急性冠症候群 acute coronary syndrome;ACS

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救急マニュアル

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

狭心症,急性心筋梗塞 acute myocardial ainfarction;AMI

冠動脈内プラークの破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔の高度狭窄や閉塞を来たすことで急性心筋虚血を生じる臨床症候群.

急性期治療が適切に行われないと急性期死亡率が高く,生存しても慢性期には心不全の原因となり,慢性期死亡率も高い.
→迅速な診断,緊急治療を要する.

  1. 病態
  2. 病型分類
    1. ST上昇型心筋梗塞 ST-elevation myocardial infarction;STEMI
    2. 非ST上昇型心筋梗塞 non-ST-elevation myocardial infarction;NSTEMI
    3. 不安定狭心症 unstable angina;UA
    4. myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries;MINOCA
  3. 症候
    1. 症状
    2. バイタルサイン
    3. 聴診
    4. 心電図
      1. ST上昇の定義
      2. 右側胸部誘導(V3R・V4R誘導)
      3. 背側部誘導(V7-9誘導)
      4. 左脚ブロック
      5. QRS幅の増大
      6. 異常Q波
      7. ST低下
      8. 陰性T波
    5. 血液検査
      1. 心筋トロポニンT,心筋トロポニンI
      2. 心筋型脂肪酸結合蛋白 heart-type fatty acid binding protein;H-FABP
      3. CK-MB蛋白量,CK-MB活性,CK活性
    6. 胸部X線
    7. 心エコー
  4. 急性期診断
    1. 持続的ST上昇あり
    2. 持続的ST上昇なし
    3. 冠動脈造影 coronary angiography;CAG
  5. 治療
    1. 再灌流療法
      1. 経皮的冠動脈インターベンション percutaneous coronary intervention;PCI
      2. 血栓溶解療法
      3. 冠動脈バイパス術 coronary artery bypass grafting;CABG
    2. 内科的治療(急性期)
      1. 塩酸モルヒネ
      2. 酸素吸入
      3. ニトログリセリン舌下投与
      4. 抗血小板薬
    3. 機械的サポート
      1. 大動脈内バルーンパンピング法 intra-aortic balloon pumping;IABP
      2. 経皮的心肺補助装置 percutaneous cardiopulmonary support;PCPS
      3. IMPELLA®
  6. 急性期合併症
    1. 機械的合併症
      1. 心破裂
      2. 心室中隔穿孔
      3. 乳頭筋断裂
    2. 心原性ショック
    3. 右室梗塞
    4. 心室性不整脈
    5. 徐脈性不整脈
  7. 急性期後の管理
    1. 抗血栓療法
      1. PCI後の抗血栓療法
      2. high bleeding risk;HBR
      3. 血栓リスク
      4. 心房細動合併
    2. β遮断薬
    3. レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAS阻害薬)
    4. Ca拮抗薬
    5. スタチン

病態

冠動脈に存在した脆弱な不安定プラークが突然破綻し,内容物が血流に接触することで引き続き血栓が形成されることにより冠血流が急激に制限される.

・破綻しやすい不安定プラークは脂質が豊富で周囲を覆う線維性被膜が薄く,リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞が浸潤していることが病理学的特徴として明らかにされている.
・血管内皮障害に引き続いて起こるマクロファージの集簇は,動脈硬化プラークにおいて最も重要な病理組織学的所見であり,プラーク形成のみでなく不安定化にも深く関わっていると考えられている.

病型分類

急性冠症候群の分類および治療方針の決定は心電図所見に基づいて行われる.

ST上昇型心筋梗塞 ST-elevation myocardial infarction;STEMI

ST上昇を認める場合には虚血責任冠動脈は完全に閉塞していると考えられる.
・急激な冠血流の遮断
→直ちに再灌流療法

非ST上昇型心筋梗塞 non-ST-elevation myocardial infarction;NSTEMI

不安定狭心症 unstable angina;UA

かろうじて冠血流が保たれるが,狭窄部の冠内圧は著しく低下し,自動調節能で調節可能な閾値未満になる.
→安静時や軽労作時でも心筋虚血が生じる.

myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries;MINOCA

心電図変化,症状,心筋逸脱酵素上昇などから心筋梗塞と診断されるにも関わらず,血管造影で冠動脈に閉塞性病変が認められない病態.
*虚血以外の心筋逸脱酵素を上昇させる病態(心筋炎・たこつぼ心筋症など)は除外される.

