後天性血友病 acquired hemophilia;AH

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なすび医学ノート

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後天性に自己凝固第Ⅷ因子(FⅧ)・第Ⅸ因子(FⅨ)に対する自己抗体(インヒビター)が生じ,これらの凝固因子活性が著しく低下し,出血傾向を来たす自己免疫性後天性凝固因子欠乏症.

後天性血友病A acquired hemophilia A;AHA

血友病の中でも頻度が高く,出血傾向の既往歴や家族歴がないにも関わらず,比較的突然,皮下・筋肉・粘膜出血,血尿などの出血症状で発症することが多い.

2015年に「自己免疫性後天性凝固因子欠乏症」として,難病指定となった.

疫学

100万人に対し,年間1.48人の発症率と報告されている(2001~2003年,英国の調査)
・本邦の実態調査は,英国の報告よりも多め

性差:男女比1:0.9で有意差なし

発症年齢:12~85(中央値70)歳
・ピークは70歳代
・50歳以上の症例が90%以上
→加齢も発症要因の一つ

基礎疾患

半数以上で認められる.
自己免疫性疾患と悪性腫瘍が二大基礎疾患.

自己免疫性疾患
全身性エリテマトーデス,間接リウマチ,Sjögren症候群など

悪性腫瘍
本邦では胃癌・大腸癌,欧米では肺癌・前立腺癌など

妊娠・分娩
分娩後1~4ヶ月の発症が多く,予後は比較的良好で,インヒビターが自然消失する場合が多い.

薬剤起因性
ペニシリン・クロラムフェニコール・サルファ剤などの抗菌薬,フェニトインなどの抗痙攣薬,循環器系薬,抗精神病薬,インターフェロン,BCG接種など

皮膚疾患
類天疱瘡,天疱瘡,乾癬など

病態

第Ⅷ因子に対する自己抗体
→第Ⅷ因子凝固活性(factor Ⅷ coagulant activity;FⅧ:C)が著しく低下

AHAでは抗体濃度が増加してもFⅧ:Cは完全には失活せず残存するタイプのタイプⅡインヒビターが多い.
→インヒビター力価は臨床的重症度と相関しない.

症候

出血症状

一般に,成人以降に突然,皮下・筋肉・粘膜出血,血尿などで発症し,出血症状は重篤.

出血斑は,小さな斑状出血(ecchymosis)から典型的なびまん性出血,広汎性皮下出血(sugillation)まで多様.

初発時の出血症状は,皮下出血が一番多く(半数近く),ついで筋肉内出血.関節出血は低頻度.

一切の止血療法が必要としなかったものが34%,主な死因となった出血が8%(英国の報告).

血液検査

血小板数正常,PT正常,APTT延長(軽度~100秒超えるものまでさまざま)

診断

出血傾向の既往歴や家族歴がない場合は,念頭に置く.

鑑別は,先天性血友病A,先天性von Willebrand病(VWD),後天性von Willebrand症候群(aVWS),lupus anticoagulant(LA)

FⅧ:Cの低下
・LAでは正常

第Ⅷ因子インヒビター力価の上昇
・先天性血友病Aでは陰性(インヒビター症例では陽性)
・先天性VWD,aVWSでは陰性
・LAでは陰性(疑陽性)

von Willebrand因子(von Willebrand factor;VWF)活性=リストセチンコアファクター(ristocetin cofactor)活性が低下していない
・先天性VWD,aVWSでは低下

APTTクロスミキシング試験

APTTが延長している症例を診たときに,凝固因子欠乏症,凝固因子インヒビター,LAを大まかに鑑別するのに有用.

院内でFⅧ:C,第Ⅷ因子インヒビター力価が測定できない場合は,結果を得るために数日を要するため,APTTクロスミキシング試験を速やかに行う.

正常プール血漿,被検血漿を10:0,8:2,5:5,2:8,0:10の容量比で混和し,室温あるいは37℃で一定時間反応後(一般的には2時間)APTTを測定する.
→横軸に混合比,縦軸にAPTT(秒)をとり,プロットする.

第Ⅷ因子欠乏血漿
20%以上の正常血漿の添加でAPTTは正常域近くまで短縮
→下に凸のカーブ(欠乏パターン)

第Ⅷ因子に対するインヒビターを有する血漿
正常血漿の混合比を高くしても,正常血漿中の凝固因子活性を阻害され,APTTが正常化しない.
→上に凸のカーブ(インヒビターパターン) or 直線
・第Ⅷ因子インヒビターの場合は,時間依存性の阻害反応を示すため,37℃,2時間反応後の方が阻害反応が大きい.

LA陽性の血漿
・凝固因子の活性化にはリン脂質が必要であるため,APTT測定試薬にはリン脂質が含まれている.
・LAはリン脂質に対する抗体がリン脂質と凝固因子の反応を試験管内で阻害する.
→上に凸のカーブ(インヒビターパターン),即時型(混和直後と2時間反応後の成績の差が少ない)
・LAでは,出血傾向がないことも鑑別ポイント

治療

出血時に伴う止血療法と自己抗体の消失(病態の根治)を目的とした免疫抑制療法からなる.

