Na,AST/ALT,尿浸透圧は必ず)を行う必要がある。

1)水利尿作用に伴うもの
→口渇,多尿,夜間頻尿,頻尿
→高Na血症
・夏に要注意.水を積極的に飲むよう指導する.
2)肝機能障害
・投与初期~1年半くらいに発生しやすい
・用量依存性
・発生した場合は,直ちに中止.40日以内に大体回復する.
3)高尿酸血症,痛風
4)緑内障,眼圧上昇

降圧療法

○外来診察室で座位にて測定した血圧が130/80 mmHg未満になるように降圧療法を行う.
○高血圧がある場合には,まず減塩食を指導する.
○ADPKDにおいて,ACE阻害剤で尿中アルブミンが減少し,左室負荷が減少したという報告がある.
○腎機能の悪化に関しては抑えることが出来なかったという意見が多いが,高血圧は心血管系疾患の合併症とそれによる死亡率を増加させるだけでなく,頭蓋内出血の危険因子でもあるため,一般患者と同様に高血圧の治療は重要である.
○厚生労働省特定疾患対策研究事業の進行性腎障害調査研究班の研究結果で,ARBはCCBと比較し,腎機能を悪化させる程度が少ない事が報告されている.
→ARBを第一選択の薬剤として推奨する.
○ループ利尿薬は低K血症が腎嚢胞の進展に関与するとされ、またACEIとの比較試験で腎保護作用がみられなかったため、注意が必要である.

食事療法,飲水の励行

・治療上では、嚢胞腎における腎機能障害時の低蛋白食の有効性については明らかなevidenceはないが,少なくとも過剰の蛋白摂取は控えることが推奨される.

〇嚢胞の進展にバゾプレシンを介したcAMPの増加が関与していることから,飲水によりバゾプレシン分泌を抑制し,結果として嚢胞形成・進展を抑制することが期待されるため,2.5~4L/dayの飲水が推奨されている.
〇潜在的に尿濃縮力の低下があり脱水傾向になる場合があり,尿路結石や尿路感染の予防の観点からも少なくとも渇水状態などのバゾプレシン分泌刺激が維持されるような状況は避ける.

透析導入と腎移植

○透析導入の基準については通常と同じ.
○透析方法の選択については,血液透析と腹膜透析のいずれの透析方法を選択するかの定説はない.
 多発性嚢胞腎では腫大した腎臓により腹腔内スペースが十分に確保できないのではないかと懸念があるが,CAPD施行成績は他の原因疾患群との間に大きな差異は認めない.

腎移植

○腎移植の成績は,多発性嚢胞腎患者と非糖尿病患者の間では差がないことが報告されている.
○移植後に尿路感染症が多いので,移植時に両側腎摘除を行う事も報告されている.
○移植後の問題として悪性腫瘍の発生率が,他の腎不全患者と比して高かったという報告がある.
○多発性嚢胞腎患者間では女性患者が男性患者より腎生着率(p<0.01),生存率(p<0.05)ともに良かったという報告がある.

合併症に対する対策

頭蓋内出血の予防

○頭蓋内出血の予防について,高血圧の治療が有益である.
○30歳以上であればMRアンジオグラフィー(MRA)による頭蓋内動脈瘤の検索が望まれる.
○30歳以下であっても,家族歴がある場合や症状がある場合にはMRAによる検索が適応となる.
○新たな発生もあり得るので,2〜3年間隔でのMRA検査が推奨される.

感染症(腎盂腎炎・嚢胞感染)

○感染性嚢胞腎の治療は,抗菌剤の投与が第1選択.
○単純性腎盂腎炎であれば抗菌剤の投与で軽快するが,嚢胞内感染は難治性.
○腎盂腎炎の治療法は一般的な腎盂腎炎の治療と同様に行う.
○近位尿細管由来の嚢胞の場合,細胞間結合が疎であるので,嚢胞内への薬剤移行形態は血漿からの拡散であるため嚢胞内の薬剤濃度は血漿と同等である.
○遠位尿細管由来の嚢胞の場合は細胞間が蜜に結合しているので,嚢胞内に浸透するのは脂溶性の薬剤に限られる.
→脂溶性でグラム陰性桿菌に効果の高い抗菌剤の使用が望まれる(ニューキノロン系のシプロフロキサシン,トリプトプリム-サルファメトキサゾール(ST合剤),マクロライド系のエリスロマイシン,クリンダマイシンなど)
○全身的な敗血症をきたしたときは起炎菌に対して感受性のある抗生物質を選ぶ.
○解熱まで日数がかかった場合や感染を繰り返す場合には発熱や疼痛が消失しても3週程度は経口抗菌剤投与を行うことが望ましい.
○抗生物質によっても感染症が改善せず、原因となる感染嚢胞の局在が画像診断や臨床所見から特定出来れば、後腹腔鏡下嚢胞開窓ドレナージ術は有効である.

嚢胞出血

○肉眼的血尿に対しては,一般的に血尿を来す原因疾患(尿路結石・膀胱癌・腎臓癌など)を除外した後,原則的には飲水の奨励と安静による保存的対処を行う.
 ときに選択的腎動脈塞栓術や腎摘除が必要になる場合がある.

尿路結石

○通常の尿路結石症と同じように体外衝撃破砕結石術や内視鏡手術は行うことが出来る.