1)心筋梗塞と診断され6~8%がMINOCAと診断される.
2)女性に多い.
3)STEMIよりもNSTEMIの形式をとる.

確定診断に至る前の仮の診断であり,詳細に心筋梗塞を来たした原因を調べる.
・冠動脈造影の際の血管内イメージング(OCTやIVUS),冠攣縮誘発,微小血管障害の評価
・心臓MRIで心筋障害パターンor虚血パターン(心内膜側の心筋障害)orそれ以外をみることも有用

症候

症状

胸痛の性状は,前胸部や胸骨裏部の重苦しさ,圧迫感,絞扼感,息が詰まる感じ,焼けつくような感じと表現されることが多いが,単に不快感と表現されることもある.
・体動/体位/呼吸による影響がある胸痛,刺されるような胸痛,ちくちくとした胸痛,圧痛を伴う胸つは非典型的.
・症状を認める部位は,胸部に限らず,非典型的であっても急性冠症候群の可能性は否定できない.

持続時間は,不安定狭心症では数分以内であることが多く,心筋梗塞では20分以上で数時間に及ぶことが多い.

増悪・寛解因子としては,労作で増悪し,安静で改善することが一般的.

随伴症状としては,背部/腕/肩/顎/臍部への放散,嘔気/嘔吐,冷や汗,息切れ,失神などを伴うことがある.

バイタルサイン

ショック状態である場合や,末梢冷感を有する場合
→可及的速やかに原因を検索する.

心筋原性ショック→広範な心筋梗塞,陳旧性心筋梗塞への新たな心筋梗塞の合併,機械的合併症(乳頭筋断裂,心室中隔裂孔,左室自由壁破裂),右室梗塞

右室梗塞や徐脈などでは,左心機能は保たれているにも関わらず,ショック状態を呈することがある.

聴診

収縮期雑音を聴取→乳頭筋裂などに伴う急性僧帽弁閉鎖不全症や,心室中隔穿孔などを考慮

湿性ラ音・Ⅲ音を聴取,起坐呼吸,頚静脈怒張,浮腫→心不全合併を考慮

心電図

非侵襲的,簡便,迅速に行うことができる基本的な検査.

10分以内に12誘導心電図を記録する.

心電図で異常所見がないからといって急性冠症候群の可能性は否定できない.
*STEMIでも超急性期には心電図変化がまだ明らかなでないこともある.
→以前の記録や時間を空けて記録した心電図と比べると変化が明らかになる場合も少なくない.
短時間のうちに心電図変化があった場合は,より積極的にACSを疑う.

なすび院長
なすび院長

心電図診断では,「比べる」ことが何より重要!
初回で診断できない場合,経時的に再度記録する.

ST上昇の定義

STEMIによるST上昇
通常,隣接する2誘導でのST上昇

V2~3誘導のST上昇
40歳以上の男性:2mm以上(0.2 mV)
40歳未満の男性:2.5mm以上(0.15 mV)
女性:1.5mm以上

なすび院長
なすび院長

V2とV3は“ガツン“と上がっていないと明らかなST上昇とは判断されない.

V2~3誘導以外のST上昇
1.0mm以上(0.1 mV)

右側胸部誘導(V3R・V4R誘導)

前胸部誘導(V3/V4誘導)を正中線で左右対称になる部位に電極を装着する.

右室虚血の診断に有用.
→V4R誘導の1mm以上のST上昇は,急性下壁梗塞で右室梗塞合併の心電図診断指標.
・下壁梗塞の際に右室梗塞を合併すると,右室機能不全のため,予後不良.
・右室梗塞の場合は,カテコラミンや大量補液を行う必要があるため,判断が重要.

なすび院長
なすび院長

下壁梗塞の場合,右室梗塞合併の有無を判断するため,右側胸部誘導をとる!

背側部誘導(V7-9誘導)

V4誘導と同じ高さで,V7誘導は後腋窩線との交点,V8誘導は左肩甲骨中線との交点,V9誘導は脊椎左縁との交点に電極を装着し記録する.
→V7~V9誘導で,0.5mm以上のST上昇を認める場合は,純後壁梗塞を疑う.