止血治療

生命予後に直結する重篤な臓器出血,貧血の進行を継続して認める出血に対しては,速やかに止血療法を開始する.

インヒビター力価が低く,FⅧ:Cが検出される場合には,デスモプレシン酢酸塩水和物(1-desamino-8-D-arginine vasopressin;DDAVP)または第Ⅷ因子製剤により,FⅧ:Cが上昇する可能性があるが,AHAの出血症状はしばしば重篤であるため,バイパス止血製剤の使用をまず考慮する.

止血療法開始後に十分な止血が得られない場合(2~3日で判断)は,最初に使用した止血製剤以外の他の製剤に切り替えることで止血を得られることがある.

乾燥人血液凝固因子抗体迂回活性複合体製剤 activated prothrombin complex concentrate;APCC

ファイバ® 武田薬品
500単位(10mL),1000単位(20mL)

初期治療:50~100単位/kg,8~12時間間隔
・1日最大投与量は200単位/kgを超えない.
・トラネキサム酸®との同時併用は避ける.

極めて高い有効性が実証されている.

遺伝子組み換え活性型凝固第Ⅶ因子製剤 recombinant activated factor Ⅶ;rFⅦ

ノボセブン®HI静注用シリンジ ノボノルディスクファーマ
1mg(1.1mL),2mg(2.1mL),5mg(5.2mL),8mg(8.1mL)

初期治療:90~120μg/kg,2~3時間毎
・小児では半減期が短いため,2時間毎の投与間隔が推奨.
・出血後可及的早期の投与がより有効的
・急性出血時,手術,抜歯時にはトラネキサム酸®との併用が有効であるが,腎尿路出血では併用しない.

極めて高い有効性が実証されている.

FX/FⅦa製剤

バイクロット®配合静注用 KMバイオロジクス
FⅦa 1.56mg/FⅩ 15.6mg(2.5mL)

初期治療:FⅦaとして60~120μg/kg 1回投与
・追加投与は1回とし,8時間以上の間隔を空けて行い,初回投与量とあわせて180μg/kgを超えない.
・初回投与から36時間以内の投与は追加投与として扱う.
・追加投与の後,次に投与するまでの間隔は48時間以上空ける.

本邦でのみ2014年から使用可能.
データ集積待ち.

免疫抑制療法

軽症でインヒビターが自然消失する症例も存在するが,インヒビター力価と出血症状は相関しないため,インヒビター消失までは常に出血リスクを伴う.
→診断後,可及的速やかに免疫抑制療法を開始する.

第一選択は,prednisolone(PSL)単独投与 or PSL+cyclophosphamide(CPA)併用

CPAの併用は原病の重症度(出血症状が重篤,インヒビター力価が高いなど),PSLに対する治療反応性(凝血学的改善度やインヒビター力価の低下が遅いなど),基礎疾患(他の自己免疫性疾患を併発しており難治性,PSLを早く減量したいなど)により検討する.
・感染症リスクの高い症例では十分に注意(高齢者)
・妊娠,妊娠している可能性がある婦人では投与しないことが望ましい.

PSLの初期投与量:1mg/kgを基本.
・重症糖尿病などの基礎疾患を有するときは,適宜0.5mg/kg/day程度に減量する.

CPA 1~2mg/kg/day(50~100mg/body/day)を基本とする.

死因の4割が感染症であることから,感染症の早期発見と予防に努める.

効果判定には,APTT,FⅧ:C,インヒビター力価の測定を治療開始時,出血時は毎週1回,安定後は1~2週間に1回程度行う.

凝固的完全寛解 coagulative Complete Remission;cCR
→FⅧ:C正常化かつインヒビター検出感度未満
部分寛解 Partial Remission;PR
→発症時と比較して,インヒビター力価が1/2未満に低下

一般的には,APTTの正常化(中央値42日)とFⅧ:Cの回復→インヒビター消失(中央値61日)の順番.
・インヒビター力価の十分な低下/消失を確認(重要)してから,免疫抑制療法の減量/中止をする.
・3~5週間後も効果が得られない場合は,薬剤の追加や変更を検討する.

その他,rituximab(RTX)375mg/㎡/week×4回,cyclosporine A(CyA)1~2mg/kg/day,血漿交換が再発難治例に使用されるが,保険適応はない.

リハビリテーション

患者の多くは高齢者で,重篤な出血時はベッド上安静が必要であるため,リハビリが重要.

止血を十分に確認後,できるだけ早期に開始すべきであるが,インヒビター力価が十分に低下していない時期の早期開始は再出血のリスクが高い.

予後

本邦の調査では,インヒビターが消失したのは52%,消失症例でのインヒビター消失までの期間は0.5~15ヶ月(中央値12ヶ月)で,81%が半年以内に消失.

25%が死亡.
死因は4割が感染症(肺炎3割,敗血症1割),5割が出血.

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