横紋筋融解症 rhabdomyolysis

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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当ブログは一切の責任を負いません.

横紋筋の外傷性挫滅,過激な運動,アルコール過飲,向精神薬などの薬剤,糖尿病性ケトアシドーシスなどの代謝性疾患や感染症などにより筋組織が破壊され,ミオグロビンなどの細胞内成分が血液中や尿中に流出する病態.

原因

共通のメカニズムとして、筋細胞内Ca2+の上昇がneutral poteasesやphospholipases等の酵素を活性化させ、細胞壊死や融解を起こすことが考えられている.
→ミオグロビン(myoglobin:Mb)を代表とする細胞内物質が循環血液中に放出され、急性腎不全や代謝異常の原因となる.

外傷・圧迫
・圧迫壊死
・挫滅症候群(crush syndrome)

薬剤・毒素
・エタノール
・ヘビ毒
・HMG-CoA還元酵素阻害薬
・フィブラート
・PPIなど

遺伝性疾患
・カルニチンパルミトイル変換酵素欠損症
・McArdle病

感染症
・細菌感染(溶血連鎖球菌・レジオネラなど)
・ウイルス感染(インフルエンザ・コクサッキーなど)

過度な運動
・スポーツ
・痙攣
・てんかん発作

虚血
・動脈閉塞

電解質異常・代謝異常
・低K血症
・低P血症
・低Na血症
1)細胞外Na濃度低下により,横紋筋の細胞膜上のNa-Ca交換系の機能低下→細胞内Ca濃度が上昇し,Ca依存性プロテアーゼなどの酵素が活性化し,細胞障害が起こる.
2)細胞外浸透圧の低下→細胞が膨張,細胞膜が脆弱化→細胞内の酵素が逸脱
・甲状腺機能低下症
・低体温,高体温

自己免疫性疾患
・多発性筋炎,皮膚筋炎

HMG-CoA還元酵素阻害薬

最も副作用報告の多い.
筋毒性は,すべてのスタチンで生じる.

服用開始後数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い.
筋痛が先行することが多く,また末梢神経障害の合併もしばしば認められることが知られている.

筋毒性の程度にはかなりの個人差があり,筋痛・筋けいれん・筋力低下の組み合わせのほか,横紋筋融解症にいたるもの,CK 上昇のみで症状のないものなど程度は様々.
・CK上昇がなくとも筋生検上,異常筋組織が証明される場合や筋萎縮・筋力低下を生じる場合がある.

発症機序
詳細は明らかではないが,以下のような説がある.
①形質膜内のコレステロール成分の減少による直接作用
②HMG-CoA からメバロン酸を経てゲラニルゲラニオール誘導体の減少を生じ,タンパク質のprenylation(脂肪酸を介したタンパク修飾の一種)の障害をきたし,このタンパク修飾が細胞内シグナル伝達・細胞周期・ミエリン化・細胞骨格蛋白動態など基本的な細胞機能に関係している.
③ゲラニルゲラニオール誘導体の減少から生じるコエンザイムQ10 の減少によりエネルギー代謝の障害が生じる

米国における調査ではスタチン服用者において,筋肉痛は2~7%で生じ,CK上昇や筋力低下は0.1%~1.0%で認められる.
重篤な筋障害は0.08%程度で生じ,100万人のスタチン服用者がいた場合には,0.15 名の横紋筋融解による死亡が出ていることになる.

フィブラート系高脂血症薬,ニコチン酸製剤,エリスロマイシン,シクロスポリンなどの併用で頻度は上昇すると言われている.
・CYP3A4 で代謝されるアトルバスタチンやシンバスタチンでは,CYP3A4 を阻害するマクロライド系抗生物質との併用は注意を要する.
・フィブラート系高脂血症薬やシクロスポリンとの併用も薬物動態を変化させて血中濃度を上昇させ,横紋筋融解の危険を増加させるので特に注意が必要.

治療に関しては,軽症といえども筋症状が出た段階で,HMG-CoA還元酵素阻害薬を中止あるいは減量することがまず必要.
腎機能障害がある場合には,初期においては輸液により腎保護を図ることなど,一般の横紋筋融解症の治療に準ずる.

フィブラート系高脂血症薬

HMG-CoA還元酵素阻害薬ほどではないが,原因医薬品として重要.

使用開始より数ヶ月から2年程度までの期間に発症することが多い.
HMG-CoA還元酵素阻害薬との併用は発症頻度を上げる.

服薬中止後数日あるいは数ヶ月で回復する.

PPI

PPIでの報告があり,2016年に厚生労働省の指示により,重大な副作用の項目に追加された.

PPI開始数日~数ヶ月で発症する低Na血症が関与している.

病態

急性腎障害

臨床経過は一過性の高窒素血症を示すのみの症例から,2~3週間の透析治療を要する症例まで様々だが,急性腎不全の予後は良好で完全回復が期待できる.