12誘導心電図で左室後壁に面する誘導がないため診断が難しく,背側胸部誘導(V7-V9誘導)の記録が有用.

左脚ブロック

前壁心筋梗塞の際は,新規の左脚ブロックを呈する場合もあるため,新規の左脚ブロックもSTEMIと考え,緊急冠動脈造影を行う.

QRS幅の増大

重症虚血を示唆する.

異常Q波

心筋梗塞に陥った結果として現れるため,出現誘導の範囲が広い場合においては残存心筋が乏しいと判断する.

ST低下

心内膜下虚血を反映しており,主にV4-6誘導を中心にみられる.
→心筋虚血部位を推測することは困難

広範な範囲でのST低下とaVR誘導でのST上昇を認める場合は,左主幹部や多枝病変による重症虚血を反映していることが多い.
→CABGを念頭に置いた治療戦略を必要とする.

陰性T波

特に冠性T波は,貫壁性心筋虚血の際のST上昇後に出現するため,出現の範囲によって心筋虚血部位を推測することができる.

陰性U波は血圧上昇や大動脈弁閉鎖不全症でも出現するため,判断には注意が必要.

血液検査

ACSを疑う場合には心筋トロポニンを測定する.

その他にも,CK,CK-MB分画,ミオグロビン,AST,LDHなども心筋壊死を反映するために測定するが,ACSの診断には心筋壊死の感度・特異度が高い心筋トロポニンが優先される.
・トロポニンTは心臓の筋原線維を構成する蛋白で,心筋壊死に陥ると循環血液中に逸脱する.

症状出現から初回心筋トロポニン測定までが6時間以内の場合には,偽陰性の可能性もあり,初回心筋トロポニン測定のみでは判断が難しい.
→繰り返し心筋トロポニンを測定することが望ましく,定性検査の場合は6時間以降に,高感度心筋トロポニンの場合は1~3時間毎に再度測定を行う.

脳性Na利尿ペプチド(BNP)は,ACSにおいても心不全マーカーとして測定され,予後予測にも有用であることが知られている.

心筋トロポニンT,心筋トロポニンI

AMI診断におけるトロポニンの基準値は,「健常者の99パーセントタイル値を超え,変動係数10%未満の値」.
・測定キットは,健常者の99パーセントタイル値における変動係数が10%以下である精度の高い測定(高感度測定)で行う.

高感度トロポニン測定
・単位の表記は,pg/mL or ng/L.
・NSTEMIの診断における陰性的中率はすでに95%以上であり,3時間以内の再測定を含めると100%に到達→受診3時間でNSTEMIを除外できる.
・ACS以外の病態に起因する心筋障害を鋭敏に検出するため,疑陽性例を増やし,診断を困難にする.
急性心筋障害では経時的なトロポニン変化が大きく,慢性心筋障害は変化が小さいため,ヨーロッパのガイドラインでは,受診時と1時間後に高感度トロポニン測定(0h/1hアルゴリズム)をするようになっている.

AMIの診断には,トロポニン値が健常者の99パーセントタイル値を超えて上下することに加え,①心筋虚血症状,②新たな有意なST-T変化 or 完全左脚ブロック,③異常Q波の出現,④新たな正常心筋の消失 or 新たな領域性の壁運動異常を示す画像所見,⑤冠動脈造影 or 剖検所見での冠動脈内血栓のいずれかが必要.

POCTを用いたトロポニン(標準)測定
・可能であれば,より精度の高い診断やリスク層別化を行うために高感度測定が望ましい.

心筋型脂肪酸結合蛋白 heart-type fatty acid binding protein;H-FABP

ミオグロビンと同様,心筋細胞の細胞質に豊富に存在する低分子蛋白.

H-FABPはその骨格筋含有量が心筋含量に比べて少ないことから,ミオグロビンより心筋特異性が若干高いが,運動や外傷などの骨格筋障害や腎機能低下により容易に上昇する.

H-FABPのPOCT対応試薬(ラピチェック®)が陰性的中率が高いことから,AMIの除外診断に用いられる.

AMI発症早期の診断感度は高感度トロポニンより若干劣るため,H-FABP陰性の場合には,3時間後に再測定することが不可欠.