嚢胞に対する外科的治療

 腎機能を改善する外科的手段はなく、圧迫症状・疼痛・感染によるQOLの改善が目的である。

■嚢胞穿刺・硬化療法
・超音波エコー下嚢胞穿刺と硬化剤の注入が行われる.
・硬化剤として95%アルコールやミノマイシンが用いられる.
・効果は不十分なことが多い.

■減圧術・開窓術
・開放手術で行われることが多かったが、最近では鏡視下手術の報告が見られる.
・鏡視下手術は,創が小さく,術後の回復が早いことが利点である.

■腎動脈塞栓術(r-TAE)
・これまでは出血のコントロールが主な目的であったが,最近では腎動脈塞栓術により嚢胞腎の体積縮小をはかり,症状の改善を目的に行われている.
・透析導入後で尿量(<500ml/日)が減少していることがr-TAEの前提となる.
・治療効果として腹部腫大の減少・消失,巨大な腎臓に伴う多彩な症状(食欲不振・呼吸困難感・不眠・日常生活における動作の困難さなど)や貧血の改善がみられる.
・合併症として腎血管を閉塞するため腎機能の廃絶が起きる.腎血管性高血圧の発症頻度は少ない.多くは腰背部痛や発熱であるが鎮痛剤・抗生剤などの使用にて軽快する.

■腎摘除術
 腎腫瘍の合併例、嚢胞感染例、巨大な腎臓などが適応となる.
 最近では腹腔鏡下または後腹膜鏡下に腎摘除術が試みられるようになってきている.

■その他
 嚢胞肝に対する動脈塞栓術も試みられており、良好な治療効果が得られている.

妊娠について

○妊娠については、高血圧がなく腎機能が正常な者ではほぼ正常の妊娠が可能である.
○高血圧の合併により,未熟児の発症や胎児死亡の頻度が多くなり,また母体側の合併症も多くなる.
○高血圧の治療が推奨されるが,アンジオテンシン変換酵素薬阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬は催奇型の面から禁忌とされている.

■妊娠の可能性
・男性,女性ともに妊娠する可能性に関しては健常人とほぼ同様であり不妊症を来すことは少ない.
・女性では稀に子宮外妊娠がみられることがある.
・男性では,精嚢嚢胞との関連で不妊症があるとの報告や精子不動症の不妊症が稀にあることが報告されている.

■妊娠中の経過
・血圧,腎機能ともに正常の場合には健常女性と同様の妊娠経過である.
・妊婦の年齢が30歳以上の場合,妊娠子癇などに伴う胎児の合併症の頻度が増加し,高血圧を合併していない多発性嚢胞腎患者妊婦に比較して未熟児の発症や胎児死亡の頻度が多くなる(28%vs10%).
・母体側の合併症も非多発性嚢胞腎患者妊婦に比較すると多発性嚢胞腎女性患者で多くなる事など(35%vs19%),高血圧症の有無が母体側,胎児側の双方にとって最大の危険因子である.
・多発性嚢胞腎患者の妊婦では妊娠経過中に16%の人が新たに高血圧を合併し,一方,高血圧妊婦の25%に高血圧に伴う合併症を認めている.
→妊娠中の血圧の管理が最も重要であるが,妊娠20週以降にみられる妊娠高血圧症症候群(従来妊娠中毒症といわれていたもの)の場合は,他疾患に伴う高血圧治療と同様に降圧薬の種類にある程度の制限があり,アンジオテンシン変換酵素薬阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬は催奇型の面から禁忌とされている.
→妊娠継過中は定期的な通院とともに産科医と内科医の密接な連携が重要である.

■妊娠が腎機能に及ぼす影響
・高血圧症を伴う多発性嚢胞腎患者では妊娠回数の増加に伴い腎機能障害の進行速度が促進される事が報告されている.
・腎機能障害を伴う場合の保存期治療は他の腎疾患による腎機能障害の場合と同様である.
・経過中に母体あるいは胎児に重大な危険性があれば人工中絶や帝王切開を考慮する.

■腎嚢胞,肝嚢胞
・既に腎嚢胞、肝嚢胞が拡大している場合には胎児の生長に伴い,腹腔内容積の制限が危惧されるが,これについての系統的な報告はなく症例に即して対応する.

■遺伝子診断
・一定の見解はないが家族歴が明らかな場合には,患者と家族のプライバシーを保護した上で,本人と配偶者の希望があれば胎児の遺伝子診断に対する超音波診断なども検討する.

■生活上の注意点
・健康なライフスタイル(禁煙,過食の回避,十分な休息,適度な運動など)が勧められる.
・格闘技や体のぶつかるようなスポーツは避ける.
・高血圧がある場合には塩分制限を行い,降圧剤の投与,自宅での血圧測定などで適切に管理する.
・非ステロイド性炎症鎮痛薬は腎機能の低下を招くおそれがあるため,安易に服用しない.
・たんぱく質の摂取制限が腎機能の悪化を防止するというはっきりした根拠はないが,過剰摂取は避けるほうが望ましい.
・基礎的研究から,高コレステロール食を避け,腎機能がよい内は大豆や魚などω3不飽和脂肪酸を含む食材の摂取が勧められる.カフェインの過剰摂取を避け,水分摂取は多くし,リンの少ない食事で,カルシウムは多めに摂取することが推奨される.
・女性では嚢胞感染の誘因となる尿路感染を予防するために,便の拭き方の注意,性交渉後の排尿を勧める.
・エストロゲンが肝臓の嚢胞を悪化させる可能性が指摘されているので,肝嚢胞のある女性では更年期以降のエストロゲン補充療法は慎重に選択する.

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