最終的な生命予後は敗血症・出血・呼吸不全合併症の病態に依存する.

急性腎不全の発症には多因子が相互に関与している.

循環血漿量の低下(炎症による水のthird spaceへの移動)
損傷した筋肉内に水分が貯留するため血管内容量が減少
→レニン・アンジオテンシン系,抗利尿ホルモンおよび交感神経活性化
→腎血流減少

NOを介した微小血管収縮
・エンドセリン-Ⅰなど血管作動性メディエーターの関与
・腎微小循環中にミオグロビンが存在するとNOが減少し,血管拡張作用が低下

Mbの尿細管毒性
虚血とヘム鉄から産生させる活性酸素による酸化ストレスにより尿細管障害が生じる.
 2価のフリーの鉄は過酸化水素と反応して有毒なヒドロキシラジカルを生じ(フェントン反応),DNA障害,脂質酸化,アポトーシスなどを引き起こす.

Mb円柱や尿酸結晶による尿細管閉塞
ミオグロビン濃度は尿細管が遠位になるほど高くなり,腎血流低下と尿pHが酸性に傾くと,ミオグロビンがTamm-Horsfall蛋白と複合体が形成しやすくなり尿細管障害に関与する.

糸球体へのフィブリン沈着

ミオグロビン myoglobin;Mb

鉄を含む色素でHbに似ているが,1mol当たり4molではなく1molの酸素と結合する.
・酸素解離曲線も直角双曲線でHbの酸素解離曲線より左に位置し酸素親和性が高く,筋肉収縮時の血流低下時には,大変都合がよい.

分子量は17.5kDaの蛋白で,糸球体で100%濾過され近位尿細管上皮細胞にメガリンとキュビリンにより取り込まれ代謝される.

血中ミオグロビンが0.5~1.5mg/dL以上になると尿細管による処理能力の閾値を超え尿中に出現し,100~300mg/Lの尿濃度で肉眼的に赤褐色尿が確認できる.

代謝異常

壊死に陥った筋肉部には大量の体液が貯留するため循環血漿量は減少する.
→早期より適切な補液を行わないと脱水によるショックや急性腎不全の原因となる.

壊死筋肉からは乳酸等の有機酸が放出されアシドーシスを起こす.
・アシドーシスの影響や筋肉から流出するKのため,横紋筋融解による急性腎不全では高K血症が著しくなる.

横紋筋融解の初期には壊死筋肉からの無機リンが遊出することにより高P血症が起こること,筋組織へのCa沈着が起こることにより低Ca血症が生じる.
・低Ca血症は痙攣等の合併がなければ補正する必要はない。

症候

筋肉痛,筋力低下,褐色尿を3徴とするが,50%以上は筋肉症状を認めない.

尿検査

尿は赤褐色で潜血反応が陽性となるが、沈渣法では赤血球の増加を認めない.

ヘモグロビン尿との鑑別には尿中Mbを定量する必要がある.

急性腎障害

他の原因と比べ,血清Crが急激に上昇する.
→筋崩壊により筋細胞内でクレアチンから変換されたCrが血中に放出

BUN/Crは正常は10であるが,横紋筋融解症では5以下になる.

FENaは低い.

尿酸値上昇:筋細胞内の核酸が血中へ放出されるため.

AG上昇型の代謝性アシドーシス:筋細胞内のリン酸や有機酸が血中へ放出されるため.

クレアチニンキナーゼ creatine kinase;CK

Mbと比較し,CKは血中半減期が1.5日と長く,横紋筋融解発見のよい指標となる.
CKの増減は横紋筋融解の増悪や回復の指標となる.

アイソザイムは筋肉分画のMMであり,心筋由来のMBはわずか.

CKが正常(30~180IU/L)が正常の5倍以上,あるいは1,000IU/L以上で診断されることが多い.

血中CK値の上昇の程度と急性腎不全の発症危険度に明確な相関は認めないが,急性腎不全を発症する例では血中のCKが高値となることが多く,CK 3000IU/L以下で急性腎不全を発症することはまれとされる.

筋障害の2~12時間で上昇しはじめ,24~72時間でピークとなり,5日前後で正常となる.

ミオグロビン Mb

血中または尿中Mbの存在は骨格筋や心筋の障害を示唆する(血中Mbの上昇は糸球体濾過量の低下でも起こりうることに注意).

Mbは分子量17800Da,肝臓等網内系での代謝と糸球体からの濾過により血中から除去される.

血中半減期が1~3時間であることから,筋障害から8~12時間でピークとなるが,速やかに代謝され24時間以内に血液中から消失する.
→発症48時間以降では検出が困難となることもなり,診断の信頼性が低い.

尿中のMbも体液量や尿量,尿pH,温度などの影響を受けるため,診断や腎障害発症の予想には使用できない.