CK-MB蛋白量,CK-MB活性,CK活性

CK-MBは,骨格筋中にも少量であるが存在するため,心筋特異性はトロポニンより若干劣る.
→トロポニンが測定できる施設では,測定不要

胸部X線

心胸比,肺うっ血所見,肋骨横隔膜角の評価.

気胸,肺炎,大動脈解離の鑑別のためにも有用.

心エコー

心機能評価,冠動脈支配による局所壁運動異常,弁膜症の評価を行う.

左室自由壁破裂や乳頭筋断裂などに伴う急性僧帽弁閉鎖不全症,心室中隔穿孔などの心筋梗塞に伴う機械的合併症の診断にも有用.

下壁梗塞の際の右室梗塞合併の診断や,局所壁運動異常部位に発生しやすい左室壁在血栓の診断にも有用.

胸背部痛の鑑別として,急性肺塞栓症,たこつぼ心筋症,急性心筋炎,急性心外膜炎,急性大動脈解離の診断にも有用.

急性期診断

第1段階:問診,身体所見,十二誘導心電図(来院後10分以内に評価)

急性下壁梗塞の場合,右側胸部誘導(V4R誘導)を記録する.

急性冠症候群が疑われる患者で初回心電図で診断できない場合,背側部誘導(V7-9誘導)も記録する.

第2段階:採血,心エコー,胸部X線写真

画像検査は,重症度評価や他の疾患との鑑別に有用であるが,再灌流療法が遅れることのないよう短時間で行う.

持続的ST上昇あり

STEMIの診断
→トロポニンなどの心筋バイオマーカーの結果を待たずに直ちに再灌流療法

トロポニンの採血結果が出るまでにかなりの時間がかかってしまうため,採血の結果を待つことなく,心臓カテーテル室に入室し,カテーテルを開始する.

なすび院長
なすび院長

心電図のST上昇をみた場合,直ちに心臓カテーテル治療を開始する!

持続的ST上昇なし

非ST上昇型急性冠症候群(初期診断)
→心筋バイオマーカー(心筋トロポニンが望ましい)を測定し,鑑別(NSTEMI or UA)

虚血責任冠動脈は完全閉塞には至っていないことが多く,早期に的確なリスク層別を行い,リスクに応じた治療方針を決定する.

入院後に経時的に心筋バイオマーカーを測定し,その変化により最終診断を行う.

心筋バイオマーカーの一過性上昇or下降あり
→NSTEMI→24時間以内の血行再建を考慮
・高感度心筋Tnの場合は再検し,時間的推移を評価
→定性検査の場合は6時間後に心筋Tn再検,高感度心筋Tnの場合は1~3時間後に心筋Tn再検

心筋バイオマーカー正常
→UA→ハイリスク群では冠動脈造影
・症状出現からの経過時間が6時間以内の場合
→定性検査の場合は6時間後に心筋Tn再検,高感度心筋Tnの場合は1~3時間後に心筋Tn再検

冠動脈造影 coronary angiography;CAG

病態把握,責任病変の同定,引き続き行うPCIの補助として血管内imaging(opical coherence tomography;OCT),IVUS(intravascular ultrasound)を併用することがある.

治療

往診時または診療所などの医療機関で急性冠症候群が疑われる患者を診察した場合,ただちにバイタルサイン・身体所見・十二誘導心電図を記録・評価し,初期治療を開始するとともに119番通報して迅速に救急車を要請する.

古典的にMONA(M:モルヒネ,O:酸素,N:硝酸薬,A:アスピリン)とされている.
→優先順位が高いのは,硝酸薬の投与と,アスピリンの投与

再灌流療法

冠動脈の狭窄・閉塞が原因であり,その治療は血行再建術による冠動脈血流の改善が根治術になる.

STEMIでは,心電図所見より推測された進行性の貫壁性心筋虚血障害が本質であり,心筋障害を可及的速やかに停止する目的で緊急の再灌流を行う.
→患者が病院のドアを通過してからPCIで冠動脈を再開通するまで90分以内が推奨.

発症12時間以内のSTEMI患者に対しては,血栓溶解療法を先行させず,再灌流療法としてPCIを施行する(primary PCI).

primary PCIが劇的に死亡率を減らす.

経皮的冠動脈インターベンション percutaneous coronary intervention;PCI

PCIが第一選択

primary PCIは,本邦で行われている再灌流療法の90%以上を占めている.

再開通率は90%を超え,出血性合併症も少ないが,24時間体制の心臓カテーテル室,PCI可能な医師・コメディカルスタッフが必要となる.

発症から再灌流までの総虚血時間の短縮が特に重要であり,door to device timeの目標時間を60分以内とし,90分以内は最低限の許容時間.

発症早期(発症2時間以内)の比較的若年(65歳以下)患者で,虚血領域が広い場合にprimary PCIを速やかに行えないときには血栓溶解療法を選択する.

橈骨動脈アプローチ法
・大腿動脈アプローチ法より死亡率が低く,第一選択
・出血リスクが低いため,心筋梗塞関連の出血合併症のリスクが減る.

ガイディングカテーテル
IKARIカテーテルがSTEMIの時間短縮に有用

血栓溶解療法

組織型プラスミノーゲン活性化因子(tissue plasminogen activator;tPA)による血栓溶解療法はPCIができないときの第二選択
*NSTEMIやUAに対する適応はない

血栓溶解薬の静脈内投与で簡便であるが,梗塞責任部位の再開通率は60%前後と低く,脳出血などの致死的出血性合併症も頻度は少ないが生じることがあるため,治療開始前には禁忌を確認する.

tPAを使うことなくPCIを行うprimary PCIのほうが明らかに死亡率が低い.
→医療者の接触から2時間以内にPCIを行う見込みがないときに行う.

冠動脈バイパス術 coronary artery bypass grafting;CABG

第三選択

優れた血行再建法であるが,STEMIでは病院到着から再灌流まで90分以内が推奨されており,病院到着から90分以内の再灌流を達成するのが不十分.
→PCIが不成功or施行困難な場合に緊急CABGを検討する.

内科的治療(急性期)

塩酸モルヒネ

胸痛の持続は心筋酸素消費量を増加させ,梗塞巣の拡大や不整脈を誘発するため,鎮痛・鎮静は速やかに行わなければならない.

唯一の鎮痛薬.
・ペンタゾシンはACSに対しては血管抵抗を増加させるため,慎重投与
・NSAIDsなどでは鎮痛は困難

モルヒネは,肺血管抵抗を下げ,肺水腫を改善し,血管抵抗も上げないため心破裂などの心配も少なく,死の不安を取り除くなど,最も適切な鎮痛薬になる.
→全例にルーチン投与する必要はないが,鎮痛が必要な場合は躊躇する必要はない.

塩酸モルヒネは2~4mgを静脈内投与し,効果が不十分であれば5~15分毎に2~8mgずつ追加していくが,呼吸状態や血圧変動,嘔吐などの副作用に注意する.
・塩酸モルヒネ® 1A(10mg/1mL)+5%TZ or 生食 10mL,側管から2~5mL投与

酸素吸入

低酸素血症,心不全,ショックの徴候がある場合に酸素投与を開始するが,SpO2 90%以上の患者に対してルーチンの酸素投与は推奨されない.

動脈血液中の酸素が低下していない場合は,特に治療成績に差はない.
→ルーチンに投与する必要はなく,動脈血液中の酸素が投与している場合に使用

ニトログリセリン舌下投与

胸部症状のある患者には,速効性であるニトログリセリンの舌下or口腔内噴霧を行う.

血栓に対する効果はないが,冠攣縮には有効.
→ACSの原因は初診時には特定できないため,禁忌がなければニトログリセリン舌下投与

SBP<90mmHg,HR<50bpm,HR>100bpm,右室梗塞合併の急性下壁梗塞,勃起不全治療薬(PDE5阻害薬)服用後24時間の患者に対しては投与しない.

速効性製剤は血中濃度が急激に上昇するため血圧低下を来たしやすい.
・めまいやふらつきを生じ,顕著な血圧低下から意識消失やショックに陥る例もある.
→高齢者や脱水を伴っている場合の投与は注意を要する.
→血圧低下を来たした場合,緊急の対応法は下肢挙上

抗血小板薬

【STEMIの場合】
①アスピリン未服用の患者に対して,STEMIが強く疑われる時点でアスピリン 162~324 mgを咀嚼服用させる.
*アスピリン喘息や過敏症のある患者には投与しない.