その他の生化学

AST,LDH,アルドラーゼなどの筋逸脱酵素の急激な上昇

診断

明確な診断基準はないが,ACC/AHA/NHLBIの定義では,
1)正常上限の10倍以上の上昇
2)筋肉痛や筋力低下などの自覚症状
3)尿中あるいは血中のミオグロビンの上昇
があれば診断できるとしている.

治療方針

横紋筋融解を起こした原因に対する治療を行うとともに,横紋筋融解により生じる急性腎不全の危険因子(水・電解質バランスの異常とMb血症)に対する対策をとり,急性腎不全の発症予防を行う.

急性腎不全を発症した場合には適切なタイミングで透析治療を開始する.

急性腎障害の予防

生理食塩水

横紋筋融解による急性腎不全の発症には循環血漿量の低下による腎虚血が関与する.
→生理食塩水による循環血漿量の補正を行うことが急性腎不全の予防に有用

事故や災害の挫滅症候群の場合
挫滅肢の救出前に末梢静脈にルート確保→生理食塩水1Lを補液

非外傷性の場合
理学所見や尿生化等で体液量を評価.
→循環血漿量低下の所見があれば、生理食塩水で体液量の補正(生理食塩水 400mL/hrで開始し,尿量200mL/hrを目標)

尿pH6.5以上を目標とし,補液量は3~6L/day程度とするが,挫滅症候群では10L/day以上も要する場合もある.
・高齢者,心不全基礎疾患がある症例,乏尿性急性腎不全を合併した症例では過剰な補液による溢水に注意する.
・大量輸液する場合は,血液・尿pHを4時間毎にモニターする.

輸液速度などについては,一定のエビデンスはなく,最初の1時間で細胞外液を1Lほど投与し,利
尿が確立したらまずは1~2mL/kg/hrの尿量を確保するよう維持量を決める,という程度が現実的なラインかもしれない・・・

(尿のアルカリ化)

根拠に乏しく,ルーチンで行う必要はない

尿pH 6.5未満のときは,重炭酸ナトリウムを使用し,尿pHと尿量をモニタリング.

1)尿が酸性だとTamm-Horsfall蛋白-ミオグロビン複合体の塊ができやすい.
2)アルカリ化によってミオグロビンの酸化還元反応や脂質過酸化が阻害されるので,尿細管傷害を防ぐことができる.
・Mbは酸性条件下ではヘムがferrihemateに変換され,尿細管毒性を発揮し,Mb円柱を形成する.
3)単離灌流腎を用いた実験では,酸性の灌流液を用いたときにのみ,メトヘモグロビンによって血管収縮が起こることが明らかにされている.
4)炭酸水素ナトリウムの投与はアシドーシスや高K血症の治療にもなる.

イオン化Ca濃度が低下する→横紋筋融解症初期の低Ca血症の増悪の可能性あり,Ca濃度もモニタリングする.
・尿pH>7.5あるいはアルカローシスになると,低Ca血症が増悪するため,中止

(D-mannitol)

根拠に乏しく,ルーチンで行う必要はない.

投与により浸透圧が上昇し圧勾配が生じ,損傷した筋肉から貯留した水分を血管内に引き込み血管内容量の低下を改善する.
→挫滅症候群で尿量が維持されコンパートメント内圧が上昇している場合,目標尿量200mL/hrにならない場合などでは,D-mannitolの併用を検討する.
輸液1L当たり,20%マンニトール.

1)腎血流量や糸球体濾過量の増加
2)浸透圧利尿による尿量増加
3)筋組織浮腫の軽減などに作用
4)フリーラジカルのスカベンジャー作用

*炭酸水素ナトリウム液による補液に加えてD-mannitolを併用した場合の急性腎不全の予防効果については明確な臨床的エビデンスがない.
*大量投与でAKIを誘発することがあるので,1日200gを超えない.
*乏尿(<20mL/hr)では使用しない.
*尿量200~300mL/hrを得られない場合は中止.

×ループ利尿薬

脱水を増悪させる危険性や尿の酸性化により,尿細管腔でMbや尿酸の析出を促進する可能性があるため使用しないほうがよい.

腎代替療法

乏尿性急性腎不全により心不全を併発した場合や,重度の高K血症やアシドーシスをきたす場合には透析治療を開始する.

間欠的血液透析はK・P・酸などの溶質除去効率がよく,循環動態が安定していれば第一選択となる.
持続的血液濾過透析(CHDF)は敗血症や多臓器不全等を合併し,循環動態が不安定な場合に適している.

横紋筋融解が鎮静化し,Kや尿素窒素が安定するまで連日透析が必要となる場合もある.

急性腎不全の予防を目的とした血液透析や血漿交換によるMbの除去は,その代謝速度の速さから有用性が実証されていない.

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