②P2Y12阻害薬未服用の患者に対して,primary PCI施行前(冠動脈病変が解剖的に明らかになる前)にプラスグレル 20mg(口腔内崩壊錠あり)を投与する.
*プラスグレルが困難な場合は,クロピドグレル 300mg.
*クロピドグレルも困難な場合は,チカグレロル 180mgを考慮.

事前負荷によりステント血栓症やその後のイベント抑制効果が期待できる.

【NSTEMIの場合】
①アスピリン未服用の患者に対して,NSTEMIが強く疑われる時点でアスピリン 162~324 mgを咀嚼服用させる.
*アスピリン喘息や過敏症のある患者には投与しない.

②P2Y12阻害薬未服用の患者に対して,冠動脈病変を確認後,PCI 施行前にプラスグレル 20mg(口腔内崩壊錠あり)を投与する.
*プラスグレルが困難な場合は,クロピドグレル 300mg.
*クロピドグレルも困難な場合は,チカグレロル 180mgを考慮.

NSTEMIでCABG手術の可能性がある場合には,P2Y12阻害薬は効果が切れにくく手術時の止血困難を招くため,まずアスピリンを投与し,血管造影を行ってCABGを選択しないことを確認してから,P2Y12阻害薬を投与する方法もある.

【安定冠動脈疾患の場合】
①アスピリン未服用の患者に対して,PCI施行する前にアスピリン 162~324 mgを咀嚼服用させる.
*アスピリン喘息や過敏症のある患者には投与しない.

②P2Y12阻害薬未服用の患者に対して,冠動脈ステント留置時にプラスグレル 20mg or クロピドグレル 300mgを投与する.

【PCI施行しない場合】
①アスピリン未服用の患者に対して,ACSが強く疑われる時点でアスピリン 162~324 mgを咀嚼服用させる.
*アスピリン喘息や過敏症のある患者には投与しない.

機械的サポート

心不全やショックを合併する場合,心不全治療が適応されるが,不十分な場合は,機械的サポートが必要となる.

大動脈内バルーンパンピング法 intra-aortic balloon pumping;IABP

拡張期の血圧を増加させ,拡張期に流れる冠動脈の灌流を改善させる.

血圧サポートとして有効であるが,心拍出量のサポートは少ない.

経皮的心肺補助装置 percutaneous cardiopulmonary support;PCPS

右心房から脱血し,人工肺を通し酸素化した血液を動脈に還す.

心拍出量および酸素化のサポートは有効であるが,血圧のサポートは少ない.

IMPELLA®

左室のカテーテルからポンプで脱血し,大動脈へ出す.

心拍出量のサポートであると同時に,左室の負荷を減らすことから,心筋壊死の進展予防が期待されている.

酸素化のサポートはない.

急性期合併症

機械的合併症

急激な心筋の壊死から心筋が断裂することで合併する致死率が高い合併症.

発症24時間以内と,3~7日の間に発症のピークがあるが,発症後30日目までは合併のリスクがある.
・primary PCIが広く施行されるようになり,3~7日のピークは減った.

心破裂

心臓の自由壁が破裂することで,心膜腔へ出血し,突如心タンポナーデを来たす.

通常の心破裂は即死であるが,偶然にも破裂した部位がバルブ状になっており出血が微量であれば,救命の時間がある.

治療としては,緊急手術以外に救命の方法がない.

小さな領域の心筋梗塞でも合併することがある.

心室中隔穿孔

中隔梗塞に伴う心室中隔の断裂
・左前下行枝(LAD)の梗塞に合併する.

突然起こる左右シャントの結果,収縮期雑音を聴取し,血行動態が突然悪化し,心不全を合併する.

急激に進行する治療抵抗性の心不全であり,手術による閉鎖をしないと死亡率が高い.

乳頭筋断裂

乳頭筋が断裂することで起こる僧帽弁閉鎖不全.

突然の逆流で,血行動態が突然悪化し,心不全を合併する.
→急激に進行する治療抵抗性の心不全であり,手術が必要.

前乳頭筋はLADと左回旋枝の二重支配,後乳頭筋は右冠動脈の支配であることが多く,RCAの梗塞に伴う後乳頭筋断裂を見かける頻度が多い.

心原性ショック

心筋梗塞に伴う心原性ショック(SBP≦90)は極めて死亡率が高く,9割以上死亡する.

ドーパミン,ドブタミン,ノルアドレナリンなどのカテコラミンの点滴静注,機械的補助を行うが,救命にはprimary PCIによる再灌流治療が必須.
・primary PCIが成功しても,約4割は死亡する.

右室梗塞

右冠動脈が原因の心筋梗塞は下壁梗塞となり,右室枝も梗塞範囲となると右室梗塞を合併する.
・臨床的に問題になるのは下壁梗塞の約10%程度

右室からの低拍出となることで,低血圧・ショックを合併するが,通常の重症心筋梗塞に合併する肺水腫が逆説的に認められない.

診断は心電図のV4R誘導(右側胸部誘導)のST上昇,心エコーでの右室の壁運動低下・右房圧の上昇などから行う.

治療としては,左室前負荷を増やすために,大量に輸液を行い,肺動脈楔入圧を15mmHg以上に上昇させることを目標とする.

心室性不整脈

心筋梗塞急性期には,VF・VTをしばしば合併する.
・発症早期に多く,心筋梗塞の院外死亡の原因.

緊急で電気的除細動を行う(市中の場合には,AED).

薬物治療として,アミオダロンやニフェカラントを使用する.

発症後48時間以降には頻度は低下するが,VTやVFを来たす場合には,着衣型自動除細動器を使用する.

植込み型除細動器は,心筋梗塞発症後40日以内の植込みには有用性が認めておらず,40日以後に検討する.
・LVEFが低下した心不全例が対象

徐脈性不整脈

完全房室ブロックを合併する場合には,体外式ペースメーカを挿入する.

アトロピンは有効.

再灌流治療により,機能が回復することが多く,恒久的ペースメーカが必要になることは稀.

急性期後の管理

抗血栓療法

PCI後の抗血栓療法

冠動脈ステント留置後の抗血小板療法は必須であり,アスピリン81~162mg/日とP2Y12受容体拮抗薬の併用(抗血小板薬2剤併用療法 dual antiplatelet thrapy;DAPT)が一般的(クラスⅠ).

OAC:oral anticoagulant 経口抗凝固薬
DAPT:dual antiplatelet thrapy
 低用量アスピリン100mg+(クロピドグレル75mg or プラスグレル 3.75mg)
C/P:クロピドグレル or プラスグレル
SAPT:single antiplatelet thrapy

日本版HBRあり+OACあり
入院中(2週間以内)→3剤
退院後~12ヵ月→OAC+C/P
12ヵ月以降→OAC単独

日本版HBRあり+OACなし
1~3ヵ月まで→DAPT
1~3ヵ月以降→SAPT

日本版HBRなし+血栓リスク高い
3~12ヵ月まで→DAPT
3~12ヵ月以降→SAPT

日本版HBRなし+血栓リスク低い
1~3ヵ月まで→DAPT
1~3ヵ月以降→SAPT

high bleeding risk;HBR

本邦は高齢患者が多いことに加え,欧米よりも出血リスクが高く,血栓リスクが低いことが示されている.
→出血リスクを先行して評価する!

日本版HBR
主要項目1つ以上 or 副次項目2つ以上満たす場合,HBRと定義する.

【主要項目】
1)低体重・フレイル:男性<55kg,女性<50kg
・特に高齢女性で注意
・フレイルからくる転倒に伴う外傷性の出血リスクが高くなる.
2)CKD(eGFR高度低下,透析)
・腎機能障害の程度に応じて出血リスクは高くなる(特にeGFR<30).
・透析患者は,ACS/非ACSの両者ともに出血リスクが高い.
3)貧血:Hb<11g/dL
4)心不全
5)抗凝固薬の長期服用
・長期間による服用は出血リスクを著しく増加
・高齢者ではPCI後の経過でAfを合併することも稀ではない.
6)PVD(末梢動脈疾患)
7)非外傷性出血の既往(消化管出血・尿路出血など):入院or輸血を必要な6カ月以内の出血の既往例や再発例
8)脳血管障害:特発性脳出血の既往,12ヶ月以内の外傷性脳出血,脳動静脈奇形の合併,6カ月以内の中等度or重度の虚血性脳卒中
・本邦はアスピリン併用で脳出血のリスクが高くなる.
9)血小板数減少症:Plt<10万/μL
10)活動性悪性腫瘍:12ヶ月以内に診断 and 現在治療を要するもの
11)門脈圧亢進を伴う肝硬変
12)慢性の出血性要因
13)DAPT期間中の延期不可能な大手術
14)PCI施行前30日以内の大手術 or 大きな外傷

【副次項目】
1)年齢:≧75歳
・≧80歳では急激にリスクが高くなる.
2)CKD(中等度低下):eGFR 30~59
3)軽度貧血:Hb 11~12.9g/dL(男性),11~11.9g/dL(女性)
4)NSAIDs,ステロイド服用(長期服用)
5)非外傷性出血の既往:入院or輸血が必要な6~12ヵ月以内の初回の非外傷性出血
6)脳血管障害:主要項目に該当しない虚血性脳卒中の既往

血栓リスク

共通するリスク因子
・ACS
・CKD(GFR高度低下)
・CTO:chronic total occlusion
・糖尿病

血栓イベントリスク因子
・現在の喫煙習慣
・PCI/CABGの既往
・PVD
・心不全
・高齢
・貧血
・心房細動

ステント血栓症リスク因子
・第一世代のDES
・3本以上のステント留置
・3病変以上の治療
・分岐部2ステント
・総ステント長>60mm
・SVG(saphenous vein graft)に対するステント
・DAPT治療下におけるステント血栓症の既往
・小血管のステント

心房細動合併

抗凝固薬とDAPTの3剤併用の長期投与を避ける!
→PCI周術期以降にアスピリンを中止し,2剤に減じる.

DOAC+P2Y12受容体拮抗薬の併用は,ワーファリン+DAPTの3剤併用療法と比較し,心血管イベントを増加させることなく,出血性合併症を減少させる(WOEST試験など複数).

PCI後12ヵ月後を経過した慢性期の安定型冠動脈疾患患者には,抗凝固薬単剤療法が選択される(AFIRE試験).

β遮断薬

心不全徴候を有する,LVEF≦40%の患者に対しては,発症早期からβ遮断薬(カルベジロール・ビソプロロール)を経口で少量から漸増投与し(高用量からは導入しない),退院後も長期経口投与することを強く推奨(クラスⅠ).

内因性交感神経刺激作用のないβ遮断薬は心筋梗塞後の心筋梗塞再発や突然死を抑制する.

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAS阻害薬)

RA系阻害薬としてはACE阻害薬を推奨し,忍容性がない場合にARBを用いる.

・RA系阻害薬は,EFが低下した心筋梗塞の左室リモデリングを抑制し,心不全や突然死などの心事故を減少させ,生命予後を改善する.
・ACE阻害薬のARBへの優位性を検討しうる十分なエビデンスはなく,EFrEF全般に対する推奨を踏襲している.

左室機能低下(LVEF≦40%)や心不全を有する患者に対しては,発症早期(発症24時間以内)からのACE阻害薬の投与が強く推奨される.

左室機能低下,心不全,糖尿病を有するRAS阻害薬既投与患者で,腎不全や高K血症がない場合は,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与する.

最大忍容量の標準的治療を行っても血圧コントロールが不十分な場合,長時間作用型Ca拮抗薬を追加する.

Ca拮抗薬

本邦では,冠攣縮性狭心症の頻度も高いことがあり,比較的よく用いられる.
・冠攣縮発作の予防を目的としてCa拮抗薬を投与する場合には,短時間作用型は急激な血圧低下により交感神経系を刺激し予後を悪化させるため,長時間作用型を選択する.

スタチン

コレステロール低下作用に加え,多面的効果(pleiotropic effect)から心血管抑制効果を持つことは,有効性・安全性の観点から確固たるエビデンスが構築されている.

”Treat to target”
LDL-Cの目標値を設定して治療する.
*未内服で目標値を達成している場合にスタチンが考慮されない危険がある.

“Fire and forget”
LDL-Cの目標値を設定せずに高用量のスタチンを投与する.

忍容可能な最大用量のストロング・スタチンを発症早期から投与することを強く推奨する.

高リスク例ではLDL-C<70mg/dLの達成を目標とし,エゼチミブ,家族性高コレステロール血症の場合にはPCSK9阻害薬の併用を推奨する.

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